TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい 作:ソナラ
シュワスプリンガーの掃討クエスト。
読んで字の如し、ダンジョンに溜まったシュワスプリンガーを一斉に掃除するクエストだ。
魔術を使える冒険者は、特に理由がなければ必ず参加することがギルドの規約で義務付けられている。
だってそうしないとダンジョンはシュワスプリンガーでいっぱいになってしまう。
あんな旨味もなく、ただ迷惑なだけの魔物しかいないダンジョンとか一体誰が潜りたいとおもうのか。
故に、掃討クエストが発令されるのは必然だった。
そしてもちろん、掃討クエストが冒険者に嫌われるのもまた、必然であった。
報酬はいいんだけどね。
そんなわけで、私は今日ダンジョンへやってきていた。
まわりには、結構な数の冒険者、普段ダンジョンへは安息日にしかこないから、なかなか新鮮だ。
「おい見ろよ、あの冒険者。シュワスプリンガーの粘液引っ被ったらしいぜ」
「まじかよ、気の毒に……」
むむ。
ダンジョンではオートで身体強化をするから、聴力が良くなって他人の会話が聞こえてしまった。
話題もアレだし、ここは聞かなかったことにして聴力の強化を弱く――
「よく見ると、可愛くね?」
「ああ、地味だけどかわいいな」
――いややっぱり少し強くしておこう。
ほらね、参考までにね。
「なんていうか、街中にいてもそんな目立たないけど、もし目の前で話するってなったら、結構目を引かれる感じだよな」
「あの子のこと可愛いと思ってるの俺だけだろうな……みたいな」
んんんんん。
解ってますね、解ってますね男!
いやあ、TSって性別の変わる違和感とか、男としてのアイデンティティとか色々ありますけど。
私の場合はあれなんですよ。
何でもいいけど、褒められると嬉しい。
承認欲求が満たされる。
なので、エッチな目で見てこない限りは、可愛いとか綺麗とかいわれるのは大歓迎だ。
……あれ? そもそもどうして私は可愛いと言われているんだっけ?
「ああいう、男と付き合ったことなさそうな子がシュワスプリンガーの粘液まみれになるとかめっちゃエロいよな」
「神に感謝だな……」
――――さ! さっさとシュワスプリンガーの掃討に移ろうね!
**
掃討と言っても、正直わざわざ大人数がシュワスプリンガーの掃討を行っても効率が悪い。
そこで、私はシュワスプリンガーの討伐ではなく、そのサポートを行うことにした。
ちなみにギルドの許可は得ている。
ミアさんからは、相変わらずこういうの好きですねぇ、とのこと。
まぁ……そうですねとしか言えないね。
私がやることといえば、二つ。
一つはシュワスプリンガーが炸裂させた白濁液の掃除。
この世界の魔物は死ぬと一定時間が経った後消滅するという、これまたゲームみたいな仕様をしている。
シュワスプリンガーの白濁液もその例にもれないのだが、消滅には結構時間がかかる。
なので、その間にうっかり粘液で冒険者が足を滑らせると大変なことになる。
あと、掃討クエストが終わった後のダンジョン内部の絵面が最悪になる。
なので予めある程度、シュワスプリンガーの残り滓を掃除することにしているのだ。
そしてもう一つは見つけたシュワスプリンガーを捕獲すること。
土の檻を作り、動けなくする。
これだけで粘液誤爆の可能性が減るのだから、結構大事な仕事だ。
掃除の方法? 簡単だ。粘液が飛び散っている地面の上から岩石を押し付けて放置するだけ。
この岩石は時間とともに魔力が霧散し、消えるようになっている。
シュワスプリンガーの粘液も大体そのくらいの時間で消えるので、単純な処置だけどこれが一番確実であるといえる。
で、そうやってシュワスプリンガーのあとしまつをしていると、あちこちで魔術師の皆さんを見つける。
杖を構えて、各自思い思いの方法で粘液を被らないようにしながらシュワスプリンガーを倒していた。
の、だが。
いつものことと言えば、いつものことなのだが。
土属性魔術の使い手がすくない!
いないわけではない。
少ないのだ。
あくまで、少ない。
ここ大事。
というか、いないなら逆に特別感があるので別にいい。
少ないってことは、純粋に不人気ということである。
何故か!
土属性は不人気だからだ!
クソァ!
なお、ここで明言しておきたいのは、不人気なのは冒険者の間でだけだ。
これが鍛冶師とかが制作の補助に魔術を使うとなった場合、圧倒的一番人気は土属性である。
理由に関しては、今更言うまでもないだろう。
これまで私が幾度もやってきたように土属性魔術で土を加工できるのは、魔術の強みだ。
なので、あくまで話を冒険者の人気属性に絞って話をする。
まず、大前提としてこの世界には四つの“基本属性”が存在する。
前世にも存在した、地水火風というやつだ。
そして、冒険者が一般的に使う属性は一つか二つである。
なぜなら、複数の属性を扱おうとすると、使える属性を増やすたびに一つの属性でできることが減るのだ。
魔術の威力とか、操作性とかが著しく落ちる。
そうなると当然、冒険者は習得する属性を選ばざるを得ず、魔術の人気に格差がでるわけだ。
こういう時に、土属性は色々な理由から習得する属性に選ばれないというわけですね。
じゃあ逆に、一番習得する属性として選ばれているのはどれなのか――?
<風刃!>
ふと、風属性魔術でシュワスプリンガーを吹き飛ばし、更に風の刃を生み出してそれを切り裂く冒険者がいた。
杖を構えながら、いい感じにシュワスプリンガーをぷちぷちしている。
意外に思うかもしれないが、冒険者一番人気の属性は風属性だ。
これにはこの世界特有の事情が絡んでいる。
風はこの世界のどこにでもあって、手を振るだけで風は発生する。
だから、媒体が必要なこの世界の魔術においてもっとも手軽に媒体を用意することができる風属性魔術は冒険者に人気だ。
更には、風属性魔術は攻撃性能に優れる。
この世界でも、前世のように風を刃にして飛ばしたりするという“イメージ”は存在する。
すなわち風属性は攻撃魔術として最大の汎用性を誇るのだ。
土属性は前にも言ったけれど媒体を用意するのが簡単という利点がある。
だけど、風属性はそれよりも更に媒体が簡単に用意できる。
これは他の属性では絶対に敵わない最大の長所である……というわけ。
そして、二番人気は――
<爆炎!>
別の場所に移動すると、シュワスプリンガーに炎をぶち当てて、飛び散る粘液を
流石にすべての粘液を蒸発できるわけではないが、そうそう自分のところに飛んでくることはない。
火属性魔術は、魔術の定番だ。
故に、冒険者の中では二番目に人気がある。
ただ、なんとなく想像がつくかもしれないが、火属性魔術は四大属性の中で最も媒体の用意が難しい属性だ。
火種を用意しないと魔術が使えないのである。
宝箱から出土するアイテムの中に、ライターのようなものがあるからそれを利用したり、魔杖に発火機能を付けて媒体を用意するわけだが、それにしたって手間である。
だが、火属性魔術の火力は四大属性の中でダントツのトップだ。
なぜなら多くの人間は、火こそが最も攻撃性が高いという“イメージ”を持っているから。
イメージとは共通認識。
共通認識は、魔術の発動を“イメージ”する上で大事な助けとなる。
魔術の効果を決めるのは、魔術師の想像力だ。
同じ<爆炎>の魔術でも、魔術師の想像がより攻撃的であればあるほど、その威力は上昇する。
この点において、四大属性最大の火力というイメージを持つ火属性魔術は、大きなアドバンテージを持っているといえる。
あと単純に、人気なんだよね火属性。
派手だし、かっこいいし。
土属性はこのイメージという点において他の属性よりも不利である。
地味という共通認識。
他と違って、土という物理的な存在を介して攻撃を行うものだから、どうしても使用者が
なのでこの世界の土属性魔術のイメージは、地形などに干渉することで牽制には有利だが、火力に乏しいというものになってしまう。
じゃあ、その地形に干渉するイメージを利用してサポートとして習得すればいいではないかと思うのだが、そこで最大のライバルが立ちはだかる。
<回復!>
別の場所では、水属性の魔術師が別の魔術師を治療していた。
切り傷を負っているところから見るに、シュワスプリンガー討伐中に別の魔物と戦闘してしまったのだろう。
水属性魔術は攻撃性が乏しい。
だが、そのかわりにある特殊なイメージを持っている。
それは“治療”だ。
水属性といえば回復魔術というイメージがこの世界には存在する。
魔術を使えば欠損すら回復できるこの世界において、水属性の回復魔術は貴重だ。
結果、いくら汎用性が高いからと言って土属性を覚えるよりも、水属性を覚えたほうが冒険者としては使う機会が多くなる。
何より、なんだかんだ他にも飲水を用意できたりと汎用性では土属性と水属性は回復魔術を抜きにしてもケースバイケースなところがある。
水さえあればいいから、土属性や風属性ほどではないけど水属性魔術も媒体は用意しやすいからね。
結果、土属性は利便性、攻撃力、媒体の用意しやすさ。
すべての点において、
いやでも、本当に便利なんだよ?
シュワスプリンガーの粘液を安全に掃除するのは、土属性でなければできないし。
想像力を最大まで働かせれば、数百の魔物を一気に制圧することだってできる。
……それができるのは“
まぁ、はい。
とにかく、この世界の魔術の習得は「風と水」か「火と水」、もしくは「風」オンリーか「水」オンリーが多い。
前者は魔術師としての役割を専門にした冒険者。
後者は、魔術も使える前衛後衛を両方担う想定をした冒険者。
土属性の魔術を使うのは、それこそ師匠のように、種族単位で“土属性を使う”というイメージが種族の中でも浸透しているドワーフくらいなものだ。
不人気、圧倒的不人気……!
私はダンジョンのあちこちを回って、色々な冒険者が様々な魔術を使うのを眺めつつ。
時たま見かける土属性魔術の使い手を、後方から腕組みをしてうなずきながら眺めた。
後方腕組土属性魔術師面……
ある意味私にとって、こういう掃討クエストは、数少ない土属性魔術師を見つけて気持ち悪い笑みを浮かべるイベントだった――
**
ところで、魔術の属性には他にも二つの種類が存在する。
“光”と“闇”。
如何にもラノベっぽい、中二なその二つの属性。
この二つは、存在することには存在するのだが、ある理由から使用者はほとんどいない。
理由は適性だ。
魔術を習得するにも、適性というものがある。
この適性は本人の人間性、嗜好、魔術を取得して目指したい方向性によって変わる。
たとえば医者を夢見る人間は水属性の魔術の適性が高く。
鍛冶師を目指す人間は土属性の適性が高いことが多い。
冒険者の場合は、火属性と風属性が多い。
そして、光属性と闇属性は、ほとんどの人間に適性がない。
もちろん私だってない。
若干闇属性に、ほんのり気持ちだけ適性があるかな? というくらい。
多分名前が“クロ”ナだからだろうな……
ガハハ。
何てことを思っていたら――
<光弾!>
突如として放たれた魔術によって炸裂したシュワスプリンガーの粘液が、たまたま近くにいた私に直撃した。
「って、あああああ! ごごごご、ごめんなさいいいいいいい!」
原因は、察知できなかったから。
魔力の流れにはパターンがあって、魔術は発動する際に予兆がある。
四大属性の予兆を私は学習しているから、たいていは発動することを読み取れるのだけど。
今回は、できなかった。
というか明らかに、光属性だった。
光の玉が飛んできて、シュワスプリンガーをふっとばしたのだ。
粘液まみれの私に、一人の少女が駆け寄ってきて盛大に平謝りをしている。
なんというか、アレだ。
事件が始まる。
そんな予感がした――
土属性魔術も便利ではあるので、適正が高ければ普通は土属性が選択されます。
冒険者がそもそも土属性に適性のある人間がそこまでいないので結果的に不人気となっています。