どんなに優秀でも男は女の尻に敷かれる運命なんだと思う。   作:ゆず1252

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こんなにも猛暑が…いや酷暑が続いているのにアツアツな小説を書く。ドMかな?


第7話

なんやかんやあって薫がボーダーに入隊してから1ヶ月ほど経過した。薫の実力を知る者からすればとっくにB級に上がっていると思うだろうが、実はまだC級で燻っている。

 

「ん〜、美味い。訓練後のご飯と言ったら牛丼だよな。」

 

そんな事など意に返さず、能天気に昼食にありつく。

 

「お!君はあの時の!」

 

夢中になっている薫の元に嵐山隊の面々がやってきた。

 

「ん、嵐山さん。あの時ぶりです。」

 

「もう1ヶ月も経つんだな。ボーダーには慣れたか?」

 

「えぇ、皆いい人ですよ〜。」

 

とは言うが、この1ヶ月間で話した人物は風間隊や玉狛の面々だけというのが事実である。

 

「それなら良かった。というか未だC級なのか?てっきり最速でB級に上がるものだと思っていたが…。」

 

「最速ってどういうことですか?」

 

「ん?あぁ、木虎には言ってなかったな。入隊式当日に行う訓練で杠は最速記録を出したんだ。あの実力ならC級を抜け出すのもすぐだと思っていたんだ。」

 

A級広報担当の嵐山隊…つまりはボーダーの顔に話したかけられていると言うのに終始牛丼をモグモグと咀嚼する薫。嵐山隊のファンに見つかったら刺されること間違いなしだろう。

 

「食事中済まないな。俺達もこれから昼食を取ろうと思っていたんだが、相席良いか?」

 

「良いですよ。まあ俺はもう食べ終わっちゃいますけど…。」

 

「ハハハ、偶には話しながら食べるのもいいだろう?」

 

悪意はないだろうが、遠回しにお前食べる友達居ないだろ?と言われた事に若干のショックを覚える薫。

 

「初めまして。嵐山隊の時枝です。」

 

「あぁ、すいません。玉狛の杠です。敬語じゃなくていいですよ?一応ボーダーでは先輩な訳ですし。」

 

「そう?なら杠も敬語はいらないよ。」

 

「りょーかい。よろしく時枝。」

 

「うん、よろしく。で、こっちのムスッとしてるのが木虎で、もう1人居るんだけど今日は非番。」

 

時枝の隣に座る木虎を改めて紹介する。

 

「別にムスッとしてません。」

 

「多分杠に初期タイム抜かれたのが悔しいんだと思う。だからあんまり気にしないで。」

 

木虎の態度を見て興味を失いかけていたが、聞いてみるにプライドが高いのもあるだろが、どちらと言うと自分に厳しいのだと気づいた。

 

「だから違いますって!」

 

「まあまあ落ち着け。それで?なんでまだC級にいるんだ?」

 

荒れる木虎を嵐山が落ち着かせながら聞いてくる。

 

「何でって言われても…単純にB級に行くメリット感じないんですよ。」

 

「メリット?」

 

その言葉に怪訝な表情をする木虎。

 

「俺は玉狛支部の人間だから、B級に上がってもチーム組めないんですよね…。今後多分迅がそこら辺どうにかするとは思うんですが、今上がる必要は無いかなと。」

 

その言葉を聞いてなるほど。と納得する嵐山と時枝。

 

「そういうの言い訳にしてただ止まってるだけじゃない。」

 

「木虎。言い過ぎだよ。」

 

辛辣な言葉ではあるが、捉え方によってはそう聞こえてしまうのも事実。努力家の木虎からすれば薫の言い分は癇に障るだろう。

 

「それにその言い方だと何時でもB級に上がれるみたいじゃない。あまり舐めない方が良いわよ。」

 

「なれるでしょ…何時でも。」

 

「は?」

 

あまりにもキッパリと言い切る薫に思わず反応してしまう。

 

「あんたC級隊員がどんなもんだか見た事あるのか?たかが訓練であの体たらく。失敗も経験、ミスも経験、次出来ればそれでいい。俺からすればそっち方が言い訳に聞こえるんだが?」

 

「それはそうだとしても貴方がB級に上がれる保証にはならないでしょう?」

 

「そうでも無いぞ?確か桐絵が杠くんの面倒を見ていると聞いたが…確か10本中何本かは取れるらしいじゃないか。トップクラスの攻撃手相手に立ち回れるならC級では相手にならないかもしれないな。」

 

「う、嘘…。」

 

「ただ上がれる時に上がっておいた方が良いのも事実だ。必要な時に動けない可能性もあるからな。」

 

「必要な時…。だとしても防衛任務とかで時間拘束されるじゃないですか。それが嫌なんですよねぇ…。」

 

それを聞いてなんでボーダーに入ったんだと頭を抱える木虎。

 

「シフト制だし、お金も出るよ?」

 

「シフト制かぁ…。それならまだ予定組めるのか。いやでも…ん?お金?」

 

「そんなのも知らないの?防衛任務に就く場合は金銭が発生するの。」

 

「ちなみにどれくらい?」

 

「えっ…時給ベースだけど、それなりに貰えるわよ?A級に上がれば更にね。」

 

あまりの食いつき具合に少し引く木虎。

 

「シフト制…調整すれば…いやでも…。お金…。」

 

「ま、まあ無理してなるものでも無いだろう!ゆっくり地道に、な?」

 

あまりの真剣に考える薫を見て、そんな理由でB級に上がられても困ると思い、嵐山が締めくくる。

 

「時枝。個人ランク戦…やらね?」

 

「B級以上の隊員とのランク戦はポイントの変動がないから、必然的にC級とやらないといけないよ。」

 

ふむ。と少し考えた後、

 

「C級全員叩き潰してきます。」

 

「貴方みたいな男に出来るのかしら?」

 

「時枝。ランク戦やり方わかんないから教えて。」

 

木虎の発言が鬱陶しく感じできたのか、最早無視をする薫。

 

「教えるけどやり過ぎはダメだよ?新隊員が全員トラウマ抱えられても困るから。」

 

「別に痛みなんて感じないんだから大丈夫だろ?」

 

不安だなぁ…と思いながら時枝な立ち上がる。

 

「善は急げとも言うし、今から行こうか。」

 

「よろしく。初給料でたら昼でも奢るよ。」

 

「待ちなさいよ!」

 

まさかの時枝までも自分を放置する事に驚き声を上げる木虎。

 

「あんまり新人に突っかかるものじゃないよ木虎。」

 

「そーだそーだ。A級の品格が疑われるぞ〜。」

 

時枝の発言に合いの手をするように余計な事を言う薫。

 

「私はA級よ?あまり舐めた態度を取らないでもらえる?」

 

「じゃあ舐められない態度を取ればいいんじゃない?嵐山さんとか時枝さんを見習えよ。」

 

「貴方のような馬鹿な隊員に示しを付けるためよ。」

 

「なんだそりゃ…。ただのお前の自己満じゃねぇか。」

 

「2人ともそこまでだ。これ以上は見逃せないぞ?」

 

ヒートアップする2人を見かねて嵐山が止めに入る。

 

「嵐山さん。この際だから言わせてもらいますけど、ちゃんと躾た方がいいですよ。コイツが自分の実力に天狗になってないのは分かるけど、言ってることがめちゃくちゃ過ぎる。」

 

「木虎が言っている事はめちゃくちゃだったか?」

 

薫の言葉に思わず嵐山が反応する。実際、薫のように自分は直ぐにB級に行ける。他とは違うと勘違いする隊員はいるだろう。遊び感覚で訓練に挑む者もいるだろうし、金目的でボーダーに入った者もいる。

それを野放しにすればC級はある意味魔境になってしまうのだ。故に木虎のようにしっかりと自分の意見を言うのは大事だし、ある程度管理された訓練で自分以上のランク帯の人と時間を共にする事で気を引き締めている。

 

「めちゃくちゃだな。」

 

「私の言っていることの何処がめちゃくちゃなのかしら?」

 

具体的な内容を求められたので素直に答える。

 

「何の役にも立ってないだろ。」

 

「……は?」

 

「C級の気を引き締める?じゃあ何故C級で燻ってる奴があんなにいるんだ?示しを付ける?付けた結果何か変化があったのか?B級に上がる率や日数に変化は?統計は取ったのか?あそこに居るC隊員はボーダーに居るだけでブランドだと言ってたけど…オマエの行動で何の利益が出た?」

 

「何事も完璧に管理するなんて無理に決まっているだろう。杠君だって分かるだろ?」

 

「じゃあ偉そうに上から目線でそういう事を言うもんじゃないですよ。完璧は無理でも成果くらい出せるでしょ普通。」

 

「私達には広報の業務があるの。優先順位が違うのよ。大体そういう風紀面に関しては別の人が管理しているわ。だから私が成果なんて出さなくても問題は無いの、分かった?」

その言葉を聞いて薫は完全に木虎に対して興味が失せてしまった様だ。

 

「広報担当も暇なんだな。やらなくていい仕事をする暇があるんだから。」

 

「貴方ね!!」

 

「杠君。流石に言い過ぎだ。」

 

「言い過ぎだぁ?先にこのアホが吹っかけて来たんだぜ?お前の脳みそ花でも詰まってんのか?」

 

嵐山の無理矢理にも見える庇い方に段々とイライラしてくる薫。

 

「とにかく!この場はここまでだ。これ以上続けるなら上に報告するぞ。」

 

「勝手にしろ。お前の言うことに従う理由はねぇだろ?」

 

いよいよ敵対関係になりそうな1歩手前。薫の肩が叩かれる。

 

「あぁ?」

 

「私の言うことなら…聞くよね?」

 

「……え?」

 

「お座り。聞こえなかった?」

 

「…はい。」

 

突如現れた歌歩が一言で押さえ込んだ事に驚愕を隠せない嵐山隊。

 

「すいません。ご迷惑をかけました。」

 

「あ、いや!助かった!それにしても凄いな…一言で落ち着かせ…たのかは分からんが。とりあえず凄いな…。」

 

嵐山からすれば玉狛との仲に亀裂が入るのは避けたかったが、打開策が無かったため半ば諦めかけている所を救ってくれたのだ。感謝の気持ちしかないだろう。

 

「えっと…三上先輩とその人はどういう関係なんですか?」

 

あまりにもアンバランス(色んな意味で)な2人を見て思わず聞いてしまう木虎。

 

「薫くんは私の彼氏ですよ。」

 

「「えぇぇ!!」」

 

「薫くん。こんな所で煙草吸おうとしないで。」

 

「はい。」

 

「「えぇぇ…」」

 

こんな不良みたいな人間とThe真面目な歌歩が付き合ってることに驚きを隠せない嵐山隊。

 

「ちなみに喫煙所はランクブースの近くにあるよ。」

 

「え、マジ?」

 

「時枝くん。変な事教えないで。薫くんはもう喋らないで。」

 

「「はい…。」」

 

はぁ…と一息つく歌歩。

 

「少ししか様子見れてないから何とも言えないけど、薫くんは少し言葉を選んだ方がいいと思うよ。なんでも喧嘩腰で行かない、分かった?」

 

「分かりました。」

 

歌歩の言うことにはとんでもないレベルで素直になる薫の様子を見て「尻に敷かれてるな…」と思っても仕方ないだろう。

 

薫に伝える事は伝えたのか嵐山と木虎に目を向ける。

 

「薫くんは2人が思っている以上に頭がいいです。考え無しで行動もしない。どんな理由があってそういう行動をしているか聞きましたか?」

 

それを聞いて木虎と嵐山は黙ってしまう。

 

「勘違いされやすいのもあるので仕方ないとは思います。部隊を任せれている以上、自身の隊員を庇いたくなる気持ちも分かります。ただ、何も理由も分からないまま話を続けるのは違うと思いますよ。隊長なんですから…分別はつけてください。」

 

「あ、ああ悪かった。」

 

普段の温厚な人ほど怒ると怖いというのはこの事を言うのだろう。

 

「何で嵐山先輩が謝ってるんですか!元はと言えばこの男が原因じゃないですから謝る必要なんて何処にもないです!」

 

「確かにそうかもしれない。ただ、実際木虎から始まったというのも事実だ。このまま行けばただの水掛け論になってしまう。それならこの状況を作ってしまったこちらから謝るのが筋だろう?」

 

「ですが…!」

 

「木虎…周りを見ろ。俺達はボーダーの顔の様な存在なんだぞ。」

 

そう。ここは食堂…つまり隊員が集まる場所なのだ。そんな場所で嵐山隊がC級隊員1人相手にいざこざを起こすなんてとんでもないスクープネタになるだろう。

 

「…っ!三上先輩だってこの男の事を庇ってるじゃないですか…!それを棚に上げて「ストップ。」っ!?」

 

それを冷静に止めるたのは、他でもない薫だった。

 

「別に歌歩ちゃんの言ったことを理解しなくても良い。お前が俺にどんな感情を抱こうがどうでもいい。でもその足りない脳ミソでよく考えて…これからは発言しろよ?」

 

ただ淡々と、冷静にそう告げた。場が静まってしまったからこそ気づいてしまった。薫の腰に孤月が展開されていることに。

 

「た、隊員同士の私的な戦闘は罰則よ?」

 

「だから?」

 

「そんなルールも守れないのかしら?」

 

「それが?」

 

「っ!!話ならない…即刻ボーダーを辞めてもらえるかしら!」

 

「木虎!いい加減にしろ!杠くんもそれ以上は本当に問題になる!」

 

嵐山は唯一薫の手網を握れる歌歩に目線をやるが、一向に動く気配がない。

そんな中突然薫が席を立つ。

 

「C級隊員がA級隊員にタイマンで勝ったら…B級に上がれっかな?」

 

「え?薫くんB級に上がりたいの?」

 

「お金もらえるらしいし…デート代いつも割り勘なのダサいから、お金欲しい。」

 

「そっか〜。じゃあシフト合わせようね。」

 

時枝はここでようやく理解した。薫が取る行動は必ず三上歌歩という人間がいる。防衛任務で時間が減る=デートの時間が減る、だからB級には上がらず自由に過ごせるC級に居たのだと。そして今上がるメリットを見つけたからこそ、動こうとしているのだ。

 

「嵐山さん。今回の件は見逃します。」

 

見逃す…というのはどういう意味を指すのか分からず困惑する。

 

「その代わり条件を1つ。」

 

「なんだ?」

 

「そこのアホとタイマンやらせてください。そんで俺が勝ったらB級に上げてもらえませんか?」

 

「なっ!?」

 

シンプルに木虎へ喧嘩売る薫。

 

「俺にその権限は無い…が、推薦という形でいいなら出来なくもない。確約は出来ないがな。」

 

「ん〜、50点。俺が求めるのは100点です。」

 

そもそも、嵐山にはそこまでする理由がないのにも関わらず、そんな提案をしてくる薫を不審に思う。

 

「100点にならない場合どうなる?」

 

「今後日常生活がままならないくらいに…徹底的に壊します。」

 

そんなおぞましいことを平然と言ってのけることに驚く。

 

「そんなこと…」

 

「出来るわけない…ってか?トリオン体相手なら別だが、ずっとその状態なわけないだろ?」

 

明らかな犯罪予告…そんなこと許されるわけが無い。

 

「薫くん、あんまり怖がらせちゃダメだよ。」

 

「そっか。じゃあさっきの条件でいいですよ。時間勿体ないんで早くやりましょ。」

 

そう言って移動を始める薫。

 

「ちょっと!待ちなさい!」

 

「全く…場所分からないのにどうやって行くんだか。」

 

その背中を追いかける時枝と木虎。

 

「悪かったな。うちの隊員が。」

 

「いえ…でも良かったです。」

 

「良かった?」

 

「はい。薫くんが引いてくれて良かった。」

 

引いてくれた…?とはどういうことだろうか。

 

「もしあのまま引かなかったら…木虎ちゃん危なかったですよ?」

 

流石に私も止めますけど…と付け加えてとんでもない事実を告げる。

 

「そ、それは…どういう。」

 

「薫くんはやる時は本当にやります。だから…本当に気をつけてください。」

 

その時の三上の顔はとても悲しそうで…何処か嬉しそうな顔をしていた。

 

「ははは…マジか。」

 

(将来安泰だなんて思っていたが…これは前途多難かもしれないな)

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