ちゅーちゅータコかいな?   作:烏の烏帽子

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 呪術師。呪いをもって呪いを祓う彼らの歴史は、千年を超える。

 

「――――そもそも、呪いを視認し、その上で干渉できる人間というのが稀です。君の周りもそうではありませんでしたか?蜂谷君」

 

「んー……そっふね(そっすね)

 

「せめて、返事をするのなら飲み込んでからにしなさい。咀嚼中の口の中を見せられて嫌な思いをする人が出ないように」

 

「ンぐっ………うぃっす」

 

 シナモンロールに大口を開けて齧りつき、咀嚼する対面の少年を見やり、七海建人は眉間に深い皺を寄せていた。

 

 あの月下の邂逅の翌日。有言実行として、七海は彪雅を中学校にまで迎えに行った。無論、周囲への配慮を考え周りには目立たないように。

 蜂谷彪雅と名乗った少年を引き連れて、向かったのは喫茶店。

 話を聞く傍ら、ちょっとした飲み物と軽食を取る事になった。

 

「……んぐっ…………七海さん?も呪術師なんです?」

 

「ええ、そうです。稀、とは言いましたがそもそも日本国民内と考えれば、母数が多い。私の他にも呪術師は居ますよ」

 

「へぇー……で、俺もその呪術師にならなくちゃいけないんです?」

 

「私としては気が進みませんが………下手をすると君は、呪詛師として指名手配を受ける可能性があるんです」

 

「じゅそし?」

 

「主に、呪力を自分の私利私欲のために用いる人間を指します。要は、金のために人を殺すような人間ですね」

 

「む。流石に俺も、そんなことはしないんすけど」

 

「ええ、普通の感性を持っている人ならばそんな選択は採りません。ですが、呪術師は違います」

 

 そこで一度言葉を切り、七海はコーヒーを啜る。

 

「……呪力を持つ人間は、幼少期より虐待を受ける場合があります。そうでなくとも、周囲からの排斥は珍しくありません。周囲の環境によって歪み、結果呪詛師へと成ってしまう場合があるんです」

 

 いつの時代も少数派というのは排斥されていくものだ。最大多数の最大幸福、という言葉などその最たる例だろう。

 だからこそ、七海は不思議に思った。

 

「君は、変わっていますね。いえ、悪い訳ではありませんが」

 

「そっすか?」

 

『ドが付く変人だろ』

 

「(牛鬼うっさい)」

 

 内側で爆笑する牛鬼に内心で舌を出しながら、彪雅はぶすくれる。

 彼が変わっていながらも歪んでいかなかったのは、心を許せる保護者(牛鬼)が居たお陰だろう。

 何せ、彼には隠し事などまず出来ないのだから。

 

 シナモンロールを食べ終えて、ふと彪雅はある事に気が付いた。

 

「(なあ、牛鬼)」

 

『どうした』

 

「(アレって、七海さんの知り合いかな)」

 

『あ?』

 

 彪雅が見つけたのは、店の外。通りに面した大きな窓の近くで手を振る不審者が居るからだ。

 目の前の少年の視線の動きに気付いた七海がつられてそちらを見れば、その眉間には深々と皺が寄る。

 

「知り合い?」

 

「ええ、まあ……」

 

 眉間を揉む七海の言葉には、拭いきれない苦みが滲む。

 好きか嫌いかで問われれば、お近づきになりたくない。彼のなす事、対岸の火事であってほしい。頼りに出来るが、尊敬は出来ない。人間のクズ。

 散々に言われる、目隠し箒頭の全身黒づくめ。

 役満野郎ではあるが、しかしその一方で無視しきれる相手でもない。

 現に、

 

「おいっす~、いやー奇遇だね七海♪」

 

 周りの目など気にした様子もなく、不審者は喫茶店へとズカズカ入って来ると四人掛けの席であったのが運の尽き、七海の隣の席へと腰を下ろしてしまう。

 

「……何してるんですか、五条さん」

 

「うん?まあ、僕も丁度仕事が一つ終わった所でさ。甘いものでも食べようかと思ったら、丁度良くこの店に知った顔が居たからさ。なになに?七海ってばナンパ…………おろ?」

 

 七海をからかうようにして、彼の対面へと座る少年へと目をやって、そこで五条悟は驚いたように首を傾げた。

 そして徐に、その目元を覆う黒い目隠しを上へとずらす。

 露になるのは、アクアマリンをそのまま削り出して創り出し嵌め込んだような鮮やかな瞳だ。

 

「…………へぇ、こりゃ凄いね。純粋な呪力量は僕よりも上かな。憂太並み、いやもしかしたらそれ以上かも。それに術式も随分と……良いね。七海、スカウトしてんの?」

 

「ッ……ちょうど、その話を切り出そうとしている所で、貴方が来たんです」

 

「んじゃ、ナイスタイミングって奴じゃない。君、名前は?」

 

「へ?蜂谷彪雅っスけど」

 

「ほんほん、それじゃあ彪雅。君、呪術師になっちゃわない?」

 

 目隠しを戻して、おどける様に両手の人差し指を向けて五条はにんまりと笑う。

 

「七海が話をしようって思えるなら、人柄は問題ないでしょ。その制服って近くの中学のだよね。彪雅、何年生?」

 

「一応三年っす」

 

「んじゃ、そのまま東京の呪術高専に入っちゃおう。彪雅の他に新入生が二人居るんだけど、男の子と女の子だよ」

 

「ちょっと五条さん」

 

「七海。この子の事を思うなら、こっちで囲い込むべきだよ。さっきも言ったけど、彪雅の呪力量は半端じゃない。憂太並みかそれ以上何て、よくもまあ今まで見つかってこなかったって言えるレベルなんだよ?上に持っていかれるのは面白くないし」

 

「……本心は一番最後でしょう」

 

 眉間を揉む七海。スカウトをするつもりではあっても、あくまでも相手の自由意思を尊重するつもりだった彼だが、それも五条の登場でご破算となってしまった。

 

 一方で、彪雅は牛鬼と相談中。

 

「(どう思う?)」

 

『オレとしては、受けてもいいと思う。オレもお前も、呪霊ってのはよく分からねぇし、その知識を正しく得られるのならそっちが良いだろ』

 

「(…………それもそっか)」

 

『それに、ここで断った孤軍奮闘、なんて事態になったら目も当てられねぇだろ?特にこの目隠し野郎はかなり強いぞ』

 

「(うん、それは分かる)」

 

 彪雅と牛鬼の共通認識。

 

 目の前の男(五条悟)は、強い。

 

 勝てる勝てないは微妙な所だが、もし仮にこの誘いを断ってその結果五条と戦う事になったならばそれが一番面倒くさい。

 という訳で、

 

「んじゃ、願書ください。あと、何点ぐらいでその高専?に行けます?」

 

 受験生らしく正攻法(受験)しようかな、と思ってみたり。

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