どんなに優秀でも男は女の尻に敷かれる運命なんだと思う。 作:ゆず1252
三雲が風間との模擬戦を受け、数十戦繰り返していた。
「こりゃ酷いな。」
その結果を見て薫は苦笑いを浮かべる。
「言ったでしょ。オサムは戦闘面はからっきしなんだ。」
「とは言えここまでダメダメだとは思わなかったよ。」
『20対0』これが現在の戦績。今行われている試合ですら三雲が押されているため、21の数字が刻まれるのもそう遅くはないだろう。
「もう止めてください。正直見てられません。」
今の状況を見て木虎がそう告げる。
「三雲君がA級と戦うなんて早すぎます。烏丸先輩も杠君も、なんで止めないんですか?」
「修の心配か?」
「なっ!?ち、違います!」
「んー、とは言ってもな〜、アイツが始めた事だから俺がとやかく言う訳には行かないでしょ。」
「そもそもオサムだって今すぐ勝てるだなんて思ってないだろ。先の事を考えて経験を積んでるんだよ。」
その言葉を聞いて木虎が顔を顰める。
「ダメで元々、負けても経験。いかにも三流の考えそうな事ね。勝つつもりでやらなくちゃ、勝つための経験なんて積めないわ。」
「ほう…。」
「お前…いい事言うな。」
以前薫が木虎に対して似たような事を言ったことがある。それを教訓として日々鍛錬を積んでいるのだろう。その言葉を聞いて薫は笑みを浮かべる。
「とは言っても止めるか止めないかの判断は風間さんもメガネくんが決める事だしね。」
「お、でも終わったっぽいよ?」
改めて戦績を見てみると『24対0』こっぴどくボコボコにされてしまったようだ。
「なんか話してるみたいだけど…聞こえないな。」
隣で遊真が呟いているが、薫は別の事を考えていた。
(思っていた以上に弱い。負ける事は想定内だが、かすり傷1つ付けられないのは予想外だな。実力だけ見ればC級レベル、戦闘面での柔軟性も無い。クソサングラスが目をかける意味がわからんな。)
「カオル?どうしたんだ?深刻そうな顔して。」
「いや、ウチの隊長の弱さに驚いてた。」
「す、ストレートに言うのね…。一応同じチームなんじゃないのかしら?」
「チームだからこそ正直に言わないとだろ。実力も脳ミソもまだまだだけど…根性はあるみたいだな。」
風間と三雲の様子を見てそう告げる薫。見たところ最後にもう1戦するようだ。
「ホントだ。まだやるみたいだな。」
「なんで…?もう充分負けたはずでしょ?」
三雲の表情を見て薫はまた笑みを浮かべる。
「はは…。良いね、顔つきが変わった。」
最後の試合を見届けようと観戦するが、状況は直ぐに動いた。
「!?」
「これは…!」
三雲が取った手段は、弾トリガーの弾速を限界まで下げた超スローの散弾。
「なるほど…訓練室ならトリオン切れは無い。しかもこの密閉空間、早く対処しないと弾で埋め尽くされる。」
「しかもカメレオンを使っているままじゃシールドも張れない。考えたな修。」
予想通り風間はカメレオンを解き、スコーピオンを展開する。
「でも…。」
が、低速の弾丸を簡単に斬り落としてしまう。
「ま、それ無しでも強いよね…あの人は。」
「一芸じゃA級には上がれないからな。ここからが本番だ。」
風間は弾を斬り落としながら三雲へ接近する。それに対してレイガストを前に突き出しながら、再度弾トリガーを展開。
(シールドで受けながら迎撃する作戦か…。シンプルな作戦だが悪くは無いだろう。けど視線で狙いがバレバレだ。)
薫がそう考えるが、風間もまた同じ事を考えていた。気にせず接近しようとする風間だが、次の三雲の動きを見て驚愕する。
「スラスターON!!!」
レイガストのシールドで風間に突っ込んだのだ。咄嗟に背面にシールドを張り弾トリガーによる被弾は防いだが
、壁まで押し込まれてしまった。
「けどその間合いは…」
「風間さんの間合いだ。」
薫と烏丸の言う通り密接した距離であればスコーピオンに分がある。しかし、レイガストのシールドで風間を覆うことで接近戦を避ける三雲。
そのシールドに1つ穴を開け、弾トリガーを突きつける。
「アステロイド!!」
超近距離の射撃でトドメを刺そうとする三雲。
爆煙により結果は分からないが、どちらかが戦闘不能になったのは明らかだった。
『伝達系切断…三雲ダウン』
無常にも鳴り響くアナウンス。三雲自身で作った穴を利用したスコーピオンのカウンター。読み合いでは三雲が勝っていたが、勝負自体は風間の勝利で終わった。
「やるな…一矢報いやがった。」
終わったかのように思えたが、薫は違うと唱える。それに対して遊真も笑みを浮かべており、木虎は状況が飲み込めていなかった。
『トリオン漏出過多。風間ダウン』
「ま、まさか!」
「引き分け…だな。」
B級になりたて、トリオンも少なく戦闘センスもない男が風間に一矢報いる。
「勝っては無いけど、大金星だな。」
そう言って烏丸は三雲の元へ向かう。
「やるなメガネくん。」
「オサム、やったじゃん。」
「やった…のかな?あんまり実感が湧かないです。」
「レイガストはあんまり使わないからってものあるけど…俺はあの場であの作戦は思いつかなかった。胸張れよ。」
上からの発言ではあるが、嫌味には聞こえず心にスっと入ってきた。
「は、はい!ありがとうございます。」
その横で烏丸と風間が三雲はどうだったと話しているのが聞こえ、そちらに意識が向く。
「はっきり言って…弱いな。トリオンも身体能力もギリギリのレベルだ。」
風間の率直な感想。事実であるため何も言えなくなる三雲。
「だが、自分の弱さを自覚していて、それ故の発想と相手を読む頭がある。知恵と工夫を使う戦い方は…俺は嫌いじゃない。」
「素直じゃないなぁ…。」
その言葉を聞いて薫がボソッと呟く。
「何か言ったか?」
地獄耳の如くそれを聞き、睨めつけながら聞き返す風間。
「イエナニモ。」
「はぁ…邪魔したな三雲。」
そう言って立ち去ろうとする風間。それを見て遊真が話しかけようとするが薫が止め、先に話しかける。
「風間さん。」
それを聞いて風間が顔だけをコチラへ向ける。
「俺とやりませんか?」
「何?」
「コイツは俺の隊長なんです。見る限り弱っちくて、トリオンも少ない。絶対に勝てる訳が無いと思ってたのに、一矢報いた。」
「何が言いたい?俺も暇じゃない。手短に話せ。」
「燃えてきちゃったんですよ。1本で良いんで、お時間頂けませんか?」
三雲は何度薫に驚かされただろう。三雲の中で薫は落ち着きある人間で、どんな時でも冷静に動く人間だと考えていた。自分の戦いを見て燃えてきたなんて言うとは考えもしなかったのだ。
「確かにお前とはいつかやり合いたいとは考えていた。が、そんな理由で俺の時間を使おうとするな。まずお前のチームメイトとするのが筋だろう。」
風間の言う通りである。どうこう言おうと風間は他チームの隊長。玉狛第二だけに肩入れする義理など無いのだ。今回の三雲に関しては風間個人の感情によるものであり、それに対して三雲が答えただけの事。薫とも試合をする理由がないのだ。
「本気でやる…じゃ駄目ですか?」
「何?」
「俺のサイドエフェクトを最大限使います。それに…俺はコイツらに本気の俺を見せてない。」
「なるほど…。それは面白そうだ。」
2人は訓練ブースに入り準備を始める。
「1戦だけだぞ。それ以上は三上に怒られる。」
「分かってますって。」
そう言って風間はスコーピオンを、薫は弧月を構える。
『模擬戦開始』
アナウンスと同時に風間の姿が消える。三雲が初見殺しに会ったカメレオンによるものだ。アステロイドを利用して対応したが、薫のトリガーセットはバイパー。あれ程密度のある散弾を構成するのには時間がかかる。
(獲った!!)
その間に素早く背後を取り、スコーピオンで首を狙う風間。タイミング的にも防ぐのは難しいため、風間は首を刎ねたと確信した。
「何!?」
が、それを状態を前に倒すことで簡単に回避する薫。
「それはもう見飽きましたよ!」
状態を元に戻す勢いを利用し風間に斬り掛かる薫。
「っ!」
どうにか防ぐが、スコーピオンは割れてしまう。体勢も崩れてしまい、薫の追撃を許す事となる。
「チッ!」
バックステップで距離をおきながら、再度スコーピオンを展開し次手に備えるが、その隙を逃さず追撃を仕掛ける薫。
懐に入り込んだ超接近戦。取りまわしが利きやすいスコーピオンに分がある筈だが、弧月振るう薫が若干だがおしていた。
「チッ!」
かすり傷が増えて来た風間は、スコーピオンを投擲し距離を取る。
「ふぅ…潰せる部分は最速で風間さんの動きを潰してるんですけど、それでも決めきれないとか流石ですね。」
苦笑いしながらそう告げる薫。
「やはりか。妙に攻めにくいと感じたのはそういう事だな。」
「俺のサイドエフェクトを使えば、1度使われた攻めなら最善手で対応出来ますからね。」
「なるほど…。厄介なサイドエフェクトだな。時間をかければかけるほどこちらが不利になる。だが…まだお前に勝ちを譲ってやる気は毛頭ない。」
その言葉を皮切りにモールクローで薫の足を狙う。
が、それは読んでおり足を横にずらずだけで対応。再度スコーピオンを投擲する事で薫を対処に回らせる。
投擲は弧月で弾くが距離を詰めながら更にスコーピオンを投げ続ける風間。
(トリガーの切り替え速度が速い!!)
目で追えるため避けることは用意であるが、射撃手顔負けの連射速度で次の動作に移らせない。
気づけば互いの間合いに入る2人。そのタイミングでスコーピオンを両手に展開する風間。
1手目。胸に向かっての突き。軸足をずらし避け、同時に弧月を振るう。結果風間は腕を失う。
2手目。逆の手からの袈裟斬り。左手で受け止め弧月を逆袈裟の要領で振り上げる。が、先程落とした腕をスコーピオンで義手代わりにし受け止める。
3手目。薫の左手を掴み支えにしながら足の裏にスコーピオンを展開し再度胸を狙う。それを体をずらすことで急所を避ける。
4手目。左手は掴んだまま義手で斬り掛かる。何とか弧月で防ぐが、このままでは不利と判断し薫は自身の左腕を切り落とす。
そのままバックステップで距離を取る。
「え、エグイっすね…。」
「やはり見えていても片手なら対処しきれないようだな。だが、自分の腕を落とすのは良い判断だ。もし俺の腕を狙っていたらお前が負けていた。」
風間を見ると掴んでいた腕からスコーピオンが生えており、腕を狙っていたらバックステップで逃げる事が出来ず、次手で決まっていただろう。
「流石です。近づかれたら勝てる気しないですよ。」
「こればっかりは経験の差だな。次同じ攻撃を仕掛けたら通用はしないだろう?」
そう言いながら義手引っ込め、逆の手にスコーピオンを展開する。
「お前にはこういう搦手が効きそうだ。」
次で仕留めると言わんばかりに殺気を漂わせる風間。
「……参りました。僕の負けです。」
唐突に薫がそういうとアナウンスにより敗北が告げられる。
「何?どういう事だ。」
突然の敗北宣言に若干の怒りを表情に出す風間。
「す、すいません。でも…」
オドオドしながら薫は視線を観客席の方に向ける。
「…三上か?」
それを察して小声で話し始める風間。
「はい。多分見た感じ今来たところだと思うんで大丈夫な筈です。」
「はぁ…サイドエフェクト使っている事がバレたら厄介だからな。良い判断だ。」
実際サイドエフェクト最大限使って三輪隊を追い詰めた事を知った歌歩の顔は般若の様になっており、3時間ほど正座で説教を受けている所を風間は見ている。
そう言いながら訓練ブースを出る2人。そこには歌歩を含め風間隊の菊地原と歌川も居た。
「風間さんと試合してたんだね。」
「うん。ウチの隊長がいい試合したからさ、俺も燃えてきちゃって。」
「ふふ、そうなんだ。強いでしょ風間さん。」
「いやいや強いなんてもんじゃないよ〜。マジで防戦一方って感じだった。」
「そんなことは無い。コチラも細かい傷が多かった。トリオン漏出量で言えばさほど変わらなかったはずだ。」
「普通に技術面でボロ負けしてましたよ。でも勉強になりました!」
「俺もお前の戦い方はかなり参考になった。またやってくれるとありがたい。」
お互いに健闘をたたえる。そこに烏丸がやって来た。
「薫、お疲れ様。流石に強いな。サイドエフェクトがあるとは言えアソコまでやるとは思わなかった。」
「師匠の教えが良いんだよ多分。」
「小南先輩とやる時はサイドエフェクトを全力で使ったりして無いだろ?全力のお前を見れて良かった。後修達は問題があったらしくてな、狙撃訓練の所に先に行ってるらしいぞ。俺はこれからバイトだから先に帰らせてもらう。」
爆弾発言だけ残して颯爽と言ってしまうモサモサイケメン。それを聞いた薫は古い人形のようにギギギと首を歌歩の方へ向ける。
「オハナシしよっか。」
「は、はい…。」
そう言って引きずられながら連れてかれる薫を見て苦笑いする風間隊一行。
「割といい勝負しましたね。」
菊地原が風間にそう告げる。
「そうだな。だが最後、アイツは弾トリガーを展開しようとしていた。それも合わせられていたら恐らく負けていただろうな。」
今回攻めを通せた理由としては、薫が弧月だったからである。薫は展開の速いスコーピオンに対して弧月によるガードと体捌きによる回避を利用していた。だが、片手を押さえたただけで体捌きを封じられてしまった。結果弧月のみであの連撃を防がざるおえなかったのだ。
だが、A級3位の隊長相手にその状態で斬り合えるというのだから、薫も大概化け物である。
「なんで最初っから使わなかったんですかね?」
「恐らく近距離で何処までやれるか知りたかったんだろう。弾トリガーは何を入れているのかは気になるがな。」
そう話していると風間の携帯に着信が入っている事に気づく。
『今すぐ作戦室に来てください。話があります。』
それを見た風間は溜息をつきながら重い足を進めるのであった。
そろそろ過去編書こうかなって思います!
三上歌歩との付き合う前のお話的な!