ちゅーちゅータコかいな? 作:烏の烏帽子
人は生まれを選べない。だからこそ、最初に得た手札で勝負する他ない。
「…………」
『…………』
どこからか零れ落ちる雫が、薄い水面に波紋を立てる。
薄暗く、しかし先を見通すには苦労をしないそんな世界で相対するのは対極的な両者だった。
片や、少年。年の頃は五歳前後か。ふくふくとした頬は、まだまだあどけなく手足も細くて頼りない。
片や、怪物。牛の様な頭部に、捻じれた四本の角。屈強な上半身と、それから八本の太いタコ足によって構成された下半身を持つ。
「…………うし?」
少年は首を傾げて問いかけた。
普通は見上げる程の怪物を前にして、そんな感想が出る辺り少年の感性は常人のソレとは大きく異なるらしい。
一方で怪物の方もまた、困ってしまう。
彼もまた、気付けばここに居た。
彼含めた九体の怪物は、何れも封印されてきた存在。その理由は、大抵は恐怖などの感情とそれから軍事利用のための道具。
だが、彼らもまた生きて、考えて、そして行動する生き物だ。そんな扱いを受け続ければ当然ながら不満も溜まる。
『……おい、ガキ』
「なに?」
『普通は、怖がるもんだろうが。オレみたいな化物前にして、何でそうも落ち着いてる』
「……?」
『いや、首を傾げてんじゃねぇよ…………ハァ、どうしてこうもオレの宿主ってのはこういう奴ばっかりなんだ?』
呆れたようにため息を吐く怪物だが、その口調とは裏腹に邪険に扱うような様子はない。
これは、彼の形成された性格の一端か。どこか甘くて、そして面倒見が良い。人ではないが、言葉の端々に人の良さとも言うべき部分が滲んでいた。
その一方で、首を傾げていた少年は徐に前へと足を進める。
小さな子供だ。向かい合うといえども、その距離はまあまあ有り。少しの時間が必要。
そして当然、怪物側も気づくわけで、
『おい、何してる?何で寄ってくる、待て、おい!』
怪物の制止を聞くことなく、少年は近付きその赤みがかった肌へと触れた。
鱗や毛皮の無い、ザラりとしながらも肉の厚みを感じさせるその肌。
撫でる様に触れる少年の柔肌が寧ろ負けてしまいそうなほどに確りとした感触だが、彼自身の行動理由は十分に果たせただろう。
「かたいね、うしさん」
『………………………………はぁぁぁぁぁ……………』
あどけない言葉への返事は、重い溜息。
自由人なのか、警戒心が無いのか、変人なのか。
恐らく全てだろう、と怪物は当たりを付けて徐にその大きな掌を広げて少年の前に置いた。
「………?」
『乗れ。そこでウロチョロされると、踏み潰しちまいそうだ』
こう言う所が、世話焼きと揶揄される点だろう。
大きな掌に載せられて、少年は怪物の頭の上へ。
「うしさん、おっきいね」
『言っても分からねぇと思うが、牛さんは止めろ…………牛鬼だ』
「ぎゅーき」
『言えてねぇな。で、お前の名前は何だ、ボウズ』
「ひゅーが。
『彪雅に、蜂、か…………これも、縁って奴か』
何もかもが分からないが、しかし怪物、牛鬼からすれば状況はどうあれこれからこの危機感の足りない少年と一蓮托生となるのだから。
かくして呪いの世界に舞い降りたるは、一匹の蛸と不思議ちゃん。
彼らの明日はどうなる事やら