TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい 作:ソナラ
下水道はダンジョンの一部、と言ったが。
ようするに地下にある下水道はダンジョンの影響を受ける。
結果、魔物が出現するのだ。
下水道掃除のクエストには、この魔物の対処も内容に含まれている。
だから普通のクエストよりも報酬は高額だし、危険度も高いわけだ。
ただ、出現する魔物はあくまでダンジョンの上層に出現する弱い魔物ばかり。
高ランクの冒険者は必要ない。
そこでこうやって、下水道掃除のクエストは新人向けに出されるわけで。
基本的には、出現した魔物の対処は新人だけでも十分可能だ。
特に“進む光”のメンバーは皆将来有望な意識の高い冒険者だから、そうそう後れを取ることはないだろう。
まぁ彼女たちの場合は、将来有望すぎてきちんと先輩冒険者の付き添いを受けているのだけど。
なぜ先輩冒険者の付き添いが大事なのかといえば、下水道は普段の上層と違って周囲に冒険者がいないからだ。
基本的にダンジョンは上層ほど人が多く、下層ほど人が少ない。
上層にいるうちは、誰かしら近くに別の冒険者がいるのだ。
だから魔物に襲われて死にかけていても、大声を出して助けを求めれば周囲の冒険者が助けてくれる。
周囲の冒険者も、明日は我が身かもしれないので助けない者はあんまりいない。
下水道にはそれがないので、こうして付き添いをつけるのが慣例だ。
後は掃除のレクチャーもする。
付き添いに選ばれる冒険者は下水道掃除の経験者だからね。
私も結構自信がある。
「というわけで、この“水魔術スクロール”でざっと見える汚れを洗い流してから、“掃除用ポーション”を全体に吹きかけてブラシで擦るのが、掃除の基本だよ」
かくしてここはダンジョン都市“グラール”の下水道。
グラールには商店街、宿場街、歓楽街、住宅街とエリアごとに特色があるまちづくりがされていて、私達がいるのは三番街、多くの冒険者が拠点としている宿の立ち並ぶエリアだ。
そこは当然人が多く、歓楽街と並んでゴミが多い。
悪臭が酷い、原因は汚れ。
さっさと取り除いてしまおう。
というわけで近場をさっと終わらせた、だいたい十分程度。
新人なら、三倍はかかるだろう。
“進む光”ならもっと効率はいいだろうけど、いきなりここまで手慣れてたりはしないはず。
「すごく手際が良い、慣れてますのね……」
「新人の頃から、よく下水道掃除の依頼は受けてたし、今も監督役としてたまに下水道に来ることもあるからね、腕は錆びてないよ」
「あ、失礼しましたわ、独り言でしたの。新人の頃から……」
おっと、ここはダンジョンの一部だからって軽く魔力で身体強化をした結果、聴力が良くなってしまったんだな。
何やらロロは考え事をしているようだけど、話は終わったので仕事をするよう促した。
「とにかく、手順はだいたいわかったと思うから、各自掃除を始めよう。今から始めれば、君たちのプラン通りなら今日中に余裕を持って終わるはずだよ」
「あ、は、はい! かしこまりましたわ!」
「ただ、魔物には気をつけること、出現したら絶対に二人だけで戦わず、応援を求めること。いい?」
「はい!」
最後の私の言葉に、ここにいる全員が元気よく返事して、私達の下水道掃除は始まった。
の、だが。
「――終わっちゃったね」
「あっという間でしたわね――」
終わってしまった。
私とロロの担当だけ。
一時間もかからなかった。
原因は単純、ロロが優秀過ぎたのである。
最初私はロロに先輩面するべく、そこそこの手際の良さで掃除をしていた。
“進む光”の面々の前で実演した時も、まだ本気は出していなかったんだよね。
だっていうのに、ロロはほとんど最初から、私に負けないくらいの手際の良さで掃除を始めるものだから。
対抗してしまった――――
最終的に成長するロロと、ギアを上げていく私。
イタチごっこの様相を呈した掃除バトルは、担当箇所がピカピカになったことで終了した。
……これ、私の勝ちでいいよね?
最後まで追いつかれなかったし。
ははは、私の勝利だ!
……いやなんで掃除程度で張り合ってるんだよ!?(冷静になった)
「他の手伝いに行くべきかしら……」
「それもいいけど、今後もこのクエストを受けるつもりなら、今後他のメンバーが慣れるためにも、任せた方がいいかな」
「……そうですね、皆にそのことを伝えたら、少し休憩にしてもいいかもしれませんわ」
休憩という名の勉強会ですね、解ります。
いや別に、皮肉でもなんでもなく、ロロたちの行動は何もかもが自分の成長につながるってくらい、意欲に満ちている。
下水道に来るまでの話も、私がどうやって冒険者として活動したかとかそういう話。
ちょっと申し訳ないのは、私の冒険者としての活動はどう考えても普通じゃないので、何の参考にもならないだろうってところかな。
とにかく、パーティメンバーへの連絡を済ませると、私達は綺麗になった下水道を眺めながら話し始める。
座り込むにはきれいになったと言っても抵抗があるし、かといって下水道を出るのは安全上まずい。
というわけで休憩といいつつ、普通に立って話をしてるんだよね、私達。
「あの……一つお聞きしたいのですけどクロナ先輩って、“
「ん? ああうん、そうなるね」
ただ、私としてはあまりそのことがピンと来ない。
一般的に、そういう才覚者って
私みたいに、色々な要因が重なって魔力操作ができるようになった人間をそれと一緒にするのは、何か違う気がする。
「でも、才覚者じゃなくても魔力操作を身につけることはできるよ。ロロならすぐに魔力操作を習得して、Bランク冒険者に成れると思うけど」
「アタクシは……才覚者に
……なれなかった、って。
「それって、冒険者になる前から魔力操作の練習をしてたけど間に合わなかった、ってこと?」
「よくおわかりですわね、誰もが無理だと普通は思いますから、言っても信じてくれませんのよ」
つまり、ロロは優秀だから冒険者になる前から冒険者としての修行をしていたんだろう。
もしくは、実家が魔力操作を習得できる環境だったか。
どっちもかな?
でも、それがうまく行かなかった。
確かに、その方法で冒険者になる前に魔力操作ができるようになっても、それはそれで才覚者だ。
だって私がそうだから。
ロロの言葉から意味を察せられるのも当然だ。
「魔力操作を身につけるには、“きっかけ”が足りませんでしたの」
「……きっかけ」
「クロナ先輩は、Bランク冒険者の“アスノ”という方をご存知?」
「知ってる」
即答だった。
超知ってる。
多分、師匠のご家族を除けば、師匠のことを一番知っているのは私だという自信がある!
それくらい知ってる。
……まずい、抑えろ私、そこで語りだしたら悪いオタクになってしまう。
早口オタクは一般人から引かれるんだよ!
「ええっと……でしたら、アスノ様がBランクに昇格したのは、冒険者になって三十年ちかく経ってから……というのも当然ご存知ですわよね」
「ああ……なるほど」
なんとなくロロの話の意図が読めてきた。
師匠は、Bランク冒険者の中では結構有名な方だ。
まずなんといっても、Bランク冒険者になったのがとても遅い。
ドワーフは長命だから、本人的には遅いという感覚もあまりないようだけど、彼女の話を聞いた人間の感じ方は違う。
遅咲きで冒険者としての一つの高みへ到達するというのは、それができない冒険者にとっては憧れの的だ。
まさしく、私の憧れる「玄人好みのいぶし銀」そのもの。
こうして、将来有望なロロにも知られていると思うと、なんだか私も鼻が高いよ……
いや、私が後方理解者面してどうするんだよ。
「アスノ様はこうおっしゃいました、自分が魔力操作を会得することができたのは、出会いという“きっかけ”があったからだ、と」
「つまり、ロロはそういうきっかけを掴む経験を積めなかったんだね」
まぁでも、この世界って案外そういうものである。
きっかけ、経験、それらの外的要因によって、壁となっていた問題がすんなりと解決することはよくある。
私の体感では、
そういう壁の突破は、一般的に“覚醒”と呼ばれるものだ。
漫画やアニメなんかでは、問題を乗り越え一気に主人公が覚醒することがある。
私がそうであったように。
なんというか、物語の世界に入り込んだような気分になるよね。
まぁ、転生自体が物語の中の概念だろ、とかそういう話はさておいて。
――何にせよ、ここはチャンスだ。
ロロに私の評価をわからせると決めたはいいものの、今まで大した行動は起こせなかった。
掃除にしても、手際の良さを見せようとしたら普通にロロは追いついてくるし。
ここで彼女が覚醒するキッカケになるようなことを言えれば、ロロからの評価はうなぎのぼりに違いない!
というわけで、早速私はいい感じのことを話そうと話題を探して――
「……ロロたちは、どうして下水道掃除のクエストを受けたの?」
「……? えっと」
――――特に思いつかなかった。
普通に、なんとなく気になってたことを聞いてしまったよ!
違うそうじゃない、もっと聞くべきことがあるだろ!
いや、まだ諦めるところじゃない。
ここからいい感じに軌道を修正していくんだ! 頑張れ私!
「えっとその、君たちの様子を見ていると、“進む光”はすごく有望に見えたんだ。だから、こういうお金を必要とするパーティが受けるクエストをやるのが、意外だなと思って」
「有望だって思えていただけますのね、光栄ですわ」
「あ、うん」
じゃなくて。
下水道掃除のクエストは、他のクエスト……特にダンジョン内での討伐クエストと比べて報酬がいい。
というか、新人向けクエストやダンジョンの外での討伐クエストってダンジョン内でのクエストより報酬の相場が高いんだよね。
ダンジョン内でのクエストは、発見した宝箱などの副次的な報酬を加味されるからなんだけど。
その中でも、下水道クエストは新人が受けれるクエストの中では破格の報酬だ。
だから、借金とかの理由で新人が下水道掃除を請け負うことはよくある話。
「そうですわね、アタクシたちがこのクエストを受ける理由は二つあります。一つは報酬ですわ。実は、メンバーの一人がダンジョン探索中に腕を欠損してしまって」
「ああそれは……お大事に。運が悪かったね」
欠損。
いやなんというか、私としては結構物騒に聞こえるけど、この世界ではよくあることだ。
よくあることというか、それを容易に魔術で治療できるというか。
魔力を使うと新しく腕を生やせるんだよね、この世界の人間。
魔力ってすごい。
ただ、その魔術は使える人間が限られるからとてもお金がかかる。
新人が借金をする理由としてはよくある理由だ。
「いえ、大丈夫ですわ、アタクシたちはこの事故を運が悪いとは思っていませんもの」
「どうして?」
「壊滅しかけていた別の新人パーティを庇ったからですわ。ですので、アタクシたちはこれを
……それは。
なんというか、あまりにも。
「……すごいね」
「恐縮ですわ」
立派な、理由だ。
「もう一つの理由は、これも経験だからですわ。冒険者パーティとして上を目指すなら、どんなクエストにも躊躇うことなく挑戦しなくてはなりませんもの」
この子達は……
“進む光”は、
「この子たちええ子やな――――」
「えっ?」
思わずこぼしてしまった。
変な目でこっちを見ている(気がする)ロロへ、なんでもないと誤魔化して。
いや、本当に。
この子たちは話せば話すほど善良で、まっすぐな子たちであるとわかる。
ただまっすぐなだけではなく、自分たちがまっすぐに行動するためにどうすればいいかを理解しているのだ。
光……そう、あまりにも光。
“進む光”の名前は伊達ではなかったのだ。
私は、こんなにも善良なパーティを、意識が高いとか言って、勝手に苦手意識を抱いていたのか?
意識が高いのと、意識高い系をごっちゃにして。
わかってるよ? この二つは別物で、ロロたちは前者だって。
偏見を持っているのはどっちだよ、と言いたい。
手のひらを返すべきは私じゃないか。
けど結果的には、私の行動は間違っていなかったはずだ。
先達として、この子達に尊敬される冒険者でありたい。
この子達に、私の良さを知っていると思ってもらいたいという考えは、間違いじゃない。
そうやって断言できるから、私は――
「じゃあ、ロロ。私からも一つ、話をさせてもらっても――」
そう、口にしたその時だった。
「魔物が出現したぞ!!」
進む光のメンバーの少年が、大声を張り上げて、それを教えてくれたのは。
**
メンバーの怪我で、どうしてもお金が必要になったロロ達“進む光”の前に現れたのは、どこか地味な印象のBランク冒険者、クロナだった。
どこかぼんやりとした雰囲気で、見た感じは如何にも“普通の冒険者”である。
しかし、年の頃は自分たちとほとんど変わらない、それでいてBランクということは魔力操作ができる。
不思議なことがあるとすれば一般的に、この年頃でBランク冒険者というのは間違いなくすごいことなのだが、“進む光”はその名前を聞いたことがなかったのである。
それに、彼女は下水道掃除のクエストに精通している。
どこかマイペースなところがあって、自分の興味がある分野以外にはあまり興味を示さないタイプのようだけど、下水道掃除に興味があるというのは普通に考えれば変な話だ。
そもそも、Bランク冒険者になる過程で、どこにそんな時間があるのだろう。
聞けば、
才覚者は、ある意味でこの世界に生まれた突然変異、バグのようなものであるとも言われている。
生まれながらにして魔力操作を行える天才にして、異物。
その思考は常人とは異なることがほとんどで、中には会話しているはずなのに意思疎通ができない類の怪物もいるという。
つまり、クロナは一見平凡な少女だが、常人とはかけ離れたこだわりがあるのだろう。
ロロという人間にしてみれば、自分とは正反対の世界を生きる存在だ。
そんなロロは、たしかに剣士としての才能があったが、あくまでそれは秀才レベルだった。
本物の天才とは、それこそ才覚者のような規格外だ。
ロロは未だ自分の中の壁を突破できず、魔力操作ができないでいる。
そんなロロにとって、最も憧れる存在は努力し才能を開花させた人間。
冒険者として三十年近い年月が経ってから、魔力操作を習得した晩成の冒険者アスノのような。
もっと言えば、ロロが強く惹かれるのは
なにせ自分はそうはなれなかったから。
多くの人間はそうはなれないから。
ロロは、他人よりも優秀な人間だ。
まわりからはそう評価されているし、自分もそうありたいと願っている。
それは彼女が常に努力を重ねているということであり、だからこそ解るのだ。
これだけ努力しても、壁を超えられないのだから多くの人々が途中で努力を諦めてしまうことも、努力することができない人のことも痛いほど理解できてしまう。
だからこそ、そんな普通な人々が、何かしらのきっかけで才能を開花させることにロロは憧れがあるのだ。
天才でなくとも、才能は花開く。
そう、ロロが信じているために。
しかし、ロロは未だそんな人に出会ったことがない。
これからも、出会えるとは思えない。
世の中に、たった一つの成功体験から、努力によって冒険者になる以前に魔力操作を会得するなんていう努力の天才がいるとか。
――そういう普通はありえないような存在と出会わない限り、ロロはただ、そういう存在に憧れるだけの普通の人間としてこれからも生きていくのだろう。
少なくとも、今のロロはそう考えていた。
割りと主人公がアホの子だけどTS転生者なら愛嬌だと思います、多分……
ロロの独白は一般的に前フリといいます、よろしくお願いします。