From the withered world   作:鳥菊

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引き続き、誤字脱字等々の御指摘をいただければと思います。

竜王国からのスタートです。


竜王国編
第一話


 

 

 アンデットが日夜跋扈するカッツェ平野の東にある人類国家、竜王国。

 その地では七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)の血を引くドラウディロン・オーリウクルスが女王として君臨し、国政を敷いていた。

 

 そんな竜王国の王城。

 その内の質素ながらも気品を感じさせる王の間。

 

 間の中心に据えられた玉座は大きく、頑強な作りであるのだがそこに腰掛ける者は対照的であった。背丈は低く、幼さを感じさせる少女である。身に纏う気品から多少の威厳を感じられるかもしれないが、どちらかと言えば、彼女の姿は保護欲を刺激させることだろう。

 

「――何度も貴国、貴殿らには助けられた。本来であれば十分な見返りを渡したいのだが……」

 

 だが現に、その玉座に座る少女が王として対応を取っている。それも随分と慣れた対応だ。国政に携わる者が見れば()()()()()()()が入っているようにも感じられるかもしれない。

 

 ……そう、彼女こそが紛れもない竜王国女王。真にして偽りの竜王や黒鱗の竜王(ブラックスケイル・ドラゴンロード)とも称されるドラウディロン・オーリウクルス、その人であった。

 

 

「ご厚意の方を感謝致します。ですが、お構いなく。私共に課せられた任務は貴国の民、そして我が国の安全を確保すること。そして何より――――人類の為である。これだけで十分に戦う理由となるのです」

 

「そ、そうか……」

 

 そして彼女が傍らに控える宰相達と共に応対しているのが、平凡な顔つきで頬に傷跡が残る男。男は魔法を用いて編み込まれた金属糸の黒ローブを身に纏い、金髪をM字に刈り揃えた頭をしていた。また、ローブの上からでも分かる鍛え上げられた筋骨からは逞しさが伺える。

 

 彼の名はニグン・グリッド・ルーイン。

 スレイン法国が誇る神官長直轄特殊工作部隊の1つ、亜人種などの殲滅を基本任務とする「陽光聖典」の隊長である。

 

 ニグンはドラウディロンの申し訳なさそうな言葉に対し、感情が感じられない黒い瞳を彼女に向けて不安を与えぬよう、笑みを浮かべながら言葉を返す。

 

「ニグン殿、こちらからも改めて今回も助力頂けたことに重ね重ね感謝します。……早速で申し訳ないのですが戦力と物資等々と細かい話に移らせていただきます」

 

 宰相は彼に改めて礼を述べると、別室に彼とその部下と共に会議室への移動を始めた。直ぐに自国を取り巻く現状について説明を始める為だ。

 

 ここ竜王国では現在も尚、本国東に存在するビーストマン国から多大なる被害を被っていた。

 先んじて彼の国に侵攻をかけた訳では無い、些細なことから戦争に発展した訳でも無い。考えられる理由は1つだけ、それは自然の摂理。即ち……弱肉強食であった。

 

 ビーストマンにとって人間とは食料である。

 故に毎年、東部から彼らの侵攻を受けて土地も国民も全てが奪われている。彼らにとって竜王国とは()()。攻めて良し、殺して良し、食って良しと見なされている筈だ。

 

 ただ、竜王国も指を咥えてこの惨状を眺めている訳ではない。自分達が使えるものは全て使い、国力総出で立ち向かっている。国の豊かさは置いておくとしてもリ・エスティーゼ王国よりは遥かに健全な国政であることは間違いない。……しかし、だからといってビーストマン達の侵攻を止めることが出来るとは限らない。

 

 実際問題、戦場では殆どが一方的に攻められる戦況にある。

 何せビーストマンと成人男性を比較すると、前者の方が10倍程強いのだ。突出した傑物はビーストマン側にいないとはいえ、最早この国の力だけでは侵攻を止めることは不可能に近い。故に彼らはスレイン法国に助力を求めたところ――――陽光聖典の力を借り受けることが出来たのだ。

 

(……状況の悪化が著しい。既に複数の村々と都市が1つ陥落している。斥候からの情報を省みるに……撤退戦を強いられる、か。穢れた亜人種共め……!!)

 

 憎しみを吐き捨てたい心情を抱くニグンはそれを押しとどめつつも、自身の部下や宰相達と共に戦況を確認して具体的な作戦を練り上げる。

 

 彼から見ても間違いなく状況は悪化の一途を辿っていた。エリート揃いである陽光聖典の彼らの力があっても、ビーストマンの軍勢に押されていると言って良い。年々侵攻をかけるビーストマンの数は強化された竜王国の戦力に対応するかのように、増加していった。とりわけ厳しかった前回の戦いでは、凡そ七千のビーストマンと対峙することになったのである。

 

 当時はアダマンタイト級冒険者チームであるクリスタル・ティアの協力もあり、何とか退けることが出来たが、次回も侵攻を防ぐことが出来るという保証は全くない。その為にも如何に兵士達の士気を保ち続けるかが重要になる。

 

 誰もが彼の冒険者チームのリーダー、セラブレイトのように女王への忠誠心と彼女からの鼓舞だけで士気を保ち続けるのは難しい。……ドラウディロンとしては、彼の様にねっちょりとした視線を向けてくる者が増えることは御免であるのだろうが。

 

 兎も角、自分達の種族的なアドバンテージと数に任せた集団戦法で襲い来るビーストマン達に対して、高い士気をもって戦いに臨まねばならない。

 

 また、そんなこちら側が取ることの出来る手段としては前回と同様、奴らの慢心を突いて戦線を維持しつつ、逃げ惑う人々を拾いながら撤退戦に持ち込むことぐらいだろう。

 

「――足りない」

 

 こうして、あれやこれやとビーストマンへの対応策を緻密に講じている最中、小さな誰かの独り言がニグンの耳に入った。――否、彼だけでは無くこの場にいる全員の耳に入ったのだろう。その言葉で会議場は一時静寂に包まれる。

 

「そうですね、やはり()()()()

 

 そんな空気の中、ニグンが同意を示すと共に静寂を破る。この場の誰も彼もが理解していたことだ。静まり返ったのは、単に不用意な発言をしたからではない。だれもその言葉に反論出来ないが為だ。

 この地には人手も物資も……状況を好転させる戦力も、それを導き出す戦術を生み出す頭も足りていない。現地調達で補給できるビーストマン達とは違い、竜王国は領土を国民を奪われながら消耗し続けているのだ。

 加えて、先の全体の士気の話にも大きく関わってくる。現状、戦い続けるもののこちらの損失が新たに計上されるばかりだ。戦いが始まってから領土を取り返したといった、明るい話題が無いのだ。兵士のみに限らず国民を含めて、一人当たりに掛かる精神的な負荷は増大している。……先に心が壊れてしまう前に一部でも良いので状況を好転させたい。

 

 もし仮に好転させるとするならばそう、大規模な魔法攻撃でビーストマンを一網打尽にする。

 その規模の作戦を講じる必要がある。幸い、()()()()()()()()()()ならこの国にある。法国の者として、申し訳ないとは思うがその手段を行使してくれた方が、我が国に利があるのだ。

 

 ニグンは険しい顔つきでドラウディロンを見やった。それに気が付いた彼女は何かを悟ったような表情になり……やがて顔を伏せる。

 彼の脳裏をよぎったは、彼女の持つ才能(タレント)の情報。竜王国の切り札。多大な犠牲を払わねばならないとはいえ、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)の一撃を模倣出来るのであれば――。

 

「ニグン殿、その手段は――」

 

「宰相、みなまで言うな。……分かっているともニグン殿。猛獣共に食われるくらいなら、始原の魔法(ワイルド・マジック)の糧となり奴らを消し飛ばす方が、生きた意味にも未来の為にもなることも……」

 

 弱弱しく語るドラウディロンの眦から涙が少しずつ溢れる。一見すれば大の大人が幼女を泣かせたかのように見える光景。それを見たニグンも僅かだが表情を和らげ、落ち着かせるように彼女へ語り掛ける。

 

「オーリウクルス陛下、あくまで可能性の話です。不幸中の幸いではありますが、その状況まで切羽詰まっている訳ではありません」

 

「……そうか、そうかの?」

 

「左様でございますとも。そういった事態にならないよう、前線の兵士や我々が戦っているのですから」

 

 宰相がニグンの言葉に連ねてドラウディロンを鼓舞する。すると、周囲の者達もそれに同調し始めた。すると、会議室の雰囲気が多少の緊張感はあれど和やかになったと感じられるようになる。ドラウディロンは矢継ぎ早に掛けられる言葉に対し、感謝の意を伝えて――――。

 

 

 

 

(まさか、ここまで効果があるとは……)

 

 自身の演技力に驚いていた。

 因みにこの渾身の涙の演技は宰相の入れ知恵である。

 

『陛下のその形態であれば必ずや効果が見込めるかと……』

 

『形態言うな……それはなんだ、あれか、庇護欲というヤツか? この国の者ならまだしも、他国の者に通じるとは思わんが。……ええい! 後で痛いしっぺ返しを受けそうでやりとうないわ!』

 

『ご安心を陛下。しっぺ返しと言っても精々、陛下に魅了された勢力(セラブレイト's)が力を増すくらいです』

 

『それを安心とは言わぬのではないか……?』

 

『陛下、我が国の存続が懸かっているのです。物理的に民が食われている現状を考えれば、陛下の小さな自己愛などドブに捨てるべきです。……どうかご理解を』

 

『――――。もう嫌じゃ宰相、酒を持ってこい』

 

 ドラウディロンは以前行った宰相とのやり取りを思い出す。

 当初は眉唾だと考えていたが……いざ、こうして作戦を実行に移すと、存外に悪くはない結果を運んで来てくれた。セラブレイトが増えることは到底受け入れられないが。

 

 彼女が横目で宰相を見やると、彼は微笑んでいた。『どうだ、自分の策は功を成しただろうと』でも言いたげである。……後で一発ぐらい殴っても許されるだろう。

 

 何がともあれ、会議の話題はこれでもって出尽くした。

 

「では一度、私共は部隊に指示を出しますので失礼させていただきます」

 

「うむ。今後ともよろしくお願いする」

 

「ええ、それでは――――」

 

「会議中のところ失礼致します!」

 

 会議室を後にしようとするニグン達の前に竜王国の伝令兵がノックも無しに入室する。その者は深刻な表情をしており、息も荒れていた。

 

 先程までの和やかな雰囲気は完全に霧散し、代わりに緊迫感がこの場を支配する。伝令兵は急ぎの余り入室時の対応規則を破ったことに対し謝罪をしようとするが、それをドラウディロンが止めた。

 

「よい。それよりも何事だ。内容を話せ」

 

「はっ! 内容と致しましては前線からの通達になります。巡回していた斥候が先程、ビーストマンの軍勢を遠方より確認。その数……目視で確認できた限りで八万を優に超えており各要所を突破されております」

 

「なっ……八万だと!? 通達ミスではあるまいな!?」

 

「はい、間違いないかと……!!」

 

 伝えられた情報により騒めく会議室。一体どうして、何故なのかと疑問や不安が噴き出てくる。

 近年は多くとも数千程度の侵攻を度々繰り返してきていた。その都度こちらを嘲笑うかのように侵攻する場所を変えている。確かに兵士や民を殺し、食らってきたがある程度の侵攻を終えると、何事もなかったように去って行ったものだ。――それが何故今になって急に大侵攻をかけてきたのか。制圧の目途が立ったのか、それとも単に遊びには飽きたのか。こちらからは意図を読むことが出来ない。

 

「――ッ! ニグン殿!」

 

 嘘であって欲しい、そんな情報を聞いてしまったドラウディロンは思わずニグンに目を合わせる。彼は小さく彼女に頷き返した。

 

「……私共は戦線に向かいます。到着する頃には既に兵士達、住民達には多大な被害が出ている事でしょう」

 

「――――分かっているとも」

 

「それに加えて――――」

 

 ――先ほどの始原の魔法(ワイルド・マジック)の件を是非とも再考するべきかと。

 

 そう言い残して足早に会議室を去るニグン達。

 そんな彼らに続くように、部屋に残る竜王国の者達も即座に行動を始めた。ドラウディロンと宰相は大臣達に通達出し、命令を下す。国家の非常時は常に時間との勝負だ。対応の遅れが国民の命に直結する。

 

 こうして仕事を割り振り、各々がそれを全うするべく次々に部屋から去ること数十分……そうして部屋に残ったのはドラウディロンと宰相の二人。

 

「……ああ」

 

 ドラウディロンの疲れたような、失意に沈んだかのような声が生まれて、消えていく。

 ニグン達が去ってからの会議では、役割分担と共に始原の魔法(ワイルド・マジック)についての話もした。

 

 始原の魔法(ワイルド・マジック)は他に打つ手がない非常時における最終手段。そして、伝令兵より伝えられた情報は間違いなくその非常時に該当するだろう。仮に発動するとなれば、生き残るのは僅かな人数。

 

 ……途中で引いてはくれない筈だ。

 今回は確実にこの竜王国を滅ぼしに来ている。

 

「覚悟を決めねばの」

 

「……」

 

 ドラウディロンの言葉を聞いた宰相は彼女と同じく覚悟を決める。

 前々から決めていたことであった。

 もし、もしその時が来るのならば、国民だけでなく自身もまた魔法の糧になるのだと。

 

 

~~

 

 

 ――ビーストマンの大侵攻より数時間前。陽が最も高く上る時刻。

 

 竜王国近郊。

 ビーストマンとの戦線に近いこの地は戦火に見舞われたこともあり、焼かれ、踏み荒らされ、大半の草木が死滅していた。僅かながらに残った草本は枯れ果て、木には大きな爪痕が刻み込まれている。

 そんな荒涼とした土地で一人。不幸にも旅路の果てに息絶えたのか、倒れ伏す者が居た。

 

 その者は懐中時計のついたシルクハット、スーツにマントと黒を基調とした装備で身を包んでおり……何よりも目を引く、バフォメットの顔をしていた。人型ではあるが、人間ではない。ましてや――この世界の住人でも無い者。

 

 名はウルベルト・アレイン・オードル。

 彼はこの地で、この未知の世界で意識を取り戻した。

 

 

~~

 

 

「うっぷ……ペッ!」

 

 彼は目を見開き、うつ伏せの状態から体を起こす。彼は両手を地に付けながら口内に入り込んだ土塊を吐き出した。味は無くジャリジャリとした食感だけが残る。

 

「ああ……?」

 

 口の中に残る違和感を味わいつつも、彼は周囲を見やる――視界には枯れた大地が広がっていた。彼にとっては見知らぬ場所である。

 

 次に彼は自分自身の姿を確認する。……馴染み深い悪魔の姿だ。ユグドラシルで愛用していたアバター、そのままである。全身は神器級(ゴッヅ)装備で身を固めており、片手には真なる無(ギンヌンガガプ)が握られていた。

 

 ウルベルトはこれらの情報を基に、自身が未だにユグドラシルからログアウトしていないのではないかと考えた。だが、この考えには主に二つの大きな見落としがある。

 

 一つ目は先程の『食感』を筆頭とした様々な感覚と、自身の有り得ない動きのことだ。つい先程やってみせた、土塊を吐き出して残った砂利の食感を味わうという一連の動作。これ自体は絶対に有り得てはならないタブーだ。

 

 その理由はゲームへの過度な没入感を防ぐ為である。DMMO-RPGを始めとした現実に近い感覚を得られるゲームでは、現実感のある感覚や行動に対し厳しい規制をもうけている。現実に帰ってこない者が増加すると恐れての対応だろう。

 

(つまり……だ。こうした感覚がある以上、ここはゲームでは無く現実……なのか?)

 

 厳重な規制から考えるに、ここは現実であるという暴論。勿論、直ぐにウルベルトは違うと断ずる。現にこの悪魔の姿で自分が生きているなどそれこそ、現実味が無い。

 

 加えて、二つ目の疑問でもあるのだが、既に自分は死に瀕していた身であることが現実でないことの否定に繋がる。

 

 自身は這い這いの体から逸脱し、意識だけで何とかモモンガに会うことが何とか出来ただけの者だ。銃弾を受けた現実の自分は今頃失血などで死んでいる筈だ。その他の事象を加味しても……現実で生きている筈がない。そもそも俺を生かしておく理由がない。

 

「クソ……訳が分からん」

 

 ウルベルト自身が置かれている現状。

 その可能性が浮かんでは消え、浮かんでは消えて繰り返す。それを散々繰り返した後に、いい加減飽き飽きした彼は吐き捨てるように不満を口にした。

 

(……現実……そして悪魔、か)

 

 そうして吐き捨てて幾分が落ち着いたウルベルト。彼は改めて自身の姿を見る。気品のある悪魔の姿である。そして何を思ったか、彼は半信半疑で魔法を詠唱した。

 

 ――――〈魔法の矢(マジック・アロー)

 

 そうするとウルベルトの周囲に十の矢が魔力で生成され、一斉掃射される。

 

「うおっ!」

 

 放たれた矢は大地に着弾し、辺り一帯を大きく抉り取った。

 この『ウルベルト・アレイン・オードル』というアバターはワールド・ディザスターという特殊な職業を修めた影響で、魔法威力が大変高い。かといってこれ程の描写はされなかった筈だが。――いや、今はそれよりも。

 

「魔法が……使えた、だと?」

 

 ウルベルトはふと考えた訳だ。自分は現実っぽい世界にいて、ユグドラシル時代のアバターの肉体と装備を持ち、生きている……らしい。であるならば、アバターの持った力……魔法を使えるのではないかと。

 

 そして、その考えが当たったことになる。

 自分の意思で発動した魔法とその威力に、あっけにとられたウルベルトは――小さく笑った。魔法が使えるならば、試すべきことは幾つも浮かんでくる。少しばかり楽しくなってきた。

 

 

~~

 

 

 ……大体は理解が出来た。

 この世界についての理解は皆無と言っても過言ではないが、実験を通して多くの事柄を確認することが出来た。

 

「――さて」

 

 魔法、特殊技術(スキル)、マジックアイテムと一通り試したウルベルトは紛れもない自分自身が生み出した()()を見やる。

 

 そこには二足歩行のライオンやトラ――――ビーストマン達の死体が飛び散っており、低級の悪魔達がその死体で遊びに(ふけ)ていた。

 

 彼らはウルベルトが実験をしていた際に姿を現した。彼らはウルベルトを取り囲むようににじり寄ると、やれアベリオンの山羊人(バフォルク)だの、装備を寄越せだのと絡んできた。

 

 ウルベルトはビーストマン達の舐めきった言動はさておくとして、人間ではない彼らの言語を理解できたことに大変驚いた。いや、かく言う自分も人ならざる悪魔なのだが。

 

 なるほど、問題はないらしいと。思考を巡らせるウルベルト。そうして彼らを無視していると、彼らが唐突に牙を剥いて襲い掛かり……事の顛末に至ったのである。

 

「……」

 

 眉を顰め、考え込んだ表情をするウルベルト。

 実験こそ問題無くことが運んだが、彼は実験の最中にビーストマンを殺めた自分に違和感を覚えていた。 

 

 先に仕掛けてきたのはあちら側だ。

 ただ、一応ビーストマン達は言葉を介することの出来る生物ではある。そんな彼らを――ここまで躊躇なく殺すことが出来たのかと。

 

 ――それは無い筈だ。確かにウルベルトはお世辞にも良いとは言えない環境でこそ育った。人型であり言葉を介するとはいえ、この獣の死体を見て憐みや哀憫といった感情は抱かないだろう。精々、もの珍しさを感じるくらいだ。

 

 だが、息の根を止めるとなると話は変わってくる。

 魔法での殺害。詠唱一つで殺せる上、手に血肉の感触も残らない。罪悪感は大きく減らせる。

 

 ……それでもだ。それでも()()()()は理解をしていた心算だ。けれども、先程はそれを失っていたのだ。これは正しく悪魔の所業であり――。

 

「いや、もういい」

 

 加熱する思考を止めるウルベルト。これ以上は精神的に良くはない。

 

 気が付いたが、先の違和感は全て自分の所業に対してのものだけだ。『ビーストマンを肉塊に変えた自分』に思う節があるだけで、『肉塊と化したビーストマン』自体には何とも思っていない。……これが恐ろしいことなのかは分からない。

 

 ただ断言は出来ないが、悪魔としての肉体が精神に何かしらの作用を発揮している可能性がある。好きにさせている低級悪魔達が死体で遊ぶ様子を見やると、その考えが正しいように思える。

 

「よし、お前ら……それ片付けとけ」

 

 ウルベルトは召喚した低級の悪魔達に死体の処理を命ずる。土の中にでも埋めてくれれば良い。続けて、二つの魔法を唱えた。

 

「〈飛行(フライ)〉〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉」

 

 正しく発動した魔法は彼の体を宙に浮かせてその姿、音・気配を完全に消す。

 

 彼は実験中、遠方に荒れてはいるが家屋群を発見することが出来た。今の自分に使命や、依頼も無い。気が向くままに旅をするのも一興だと考えた。歩くのも嫌いではないが試しに空から行くことを決断。こうして彼はその場を後にする。

 

「ギギッ……」

 

 主の命を聞き入れた低級悪魔達は身の毛のよだつ返事をする。

 さて、これをどうするのか。彼らはお互いの顔を見合わせた後に――――彼らは死体を食らい始めた。

 

 

 

 

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