TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい   作:ソナラ

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七 ――お姉様と呼ばせてくださいまし!

 あの後、無事に出現したスリムスカーマウスはすべて退治することができた。

 とはいえ流石にそのまま掃除を続けるわけにも行かず、クエストは中断。

 ギルドへ報告に向かうこととなった。

 

 報告を聞いたミアさんはそれはもう驚いて、“進む光”の子たちの無事を喜んでくれた。

 だけど、私に関しては何一つ言及がなかったね?

 ま、信頼されているということだと思っておこう。

 その方がいぶし銀ポイントが高いし。

 いぶし銀ポイントってなんだよ。

 

 さて、実をいうとギルドは冒険者が下水道掃除クエストを受けている最中にモンスターハウス現象が発生する可能性は考えていたらしい。

 しかし、下水道掃除クエストはギルドが敢えて高額に設定することで、新人救済のために用意したクエスト。

 なくすわけにはいかないから、問題になっていないという理由で処理を後回しにされていたらしい。

 なんてお役所仕事な……と思うが、実際問題これまでそういう事件は起きてこなかったわけで。

 ダンジョン都市グラールは数百年の歴史を誇る街だから、多分今後起こるとしても果たして何百年後になるのやらという話。

 

 ただ、ミアさんはこの事を前々から問題だと考えていたみたいで。

 今回の件を交渉材料に、何とか対策を打てないか上と交渉してみるそうだ。

 多分、先輩冒険者の付き添い必須くらいの変更は通してくるんじゃないだろうか。

 それで必ずしも、今回のように新人冒険者が生還できるわけではないだろうけれども。

 新人冒険者だけじゃ生還できる可能性がゼロだったのが、ゼロではなくなる程度の効果はあると思う。

 

 その上で今回の件を振り返ってみると、私的に今回の件はそこそこいぶし銀ポイントが高い事件だ。

 まず、下水道で発生したモンスターハウス現象というのは、この世界ではそこまで大きな事件としては扱われない。

 しかもそれを、街中にモンスターが溢れる前に解決するという。

 一般人からしてみれば、知る由もない今回の事件。

 何より、将来有望な新人パーティ、“進む光”を救えたことも私としては大きなポイントだ。

 

 今後、彼らは多くの実績を残していくだろう。

 それがこんなところで、誰にも知られること無く壊滅しました……じゃ寝覚めが悪すぎる。

 彼らを救えてよかったと、私も心の底から思うのだ。

 

 そんなわけで、その日の夜はお疲れ様会である。

 もとより意識の高い彼女たちから、仕事が終わったら一緒に夕飯を食べたいと誘われていて。

 本来なら、先輩である私から話を聞く場だったのだけど。

 そこに加えて無事に帰れたことを祝う祝勝会も兼ねることとなったわけ。

 

 つまり、最初は入る予定のなかったお酒の入った状態で、私達は込み入った話をすることになったんだよね。

 

 

 **

 

 

 無事に生還したことを祝うお酒の席で、ロロはクロナを伴って二人きりでギルド二階のベランダで話をしていた。

 なんとなく雰囲気がある場所で話したいと酔っているクロナが言い出したため、それに付き合ったのだが。

 案外、こういう場所で二人きりの話をするというのは、クロナの言う通りムードがあっていいとロロは思った。

 

「じゃあつまり、イチハとミツキ、ニトとシノがそれぞれ幼馴染ってこと?」

「ええ、そうですわ。最初アタクシはミツキとシノをパーティにスカウトしたんですの。そうしたら、お二人がイチハとニトもパーティに加えたいとおっしゃりまして」

 

 なんて、進む光の結成経緯の話をしながら、二人はのんびりと酒を飲み交わしていた。

 話す内容は、クロナのこともあれば、ロロのこともある。

 クロナはあまり自分から話題を振るタイプの人間ではないため、基本的に話はロロの方から切り出すことも多い。

 そうしながら、改めてロロは今回の件でのクロナの事を思い返していた。

 

 クロナは傍から見れば、どこにでもいる地味な冒険者だ。

 言われなければ、Bランクの冒険者だとは気付かないだろう。

 そして話をしてみても、感じる印象は平凡な少女というものから変わることはない。

 

 それでも、今回の下水道掃除で進む光を指導する姿は、それなりに経験を積んだ冒険者のものだった。

 自分たちとほとんど変わらない年齢でそれができるということは。

 それだけ多くの経験を積んできたということ。

 地味な印象を受けたとしても、そこには確かな実力があるのだ。

 その上で、下水道で発生したモンスターハウス現象への対処は――

 

 

 ()()というほかなかった。

 

 

 もしくは、規格外。

 まず、魔力操作のできるBランク冒険者の中でも、無手(ノーハンド)――杖を使わずに魔術を行使できる魔術師はそういない。

 それができれば、Aランク冒険者になることも可能だからだ。

 その上で、彼女の魔力操作の精度は非凡どころではないものがある。

 

 百体以上の魔物が動き回る中、それらが足場にしているレンガだけを粉砕する?

 無数の石片を飛ばして、体勢を崩した魔物の目に直撃させる?

 たとえ理論上できるとしても、本当にそれが可能な魔術師はどれだけいるというのか。

 

 これが、才覚者(ハイランカー)

 生まれながらにして、天才として生まれてきた怪物。

 それを目指して至ることの出来なかった――才能の壁というものを、多くの人よりも理解していると自負するロロにとって。

 絶対に理解できない、埒外の存在。

 

 だからこそ、聞かずにはいられなかった。

 

「そういえば、クロナ先輩が初めて魔力操作をした時って、どうだったんですの?」

 

 ――と。

 生まれた時、初めて魔力を操作した時の感覚を聞きたかったのだ。

 クロナは他の才覚者よりも、話が通じる相手である。

 というか、普通の人と変わらない感覚を持っている。

 だから、貴重な話を聞けると思った。

 そして、

 

 

「えーと、確か十歳になる前くらいだったかな? “きっかけ”があったんだ。魔力操作ができるようになるきっかけが」

 

 

「――――――――――――え?」

 

 思ってもみない答えだった。

 十歳で魔力操作ができるようになった。

 それはあまりに異常なことだ。

 だってそれでは、彼女は生まれつきの才覚者ではなかったということになる。

 

「ああ、ロロからすればびっくりするかもしれないけど、私はロロと同じだよ。冒険者になる前に魔力操作を会得しようとして――そして、成功したのが私」

「――ま、まってくださいまし!」

 

 それは、――それはありえない。

 だってロロは、たしかに才覚者になりたかったといったけど。

 理論上、冒険者になる前に魔力操作を習得して、才覚者になることは可能だと考えたけれど。

 

 同時に、()()()()()だともロロは思ったのだ。

 だって、普通に生きていく中で、魔力操作を習得するほどの経験を、人はそうそう得ることができない。

 実際にロロが魔力操作を習得しようとして、壁に行き当たったからこそ解る。

 

 “覚醒”のために必要なきっかけは、それこそ冒険者になるような大きな挑戦のなかでなければ得られない。

 

 それが、冒険者になる前のロロの結論だった。

 

「ええと、どこから話そうかな――」

 

 だが、ロロはクロナの話を聞いて納得した。

 クロナを才覚者にしたきっかけは、たった一つの成功体験。

 それ自体はありふれたもので、多分多くの人は経験して、クロナと同じような目標を志したとしても。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから、クロナがそれほどの才能を発揮した根本的な原因は、別にある。

 

 そしてそれは、これまで接してきたクロナという人間の人物像を顧みれば。

 一つ、説明のつく“原因”があった。

 

「――と、まぁ大体こういう経緯なんだけど」

「それは……“すごい”ですわね」

「そう、自分でも思うよ、すごいことだって。でもね――」

 

 その原因とは、つまり。

 

 

「私はたまに、これが自分の見てる夢なんじゃないかって思うことがあるんだ」

 

 

 現実感のなさ。

 もっと正確に言えば――()()()()()()()だ。

 

 クロナは、他人と比べて妙に自己評価の低いところがある。

 彼女がなんてことのないように行使していた、スリムスカーマウスを殲滅した魔術。

 きっと、彼女はアレを他の大魔術と比べて“地味”だと思っているのだろう。

 それは確かに間違っていないが、同時にあまりにも評価が低すぎるとも思う。

 

 クロナの中にある多くの周囲との認識の齟齬は、自己評価の低さが原因にある。

 自分は元々大したことのない人間だから、褒められても実感がわかない。

 

「あまりにも都合が良くて、私が思い描いた通りに進む人生を送る夢なんじゃないかって」

「それは……」

 

 どうしてそこまで、自分の評価が低いのか。

 今の自分に現実感を感じていないのか。

 ロロにはそれが解らなかったが、原因の根底はやはり“転生”だ。

 クロナは転生者だから、一度死んだ経験があるから、今の自分に実感が持てない。

 

 そしてロロは、クロナの言うことを理解できた。

 転生者ではもちろんないが、彼女にも“都合が良すぎる”と思う時があるのだ。

 

「アタクシも……“進む光”のことで、同じように思ったことがありますわ?」

「っていうと?」

「“進む光”に加わってくれた皆さん、あまりにも優秀で――アタクシは、恵まれすぎていると思うことがありますわ」

 

 ロロには、自分が他人よりも志が高いという自覚がある。

 人によっては、それについていくことが難しいということも。

 その上で、今のメンバーは皆、ロロの理想についてきてくれている。

 あまりにもそれは幸運で、こんなにも幸運でいいのかと、ロロは思うことがあった。

 

「だからもし、その幸運が泡沫の夢でしかないとしたら、と不安になってしまうこともありますの」

「そうだねぇ」

「ですから、その夢が覚めてしまったら、アタクシはきっと耐えきれないと思いますわ」

 

 そう、冗談めかしてロロは言う。

 それは、不安を吐露するクロナに対し、不安に思うことはないと思うと、そう言外に含めた発言だったのだが。

 

「……? 別に、夢が覚めたとしても、私はもう一度頑張るだけだよ?」

 

 クロナは、なんてことのないようにそういった。

 

「どうしてですの?」

 

 そう問いかけるロロへ、クロナは、

 

 

「だって、たとえ夢だとしても、ここまで頑張ってこれた私は嘘じゃない。だから、現実でも私はもう一度頑張れる。頑張って、今の私をもう一度目指すんだ」

 

 

 そう、言った。

 

 これまで何度も、ロロはクロナの発言、行動で言葉を失ってきた。

 それは、クロナがあまりにも規格外で、驚きによって言葉を失ってしまうものがほとんどだった。

 いや、全てだったと言っていい。

 

 その上で、今回は違った。

 

 一瞬、ロロの中の時間が全て止まって、目の前のクロナという少女にだけ意識が注がれた気がしたのだ。

 

 これまで話をしていて、クロナの才能は天才というべきそれだった。

 たとえ後付で開花させたものだとしても、それによって得られた能力は、あまりにも規格外だったから。

 ロロはクロナが、自分の理想像であると認識できなかったのだ。

 

 それが、今の一言で。

 たとえ一度失敗したとしても、もう一度努力を続けるのだと口にするクロナを前にして。

 

 ようやく、理解した。

 

 この人だったんだ。

 

 自分が目指す、壁を努力で乗り越えた天才は。

 

 

 その日、ロロは自分の“運命”を変える出会いをしたと、直感した。

 

 

「クロナ先輩! いいえ、クロナ様!」

「え? な、なに? 突然どうしたの?」

 

 気がつけば、困惑するクロナの手を取っていた。

 幸いにも酒の入ったミニ樽はカラになっていて、ベランダの手すりに置かれていたため、お酒が溢れるようなことはなかった。

 なんてことを、現実感のないままクロナが考えているだろうことが、彼女の視線から読み取れる。

 

 その上で、ロロは口にした。

 

 私は、この人を――

 

 

「――お姉様と呼ばせてくださいまし!」

 

 

 この人を、目指して生きていく。

 

 そう、宣言した。

 

 後になって考えれば、どう考えても酔いが回っての阿呆な行動だったけれど。

 少なくとも、その時のロロは本気の本気で。

 

「え? あ、う、うん、いいけど」

「光栄ですわ!」

 

 心の底から、クロナに受け入れてもらえたことを、幸福に思っていた――――




総合評価10000pt超えました、ありがとうございます。
無事にロロを堕としたので、次回からは新しい話です。
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