どんなに優秀でも男は女の尻に敷かれる運命なんだと思う。 作:ゆず1252
「…やりずらい。」
薫がA級の木虎に勝利して数日、C級問わずボーダー内ではその噂で持ちきりだ。当の本人からすればたまったものでは無いというのが感想である。
「よ!モテ男!元気してるか?」
「お前殺されてぇの?」
「ははは、荒れてんなぁ。まあでも仕方ないと思うぜ?A級隊員に勝っちまったら誰でもこうなる。」
何を今更、と言った表情で話す出水にイラッとしながらコーラを飲む薫。
「それもあるけど、アイツ毎日突っかかってくるのがウザい。それ見た歌歩ちゃんが怖い顔してるの見るの心臓に悪い…。」
「あぁー…ドンマイ?」
「あ!見つけたわよ!!」
「…チッ、また面倒なやつが来た。」
「よし、俺も退散するわ。」
面倒な気配を感じた出水は、巻き込まれる前にそそくさと何処かへ行ってしまう。
「やっと見つけたわ!」
「はぁ…何しに来たの師匠。暇なの?」
「アンタが最近コッチに顔を出さないから来てあげたのよ!」
疲れた頭には小南のキャンキャン声が響くのか顔を顰める薫。
「何よその顔。」
「いやぁ…最近体調悪くて。だから支部の方に顔出せなかったんだよね。」
嘘である。
「え、そうだったの?だったら家で休んでなさいよ。」
馬鹿である。
「お、いたいた。というか小南先輩走っていかないでくださいよ。子供っすか?」
「あ、烏丸先輩お久しぶりです。」
「とりまる、薫体調悪いらしいの。薬とか持ってない?」
その言葉を聞いて烏丸は薫の顔をチラッと見る。薫はそれに対してニヤッと笑い答えた。
「確かに顔色が悪いっすね。」
「なんか頭が痛くて…。」
「もしかしたら、あの流行病の可能性も…」
「え、何よその流行病って。」
曰く、発症したらほぼ死に至るというなんとも理不尽な流行病について説明する烏丸。勿論嘘である。
「そんな病気があるの!?じ、じゃあ早く病院に行かないと!」
「い、いやそんな対した事じゃ…ゲホッゲホッ!!」
「ほら!咳出てるじゃない!」
勿論わざとである。というかトリオン体で咳は出ない。
「というか薫、俺より年上って本当か?」
「え、はい。一応年は…。」
「…てっきり年下だと思ってました。」
「あぁ…まあ気にしなくて良いですよ?よく間違われます。今まで通り接してください。」
「そうか。なら薫もタメ口に変えてくれ。今になって違和感が凄い。」
「了解。じゃあ俺もとりまるって呼んだ方がいい?」
「いや何の話よ!!それどころじゃないでしょ!」
「「うるさい(っすよ)」」
急に話の方向が変わって呆気にとられてしまった小南。だが薫の体を気にして思わず割って入る。
「なんでよ!?コイツ咳もしてるんだから早く病院に!」
「トリオン体なんだから咳なんて出るわけないだろ。」
「そうっすよ。何言ってんすか?」
「へ?
「とりまるご飯食べに行かね?」
「悪い、そろそろバイトの時間だ。」
「そか、じゃあまた今度な。」
そう言ってその場を後にする烏丸。
「んじゃ俺もご飯食べてくるんで…。」
薫も呆気にとられている小南を置いてそそくさと退散しようとする。
「逃がすわけないでしょ!!また私の事騙して!!バツとして奢りなさい!!」
小南の悲しい叫びが響いていた。
「アンタ本当に師匠のことなんだと思ってるの…?」
「クソアマ」
「殴るわよ…?」
腹を満たすため食堂に来た2人。先程騙した刑で薫の奢りとなったことには不満な顔をしている。
「んで、何しきたんだよ。」
「弟子の様子を見に来たのよ。准から聞いたわよ?」
「あぁそういう事。」
何だかんだで面倒見がいい事を再認識する薫。天然でワガママで抜けている所は多いが、仲間思いなのだ。
「別に気にする事ないよ。もう終わった話だし。」
「ボコボコにした事を言ってるんじゃないの!本部の人達に何か言われる可能性もあるから心配してるんじゃない!」
「お互い納得して終わった話だし、多分平気でしょ。」
その言葉を聞いて楽観的ねと愚痴をこぼす小南。
「杠くん。今いいかしら?」
「ん、お疲れ。食べ終わってからでいい?」
「ええ、先に行って待ってるわ。小南先輩もお疲れ様です。」
あまりに自然に来て自然に約束を取り付けたのは、話の渦中にいる木虎だった。
「ず、随分と仲がいいのね?」
「別にそんなことないと思うけど?あんまり話さ無いし。」
あの会話量でお互いに内容を理解できるのであれば仲良くない訳が無いだろう。そう考えると負けた気がして無性にイラつく小南。
「アンタの師匠は私なんだから、もっと玉狛支部に来なさい!」
「りょーかい。迅にも言われてるから今度顔出すよ。」
「なら良いわ。あとこれ、ボスからよ。」
そのままファイリングされた資料を手渡される。そこに書かれているのは『B級昇格通知』であった。
「ども。」
「反応が薄い。ま、アンタの実力なら上がれて突然ね。今日の夜玉狛に来なさいよ?」
「え、なんで?」
「いいから来なさい!!」
そう言いながら席を立って行ってしまう小南。
「えぇ…。まあいいっか、近々行こうと思ってたし。」
場面は変わりランク戦ブースにやってきた薫。
「アイツいないじゃん…。」
いくら探しても木虎が見つからないのである。約束を破るような人柄でも無いためどうするかと考える薫。
「おーいモテ男、何してんだ?」
先程見捨てた出水が近づいてくる。
「うるせぇ馬鹿。木虎どこにいるか知らね?」
「お前には馬鹿って言われたくねぇわ。木虎のやつなら警報がなったから外行ったぞ?」
「警報?そんなの鳴ってたか?」
「ボーダー隊員ならちゃんと聞いとけよ…。まあ大分時間経ってるし問題ねーとは思うけど。」
その話をふーんと興味なさげに聞いている薫に思わず顔が引き攣る出水。
「暇してんなら俺が相手してやろーか?」
「えぇ…なんか嫌だ。」
「おい!どういう意味だコラ!」
「いやだって、とりあえず100本な?とかアホみたいな数言いそうじゃん。」
まさにその通りのため目が泳ぐ。
「分かった!なら5本で手を打つ!これならどうだ?」
「なんでお前が条件決める側になってんだよ。」
「お前はC級で俺はA級。これが答え。」
「え、お前そんなアホみたいな言動してA級なの?」
「よし、さっさとやるぞ?挽肉にしてやるからよ…。」
そう言ってブースに足を進める出水。
「んな勝手な…。まあ今から玉狛行っても誰もいないだろうし、いい時間潰しにはなるか。」
『んじゃ、5本勝負な。負けた方はコーラ奢りで。』
「はいはい。さっさとやんぞ。」
その言葉を皮切りにフィールドへ転送される。
「さて…アイツはどんな戦法を…っ!?」
開幕いきなり弾トリガーの弾幕が薫を襲う。
「あぶっ…ねぇ。」
咄嗟に横へ避け難を逃れる。
「今の避けんのかよ。いい反射神経してんなぁ…。」
「おいおい、弾トリガー使うなんて聞いてねぇぞ!?」
薫は遮蔽物に隠れながら弧月を握り直す。
「あぁ?何言ってんだ。俺はシューターだぜ?弾トリガー使わねぇで何使うってんだ。」
シールドがない状態でアタッカーがシューターの間合いを詰めるのは、相当な実力差が無いと厳しい。今回選ばれたマップは市街地。もし基本戦法を用いるのであれば遮蔽物に隠れながら接近するのがベターであろう。
「安心しろよ。俺が使うのはアステロイドだけだ。これで対等だろ?」
その台詞を聞けば何を馬鹿な…と言いたくなるであろう。
「ハハハ…お前それで負けたら、マジで言い訳出来ねぇからな?」
だが薫は違った。アステロイドだけであれば何とかなると結論付けたのである。
「言ってろ!!アステロイド!」
声のする方向へ再度弾幕を張る出水。
だが既にそこには薫おらず、周りに注意を払う。
(ま、こうなるよな。こっちが遠距離、あっちが近距離となれば、必然的に取る選択は隠密。どうにか注意を逸らして懐に入り込む作戦か?)
出水は薫の動きに思考を割いていると、近くの民家の屋根から音が鳴る。
「アステロイド!」
「ぐっ!?」
薫は確実に背後を取り、自身が望む近距離戦に持ち込めた。だがこの勝負においては出水の方が1枚上手であった。音のなった屋根に向けてアステロイドを放ったが、それと同時に自身の背後にもアステロイドを放っていた。
「やっぱりな!そう来ると思ったぜ!!」
予想外の反撃に腹部に被弾。致命傷にはならないが、少なくないトリオンが溢れる。
出水は再度弾幕を放つが何とか回避する薫。しかし無傷とはならず、左手が吹き飛ぶ。
「チッ…仕留め損なっちまった。」
薫は少し距離を取り落ち着く時間を作る。
「危なかった。俺の知らない弾の撃ち方しやがって…。」
息を吐き出しサイドエフェクトを最大活用する。
(とりあえず今ある情報から考えられる難関は2つ、どう距離を詰めるかと、詰めた後にどう仕留めるか。詰めた後の対応はまた情報が少ないから難しい。1本犠牲にして情報集めたいな。距離に関しては、弧月1本で乗り越えられる程A級は甘くないだろう。だから小細工無しの真正面から、ゴリ押しで潰す。これも1本は許容範囲かな?)
さて、と脳をクリアにする薫。
「やることをは決めた。後は…殺るだけだ。」
十字路に立ち、どこから攻撃が来ても対応出来るように神経を尖らしている出水。
「っ!?」
予想外の行動に面食らう出水。
薫は隠れるのでもなく、陽動するのでもなく、ただ真正面に立ったのだ。
「お前ってやつは…最っ高にアガらせてくれるな!!」
ある意味A級相手であれば舐められているとも取れるこの行動。出水は真逆の感情を持っていた。お互いに経験値が全く違うため、変な小細工は間違いなく対応される。ならば真正面から全力で。これは薫なりの敬意の表れであると捉えていた。
「アステロイド!!!」
それに応えるように容赦の無い弾幕を放つ出水。
(さぁ、モテ男!どう対応してくれるんだ!?)
「…ぎ、…らの…」
何かをボソボソ呟きながら弧月を構える。
出水のトリオンの暴力とも取れる弾幕が今かと迫る。薫はそれを…。
「シッ!!」
弧月で弾いた。
「マジかよ!!」
左手は使えないため100%弾くのは不可能。なので取捨選択を薫はしていた。急所及び機動力の元となる脚以外は被弾を無視していた。
「バケモンが!!アステロイド!!」
口では罵倒するが、内心出水は喜んでいた。自身とタイマンで打ち合える隊員はいる。だが、こんな形で向かってくる男は初めてだから。
(これは弾ける、コレもアレも…。よし、問題ない。)
薫のサイドエフェクトにより出水放つ弾幕の情報処理をする。メイントリガーのみであれば問題なく捌けると判断した。
「ちっ!避け始めやがって…!」
気づけば既に懐手前まで入り込んでいる薫。それを見た出水はバックステップをしながら迎撃。
「っ!!」
それを咄嗟にジャンプで回避。その勢いのまま弧月を振るおうとする薫。
「あっ…。」
「1手俺の勝ちだぜ!」
バックステップしながらの迎撃。それは全て打ち切らずに、時間差による初見殺しの射撃をお見舞いする。1本目は出水の引き出しの多さが勝った。
ーー戦闘体活動限界ーー
無慈悲なアナウンスが流れ薫はベイルアウトする。
「また知らない攻撃だ…。引き出しが多くて困るっての。」
思わず愚痴をこぼす薫だが、その表情は嬉々としている。
「思った以上の戦果だ。1本余裕できたし…。」
そう思考していると直ぐさまフィールドへ転送される。
開幕の弾幕を警戒したが、今回は来ない
「ふむ…。容赦ないな。」
逆に出水が隠れるような形になる。この場合最悪なのは…。
「まぁそう来るよな!!」
高所からの射撃。有利ポジションの有用性は言わずもがな、遠距離攻撃を持ちえない薫にはかなり厳しい状況である。
迫る弾幕を捌きながら出水が乗っている家の下に入り込むが、アステロイドの貫通性能を活かした壁抜きが薫を襲う。
「ちっ!」
(真正面からやるより、出処が見えないこっちの方が厄介か…。それならこういうのはどうだ?)
直ぐさま陣取った家下を破棄し、道路に飛び出る。
そんなチャンスを逃すはずもなく出水はすかさず射撃に入る。
(隠しているみたいだけど、この弾幕にはラグがある。狙いはソコだ。)
(って考えてるんだろうけど、その位置からどうやってここまで来るつもりだ?少なくともそんな隙は見せないぜ!)
出水は薫の思惑を読んでいた。読んだ上で対応出来ると考えているのである。そして来る、待ち望んだラグ。薫が取った行動は、
「フッ!!」
弧月を投げるであった。
「なっ!?」
流石の出水もこの選択肢は排除していた。圧倒的不利なこの状況を支えているのは弧月である以上、手放すのは自殺行為。あまりの予想外の行動ではあったが、流石はA級。難なく避ける。
「バカが!!アステロイド!!」
その一瞬を狙って薫は距離を詰めようとするが、出水の射撃が圧倒的に先。本人も獲った!と確信していたが、薫はそれに構わず直進。被弾はするが急所を外しており、ベイルアウトにはならない。
そしてもう一度生まれる射撃感覚のラグ。その間に出水のいる高所に辿り着く。
薫は弧月を、出水はアステロイドのキューブを展開する。
先を取ったのは…薫だった。
「シッ!!」
A級と何ら遜色ない抜刀速度で出水に切りかかる。だが、出水は避けることはしなかった。出水の取った行動は展開したキューブを、弧月の斬撃線上に向かって突き出した。
起きたのは爆発。展開前のキューブを暴発させることで起きたのである。ただでさえトリオン量の多い出水が発生させたキューブを暴発させたのだ。それ相応の爆発が起きる。
ーー戦闘体活動限界ーー
爆煙が晴れ、そこには右肩から下が吹き飛んでいる出水が残った。
(今のは運が良かっただけだ。たまたま体勢が良かったから爆発をモロに受けなかっただけ…。たった2本でここまで対応してくるとか冗談だろ?)
薫の化け物っぷりに心底震える出水。
5本勝負のため必然的に出水があと1本取れば薫の負けである。
『悪い、5分だけインターバルくれない?』
『あぁいいぜ。』
薫の提案に乗る出水。数分の出来事であるが、数時間と思える濃密な時間を過ごしたと錯覚してしまう程の試合だった。
「ったく…とんだバケモンが入ったもんだ。」
そう愚痴る出水だが、やはり表情は明るい。
「勿体ねぇ事しちまったぜ。やっぱり100本にするんだったなぁ。いや、フルのトリガーセットがある状態でやれば良かったか?」
今回はメインのアステロイド縛りでの戦い。これがもしバイパーやメテオラ、ハウンドも有りの戦闘であったらどうなっていただろうか?杠薫という男はどういう対応をしてくるのか?楽しみで楽しみで仕方なかった。
そんな未来にある楽しみを考えていると、インターバル終了のアナウンスがながれる。
「さて…楽しませてくれよモテ男。」
フィールド上に転送された2人。転送位置は互いに真正面である。距離的に考えれば圧倒的出水の有利だが、動けずにいた。
(マズったな。先手を取りたいが、射撃ラグを見抜かれた今、この距離だと不用意に撃てねぇ。取れる選択肢が多くない状況だからこそ、逆にアイツがどう動くかを見てから、どうやってバラ撒くか考えるのも一つの手だ。)
一見後手に回るような行動に見えるが、薫の脅威的な反射速度からどちらにせよ後手に回ってしまうと出水は確信していた。
「ふぅ…。」
「っ!」
ただ深く息を吐いただけ。第三者から見ればそう思うだろうが、当事者は違う。明らかに先程より威圧感が増しているのだ。
(来るッ!)
先に動き出したのは薫。それに反応するように出水もキューブを展開する。
「は?」
薫が取った選択肢は予想外なものであった。
「オラッ!!」
横にある電柱を弧月で切り、蹴り飛ばして来たのだ。
「ったく!やんちゃだな!!」
直ぐさまアステロイドで迎撃。もし先に薫に向けて弾幕を割いていたら、間違いなく致命的まで行かずとも体勢は崩れていた。
だが、薫に僅かであっても自由な時間を与えたのは事実。出水は何時でも動けるよう備えるが、薫の次手は出水に取っては最も最悪なものだった。
「マジか!!」
先程は電柱1本が襲ってきたが、次は2本。さらに所々バラけており、今の状況で100%撃ち落とすのは難しい。
瞬時にそう判断した出水は回避の行動に出るが、既に真横には薫がいる。
「そう来ると思ったぜ!!」
必ず詰めてくると確信していた出水は、電柱は無視。薫が居る方向とは真逆にバックステップをしながらアステロイドを放つ。
「奇遇だな、俺もそう思ってた。」
それをジャンプで回避。そのまま弧月でトドメを刺しに行く。
「学ばねぇな!モテ男!!」
1本目と全く同じ状況。空中にいる薫にアステロイドが襲う。
「学ばねぇのはどっちだ?」
「っ!?」
先程投げた電柱が、タイミング良く薫の元へ来る。それを足場にしてアステロイドを回避。出水の背後を取る形
になる。
再び出水を仕留めようと弧月を振るおうとする。誰もが薫が取ったと確信する場面だが、薫は別の事を考えていた。
(さっき背後に向けて撃たれた。時間差で展開してくる。コイツなら絶対に読み切ってるはずだ!)
薫はある意味出水の実力を信頼していた。故に必ず対応してくると考えていたのだ。そのため薫は浅く踏み込んでいた。何が来ても反応できるように。
だが出水は体を逸らすだけで、何が反撃をしてくる素振りがない。
(何も…してこない?)
スローになった思考の中、薫は困惑する。弧月は出水に当たりはしたが、踏み込みが浅いため決定打にはならなかった。
「っ!アステロイド!!」
中途半端に振り切ってしまったため、出水の反撃に対応出来ず被弾。
ーー戦闘体活動限界ーー
5本勝負…3-0で出水の勝利で幕を閉じた。
歌歩ちゃん出てこない回です。ごめんなさい