ちゅーちゅータコかいな?   作:烏の烏帽子

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 呪術高専。呪術師を養成する場であり、同時に呪術師たちの拠点としても扱われる場所だ。

 ここで生徒たちは寮で暮らし、力を付けていくことになる。

 

「伏黒って、体術苦手な感じ?」

 

 グラウンドにて、彪雅は顎を撫でながら問いかける。

 彼の足元では仰向けに大の字で倒れた伏黒が忙しなく息をしながら、どうにかこうにか呼吸を整えている所。

 彼らの担任である五条悟だが、彼は日本でも三人しかいない特級術師の一人。仕事が多忙で、何かといない事も多かった。

 その為空き時間があるのだが、二人はその暇を利用して組手を行っていたのだ。

 

「式神主体だからって、本体が貧弱じゃダメだろお?」

 

「ハァ……!ハァ……!誰が、貧弱だ……!」

 

「だったら一発でも真面に入れてみな~」

 

 ニヤニヤと見下ろしてくる彪雅に、伏黒は何も言えなかった。

 事実、組手を初めて三十分ほど経過しているが真面な一発は一度も決めきれていない。

 

 伏黒自身が弱いという訳では無い。少なくとも、彼は一人で不良の群れを叩きのめすことが出来る程度には一般人より上。

 だが、呪術師として見ればどうだろうか。

 身体能力は平均か、少し上。体術も鍛えてはいる、が専門家に比べれば劣る。

 

「(筋は悪くないけどなァ)」

 

『まあ、お前は基本的に、ビーや雷影相手に鍛錬してたからな』

 

「(雷筋肉、マジ怖い)」

 

 それは、彪雅の強さの秘密。

 肉体を鍛える事はしているが、それだけでは戦闘勘というものは鍛えられない。

 その一助となっているのが、内在闘争とでも言うべき牛鬼が行う戦闘訓練だ。

 訓練と侮るなかれ。牛鬼の居る空間は広く、そこで彼の記憶に則って創り出した本物に限りなく近い実力を有したタコ墨分身を使って永遠組手を敢行するのだから。

 因みに負けると一時間は気絶する事になる。

 

「(というか、ビーさん凄いよな。七刀流とか、普通しないよ)」

 

『最初は、真面な数だったんだけどな。二本とか、三本とか。年々本数が増えて、気付けばアレだ』

 

「(肘とかは兎も角、首に挟むの怖くない?あの刀って切れ味凄いしさ)」

 

『まあ……剣の扱いに関しちゃ、アイツは天才的だったしな』

 

 呆れた雰囲気はあるが、牛鬼の声には喜色が宿っていた。

 やはり、ビーことキラービー(先代相棒)の存在は牛鬼の中で大きいのだろう。

 二人が言葉を交わす中、漸く伏黒の息が整ったのかふらつきながらも立ち上がる。

 

「……行くぞ!」

 

「不意打ちなら、黙ってやりな」

 

 突き出された左ストレートは、大きな開かれた右手の平に止められた。

 そして握られる。

 

「こうなるからな!」

 

「ッ!」

 

 掴まれた左拳ごと腕を引かれ、体勢を崩した直後に襲い掛かる彪雅の左拳。

 咄嗟に右腕で防御を固めた伏黒。だが、いつまで待っても衝撃は襲って来ない。

 代わりに掴まれるのは、その胸倉。

 

「姿勢崩したからって、殴るだけが能じゃねぇんだぜ!」

 

「ぐっ!?」

 

 敢行される、力任せの背負い投げ。グラウンドに叩きつけられる伏黒。

 そして、彼の頭の近くに腰を下ろした彪雅は黒いツンツン頭を突っついた。

 

「甘いぜー、伏黒ー。投げ技も気を付けねぇと。あの状況になったら、俺ならお前の肘へし折ってからぶん投げるんだからな」

 

「ゲホッ!ゲホッ!……ハァ……ハァ……」

 

「後、踏み込みが軽いね。走りながら打ち込むってのは速度は出るんだけどさ、体が流れるんだよね。そうなると、外した時とか止められた時危ないんだよね」

 

 ご高説を垂れる彪雅。だが、コレは何もプライドを慰める様な理由からの行動ではなかった。

 

 経験談だ。具体的には、細かな反復練習に飽きてしまった彪雅へと牛鬼が新たな壁として差し向けたタコ墨分身にボコられた時の経験。

 思い出すだけでも目が死ぬ。

 

「(絶牛雷犂熱刀(ダブルラリアット))が……!絶牛雷犂熱刀が迫ってくる……!雷牙爆弾(ライガボム)はアカン!?死ぬぅ……!」

 

『トラウマになってんな』

 

 分身といえども、体術に括れば相当な使い手である筋肉雷おじさん(四代目雷影)

 文字通り雷速で迫る、パワーとスピードを両立した筋肉達磨。何度撥ね飛ばされたのか、彪雅は考えるだけでも頭痛がする思いだ。

 

「――――よう、一年。面白そうな事してんじゃねぇか」

 

 声が掛けられる。

 顔を上げれば、校舎へと続く階段の上に四人?居た。

 

「……誰だ?」

 

「ハァ……ハァ………先輩たちだ」

 

 彪雅の問いに答えたのは、上体を起こした伏黒だった。

 

「先輩?」

 

「二年生のな」

 

「へぇー。先輩たちは、四人だけなんだ」

 

「私らの上に、あと二人居るぞ。どっちもやらかして停学中だ」

 

 代表の様に答えたのは、眼鏡をかけたポニーテールの女生徒。

 

「一年、名前は?」

 

「蜂谷彪雅っす。よろしくセンパイ」

 

「軽い奴だな……禪院真希だ。名字で呼ぶなよ?」

 

「うぃっす、真希センパイ!」

 

「よし」

 

 頷いた真希と入れ替わる様に前に出てきたのは、二人の少年。

 

「しゃけ」

 

「ちょ、狗巻君。初めからそれは……」

 

「……サーモン?」

 

「!しゃけ」

 

「サーモン!」

 

 彪雅と口元を隠した少年はハイタッチ。

 二人の様子に、真希は眉を上げて伏黒へと水を向ける。

 

「……変わってんな。棘相手にあそこまで物怖じしない奴は、そう居ねぇぞ」

 

「ええ、まあ……」

 

「それに、根明だな。呪術師にはあんまり居ないタイプだ」

 

「五条先生の話じゃ、蜂谷の呪力量は自分より上だそうです」

 

「!悟よりもか?」

 

「はい……実際に見ましたけど、俺よりも上でしょうね」

 

 伏黒が思い出していたのは、先の廃業した旅館での一幕。

 実は、彼も高専へと戻って来てから彪雅を真似て螺旋丸を作ってみようとした。

 

 結論から言えば、失敗。身体強化だったり、拳を覆う程度は出来たが体から切り離す様に呪力を掌に集めて乱回転させて圧縮などとてもではないが出来なかった。

 オマケに、たったそれだけで呪力を大分消費してしまう。

 式神使いである伏黒の呪力量は、そこまで少ない訳では無い。これは単に、彪雅の持つ呪力量が通常の呪術師を大きく上回り過ぎているだけ。

 

 そんな彼はというと、

 

「僕は、乙骨憂太。よろしくね、蜂谷君」

 

「うっす、乙骨センパイ。で、しゃけセンパイは……」

 

「彼は狗巻棘。語彙がおにぎりの具材でしか話せないんだけど……」

 

「しゃけ」

 

「えっと、悪い人じゃないから……」

 

「おいおい、憂太。そこは、棘が呪言師って事伝えとけよな」

 

「……キグルミ?」

 

「俺は、パンダ。彪雅は、呪骸って分かるか?」

 

「じゅがい?」

 

「オッケー、その反応で十分だわ。要は、呪いを込めた人形で、俺は自立して動けてるって訳」

 

「へー……よく分かんないけど、凄いんすね。パンダセンパイで良いんすか?」

 

「おう……つーか、やっぱ変わってんなオマエ。普通、俺みたいな人形とか、棘が話しかけてきたら困惑するだろ」

 

「?見た目が違おうが、言葉が変わっていようが歩み寄って来てくれる相手を邪険にする訳ないでしょ。寧ろ、棘センパイとかパンダセンパイからしたら俺みたいなのが嫌じゃないですかね?結構ずばずば行きますよ?」

 

「俺も棘もんな事気にしねーって」

 

「そうですかね?んじゃあ、乙骨センパイ」

 

「え、僕?な、何かな?」

 

「いや、大した事じゃないんですけどね?乙骨センパイの呪力量がスッゲーなと思って」

 

「彪雅、オマエ呪力が見えるのか?」

 

「見えるってーか、感じるってーか……肌がゾワゾワする感じって分かります?それっす」

 

 彪雅の言う感覚は、常に覚えるものではない。直近ならば、五条位だろうか。

 

「まあ、憂太は特級だしな。呪力量も悟より多いし……呪力感知もザルだし」

 

「しゃけ」

 

「こいつの場合は、呪力が多すぎで逆に他の感覚が鈍いんだよ。彪雅は、んな事になるなよ?」

 

 彪雅の後ろから肩を組んで、真希は乙骨を指さした。

 指を差された側の乙骨も、自覚はあるのか苦笑い。

 

 この後、彪雅もまた特級相当であると伏黒の口から漏れたり、馬鹿目隠しが絡んできたりするのだが、新一年生と二年の顔合わせはおおむね上手くいったのだった。

 

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