SE:疑われ体質 作:サイフォンケーク
疑われやすくなる。何かアクションを起こすとそれに対して考えざるを得なくなってしまう。普段から考えている人のほうが影響が大きい。
小南には全く効かない。
16歳
(ふう、2回目で受かってよかった。あのグラサンの人はだいぶ立場が高いのかもしれない。今度会ったらお礼を言おう。素直に受け入れてくれるかはわからないが)
三門市立第一中学校にて、永峰久々津はボーダーの公式ホームページから先日行われた入隊試験の合否結果を見ていた。
4桁の数字がいくつか並んでいる画面には永峰が記憶していた自身の番号もあり、安堵の息をついた。
まさか2回目で受かるとは思っていなかった永峰は、おそらく今回合格に押し上げてくれたであろう謎のボーダー隊員に感謝の気持ちでいっぱいだった。
1度目の入隊試験では学力や運動の点でもあまり問題がないと自負しており、面接にてクラスの人が皆言われたらしい「才能」がないという話もなかったが結果は不合格。
こうして自分から行動することは今回がほぼ初めてなのだが、おそらく「いつもの」の延長線上だろうと考えた永峰はとりあえずあと数回、納得のいく回答が得られるまで試験を受けるつもりだった。
とはいってもボーダーの入隊試験は1,2か月に1度。今はボーダーが設立してからまだ日が浅いためこの頻度で行われているが、今後人員が増えていっても同じ頻度で試験を行うとは限らない。そういった懸念もあって永峰はかなり長い目で見ていたのだが、予想はいい方向に裏切られた。
棚から牡丹餅とはまさにこのことだろう。ここ最近、というか産まれてから基本不幸続きだった永峰にとってこのような些細な幸福でも思わず頬がゆるんでしまうほどほどうれしいものだった。
(そろそろ昼休みが終わる。次ボーダーに行くのは今週の土曜日だから、できるだけ面倒ごとを押し付けられないように注意しないと)
そうして次の授業の準備を始めた。
その準備する顔は強い決意を秘めていた。
土曜日。
待ちに待ったボーダー勤務(?)初日である。
(うん、公式HPどうりの情報だな。攻撃手、銃手、射手、狙撃手、その他特殊なポジションにわかれると。まあ、ここは前から考えてたように銃手にしようかな)
少し広い体育館のような場所で、ボーダーの隊員であろう男が説明をしている。初めに渡され、現在使用しているトリガーは事前に申請した武器のトリガーだが、窓口で申請することですぐに他のトリガーに変更することも可能なようだ。
その他こまごまとした説明を終え、そばで待機していた数人の隊員に連れられて、ポジションごとに説明を行うようだ。永峰は銃手志望なので、攻撃手、射手志望の人たちと共に移動する。
(広いなぁ。マップがないと迷うだろうな。どこかにあるんだったら写真で撮っとこう)
到着した場所で仮想トリオン兵と戦うようだ。
想定内の内容なのか、永峰は特にリアクションを起こさず周囲を静かに観察する。
そうして順番が来て、終わった。
(かなりいい。もちろん理論値からは程遠いが、他のメンバーの記録と比べたらいいほうなんじゃないかな。この銃もとてもいい。銃なんざまともに触ったことがないが、狙った方向に飛んでくれる。狙った位置からぶれてるのは銃の性能ではなく単純に技術不足だろう。動いても疲労感がないのは少し違和感だ。この違和感は慣れないほうがいいのかもしれないな)
タイムは30秒。今日入隊した銃手のみに絞ると最も速いタイムだった。
周りの一部の人間は「変わらず」遠巻きに見ながら、時々小さな声で会話をしていた。それは良いタイムを出した人間への賞賛などではなく、どんなズルをしたのかという疑心、普段から銃を扱うような生活をしているのではないかという疑心、はたまた理由なき疑心。
どのような形であれ永峰に向けている視線は全て同じであった。
とはいえすべての人間がそのような視線を向けているわけではなかった。その人たちに極力気づかれないように周りを観察していた永峰にとっては、比較的良い環境だと感じられた。疑心を向けてくる人間はそれと同時に深い憎悪も感じられるため、まだ目が覚めていないが故の行動だと感じることができた。
その後、数種類の訓練を行い、個人ランク戦ブースを案内されて終わった。
最後にもう一度、外部でトリガーを使用しないようにという注意をしてボーダーの隊員はその場から去った。
今日行った訓練で一通り情報が出たのと、疲労を考えて説明役の隊員が去ってすぐに永峰も退室してそのまま帰宅した。
(B級に上がる方法は対人戦によってレートを4000に乗せることだったか。ネイバーは機械のようなものだと言われていたからてっきり対人戦闘はあまりしないものだと思っていたんだが。もしかして、普通の人間もいるのか?だが、そんな情報なんてどこにもなかった。いや、出さなかったのか)
永峰は正隊員になる方法について考察しながら長い廊下を歩き続ける。ここは、ボーダー本部と警戒区域外とをつなぐ地下通路だ。警戒区域外にある、トリガーを鍵として開く特殊な扉でできた出口に着く。永峰が今日ボーダーに入るときも、一度隊員の人と集まってからその扉から入ってきた。
そうして永峰が敵について考えていると、後ろから走ってくる足音と自身を呼んでいるのであろう声が聞こえてきた。
「おーい、待ってくれ。少しいいか?」
「……はい、なんでしょうか」
いきなり声をかけてきた中学生くらいの男子に、驚いている内心を悟られないように声を取り繕いながら返答する。
少年は生身でこの廊下を走ってきたらしく、息が少し上がっている。最近暖かくなってきたこともあり、若干汗ばんでもいるようだ。
「俺は嵐山准。ひとつ前の応募の時にボーダーに入ったんだ。その面接のときにもあったと思うんだが、おぼえてないか?」
「……はい、確かにいらっしゃった気がします。久しぶりです、嵐山さん。私は永峰久々津と言います。受かってたんですね。おめでとうございます」
永峰はこの少年、嵐山准とは知り合いだった。と言っても落とされた最初の面接のときに順番待ちで数回会話したくらいではあるが。
嵐山はそのことを覚えていて、かつわざわざ新しく入ってきた隊員のことを見に来たうえで声をかけてきたらしい。
言われて初めて思い出したことを永峰は申し訳なく思いながら、丁寧に言葉を返していく。
「ありがとう、そちらこそ合格おめでとう。俺もボーダーにはまだあまり詳しいわけじゃないんだが、知らないことがあれば相談してくれ。同じ銃型トリガー使いとしてもな」
「はい、何かあった時は頼らせていただきます。では、失礼します。またボーダーで会いましょう」
気をつけてな、と言って嵐山はまた本部のほうに帰っていった。
久しぶりに他人と会話したことで心拍数が尋常じゃないくらい上がっていたので、少し深呼吸をしてから再び出口に向かって歩き出した。
(やはり、ボーダーにいる人は根がいい人ばかりだ。学校とはわけが違う。そういう人しか試験に通らないようになっているのかもしれない。そうだとしたらかなりうれしいことだ。少なくとも今私が知る中で最も居心地がいい場所だろう)
永峰はボーダーの居心地の良さを再確認していた。
というのも、永峰は昔からことあるごとに疑いの目を向けられてきた。もちろん自身が本当に疑いの目を向けられるようなことをした結果向けられたこともあったが、そうではないことがあまりにも多すぎた。
何か事件があれば真っ先に犯人候補にされ、何かいたずらをされたら真っ先に矛先を向けられ、挙句の果てには宿題を忘れたことを永峰のせいにされそうになったこともある。
事件なんて一年に一回あれば多いほうだし、そういったことはほとんどなかったため、法的措置を取られるほどの事態まで発展したことは今までないが、他の人よりも理不尽な疑われ方をしているということは、小学校に通っている最中に理解した。
理解したといっても、学校であったことを母親に伝えていると、それはおかしいと言われたからなのだが。
そうして疑われ続ける生活を送ってきた永峰だったが、今日来たボーダーの人間はそこまで疑いの目を向けてこなかった。
もちろん何人かはいた。
しかし、学校や街を歩いているときと比べても極端に少なかったのである。
ずっと害意を向けられてきたため、その手の視線には敏感になった永峰だが、ここまで少なかったのは思い当たらない。しいて言うならだれにも疑われなかった家族くらいだろうか。
そこまで考えて、少し立ち止まり、そしてまた歩き出した。
まだ、永峰の傷は完全には癒えていない。しかし、永峰にとって、この場所は次善の策となりうるのではないかと思った。
後日、永峰は正隊員に上がるために必要なランク戦を行いにボーダーに訪れた。
そのままランク戦ブースに直行してもいいかと思ったが、もう一度自分の使うトリガーやトリオン体について詳しく知っておくことのほうが重要だと考えた永峰は仮想訓練室に向かった。
仮想訓練室に着いた永峰は軽くあたりを見渡してから空いてるところに入った。
何人かがトリオン兵や単なる的を出して練習をしていたのを見て、自身のしたいことをするべき場所としてここを選んだのは間違いではなかったことに少し安心した。
(ふむ、この画面でいろいろカスタムできるのか。とりあえずトリオン体の性能から確認していくか)
まず準備運動のような動きをし始めた。ゆっくりと十分に確認しながら自身の体を動かしてみる。
(やはり痛覚があまりないこと、筋力に当たる部分が強化されていること、トリオン体に個人差がないことって言うのはそのままの意味らしい。運動なんてあまりしたことがないが、脚がダンサーくらい高くあがる。関節も柔らかくなっているし、しゃがんで立ち上がった時の筋肉疲労なんかは感じ取れない。これは、トリガーを正しく使うことよりも、トリオン体を正しく使うことのほうが重要になるかもしれない、いや、その結論は一通り情報が出終わってからにしよう)
ラジオ体操のような動きをしながら考察を進めていく。銃や剣のトリガーよりもトリオン体の捜査の重要性を引き上げた永峰はつぎに仮想訓練室を三門市のような状態にしてゆっくり走り始めた。
そして徐々にスピードを上げていく。
(うん、走る感覚は生身と大差ない。ただ疲労がびっくりするほどかからない。何かの乗り物に乗っているような感覚になる。ただこれは少し楽しい。運動が楽しい人間はこういう視点でいるのかもしれない。
もう少しスピードを上げる。ふむ、難しい。生身のスピードとあまり大差がない。かなり全力で走っていると思うんだが)
全力疾走になるくらい腕と足を振り回して走っていると、いったんゆっくりスピードを落として停止した。永峰にとって今の現象は疑問に思う物だったらしく、立ち止まって考え込む。
(疲労も痛覚もあまりないことはわかっていて、さらに筋力は強化されていることもわかっている。これはボーダーの人からも言われたしさっき確認もした。でも、私の走る速さはあまり変わらなかった。強化された筋力はそこまで差がないのだろうか。それとも私の走り方が悪いとか。もう少し試してみるか)
いったん結論を保留した永峰は少しずつ工夫しながら走り回っていく。10分ほど走り回った後にいったん生身に戻って携帯を取り出し、ネットで走り方を調べ始めた。
適当なサイトを2,3個見てそこに掲載されていた体の動かし方の図を見ながらイメージしていく。
そして一通りイメージがわいたらトリオン体に再換装してイメージを基に走り始める。
15分ほど携帯を見て、イメージして、走ってを繰り返していると、何となく早くなっていってるように感じられた。
(しまったな。最初の走りでタイムを測っておくんだった。いや、体感生身と変わらなかったから以前の体力測定の数値でいいか。であるなら、現状のタイムを測ろう)
ここ十数分見続けていた画面からストップウォッチの画面に変えて、仮想訓練室の設定を変えていく。自身の50m先に的を出すようにして実行。赤い雪だるまのような形をした的が出現した。永峰が訓練室に入る前に他の部屋で訓練していた人間が使っていたものと同じに見えるため、これがデフォルトなのだろうと頭の隅で考えながら、一歩右にずれてから的の右隣りを見据えて右手に握りしめた携帯のスタートボタンに親指を添える。
(3,2,1,go)
先ほどまで行っていたように理想的な走り方をイメージしながら走っていく。加速して、速度を維持して、そのまま的の隣を通り過ぎる瞬間に右手に持っていた携帯を押す。
(ふう、7.56sec。だいぶ早くなってる。やっぱり走り方だったか。ということはトリオン体という生身でない体を理想的に動かすイメージ力が必要ということだろうか。つまり、運動神経があるかどうか。うーん、私はあまり運動神経がいいわけではない。いや、生身の筋力がないことと運動神経がないことは関係ないか?いや、もし運動神経がいいならいちいち理想的な走り方をイメージする必要なんてないはずだしやはりあまりないという結論でいいだろう。前回入隊の時はトリガーが剣とキューブしかなかったらしいがどちらにしても銃を使うよりも運動神経がいるだろう。やはり私はこのトリガーが適切だ)
自身が過去に行った判断を称賛しながら両手の中に突撃銃を生成する。それを眺めながら考えをまとめていく。
(よし、トリオン体については大体わかった。次は銃トリガーについてか)
気分がよくなってきた永峰はそのまま銃型トリガーの性能について調べていった。
30分後。一通り銃型トリガーについて調べ終わった永峰は、数メートル先に穴だらけの的が散乱した状態で検証結果について考察していた。
(まず弾の射程はおよそ100m。ただ、これは100m行くと弾が消失するというだけで、的に当てるのなら半分以下くらいが限界。いまは10mくらいじゃないとまともに当たらないけど、これはたぶん技術不足。剣は伸びたら20mくらいになるらしいから最低それ以上には射程が取れるだろうしそこは練習。
次に反動は少し強い。銃自体が大きいからかなり大きいからその分反動が大きいが、扱えないほどじゃない。これはたぶんトリオン体の強さとトリオンの弾を打ち出しているっていう部分が影響しているのだろう。反動の強さを体に叩き込まないとまともに当たらないだろう。練習で意識するならまずここだな。
最後に威力だが、よくわからない。というのも銃トリガー一つしか現状ないため、的を軽々と貫通するということくらいしかわからないのだ。これは、キューブトリガーと比べてみる必要があるか)
銃型トリガーについての一通りの検証を終えた永峰はそのまま仮想訓練室から出て、まっすぐエンジニアの窓口に向かった。先日の入隊説明の時に行われた「C級トリガーは変更可能」という説明を基に、一時的にキューブトリガーに変更して再度検証するという結論に至った。
長い廊下を携帯に保存しておいたマップを基にして窓口まで進んでいく。時折立ち止まって画面とにらめっこしながらどうにかエンジニアのいるエリアまで移動することができた。
「すいません。トリガーを変更したいのですが」
「…………いえ、名前と変更理由をお願いします」
「先日入隊したC級隊員の永峰久々津です。銃型のトリガーを使っているのですが、一時的にキューブ型の弾トリガーに変更したいです。可能ですか?」
「……はい、可能ですよ。では、トリガーをお出しください。……確認します。…………はい、確認が取れました。永峰久々津さんですね。少々お待ちください」
そう言って永峰が先ほどまで持っていたトリガーをもって奥に引っ込んでいった。おそらくキューブ型の弾トリガーをとってきてくれているのだろう。先ほどまで検証が順調に進んでいって高揚していた気持ちが少し冷めてきているのを感じた。
(だめだな。ここに所属している人間の大部分がいい人間だったとしても、所詮人間でしかない。理想を押し付けすぎるのはよくない。あの窓口の人はトリガーの不正使用が行われないように敏感になっていただけだ。彼女が悪いわけではない。悪いのは勝手に理想を押し付けていた私のほうだ。いや、この考えはよくない。一旦打ち切ろう)
ナーバスになりそうな思考を過去の経験から検知してとりあえず考えることやめて窓口の人が戻ってくるのを待つ。
15分ほど待っているとようやく戻ってきた。
「お待たせしました。こちらのトリガーには射手用の通常弾が入っています。お間違いなければ」
「はい、ありがとうございました。また後で交換しに来ると思うのでよろしくお願いします」
そう言って、見た目による違いは判らないが、確かに変わったらしいトリガーを受け取って永峰は再び仮想訓練室に向かった。
その足取りは少し重たかった。
(先ほど使っていた場所は空いているだろうか。そこが空いていれば気持ちが何となく楽になるのだが。こういう考え方はあまりよくないのか?小中学校で席替えを心待ちにしていた同級生の考えはいまだに納得できない。変える必要がないものを変えるのは非効率的ではないのか)
廊下を歩きながら先ほどまでとは打って変わって中身の無い思考を巡らせていた。永峰にとって先ほどの対応は思ったよりもダメージが大きかったらしい。説明の時にはすぐに変更できるという旨を伝えられていた。名前と変更理由が必要とも必要でないとも言われていないし、15分というのがトリガー技術的には早いのかもしれないが、それでもあの窓口の人間の表情は永峰の気分を降下させ、二択の選択肢の均衡を崩すには十分だった。
(……まあ、いつものことか。悩んでいることのほうが非効率的だ。もっと効率的にいこう)
とはいっても、このような現象に伊達に十数年悩まされ続けてきた永峰ではない。こういった切り替えこそ何千回としてきたので、ここまで含めていつもどうりであった。そうしてメンタルを通常に復帰させたところで仮想訓練室に戻ってきた。
「――――」
「――――」
戻ってくると、先ほどまでいなかったエンジニアらしき人間3人の集団があった。
少し注視してみると、その中心にはちょうど大学生くらいの狙撃銃のようなものを持った男がいて、どうやらその狙撃銃について議論しているようだ。他の2人は白衣を着ており、明らかにエンジニアという様相をしている。
あまり長々と見続けるのもよくないと思い、すぐに視線を外し、その集団とは反対側にある訓練室に入ろうとしたところで、先ほど見ていた狙撃銃の人間が話しかけてきた。
「こんにちは、ちょっといいかな」
「こんにちは。何か御用でしょうか」
「いや、そんなにたいそうなものでもないのだが。先ほど君が訓練室の中でいろいろしていたのを少し見させてもらってね。興味深いことをしていたから話しかけさせてもらったんだ」
「そう、ですか」
「ああ、もし良ければなんだが、何をしていたのか詳しく聞かせてくれないか?」
「いいですよ。さっきまでトリオン体の制御の練習をしていました。そして今は銃トリガーとキューブトリガーの性能の違いを調べようとしているところです」
「なるほど。トリオン体やトリガーについての説明は受けなかったのかい?」
「いえ、基本的な説明は受けました。その確認と周辺情報の確認をしたかったので」
「なるほどな。それで、何かわかったことはあったかい?」
「……すみません、あなたの名前を教えてもらっても構いませんか」
「ああ、すまない。俺は東春秋という。ボーダー隊員で、今狙撃トリガーをを作ってる、と言ってももうほぼできてるんだけどな」
「私は永峰久々津です。先日入隊したC級隊員です。……狙撃トリガー、ですか。……そうか、トリオンの弾丸は実弾よりも周囲環境の物理的干渉を受けにくいから」
「そうだ。もちろん練習は必要だ。他のトリガーよりも練習量やセンスといったところは必要になってくるだろうが」
「ボーダーの役割はあくまで防衛。近中距離の隊員がこの先充実してくることを想定すれば、遠距離からの隊員がいたほうがより防衛しやすくなる」
「後、トリオン兵の探知外から攻撃することができれば効率よく数を減らすこともできるだろう。奴らの弱点はある程度一致している。それに、ネイバー相手には打てる手段を増やしておいて損はないだろうからな」
「なるほど。すいません話を脱線させてしまって」
「いや、問題ないよ。こういう話をしてくれる奴は限られてきていてな。戦術面での話をしてくれる新人ができるのは俺としてはとても喜ばしい」
「ありがとうございます。そして、私の分かったことですよね。先ほどした検証がトリオン体のことだったのでそのことについて。トリオン体を効率的に動かすにはやはり一定以上のセンスが必要そうです。しかし、訓練次第ではいわゆる人間離れした運動くらいならできそうに感じました。より明確にトリオン体を動かすイメージをできるかどうかが重要だと思いました。ただ、トリオン体操縦が重要だと今のところは思っているのですが、やはり実戦でないとわからないこともあるので、今日か明日以降にランク戦をしてみて適宜考えを改めるといった感じですかね」
「なるほど。君の考えに大方同意するよ。とてもいい考察だ。確かにトリオン体の制御には個人差がある。だが、現在頭角を現している隊員は全員トリオン体の制御がうまい気がする。ただ、それだけでもないとは思っている」
「……と、いうのは」
「正直に言うと今ボーダーにあるトリガーは少なすぎる。おそらく今後増えていくであろう隊員とエンジニアによってトリガーの種類も増えていくだろう。そうしたらトリオン体の制御が特別うまいようなやつじゃなくても身に着けた技術でより強くなれる可能性だってある。俺が今開発している狙撃銃も言ってしまえばそれに該当する」
「確かにそれは正しいと思う。狙撃兵に求められるのは狙撃技術だけ。手先の器用さは必要になってくるが、足の速さは別に重要ではなくなる。かといって、トリオン体の制御が全くの不要というわけでもないと思う。自身がより貢献できる動きをするためにトリガーの技術を上げるか、トリオン体の制御の技術を上げるか、それともまた別のものを上げるかという選択が必要ということか。であるというなら、中距離は一番難しく感じる。トリオン体の制御にだけ絞っても、足が速い銃トリガー持ちは脅威になりえるが、かといって足が速くなければならないわけでもない。ブレード持ちはトリオン体制御が必須なのは目に見えて明らかであるし、狙撃兵にはあまり必要ないといったあなたの意見には否定の余地がない」
「ああ、中距離の射手、銃手はトリオン体の制御を向上させるかどうかという点においては難しい問題になるだろうな。それこそ個人差という物だろう。とはいっても、俺は銃手ならトリオン体の制御は重要だとは思っている」
「……ああ、私はトリオン体の制御といったときは単純に高くジャンプしたり速く走ったりということを想定していたんですが、銃手は腕全体を使って銃を撃つから」
「そうだ。今は突撃銃型しかないが、おそらくリボルバーのようなものも作れるだろう。そうしたら早打ちだってできるようになる。早打ちはできるのならかなり有用になるだろう。他にも走りながら正確に相手に弾を当てるにも射手とは違い、トリオン体制御の向上が必須レベルになるかもな」
「……だとしたら射手のほうが有用なのでは?腕が必須かどうかであったり、トリオン体の制御の優位性であったり」
「いや、そうでもない。射手にはまた別のセンスが必要になる。今弾トリガーをセットしているのだろう。俺が引き留めてしまっていたから申し訳ないんだが、使って見ればわかると思う。訓練室で使って見るといい」
「いえ、貴重なお話をさせていただきありがとうございました。また良ければお願いします」
「ああ、こちらこそありがとう。狙撃銃のトリガーに興味があったら声をかけてくれ」
と言って、東春秋は帰っていった。いつの間にか一緒にいたエンジニアのひとったちは帰っていたらしくそのまま一人で去っていった。
高揚している気持ちを落ち着ける。永峰にとってここまで会話を長く行うことができたのは初めてだった。普段は相手の返答が遅れたり、強制的に打ち切ってきたりして会話が続かないからである。それもあって気持ちが高揚していた。それに、貴重な情報を得ることができた。
隊員でエンジニアとかかわりがあるということは間違いなく前回の募集で入った人だろう。もしかするともっと前の人かもしれない。半年もボーダーで過ごしてきた人からの情報は今の永峰にとってはかなり重要だった。
加えて、一つの疑問も解決のピースがそろってきていた。
(いい人だった。あまり人を見る目に自信はないけど、たぶん嘘はついてないはず。だとすると、最初のほうにトリオン兵とネイバーで使い分けていたのが気になる。あのロボット兵がネイバーではない可能性と人間の敵が存在する可能性が強くなった)
先ほどまで高速回転させていた頭をクールダウンしながら確認作業をしていく。訓練室に入って先ほどと同じように設定していく。そして的を出した段階で、座り込んだ。
(さすがに疲れた。少し休もう)
そうして永峰は座って眠り始めた。目を覚ましたのは一時間半たって、昼を過ぎたあたりだった。
東さんなら初見でもSEの影響受けなさそう()という理由から。
たぶん迅さんあたりから事前に聞いてたんじゃないかな。
BBF見ながらできる限り矛盾しないようにしたい。