どんなに優秀でも男は女の尻に敷かれる運命なんだと思う。   作:ゆず1252

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第10話

 

出水VS薫の勝負は数値だけの結果で見れば出水の快勝で終わった。

 

(負け…か。最後に読み間違えた。もっと深く踏み込むか、中途半端に振り切らなけれ結果は違ったか?)

 

今回の試合を振り返りながらブースを出る薫。

 

「ん、出水…?」

 

薫が入っていたブースの目の前には、既に出水が立っていた。正直顔を合わせた瞬間煽り散らかすに決まってると考えていたが、それとは真反対で険しい表情をしていた。

 

「お前…最後手ェ抜いたのか?」

 

出水は激怒していた。互いに全力でぶつかっていた筈だというのに、最後あの場面で腑抜けた攻撃をしてきた薫に対して。

 

「は?俺が?んなわけねぇだろ。」

 

「じゃあなんで!!最後にあんなミスをしたんだよ!!」

 

出水の気持ちは誰もが理解出来る。真剣勝負をしている最中にあんな事をされれば誰だって嫌な気持ちなるであろう。

 

「読み間違えただけだ。」

 

「はぁ?巫山戯んな!完璧に読み切ってただろうが!」

 

「違う。1手読み間違えた。」

 

「説明しろ!俺が納得出来るように!!」

 

薫は渋っていた…。出水に何があってあのような行動をしたのか説明する事を。

 

「説明してやりゃ良いじゃん。」

 

「た、太刀川さん?何でここに?」

 

「お前が遅いから迎えに来てやったんだよ。そしたらC級と試合してっから何事かと思ったぜ。」

 

「えっと…?」

 

突然の登場に動揺する薫。

 

「あぁ、悪い悪い。コイツの隊長やってる太刀川だ。よろしくな。」

 

「た、玉狛の杠です。」

 

「んで、俺も見てたがありゃなんだ?」

 

2人に問い詰められ流石に仕方ないと思い、自身の考えを述べる。

 

「俺は全部を警戒してたからこそ、最後のあの場面で踏み込みを浅くしました。」

 

「警戒していたのは理解出来るが、何で踏み込みまで浅くした?」

 

太刀川の質問に対し出水も同じ疑問を抱いているため、ジッと薫を見つめる。

 

「それは…1本目時間差射撃と、2本目の自爆を警戒していたからです。」

 

「ほう…。」

 

その答えに対して興味深そうに耳を向ける太刀川。

 

「背面射撃をケアした後、出水はバックステップの体勢になってました。1本目と状況がかなり似ている事や、出水の経験値的に考えると時間差射撃をしてくる可能性は高い。あと、事前に弾をどこかに置いている可能性も考量して浅めの踏み込みにし、全対応出来るように準備してたんです。」

 

「なるほどな。なら、あの中途半端な斬り込みはなんだったんだ?」

 

「それは先程言った2本目の自爆を意識した結果です。あの瞬間キューブを展開し始めたので、時間差射撃は無い。じゃあ先程と同じく暴発で対応してくる可能性が…と考えたので、思わず剣が鈍りました。」

 

「お前…脳ミソどうなってだよ。」

 

出水から罵倒の様な言葉が飛んでくるが、出水の表情を見るに恐らく違うのであろう。

 

「とんでもねぇ新人が入ってきたな〜。俺ともランク戦やろーぜ!」

 

「いやいや!太刀川さん、この後会議でしょう!?そんな時間ないっすよ!」

 

「あぁ、そうだったか…。流石にバックれたら怒られるよな?」

 

「忍田さんか風間さんに殺されちゃいますよ。」

 

「遠征で暫く出来ないが…戻ってきたらランク戦な?」

 

「え、あ、はい。」

 

そういえば歌歩ちゃんも遠征で暫く会えないとか言ってたような…?携帯で連絡とか取れないのかな?

 

「それじゃ、俺は先行ってんぞ。」

 

そう言って行ってしまう太刀川。

 

「あ〜、悪かったな。いきなり怒鳴っちまって。」

 

「いや、アレは俺が悪い。だから気にすんな。」

 

「じゃあ次はフルのトリガーセットでランク戦な!その時までしっかり調整しとけよ!」

 

そう言いながら走って太刀川の後を追う出水。

 

「いや、返事する前に行くなよ…。はぁ…俺も玉狛に向かうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひでぇ顔してるぞ出水。」

 

「っ!?」

 

「あんま気にする事でもないだろ。」

 

「でも、俺はアイツの予想を超える所か…下回っちまったんです。」

 

「そりゃタラレバ過ぎるだろ。本来であればあの場面、相手の反撃なんぞ考慮する暇があるなら、サッサと斬っちまえば良い。それが出来ない時点でまだまだだな。」

 

太刀川の言うことは極論ではあるが、事実そうであるからこそ何も言い返せない。

 

「それに、どうせアイツはサイドエフェクト持ちだろ?ならアッチ側の土俵で戦ってどうする。お前はお前らしくやったら良いんだよ。」

 

「…はい、分かりました。」

 

だが出水の気分は晴れない。何故なら杠は、自らシューターの土俵に立ってきたのだから。それに最後まで応えられなかった自分の不甲斐無さに腹が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?久しぶりに顔を出したと思いきや、なんで薫はあんなに落ち込んでるの?」

 

迅が玉狛に帰ってくるとソファに突っ伏して涙を流している薫が居た。

 

「どうやら愛しの彼女と暫く会えない事が、相当きているらしい。」

 

「あぁ、そういうこと。」

 

そう答えるレイジと一緒に暖かい目で薫を見守る。

 

「じゃなくて薫!そろそろ戻ってこい!」

 

「へーい…。」

 

(本格的にやられてるな)

(本格的にダメだ)

 

鈍い動きで起き上がり、覚束無い足取りで換気扇の下まで移動する薫。

 

「おー!帰ってきたな少年!」

 

「スゥーーハァーー…あ、どもっす。」

 

絶賛喫煙中の杠の前に、本部から帰ってきた林藤。

 

「……反抗期?」

 

「恐らくストレス性のモノかと。」

 

「アイツ煙草なんて吸ってたのか…。三上が泣くぞ?」

 

「いや、レイジさん。三上ちゃんも知ってますよ。と言うか煙草の害が無くなるっていうメリットと、三上ちゃんに何時でも会えるメリットに惹かれてボーダーに入ったんですから…。」

 

「まぁ…暫く会えないんですけどね。」

 

煙草を咥えながら儚げにそう呟く薫が、妙に様になっていたが、3人はそれに何となくムカついていた。

 

「それでなんか用があるって師笑から聞いたんですけど?」

 

「なんか変な感じに聞こえたが…まぁいいか。改めてB級昇格おめでとう。これで薫は晴れて玉狛支部の隊員となりました〜!」

 

パチパチパチとセルフ拍手(1人)をする迅。

 

「今宇佐美が頑張ってトリガー調整してくれてるから、もう少し待っててくれ。ちなみに全員揃い次第薫のお祝い予定だから、ちゃんと夜の予定は空けておくように!」

 

「ん、了解。」

 

「相変わらず淡白だなぁ〜。もう少し喜んでもいいんじゃない?」

 

オチャラケた雰囲気にイラッとしながらも薫は答える。

 

「嬉しくはあるけど、そこまで達成感は無いから何とも言えない。」

 

「あ!お前嵐山隊と揉めたらしいな!本部会議で話に挙がってたぞ〜?」

 

「えっ!?マジですか…。すいません。」

 

「いやまぁ、アレだ、実際嵐山隊にも非があるのは間違いないが…やり過ぎだけには気をつけるようにな?」

 

薫が反省している事に驚いて、たどたどしい注意になってしまった。

 

「なんすかその反応…。まるで俺が反省してるのが意外みたいな。」

 

「いやマジで予想外だよ。」

 

驚いていたのは林藤だけでなく迅もだった。

 

「おいクソグラサン、表出ろや。」

 

ごめんごめん!と謝る迅。

 

「俺は事情は知らんないですけど、何かやらかしたんですか?」

 

薫の近況を知らないレイジが林藤に尋ねる。

 

「コイツ嵐山隊の木虎と揉めて、挙句の果てにはボコボコにしてB級昇格したんだよ。」

 

「師匠に似て野蛮に育ってしまったのか…。」

 

「ちょっとレイジさん?」

 

「とにかーく!玉狛に入ったからにはビシバシ働いてもらうから、よろしくな!」

 

無理矢理感が強いが話しをまとめた迅。それを察したレイジは「京介と小南を迎えに行く」と言って先に出て行ってしまった。

 

「全く…レイジさんには頭が上がらないね。」

 

「真面目な話?」

 

「あぁ、大真面目だよ。」

 

オチャラケた雰囲気はなりを潜め、真剣な表情になる。

 

「お前をボーダーに勧誘した理由…まだちゃんと話してなかったよな?」

 

「ああ、そうだな。まあ大体想像出来るけど。」

 

「ははっ、心強いな。一応聞かせてくれよ。」

 

「恐らく近い内に、ネイバーからの大規模な攻撃が来る。戦力増強のために俺をボーダーに入れたって感じだろ?」

 

その答えを聞いて林藤は肝を冷やした。最近まで普通の高校生だった人間が、どうしてそんな発想に至るのか。至ったとしても確信を持って言えることに驚いたのだ。

 

「迅は遠回しだったけど、歌歩ちゃんに危険が及ぶと言った。その時は内輪揉め的なものか、それとも今向かっているであろう遠征で及ぶものなのかと考えたけど、多分違う。」

 

「理由は?」

 

「簡単だよ。前者は迅でどうにか出来るし、後者はそもそも俺が何か出来る領域では無いから。風間さんから勧誘された時はもしや?と思ったけど、そもそも迅は玉狛に入ってもらうと明言してたし、これも違うと判断しただけ。」

 

「なるほど。じゃあ恐らく色々な選択肢がある中でネイバーからの攻撃と思った理由は?」

 

「消去法に近いけど、敢えて言うなら…俺が玉狛所属じゃないといけない理由がそれしか考えつかなかった。玉狛はよく言えば自由、悪く言えば迅やボスがほぼ好きに動かせる隊みたいなもんでしょ?」

 

「酷い言いようだな…。流石にそこまでは考えてないよ。」

 

薫の玉狛に対する評価にガクッと項垂れる迅と、苦笑を浮かべる林藤。

 

「でも実際歌歩ちゃんを守るなら間違いなく風間隊に居るのがベストなのに、玉狛に入れって可笑しい。なら自由に動かせる人員を集めているって考えた方がしっくりくる。」

 

「はぁ…恐れ入った。ほぼ正解だよ。」

 

「まあほぼの部分も誤差みたいなもんでしょ?んで、何をやらせたいの?」

 

「正直に言うとまだ言えない…と言うより確定していないから決めきれないってのが事実だ。」

 

「へぇ…やっぱり色んな未来の分岐がある感じなんだ。」

 

迅の言葉からここまで察せる高校生が何人いるだろうか。初見で聞いたら何でも最善手を打てるチート能力と誰しもが思うであろう。

 

「その通り。でも今言えることもいくつかある。」

 

「なんだよ…随分勿体ぶるな。」

 

「絶対に死ぬな。危ないと思ったらすぐにベイルアウトする事。」

 

「は?どういうこと?」

 

薫が疑問に思うのも当然だ。トリオン体で活動する以上、本人の体には何ら影響は無いのだから。

 

「俺から誘っておいてこう言うのもアレなんだが、薫が死んでしまう未来がかなり多くある。」

 

「どうやって死ぬかとか分からないの?」

 

「あぁ、分からない。だからそれを防ぐためにも危ないと思ったらベイルアウトをする。これだけは約束してくれ。」

 

「ん、了解。」

 

その回答は余りにも淡白すぎた。未来で自分が死ぬ可能性が高いと言うのに、この危機感の無さに迅と林藤は苛立ちを見せる。

 

「あのなぁ…分かってるのか?現実味が無いのは仕方ないが、死ぬ可能性を考慮しろって迅は言ってるんだぞ?」

 

「分かってますよ、ボス。」

 

「じゃあなんでそんなしれっと流せるんだ。分かってるならもっと緊張感をだな…。」

 

林藤は優しかった。だからこそ自分の部下に当たる薫には無事に帰ってきて欲しい。その思いが溢れ出たからこその言葉。

 

「別に死にたいとかじゃないですよ?寧ろ生きていたいです。歌歩ちゃんともっと遊びたいですし、いつかは結婚出来たらな〜って思います。」

 

「ならもっと真剣に…「真剣ですよ。」」

 

「でも逆に俺は、歌歩ちゃんの為なら死んでもいいと本気で思ってる。あ、でも歌歩ちゃんには内緒でお願いします…絶対怒られるんで。だから逆を言えばそれ以外で死ぬのは真っ平御免なので、ちゃんと逃げますよ。」

 

そこら辺の高校生が言ったところで何の信憑性も無いだろうが、薫は違った。コイツなら本気でそう思ってやりかねないと感じ取らせる何かがあった。

 

「ま、なので俺はいつも通り行動するだけですね。」

 

「そうか。悪い…いやありがとうと言うべきか悩むけど、精一杯頑張ろう。」

 

「あいよ。んで、他にもあるんだろ?」

 

「あぁ、コッチはそんなに難しい話じゃない。」

 

その言葉を聞いて緊張を解す薫。

 

「近々人型ネイバーを匿うんだけど、多分それで本部の人とやり合うことになるから、薫も手伝って欲しい。それだけだよ。」

 

「ふ…む?」

 

(ネイバーを?匿う?匿うってこの匿うで合ってる?囲まうとかじゃなくて?)

 

「ネイバーを?」

 

「ネイバーを。」

 

「匿うの?」

 

「匿うんだ。保護とも言う。」

 

これで囲まうという線が消えた。

 

「本部の人って?」

 

「城戸派の人達かな?薫の見知った人だと風間さんとか。」

 

「ちょ、ちょっと待って。俺風間隊と戦うなんて嫌だよ?と言うかネイバー保護ってどいうこと?」

 

疑問点が多くありすぎてテンパり始める薫。

 

「落ち着けって。まだ風間さん達と確定した訳じゃない。まあでもほぼ風間隊とはぶつかるだろうけど…。でもまぁ少なからず俺が請け負うから、薫は他の部隊を相手してくれ。」

 

「な、なるほど…?」

 

「ネイバーに関してだが、とりあえず会ってみれば分かるさ。きっと良い奴だ。」

 

「きっとって…。まぁいいけどさ。って事は、保護対象が来るのは遠征部隊が帰ってくる頃辺りって事?」

 

「俺らが会うのはそうだろうな。だけど多分もうコッチにきてるはずだ。」

 

「ま、とりあえず何とかなるか。ボスはネイバー匿っても平気なんですか?」

 

「ん?おぉ、まあ何とかなるだろ。」

 

アンタも大概適当だよ…と内心毒を吐く。

 

「それじゃあ真面目な話は終わり!皆待ってるだろうから行こうか!」

 

迅の言葉を皮切りに3人は立ち上がり玉狛を後にする。林藤が車を持ってくると先に外に出て行き、それを待つ薫と迅。

 

「なぁ、薫。」

 

「ん?何?」

 

「俺がお前を誘った理由…本当は「分かってる。」」

 

迅の言葉を最後まで聞かず遮る薫。

 

「まだアンタとはそこまで長い付き合いじゃないけど、何となく性格は理解してるつもりだ。歌歩ちゃん関連の話も、俺が死ぬかもって話も本当だろうけど。迅が俺を誘った理由がそれじゃない事くらい分かる。」

 

「お前本当に怖いよ。」

 

「そうか?俺は皆が怖いけどな。どれくらい死ぬか分からない事象に対して、たった一人のサイドエフェクトに頼ってるんだぜ?」

 

薫の言うことは確かだ。迅の未来視を起点に作戦を練っているし、迅もそれを元に行動している。

 

「迅は俺のサイドエフェクトに目をつけたんだろ?」

 

「…あぁ、その通りだ。未来は幾通りにも枝分かれしている。どの選択をすることでより良い未来に変わるかなんて、行動してみなくちゃ分からないんだ。」

 

「重いな…。」

 

「あぁ、重いよ。」

 

迅の選択1つで失う命もあり、救える命もある。正常な人間であれば出来る限り救える未来を選択したくなる。それは迅も同じなのだ。

 

「お前のサイドエフェクトは集中力。俺の未来視と掛け合わせれば、より良い選択が出来るはずだ。」

 

「ま、そうだろうな。」

 

「どうだ?俺と裏で暗躍して見ないか?」

 

そう言ってニヒルに笑ってみせる迅。

 

「なんだそりゃ。ま、でもその方がきっと歌歩ちゃんも喜ぶかな。」

 

「よろしくな相棒。」

 

「気持ちわりぃから止めろ。」

 

「えぇ…ノリ悪くない?」

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