どんなに優秀でも男は女の尻に敷かれる運命なんだと思う。   作:ゆず1252

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サボってたわけじゃないんです…。ホントです。


第8話

時枝に連れられてランクブースにやってきた一行。

 

「さて…何本にする?」

 

「ちょっと待ちなさい!まだやるだなんて一言も言ってないわよ!?」

 

「あ?ここまで来て何言ってんだよ…。」

 

「それはこっちのセリフよ!そもそも私にそれを受けるメリットなんて一つも無いじゃない!」

 

「あんだけギャアギャア喚いておいて…今度はメリットか。いくら何でもビビりすぎじゃねぇの?」

 

シンプルな煽りに顔が引き攣る木虎。

 

「ビビる?貴方にビビるとかどうとかの話じゃないの。私がそれに乗っかったとして、何のメリットも無いから言ってるのよ!」

 

「うるせぇな。じゃあ勝った時のメリットが欲しいってことで合ってるか?」

 

「ふん。貴方から何か提案された時点でメリットでは無くなるけれど?」

 

「はぁ、面倒くさ。じゃあ辞めるよ…負けたら。」

 

「は?」

 

何を言い出すかと思ったら、想像以上の発言が出てきて反応が出来なかった。

 

「負けたらボーダー辞める。これならお前のメリットにもなるだろ?」

 

「おいおい…何を言い出すかと思えば。そんな事を簡単に決めていいのか?」

 

その決断に対して待ったをかけたのは嵐山だった。

 

「迅誘われたってことは、あいつのサイドエフェクトが関係しているんだろ?なのにそんな重要な事を勝手に決めて大丈夫なのか?」

 

「大丈夫ですよ。だって負けませんから。」

 

C級隊員に見られる根拠の無い自信。木虎はそう捉える。

 

「いいでしょう。受けて立ちます。ただし約束は守るのが条件。良いわね?」

 

そう言って木虎はブースに向かう。

 

「あんだけ啖呵切っておいて、メリットデメリットで戦うか戦わないかを選ぶ時点で三流だな。」

 

「はぁ…。とりあえず操作方法教えるから、ブースの中に入ろうか。」

 

「うい。悪いけどよろしく。」

 

その後を追うように時枝と薫もブースに向かう。

 

「三上はいいのか?」

 

「何がですか?」

 

「負けたらボーダーから居なくなるんだぞ?」

 

「別に勝っても負けても私の前から居なくなっちゃう訳では無いので…。薫くんが決めた事なら仕方ないと思いますよ。」

 

第三者からすれば酷く冷たい意見と言われるかもしれないが、それは違った。

 

「でも、薫くんは負けません。」

 

負けないという信頼から来る言葉だった。

 

「なんだなんだぁ?随分と面白ぇことになってんなぁ。」

 

「出水か。」

 

「嵐山さん。木虎のやつ随分とアツくなってるみたいですけど?」

 

そこに現れたのはボーダーでもトップクラスの射手、太刀川隊の出水だった。

 

「って、ランク戦するのかと思ったら…相手C隊員じゃねーか!」

 

「色々事情があってな…。知らぬ間にこうなった。」

 

「いやいや…何がどうなったらC級とA級が戦うことになるんすか?」

 

呆れ混じりにそう伝える出水だが、嵐山も同じ感情らしく、2人して溜め息を着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブースの中では薫が時枝から操作方法を教わっていた。大体の操作を教えて貰って準備をしていると、木虎から通信が入る。

 

「ちょっと。」

 

「なに?まだゴチャゴチャ言う気?」

 

「違うわよ。貴方はC級だからトリガーセットとか無いでしょ?私孤月は使わないからスコーピオンでもいいかしら?」

 

つまりは一つだけトリガーで試合しようという事を伝えに来たのだ。

 

「好きにすれば?でも負けて本気じゃ無かったなんて言い訳すんなよ?」

 

「はぁ…。そこまで言えれば最早尊敬するわ。さっさと終わらせるわよ。10本でいい?」

 

「OK。やろうか。」

 

端末を操作し、異例のA級隊員VSC級隊員の個人ランク戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

「こんな不毛な試合…さっさと終わらせる!」

 

転送が終わり電子音声による開始の合図が鳴ると同時に木虎が飛び出す。

スコーピオンの間合いに入った同時に斜め下から斬りあげる体勢に入る。

 

(これでこの男の体勢を崩してトドメを刺す…!)

 

いざ腕を振りあげようとするが…動かない。

 

「なっ!?」

 

虚を突いたつもりで懐へ入り込んだが、薫は動揺すること無く木虎の肘を左腕で押さえ、斬りあげを阻止する。

そんな奇天烈な防ぎ方をされれば誰だって動揺するものだ。しかしそれは決定的な隙になる。

 

「よっ!」

 

そのまま右手で孤月を振り抜き、容易く1pを手に入れる薫。

 

(今の1Pは私の油断から生まれたもの。ここで切り替えて確実に勝つ!)

 

(とか考えてるんだろうなぁ…。)

 

薫には木虎の考える事は手に取るように分かった。次は確実に獲りに来る。慢心も油断もなく確実に…。

 

「っ!」

 

先に動いたのは木虎。鋭い踏み込みで懐に入る。先程と同じ様に斜め下からの斬り上げを繰り出す。

 

「バカの2つ覚えだな…。」

 

それを先程と同じ要領で押さえる薫。

 

「その言葉そのまま返すわ!」

 

木虎はスコーピオンの展開を止め、肘からスコーピオンを展開する。 その結果当たり前のように薫の左手首から下は斬り落とされてしまう。

 

(獲った!!)

 

木虎はそのままトドメを刺すために1歩踏み込む。

 

「はい、油断。」

 

と、声が聞こえたと同時に視界が反転する。

 

「えっ…?」

 

木虎は何が起きたか分からず、無情にも鳴り響くベイルアウト音声で、漸く落とされたことを認識した。

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいマジか!アイツホントにC級か!?」

 

「大マジだ。俺もここまで強いとは思わなかったけどな…。三上、杠薫という男は何者なんだ?」

 

嵐山は尋常じゃない薫の強さに思わず問う。三上歌歩がいる以上敵になる事はないだろうが、それでも危険だと判断したのだ。

 

「何者…と言われましても。」

 

その質問に苦笑いで返す三上。

 

「なんだ?アイツと知り合いなのか?」

 

「知り合いどころか彼氏らしいぞ?」

 

「え、マジ!?いつから付き合ってんだよ!」

 

全く情報の無い出水はその事実に驚き、男子高校生特有のトークが始まる。

 

「そ、それはまた今度で…。」

 

「ま、あの杠って奴から後で根掘り葉掘り聞き出すとしますか…っておいおい、知らぬ間にほぼリーチじゃねぇか。」

 

そんな話をしていると既に4-0で薫の圧倒的リード。次薫がポイントを取ることで、木虎の勝ちは無くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、一応聞くけどよ…まだやる?」

 

「っ!!」

 

その発言に苦虫を潰したような顔になる木虎。もうやっても意味無いと言われたのと同義。プライドの高い木虎はその発言を聞き、怒りを露わにする。

 

「ハハハ!茹でダコ見たくなってんぞ?」

 

嘲笑…正にそれに尽きる。許し難い事実、だが…脚が前に出ない。

 

「おいおい…まさか本気でビビってんのか?」

 

「そんなわけ、無いじゃない!!」

 

「じゃあ飛び込んでこいよ!ココに!お前の武器はその距離じゃ役に立たねぇぞ?さぁ!!」

 

腕を広げて木虎を誘う薫。明らかな挑発。ここまでもA級というプライドがあるせいで薫の思惑に乗せられていた木虎。だからこそココからはいつも通りやる。

 

(あの男の言う通り、スコーピオンじゃこの距離は戦えない。バカ正直に攻めても上手いこと捌かれるのは身をもって分かった。なら…搦手で崩す!)

 

「っ!」

 

先に動いたのは木虎。先程までと違うのは点の動きから線の動きが加わったこと。

 

「ふむ。無し寄りの有りだ…っな!」

 

それを見た薫は、木虎との距離を詰める。

互いの間合い入り、先に薫の間合いに入る。横に移動している木虎を先読みし、移動先に被るように横凪の一撃を繰り出す。

 

「おっ?」

 

それを木虎はスライディングの要領で避け、返しの一撃が来る前に牽制でスコーピオンを投降する。

難なくそれを避け、無手の木虎にトドメを刺そうと1歩踏み込むが、それよりも速く木虎が懐へ入り込む。

 

「はぁぁ!!」

 

無手の木虎は薫を一本背負いで地面に叩きつけた。

木虎に武術の心得は無いが、これまでに培ってきた経験がここで活きた。

 

「…やるじゃん。」

 

叩きつけられた薫の腹部からはスコーピオン。急所には当たって無いが、1VS1には充分すぎる致命傷だ。

 

「モールクロー…だったか。」

 

誰もが木虎の1本を確信したその時…。

 

「えっ…。」

 

またもや木虎の視線が反転。視界には自身の体、そして無情に響くベイルアウトの音声。

5-0というスコアボードを見て固まる木虎。

 

『なぁ、まだやんの?』

 

「っ!!」

 

待機室の無線から呆れ混じりの問いかけがくる。

 

『良くて引き分け…。やっても良いけど俺が6本取ったら本当にお前の負けだ。』

 

「あ、貴方…もしかして…。」

 

『どう捉えるかはお前の自由だけどさ、決めるなら早くしてくれ。俺も暇じゃない。』

 

その言葉に木虎は折れてしまいそうな心をどうにか踏ん張る。

 

「わ、私の…ま、負けです。」

 

『ん、りょーかい。お疲れ。』

 

これはタラレバになってしまう話だが、もしあと1、2本試合を重ねていたら木虎も何本か取れていただろう。それは薫も察しており、徹底的に潰すと決めた以上ここで切り上げたかったのだ。逆に言えば最後の最後まで薫の手のひらの上で踊らされていたということにもなる。

 

 

 

 

 

「薫くん、お疲れ様。」

 

「ありがと。ん〜、疲れた!」

 

「やるな〜新人。こりゃボーダーの未来も安泰だ。」

 

「えっと…どちら様?」

 

「悪い悪い、いい試合見たもんだからテンション上がっちまった。太刀川隊の出水公平、改めてよろしくな。」

 

「どうも、玉狛の杠薫です。」

 

「ハハハ!そんな固くなるなよ!そもそもお前の方が歳上だろ?」

 

逆に歳上って分かった上で何でそんなに軽いんだよっと突っ込みたくなるのを抑える。

 

「初対面だと、こういう感じで行くって決めてんだよ。ま、出水がフランクの方がいいって言うなら普通に接するよ。」

 

「そっちの方が話しやすいからそうしてくれ。てか、お前マジでC級か?A級とサシで勝つC級なんて初めて見たぜ?」

 

出水がテンション高めで話していると、タイミング悪く木虎が戻ってきた。それを知ってか知らずか薫が答える

 

「流石に他のA級相手だったらこんな簡単にいかないよ。今回はアイツだったから上手くいっただけだし。」

 

「そうか?木虎のヤツそんな悪い動きしてるようには見えなかったぜ?」

 

「C級相手にならな。じゃあこれが風間さん相手だったら?」

 

「…無理だろうな。速攻でヤられるわ。」

 

「だろ?アイツは俺がC級だからって甘くみた結果1本目を取られた。それに動揺せず切り替えたのは良かったけど、まだ少し動けるC級って考えてたんだろうな。だから俺が想定していなさそうな攻め方をした。」

 

「でもお前は対応したって事は、経験済みってことか?」

 

「うちの師匠はスコーピオンも使えるからな。それにあの攻め方はアイツの普段の動きじゃないだろ。ぎこちない攻めで決めきれるだなんて甘えた考え持ってるから首を落とされるんだよ。」

 

今回の総称を話し終え、一息つく薫。

 

「はい、コーラで良かった?」

 

「ありがと。いくらだった?」

 

「良いよこれくらい。ランク戦初勝利のお祝いってことで。」

 

さりげなく歌歩も毒吐いてる事に若干引く出水。

 

「そーいや、最後のアレはどうやったんだ?流石に木虎側のポイントになると思ってたんだが。」

 

「ん?背負い投げされて地面に落とされる瞬間、片手空いてたから斬った。」

 

それを聞いてさらに冷や汗をかく出水。出水の隊長、太刀川にも同じことが出来るかと聞かれればNOと答える。常人の反射速度で出来ることでは無いからだ。

 

「ってことは、お前はサイドエフェクト持ちって事だな。てかそうでないと困る。」

 

「なんでだよ…。まあそうだけどさ。」

 

その答えを聞いて安心する出水。

 

「だからハンデなんて要らないって言ったんだけど、まあ終わった事だし良いか。じゃあ嵐山さんお願いしますね。」

 

「あ、あぁ。話は通しておく。」

 

「ありがとうございます。じゃあ歌歩ちゃん、行こっか。」

 

そう言って立ち去ろうとした時、木虎が呼び止める。

 

「私が負けたのは認めるわ。何が悪かったのかも分かった。だから…今度は私が貴方に申し込むわ。」

 

「へぇ…。」

 

「10本勝負…。勿論受けてくれるわよね。」

 

その言葉を聞いて薫は感心した。徹底的にプライドをへし折ったつもりだった。今までの奴らならこれで二度と関わってくることは無かったのに、木虎は向かってきた。

 

「薫くん。ボーダーの人達はそんなにヤワじゃないんだよ?」

 

「そっか…。」

 

だから歌歩ちゃんは止めなかったのか、と納得した。普段であればストップがかかる場面で何も言わなかったことに違和感を感じていた。

 

「まさか…逃げるだなんて言わないわよね。」

 

「さっきとは立場が逆だな。」

 

その言葉を聞いて大きく溜息をつき、歌歩に目をやる薫。

 

「付き合ってから初めてデートすっぽかします。」

 

「…薫くんは私より他の女の子を取るんだね。」

 

「あれ、今ってOKくれる流れじゃ…」

 

「それとこれとは別。」

 

「……また、今度でも良いですか?」

 

「え、えぇ…大丈夫よ。」

 

そう言って小さくなった背中を見て嵐山隊は溜息を、出水は涙を流したがら笑っていた。

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