どんなに優秀でも男は女の尻に敷かれる運命なんだと思う。 作:ゆず1252
忍田から貰った情報を元に、屋根伝いで現場へ向かう薫。
「マジで学校じゃん。」
警報が鳴ってから既に5分以上時間が経っている。校舎という密閉空間でネイバーから逃げ切ると言うのは、恐らくそこまで難しくは無い。そもそも外に逃げ切れば格段に生存率が上がるし、余程運が悪くなければ狙われる事もないだろう。
「こういう考え方するとまた怒られちゃうな…。」
この理論で行くと必ず誰かが狙われてしまうのだ。つまりその狙われた誰かを囮にして他が逃げるという考え方。だが命の危機に瀕した人間は、こういった行為を平然とする。それは子供だろうが大人だろうが関係は無い。
『こちら本部、杠くん。聞こえるか?』
「こちら杠。なんですか?」
『恐らく嵐山隊が先に現着する。ネイバーが残っていたら援護、もし既に対処していたらその後の処理を手伝ってやってくれ。』
「杠了解。」
雑用係かよ…と愚痴りながら、ネイバー討伐の報酬は欲しいため速度を上げる薫。
「彼がしたことは明確なルール違反です。違反者を褒めるようなことはしないでください。」
「確かにルール違反だが、結果的に命を救っているんだ。それは褒められた行為じゃないか?」
嵐山隊が到着する前に、その学校にいたC級隊員の三雲がネイバーを倒したと言う。だがC級隊員が許可なくトリガーを使用することは禁止されているため、隊務規定違反だと木虎は責めていた。
「っ!後ろだ!木虎!!」
「なっ!?」
だがしかし…問題はそこでは無かった。三雲が倒したネイバーがまだ生きていたのだ。最悪な事に生徒達の真後ろに。忍び寄るような形で近づいていたため気づくのが遅れてしまうという醜態。
しかし、ネイバーの攻撃が生徒達に当たる寸前で止まる。いや何者かに止められたのだ。
「玉狛支部杠、現着。モールモッド発見、対処を始めます。」
ネイバーは止められた逆側の爪で薫に攻撃を仕掛けるが、その攻撃も届くことは無かった。それが届く前にネイバーは細切れになってしまったから。
「ひゅ〜。やっぱりやるね。」
「す、凄い…。」
三雲達は薫の動きを見て各々感想を述べる。
「あれ?お前らこの間の…。あーなるほど、メガネくんがあの2体と戦ってくれてたのか。弱そうなのにやるじゃん。」
「あはは…。」
一言多かったため微妙な表情を浮かべる三雲。
「んで、嵐山さん達何してるんですか?」
「すまない、こちらの失態だ。本当に助かった!」
完全に嵐山隊側に非があるため、素直に謝罪をする嵐山。
「はぁ…まぁ大事にならなくて良かったですよ。んで、木虎のやつ止めなくていいんですか?」
「アイツは…全く。」
三雲達と言い合いをしている木虎を見て、思わずため息が出てしまう嵐山。それを見かねて時枝が待ったをかける。
「どっちにしろ処罰を決めるのは上だよ。俺たちじゃない。取り敢えず作業も全部終わってるから撤収しよう。」
「そうだな。今回の件は俺から上に報告しておこう。家族を助けて貰った恩もある。出来る限り重い処罰にならないよう力を尽くすよ。」
「あ、ありがとうございます。」
最後に三雲に本部へ出頭するようにと命令し、嵐山隊は撤収してしまった。
「さて…俺も帰るとするかね。」
「あの!」
「ん?あぁメガネくん、この学校だったんだ。それでどうした?」
「あの、空閑の事って…。」
「空閑?」
「おれの事だよ。」
「そうか…まだ自己紹介してなかったな。玉狛支部の杠薫だ。よろしく。」
「おれは空閑遊真」
「三雲修です。」
お互いに自己紹介を済ませて本題に入る。
「安心しろよメガネくん。空閑の事は言ってないよ。」
「カオルめちゃくちゃいいやつだ。」
「目の付け所が良いではないか空閑君。あと先輩な?あ、でもちゃんと出頭しろよ?」
「あ、はい勿論です。空閑の件、ありがとうございます!」
「気にすんなって。自分から言ったことだしな。空閑も何か困ったが事あったら何でも言えよ?」
「ふむ。では、カオル先輩。美味しいご飯食べたいです。」
「なら俺の行きつけのラーメン屋に連れてってやろう。でもこの後まだ予定があるから、お互いの良いタイミングで行こうぜ。」
ほいコレ。と薫の連絡先が書いてある紙を空閑へ渡す。
「メガネくんも登録しといて良いぜ。じゃ、俺行くから。」
そう言って自身の持ち場へ戻って行く薫。
「カオル先輩は良い人だな。話しやすいし優しいし、何より強い。」
「ボーダー内だと素行不良で有名なんだけどね…。」
「あぁ、まあそんな気はする。」
「こちら杠。報告します。」
『こちら忍田。嵐山隊から報告は受けているが、君からも聞いておこう。』
「はい。自分が現着した時には既にネイバーが倒され、戦闘が終了していました。経緯としては、その学校に在籍しているC級隊員の三雲が独断でトリガーを使用、モールモッド2体を撃破したそうです。が、その内1体は活動停止しておらず、自分が処理しました。結果としては校舎が壊れるという被害はありましたが、人的被害は無し。嵐山隊長が三雲へ、隊務規定違反のため放課後本部へ出頭を命じ、その場を収めました。以上です。」
『ありがとう。嵐山隊からの報告と差異は無いな。改めてご苦労だった。』
その言葉を後に通信を切る忍田。
この報告にさほど意味は無い。忍田は杠薫の人間性を知りたかったのだ。以前会議に何度か挙がった事がある素行不良の問題児。聞いたいた情報だけであれば、今回の報告は適当なものになるだろうと考えていた。だが、蓋を開けてみればどうだろう。完璧とまでは行かないが、必要な情報と結果を端的に共有してくれた。認識を改める必要があるなと忍田は実感した。
時間は移り変わり次の日の朝。
「相棒。そろそろ動くぞ。」
「だからそれやめろって。ゾワッとするんだよ。んで?何すんだよ。」
「昨日メガネくんの処遇が俺に任された。まずはイレギュラーゲートの解決をする。それにメガネくんとそのお友達の力が必要なんだよ。」
「ふむ。メガネくんって三雲修の事?」
「そうそう!んで、それを邪魔しようとしてる奴らがいるからそれを一旦止めようってわけ。」
そう言いながら歩みを進める迅。その先には2人の男が立っていた。
「ぼんち揚げ食う?」
「!?」
「うおっ!?迅さん!?と、誰?」
「どーも、玉狛の杠です。」
あからさまに失礼な態度を取られたため、薫もぶっきらぼうに答える。
「コラ、出会ってすぐ喧嘩売るんじゃない。三輪隊の三輪秀次と米屋陽介な。仲良くしとけよ〜。」
「誰が裏切り者の玉狛支部と仲良くするか!」
「反抗期?こんなのが隊長とかヤベェな。」
薫の口調が崩れてきたのを察して、迅がストップをかけようとする。
「おいおい、ウチの隊長を馬鹿にされちゃあこっちも黙ってないぜ?」
「お前が黙っていようといまいと関係ねぇな。そっちが売ってきた喧嘩だ…死にてぇなら買ってやるぞ?」
薫の中の優先順位で最も上位に当たるのは三上歌歩である。それを侮辱しようものならどうなるか…1度木虎がその地雷を踏み抜き痛い目をみている。ではその次は?そう第2の家族と言っても過言では無い、玉狛支部の人達。その地雷を踏み抜いた三輪は同じボーダーの仲間ではなく敵、薫はそう判断した。
薫の放った威圧感に気圧され、思わずトリガーに手が伸びる米屋。迅はその後の未来が見え止めようと試みたが、間に合わなかった。
「がっ!?」
トリガーに意識を割いていた米屋へ一瞬で近づき、顎を蹴り上げた。そのまま背中から倒れてしまい、薫は米屋の腹に膝を、トリガーを握ろうとした腕を踏みつけ、空いた手で喉を絞める。
「それに手ぇかけたってことは…そっちもヤル気って事で良いよな?」
「お前!!」
「動くな…。人質取ってるようなもんだぞ?」
「グゥっ!?」
薫は米屋の喉仏を押し込み苦しめる。
「隊員同士の戦闘は違反だぞ!」
「トリガー握ったやつが悪い。あ、隙を見てだなんて思うなよ?その前に喉を潰す。お前もだぞ…えぇっと名前なんだっけ?」
「卑劣な…!!」
「はいはいそこまで!薫もそれ以上は言い訳が効かなくなるから止めておけ。」
「チッ…。」
迅からストップが入り、渋々という形で米屋を解放する薫。
「ゲホッゲホッ!!」
「陽介!大丈夫か?」
「あぁ、何とか…」
「はぁ…とりあえずお前ら午後から大仕事あるから基地戻っておけよ?これ、命令書ね。」
そう言って2人に何をするかが書かれた指示書を渡す。
「なっ!?」
それを見て、自分達が何を企んでいたのかが、既にバレている事を察する。
「じゃ、よろしく〜!ほら薫も行くぞ。」
「よろしく〜。」
そのままその場を去る2人。
「クソっ!!」
「落ち着けよ秀次。あのメガネ君がネイバーと接触してるんなら、チャンスいくらでもあるじゃん。」
「チッ…それもそうだな。」
「それに俺もアイツに一発かまさなきゃ気がすまないからな…。」
そう言って2人は本部に歩みを進めて行った。