From the withered world   作:鳥菊

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最終話

 

 

 世界を揺るがした大災厄(グランドカタストロフ)

 それは竜王国の大地に眠る、恨みつらみ……無数の憎悪と結びつき、彼らの宿願を果たした。

 

 莫大な呪詛と化した彼らは望んでいた。

 自分達が生きたこの地を我が物で踏み鳴らし、人としての品位を貶した獣共。奴らの残滅を。

 

 彼らは大悪魔の力を借り受け、竜王国の領土の六割と共にこの国から奴らを駆逐した。……しかし、それだけで積年の憎悪は収まらない。黒き大渦の一部となった彼らは、逃げ惑う獣共の後を追い続け、とうとう奴らの根城であるビーストマン国に到達する。その後、その国家が如何なる末路を迎えたか、語るまでもないだろう。

 

 この様に、彼らの憎悪は紛れもない本物であった。

 憎しみに駆られ、殆ど全てを塵に変えて大行進したのである。……但し、彼らは無に帰すべき相手を間違えなかった。

 

 

 

 

 

 直径が数100キロを上回る規模の黒き大渦。

 それは勿論、災厄が発生した当時の竜王国王城にも多大なる影響を及ぼしていた。

 

「――くぅッ……!!」

 

 女王ドラウディロンは黒い嵐が吹き荒れる中で、必死に周囲の状況を窺おうとする。とは言えど、視界はやはり明瞭とせず近場にいた者達の姿を目に入れることが精一杯だった。最早、民衆の悲鳴すら聞こえない程の荒れっぷりだ。

 

(おのれ奴め! 何が契約だ! 私達を守る気など、さらさらないではないか!!)

 

 王城に現れた例の人物に内心で文句を吐き捨てるドラウディロン。

 この嵐ならば確かにビーストマンを纏めて葬り去ることも可能であろう。だが、我々を守る契約を交わした筈なのに、その嵐に巻き込むとは一体どういう算段なのか。

 

「……ぬおっと!?」

 

「陛下!!」

 

 などと怒り散らかすドラウディロン。

 それが本人に聞こえていたのだろうか、急に彼女目掛けて吹き付けた風により後転しかけるが、宰相によって支えられる。

 

 すまぬ。と一言彼に感謝するドラウディロン。続けて彼女は彼に尋ねた。

 

「……宰相。この嵐は何時まで続くのだ……良く見えぬ故分からぬが、この城がそう長く持つとは思えん……!!」

 

「今は耐えましょう陛下。……彼らの様に」

 

「彼ら……?」

 

 宰相は風に吹かれて目を細めながらもドラウディロンの前に膝を突いて立つ。そして前方方向を指差した。彼女もその指差された方向へ向き、その幼い目を凝らしてみると……何やら障壁の様なものが見えた。

 

 

 

 

 

 

「――この嵐で最後だ!! 全ての力を使え!! たとえ此処で死するとしても、陽光聖典の名だけは穢すなァア!!」

 

「――ハッ!!」

 

 広間には風を遮る障害物が少ない。

 故に、無慈悲に吹き付ける。

 

 そんな中でニグンが吹き荒れる憎悪の嵐を貫く様に、陽光聖典最後の任務を発令する。それに答える隊員達。彼らは最後の力を振り絞って天使を召喚し、暴風を遮断する為の障壁を維持し続けている。後ろで蹲る民衆の盾となる為に。

 

 ただ、その守られている民衆もそれに甘んじていた訳ではない。障壁を維持する陽光聖典が倒れない様、支え続けていた。――――彼らは祈りを捨て、自分達の手で活路を開こうとしていたのだ。人類総出で戦っている。

 

「オオオオオッ!!」

 

 無論、障壁を維持する陽光聖典の中には隊長のニグンも含まれる。

 彼もほぼ限界に達した魔力を体を奮い立たせ、この嵐に立ち向かう。……彼の背中を支える子供達を守る様に。

 

 ――――嵐の中、此処に新たな戦場が生まれていた。

 

 

 

 

 

「――――見えましたか? 陛下」

 

「……ああ、見えたぞ!! まだだ、まだ我々は終わってはおらぬのだな……!!」

 

 黒い嵐の中、確かに抗う者達がいた。

 陽光聖典も民衆も、冒険者や兵士達も。各々の剣を地に突き立てるなどをして、必死に生きていた。

 

 

 

 …

 

 ……

 

 …………そうして、彼らの姿を見てから何分が過ぎただろうか。まだ僅かとも、相当な時間が過ぎたとも思える。どちらにせよ現状として未だ、嵐は過ぎていない。

 

「もう十分であろう!! この国のビーストマン共は吹き飛んだ筈だ!! 宰相、何とかせぃ!!」

 

 ビーストマンの駆逐には十分な時間、そして規模。

 それらの事実は十二分にこの場の誰もが理解できた。けれども止まぬ嵐にドラウディロンは宰相に献策を求める。

 

「――――こうなったらクーリングオフを使いましょう」

 

「クーリングオフ……それを一体どうやると言うのだ!?」

 

「相手は悪魔を従えし者。それにあの服装を陛下もご覧になったでしょう? 恐らく金銭面でも困ってはいない。……対して我々は金銭も無ければ、その者をバックアップ出来る国力も残っておりません。――こうなれば、陛下を差し出して契約の中断を願い出る他ないかと」

 

「な、何を言って……それが、一国の宰相が言うことか!?」

 

「陛下の若作りも今日で終わりです。この国が吹き飛ぶ前に覚悟を決めて下さい」

 

 ふざけている様で至極真面な風体で、女王の要望通りに献策をする宰相。

 ドラウディロンは自分を悪魔の生贄に捧げようとした国賊に掴み掛かる。そしてそのまま二人は直接言い合いになった。

 

『どんな酷い目に遭うか、分かったものではない』

 

『陛下の身一つでどうにかなるのなら安い』

 

 黒き嵐の中、面と面を向かって相手に意見を叩き付けながら、二人が取っ組み合いをし始める。

 組み合った彼らはゴロゴロと王城のバルコニーを転がって……ゴスンと、鈍い音と共に壁へと激突した。衝突したのは宰相の背。ドラウディロンの頭は彼の手で守られていた。

 

「ぐぬぬ……まず第一に奴の所へは――――」

 

 国賊を断ずるべく、襲ったはずの相手に守られたドラウディロンが反論しながらも仰向けになる。……すると、突如として空には赤い天蓋が現れた。それにドラウディロンが目を見開き、閉口する。

 

「……おや」

 

 宰相も小さく反応する。

 彼のみならず、この場にいる全ての者達の目には、確かに黒き大渦が止んで見えていた。いや、通り過ぎたのだろう。東には依然として黒い渦が存在し、相変わらずの力と赤い空ではある。だがそれに彼らは……酷く安堵した。

 

 ――嵐は過ぎた。

 この場に幾分かの静けさが戻ってきたのだ。

 

 それに気が付いた時、どっと疲れが彼らの体に押し寄せてくる。

 

「終わったのか……?」

 

「……どうでしょう」

 

 同じく、大きな疲労を感じているドラウディロンと宰相。

 二人は王城付近を見渡してみる――そして驚いた。見る限り、黒い嵐が発生する前と城の損傷は大差なさそうなのだ。あれだけの風が吹き荒れた筈なのに。無事に城は健在であり、二人の足場を守っていたのだ。

 

 

 

 

 

「ハアッ……ハアッ……!!」

 

 守るべき者達が集まる広間。そこで結界を維持し続けた陽光聖典達。限界を超えた彼らが膝を突く。そんな彼らを人々が支え、口々に感謝を述べた。涙を流す者さえいる。

 

 黒い風は消えた。

 そして、広間の者達は誰一人欠けることなく、生き残っている。これは奇跡だったのか、それとも必然だったのか。少なくともこの場の彼らには分からない。

 

「任務は……果たされた、か」

 

 同じく結界を維持し続けた結果、魔力が尽き膝を突くニグン。

 彼もまた周囲を見渡し、そう、言葉を零した。 

 

「もう、風は来ないの……?」

 

 彼の背に小さな手が触れる感触。そして子供の声がする。

 呼吸が落ち着いた後に振り返るとそこには二人の子供がいた。例の存在に深く接触していた兄妹だ。

 

 ニグンは彼らのボロボロの佇まいを見て、少しばかりの哀れみを持つが……直ぐに自分も大差無いことに気が付き小さく笑う。そして彼らの質問に答えた。

 

「恐らくはな。二度と来ないだろう……あの黒い大渦もビーストマン共も」

 

 ニグンは東に向かった黒い大渦を見やり、呟く様に語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――かくして、竜王国より始まった未曽有の災厄は鳴りを潜めた。

 されど災厄が残した爪痕は大きく、特に発生源の当国においては、凄まじいの一言で表すことは出来ない被害だった。

 

 使用できるのは元の領土から三割から四割程度の土地。その他は巨大な断崖や瓦礫等々が積みあがった山などで、到底人が入れぬ場所となってしまった。……ただ、この国の人口はもともと大幅に減少してしまったこともあり、使用可能な土地の減少に関する特別な困り事は発生しなかった。仮にあったとしても民衆は王政に文句を付けることはないだろう。

 

「おのれぇぇぇえええええ!!」

 

「陛下、落ち着いて下さい」

 

「出来るかぁッ!! あの外道……悪魔共め!!」

 

 空が何時もの様子を取り戻してから数日後。

 幸運にも形が残った王城の中で、ドラウディロンは小さな体をめいいっぱいに動かし怒りを表現する。文句を付けたい者は此処に居たのだ。そんな彼女を宥める宰相。

 

 彼女が怒りに震える数分前。

 彼らの前に再び、影の悪魔(シャドウ・デーモン)が姿を現した。続けてこう言うのだ「主への報酬を受け取りに来た」のだと。

 

 それに驚く二人だが、その前に聞きたいことがあると宰相が冷静に尋ねた。

 

「今回起こった一連の現象は……以前、お見えになったあの方が?」

 

「そうだ」

 

 質問に肯定が返る。隠す気もないらしい。当初の予想通りやはりあの者による仕業で確定だった。そして同時に、ドラウディロンは内心で思った。「あの者にビタ一文も支払いたくない」と。けれども、敵対する訳にも行かない。もう一度あの災厄を受ければ間違いなく、この国は滅亡するのだから。

 

 彼女はその様な昂る気持ちを抑えつつ、悪魔達に対してある提案をする。これからの竜王国において重要な内容だ。

 

「……用件は分かった。だが、見ての通りこの国は貧しいという他ない。本来であれば金銭を支払いたいところだが――――代わりの物で支払うことは出来るだろうか」

 

 ……ビーストマン共はもう来ない。スレイン法国からの使者より知った情報だ。此処より更に東の位置に存在する彼らの国は既に滅んでいるらしい。序に、今回の災厄で付近に生息していたモンスター達は場所を変えているのだ。襲われる心配は少ないだろう。

 

 で、あるならばだ。

 今後は国力の回復に注力出来る訳である。その為の一歩として……現在進行形で届いているスレイン法国からの幾ばかりかの支援。この流れを崩したくない、猶予を与えてくれているとは言え、支援してくれている相手も国家。金銭を支払う機会など、何度でも巡り会うのだから国庫を空には出来ないのだ。

 

「――――」

 

 以上の理由があり、可能ならば莫大と思われる金銭の支払いを遠慮したいドラウディロン。しかし、その提案に対する返事が無い。

 

 それを見て一瞬、虎の尻尾を踏んでしまったかと思うドラウディロンだったが、悪魔達は何者かと話すような素振りを見せ始める。その後直ぐに、会話が終了したのか目の前の二人に向き直った。

 

「いいだろう、主より許可が下りた。但し、我々が選出する」

 

「……この国の民だけはどうか、止めてほしい」

 

「案ずるな。主は人間や竜の血を引くお前にも興味をお持ちではない」

 

 そう言って辺りを物色し始める悪魔達。影に溶け込むような彼らの目に適う物はあるのか。それを心配しながら二人は彼らの様子を窺い続けた。

 

 

 

 

 

 

「しかし、あの程度で済んだのは慶事でしたね」

 

「どこがだ……あ奴ら、私の一張羅から何から何まで全部持っていきよって……!!」

 

 心底有難いと言わんばかりの態度である宰相に対し、再び沸点に達するドラウディロン。そう、悪魔達が選出したのは彼女の私服……大人物のドレスだった。貧しいこの国の王城で簡単に持ち運べる上に価値がある物……最早それしか有り得ない。

 

「この程度か」

 

 私服を漁られている際に、この小言が聞こえた時は思わず一発入れたくなったドラウディロン。そこを我慢に我慢を重ねて抑えたのだ。そうして、どことなく不満足そうな悪魔達が影に消えたのを確認して――――今に至る訳である。

 

「あれは、今後他国との会談で着ようと思ってだな……」

 

 怒りが一周回ったドラウディロンはぶつぶつと文句を垂れる。……やがて、彼女は宰相は酒を求め始めた。悪魔達によって子供の姿でいることを半ば強制されたのだ。だから酒を寄越せと。

 

 ――――こうした寸劇が竜王国の王城で繰り広げられている。

 

 思えば幾年も続いたビーストマンに因る脅威。年数を重ねる毎に、この地へ押し入る数は増加し、それに比例して人々が犠牲になった。悲劇が生まれた。これが続き、挙句の果てに辿り着いた先は始原の魔法(ワイルド・マジック)での尊厳死だった。

 

 だが、そこへ泣き面に蜂が如く迫った黒い大渦。

 それが全てを洗い流し……平穏を引き連れて来た。

 

「……なぁ、宰相よ」

 

 平穏とは言え、安全とは程遠い竜王国。

 その国の女王がお付きの宰相を呼ぶ。

 

「何ですか陛下」

 

「……お前には十分苦労を掛けたと思うが……もう少し、私に付き合ってもらうぞ」 

 

 酒瓶を握り締めながらも、不貞腐れ感があるその物言い。

 彼は、そこがとても貴方らしい。と彼女に意味ありげに言い放ち――――容赦なく酒瓶を取り上げたのだった。

 

 

~~

 

 

 

 王城で女王が騒ぐその日の昼頃。

 竜王国でない馬車が度々通り、大人達が行き交う中。兄妹は他の子供達と共に唯一残った木の陰で休んでいた。

 

「……」

 

 保母達により配られた昼食を食していた二人は、他の子供達が眠っているかどうかを、小突いたりして確認すると、隠し持っていた小さな袋を取り出した。

 

 その袋はシルクの肌触りで高級感がある素材。

 そして今朝、目覚めた際に寝床に置かれていたものである。

 

「……きれい」

 

 そんな袋の中を妹が探ると……彼らの手で握り隠せるサイズの飴玉が入っていた。色も複数あり、手に持って陽の光に当ててみると宝石の様に鮮やかな色が反射して見える。

 

 ほんのりと甘い香りがする。

 それに可愛らしいデザインと色。

 

 思いがけない贈り物に素直に喜んだ彼らはその飴を口の中にひょいと入れてみた。

 

「ん……」

 

 口の中で転がして味わう。

 けれども、溶けが大変早いのか直ぐに消えて無くなってしまった。まるで泡沫の様に。

 

 味わおうとしても飴玉は無く、味も無い。

 一瞬、飴玉と一緒に味も無くなってしまったのではないかと疑った二人だが……遅れて味覚が追い付いてきた。

 

 

 

 

 

「うぇっ!!」

 

「にが――い!!」

 

 兄妹に追いつき、襲ったのは多少の甘さと強めの苦み。

 それらが舌に絡みついて離れない。

 

 悲鳴を上げて騒然とする二人。

 その二つの声で他の子供達も次々に目を覚ます。そして何だ何だと集まり始めてしまった。

 

 恐らく彼らは保母達の内の一人が袋を取り上げるまで、騒ぎ続けるのだろう。つい先程まで静かだった木陰が飴玉から始まり、子供達の遊び場と化したのだ。

 

 こうして兄妹が他の子供達と遊ぶ中。二人は思う。

 苦みに驚いた時、確かに聞こえてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――遠くで笑う悪魔の声が。

 

 

 

 

 

 

 




……という感じで。
正直、ここから原作キャラクターが多く登場させることが出来るのだと思いますが、この話は一応の完結と言う形になります。

誤字脱字のご指摘や最後まで読んでくださった皆様方。
誠にありがとうございました。
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