ちゅーちゅータコかいな?   作:烏の烏帽子

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 つくづくタイミングが悪い。

 呪力に因る身体強化を最大にして、彪雅は曇り空の街を駆けていた。

 

 事の発端は、今回呪術高専一年生に割り振られた任務にあった。

 呪胎と呼ばれる、所謂呪霊の元となる存在が少年院に出現。変化型と称されるそれは、高確率で特級相当の呪霊が現れるとされ本来ならば五条悟に回される任務だった。

 

 だが、五条は遠方への出張へ。そして特級にも対応できるであろう彪雅もまた別の任務を振り分けられて別の場所へと離されてしまった。

 嫌な予感がした。だから、彪雅は自分の勘に従って事後処理を補助監督へと放り投げて三人が向かったであろう少年院へと駆けている。

 

『ヒューガ、尾獣化しろ。ver2にならねぇなら、周りの被害もほぼ無い』

 

「おう!」

 

 ポコポコと、気泡のような音と共に彪雅の全身を象り覆う()()()()()

 八本の尾が揺れる、()()()()。同時に、彪雅の犬歯が伸びて爪は鋭いモノへと変化していた。

 

 次に踏み出した一歩は、宛ら爆発。呪力強化とは比べ物にならない加速を持って彼の体は砲弾の様に空を駆け抜けていく。

 

『どう思う、ヒューガ。誰が狙われた?』

 

「十中八九、虎杖!それに加えて、伏黒と釘崎が大怪我するか死ぬことになれば、五条先生の立場も悪くなるしね!」

 

『虎杖でこの対応なら、オレの事が公になればお前も殺されそうだな』

 

「その時は、上皆殺しにして逃げ回るさ!…………見えた!」

 

 一際大きな跳躍の中で、彪雅は下ろされた帳を視認。

 瞬間、八本の尾をもって空を叩いた。

 空気抵抗を利用した加速は、彪雅の体を一直線に帳の方向へと弾き飛ばす事になる。

 

 “帳”は、呪術師が活動する上で周りの被害を考えないように動くために必要な一種の結界。

 あくまでも目隠しとあぶり出しが主な使用方法で、条件付けを細かくすれば壁として機能させる事が可能だが一応侵入はいつでも可能。

 一分一秒が惜しい。彪雅は少年院前で気をもむ伊地知や、同期の釘崎野薔薇を無視して帳の中へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――虎杖(小僧)を人質とする」

 

 (虎杖)の心臓を抉りだし、両面宿儺は悪意を持って嗤う。

 少年院に現れた特級呪霊。この対応のために、虎杖は宿儺と変わってコレを打破。

 だが、変わった後のことを考えていなかったためにそのまま肉体の主導権を奪われ、負傷した釘崎を伊地知に預けた伏黒と相対する事になった。

 恐怖はある。そもそも、この少年院に現れた呪霊相手ですら血の気が引き、尚且つ自身の扱う式神の一体を破壊されている。

 その呪霊よりも、更に遥かに強い不完全とはいえ、伝説の存在(両面宿儺)。悪意を持って襲い掛かって来るのだからどうしようもない。

 手が震え、それでも呪力を練り、

 

「――――弩露風鬼苦(ドロップキック)!!!」

 

 後ろから飛んできた何かが宿儺へと着弾。その体を大きく蹴り飛ばしていた。

 盛大に、少年院の建物の一角を粉砕し粉塵の向こうへと消えた宿儺。

 そして、

 

「間に合…………ってないな。悪い、遅くなったよ」

 

「は、蜂谷」

 

 冗談めかして、シュッと右手の人差し指と中指を立てる彪雅がそこに居た。

 だが、常の軽さはそこには無い。

 何より、

 

「それは……なんだ?」

 

「後で教えてやるよ。まずは、あっちをボコすのが先だろ」

 

 紅いオーラ。呪力なのかどうかも分からないが、伏黒は本能的に生物的な格の違いというものを犇々と感じ知らずの内に息が詰まってしまう。

 この絶対強者に相対するのは、やはり絶対強者のみ。

 

「貴様か、小僧」

 

「ありゃー、頑丈だ。腕位吹っ飛んだと思ったけど」

 

「たわけめ。反転術式だ」

 

 瓦礫を蹴り分けて現れる宿儺の体には、先程心臓を引き抜いた胸の穴以外に傷は見られない。

 しかし、言葉をそのまま信じるのなら彼の腕は先の彪雅の一撃で吹っ飛んでいたのだろう。

 

「なんだ、ソレは」

 

「おいおい、質問ばっかりだな。伏黒も虎杖も……あ、違う。お前、宿儺か」

 

「問いに応えろ」

 

「後で種明かししてやるから――――」

 

 大人しく戻れ。そう言い切る前に、彪雅は己の腹を抉ろうとした貫手を手首を掴んで止めていた。

 

「今は気分が良い。少しは遊ばせろ」

 

「めんどくせぇ奴だなぁ。さっさと傷塞いで、虎杖に体返せよ」

 

「ケヒッ……やってみせろ!」

 

 貫手が放され始まる乱打戦。

 もっとも、

 

「ぶっ……」(こいつ)

 

「軽いなァ、呪いの王様!!」

 

 現状の宿儺が、紅いオーラを纏う状態(尾獣化)の彪雅に勝る道理はない。

 殴り返されれば膝が揺れて吹っ飛び。仕掛けた攻撃も、まるで頑丈すぎる水風船を殴っているかのように明確な手応えが無い。

 

(呪力を纏い、肉体を強化する術式か?いや、コレはそんな段階のものではないな……チッ、()()俺では足りんか)

 

 天上天下唯我独尊である宿儺だが、しかし驕りばかりではない。

 正確に相手の戦力を把握する頭脳も持ち合わせているのだ。表立たないのは、偏にその実力に因る所が大きい。

 

「小僧……いや、蜂谷彪雅だったか」

 

「おろ?俺の名前覚えてたんだな」

 

「名というのは、呪術において重要な意味を持つ要素だ……いや、今は良い。蜂谷彪雅、貴様は何故その力を持ちながら、何故振るわない?」

 

「……何だよ、急に」

 

「貴様が本気なら、この国程度容易く終わっているだろう?なに、単なる戯れだ」

 

「本っ当に面倒な奴……」

 

 鋭い爪で後頭部を掻く彪雅。

 

「んなもん、無駄でしかないからだろ」

 

「ほう?」

 

「皆殺しにして、国滅ぼして、一人になる。……で?その先に何がある?詰まんねぇでしょ、そんな世界」

 

 いつも通りの軽い調子ながらも、言葉は真面目。

 そして、本心だった。

 牛鬼の力があれば、国を、世界を滅ぼすなんて簡単にできるだろう。

 だが、出来るからと言って行動に移すのか、というのはまた別の問題だ。

 

「化物にだって決める権利はあるのさ。そして(化物)は、世界を存続させる方が良いし、人が生きている世界を残した方が良いと思った。だから怪物(呪霊)を狩るし、秩序を破壊しない。理由なんて、そんなもんで十分だろ?」

 

「……詰まらん奴め」

 

「詰まんねぇのはお前だろ。馬鹿の一つ覚えみてんぇに、殺す殺す言ってんじゃないの」

 

 語彙がねぇのか?と嘲る彪雅に、宿儺の蟀谷に青筋が浮かぶ。

 一歩踏み出し、

 

「――――イカレてるな、お前」

 

「……」

 

「普通なら、その選択はしないよ。少なくとも、俺はしない」

 

「……」

 

「それでよかったのか?暫くすれば、宿儺をボコって助かったかもしれないぞ?」

 

「んー……ま、そうかもしれねぇけど。ケジメっつうか……二人は無事、だよな?」

 

「ああ。釘崎は怪我してたみたいだけど、伏黒は俺が追い返したし」

 

「そっか……伏黒と釘崎に長生きしろよって伝えといてくんね?」

 

「俺と先生には無い訳?」

 

「へへっ……二人は何か、大丈夫そうだし……ごふっ……悪い、そろそろだわ」

 

 そういって、虎杖悠仁はうつ伏せに倒れ込む。

 

 降りて悔やむは、涙雨。

 

「ハァ……」

 

 命は、指の隙間から零れ落ちていく。

 

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