アニメこのすば爆焔を見ていたらまた書きたくなったと容疑者は供述しており………、
──────どうしてこうなった。
そんな疑問と共に心地よい穏やかな風が吹き、目の前の何処までも見渡せる草原を駆けてゆく。
視界いっぱいに広がる平原の中でちらほらと立っている木や草花がそよそよと風を受けており。
太陽の光を体全体に浴びているその様は、生命の営みを強く感じさせる。
さらにどうやら近くに小川でも流れているらしい。
どこからか水の流れる音が小さく聞こえてくるのが分かった。
もし休日などピクニックで訪れれば充実した時間を過ごせることは間違いないだろう。
「………すぅ………すぅ………カズマ、最高級の魔力向上ポーションを惜しみなく使っての爆裂魔法はどうですか?…………え?素晴らしい120点以上?………ありがとうございます!ありがとうございます!…………すやぁ」
しかし今度はその視線を後ろに向けてみる。
するとどうだろうか。そこには先程ののどかな空間とはガラリと雰囲気が変わっており。
鬱蒼と木々が生い茂る森がどんよりとした様子で存在していた。
中は大きく育っている木のせいだろうか、光が遮られており何も見えず不気味な様子を醸し出している。
人の手が入っていないということは明らかで、辺りには目立つような建造物はおろか人の気配すらない。
「………うぅん……か、カズマ……こ、こんな皆が見ている所でなんて鬼畜なことを……!くっ、私は決して屈しないぞ!………だがこのシチュエーションもそれはそれで………くぅ!………むにゃむにゃ」
ふと、自分の足元に視線を落とす。
そこにはこの場には不釣り合いの目立つ水晶のトロフィーのようなものがあり………ワイングラスを少し大きくして左右に取っ手をつけたような形である。
俺が片手で持てそうなそれには何やら豪華な装飾が施してあり。
真ん中にはそれだけでいったい幾らになるのか、高級そうな紅い宝石が輝いていた。
草原の中で明らかに目立つそれは俺が視線を向けてもピクリとも微動だにせず。
地面にぽつんと佇んでその様はまるで役目を果たしたかのようで。
ただただあるがままに沈黙しており────、
「くかー……くかー……むにゃむにゃ、カズマいきなり泣いきながら土下座してどうしたのよ?………え?私の女神としての素晴らしさにようやく気づいた?………お詫びとして全財産使って最高級酒を買ったから好きに飲んでいい?………ようやくカズマも私の偉大さに気がついたのね!これからは私を敬いながら過ごすのよ!でへへ…………くかー」
──────その周りには俺のパーティメンバーが口々に好き勝手な寝言を言いながら草原の上にそれぞれ寝転がっていた。
……………。
……………さて、ようやく今の現状を把握してきた上でもう一度だけ言わせて欲しい。
「…………どうしてこうなった!!」
知らない場所で倒れているパーティーメンバーを横目に俺はそう叫び。
そして先程までの出来事を思い浮かべた────。
◇◆□■○●◇◆□■○●◇◆□■○●
俺の名前は佐藤和真。
数多の魔王軍幹部を倒しアクセルの街ではちょっと英雄的な存在である俺なのだが。
この日はめずらしく早起きをしてアクア、めぐみん、ダクネス達と共にウィズの店へと向かっていた。
「ちょっとカズマー、なんでいきなり今日はあんな腐れ悪魔なんかがいる店に行くとか言い出したのよ。昨日は冒険から帰ってきた後、疲れたから明日は昼過ぎまで寝て過ごすんだー、とか言ってたじゃない」
「だからさっきも言っただろうが。俺の言った商品が完成したからバニルに見に来て欲しいって言われたんだよ。正直、俺だって昨日眠る前にめぐみんに言われて面倒さくいと思ったけど、楽して金を得る為に布団の魔力から頑張って抜け出したんだからな。むしろ褒めて欲しいぐらいだ。」
「いや、ちょっと何言ってるか分かんないだけど」
そう。前に俺はここの悪魔バニルと、とある商品を開発し契約をしたのだ。
契約と言っても悪魔のアレコレとかではなく、きちんとした商品の売買に関することだ。
その契約の内容を簡単に言えば俺が新しい商品のアイデアを作って提供する変わりに、バニルが改良しこの店で売るというものである。
物自体は完成しているから完成するのはすぐだと考えたんだが、思ったより改良に時間がかかったらしい。
俺がいろいろな事に巻き込まれたりしてすっかり忘れていたんだが、それをどうやらめぐみんとダクネスが一緒に昨日買い物している時に俺に伝える様にとバニルに言われたようだ。
どうせ今日はする事もなかったのでちょうど良いと思いウィズの店へ来たのだが………。
そういえば何故めぐみんとダクネスはともかく何故こいつまでついてきたのだろうか?
「アクア、そんなにあんまり文句ばかりたれないでください。というかそんなに言うなら家で待ってれば良かったではないですか。先程までソファの上でゼル帝の世話をしてたのに、いきなり自分も行くと言い出して。いったいどうしたんですか?」
「ほら、あの下水の匂いがする悪魔から私の仲間に変な呪いをかけられたらと思うといてもたってもいられなくてね、カズマ達だけだと心配だから着いてきたのよ。この女神である私の目が光るうちにそんな事をしたら、悪魔だろうが何だろうが即滅っさしてやるわ!全くカズマも行く時は一言ぐらい声をかけなさい!」
こいつが来ると余計な事にしかならないからと放っていたのだが。
「そ、そうですか。………あっ!ほらウィズの店に着きましたよ。中に入りましょう。」
自分を女神呼ばわりするアクアにめぐみんは可哀想な人を見る目でそう返事していたがどうやらアクアは気づかなかったらしい。
アクアが先頭に立ち店の中へと入ると、ウィズが箒を持って立っていた。
どうやら店の中の掃除をしていたようだ。扉の音に気づいたのか顔を上げて、
「あっ、いらっしゃいま………ってアクア様じゃないですか!」
と、途中で気付いたのかウィズはびっくりした声を上げた。
するとアクアは何の迷いもなく店に中のイスとテーブルがある所に歩いて行き、さも当然かの様に椅子に座った所でアクアが、
「ウィズー、私ここに来るまでに喉が乾いちゃったから冷たい紅茶が飲みたいんだけどー!」
「は、はい!今、持って来るのでちょっとまってて下さい!………あっ、カズマさん達もどうぞ席へ!」
「あ、ありがとう……なあウィズ、嫌なら嫌ってはっきり言っていいんだぞ?」
「いえ、大丈夫です。いつものことですから……」
あまりにも自然にアクアの相手をするウィズにそう言うが、逆に断られてしまった。
アクアがちょくちょくウィズの店に出かけているのは知っていたが、まさかここまで図々しくなっているとは。
今度一緒に来た時は菓子を持ってアクアに頭を下げさせよう。
そう思いながら俺は呑気そうに店の花に水をあげているアクアの横の席へ座る。
そして、奥から戻って来たウィズが持ってきた紅茶をアクアに注いでいく。
するとダクネスがふと何か気になったのか店の中をキョロキョロしながら、
「そう言えば、件のバニルの奴はどこにいるんだ?先程から姿が見えないようだが。いや、まあ会ったところでどうせまた変にからかわれるから会いたくはないんだが………」
と、嫌そうな顔でウィズに質問した。
ダクネスはドMの癖にバニルからの羞恥心を攻めた発言は嫌らしい。
求めているものとは別ジャンルだからとかこの前顔を真っ赤にしながら言っていたが、ぶっちゃけ何が違うのか分からん。
というか確かに肝心のバニルの姿が見えないが。
すると中身が水だとアクアに絡まれていたウィズがハッと気づいたような顔をして、俺たちの方を向き
「すいません皆さん!どうやらバニルさんはつい先程いきなり大切な商談が入ったようで、
『フハハハハ、スマンが急を要する大切な商談が入ったのでな。吾輩は今からそっちに行ってくる。あの小僧にはまた今度、完成品を見せてやると伝えておけ、後、金庫の中にある金は決して使うんじゃないぞ、決してな!』
と言って急にいきなり出かけてしまいました……。」
そう言ってウィズはあんまり似てないバニルの真似をして、尻すぼみになりながらそう答えた。
「なんかダチョウ倶楽部みたいだな。」
「ダチョウ………?確か、モンスターにダッチョウカラブというのは居ますが………」
「ああいやこっちの話、っていうかあいつ呼び出しておいて別の商談行ったのかよ。折角朝早くから起きたってのに」
「はい、すみません………。私からも後でバニルさんに叱っておきます。折角皆さん全員で来て頂いたのに………」
そう言って申し訳なさそうに肩を小さくして謝るウィズ。
悪いのはバニルなんだからそこまで気にしなくてもいいと思うが。……まあそこがウィズの良いところでもあるだろう。
「いや、ウィズが謝ることじゃないよ………ちなみに疑問なんだけどそのダッチョウカラブってどういうモンスターなんだ?」
とりあえず俺は話題を変えるため先程から気になっていた何となくダチョウ倶楽部と似ている名前のモンスターについて質問する。
するとウィズはキョトンとした顔をしたが俺の意図を察したのかクスッと笑って。
「ダッチョウカラブですか?そうですね……このモンスターの生態として何故か自らの群れの中から生贄を一体選びマグマの近くに近寄らせるという習性があるんですが、その群れの中で一番マグマに近づいた生贄の様な一体がチラチラと後ろを確認しながらまるで『押すなよ、絶対押すなよ!』的な感じで少しずつマグマに近づき、最終的に群れの中のボスがマグマに突き落とすという残虐性溢れるモンスターです。」
「いや恐ろしすぎる!」
怖っ!なんだその生態と性根がねじ曲がってるモンスターは。生贄にされるやつが可哀想すぎるだろ。
というかそれ絶対名前付けたの元の世界の奴じゃねーか。
そんな確信を持ちつつもとりあえずこれからどうしようかと考える。
実は今日は結構時間がかかると思っていたから、特に何も予定を入れていないのだ。
仕方ない。今日のところは屋敷に戻って二度寝でも…………あれ?
「なあウィズ、この店にあんな水晶で出来たトロフィーみたいなやつってあったけ?」
俺が指を指した先には真ん中に赤い宝石のついたトロフィーのような物が飾ってあった。
なんだろうあれ、確か前来たときには無かったと思うけど………。というか見た感じめちゃくちゃ高そうだが。
そんなことを疑問に思いウィズに聞いてみる。
するとさっきまでとは打って変わって目を輝かせて嬉々とした表情で勢い良く喋り始めた。
「さすがカズマさんお目が高い!実はそれバニルさんが出掛けた後直ぐ知り合いの商品を売ってくれる商人の方が来て特別に私に売ってくれた物なんです! その商人が言うには、どうやらその昔、勇者候補の方が使っていた特殊な転移の魔道具のようで、私の見る目によると、とんでもない量の魔力が内包されているんですよ!通常、転移の魔道具と言ったものは五億エリスほどしますが、特別に三億エリスにまけてもらいました! 」
ウィズはそこまで一気に喋った後一息ついて。
「いやぁ、実に良い買い物をしました」
と、実に嬉しそうに言った。
………なるほど、だから前来た時には見かけなかったのか。
しかし俺は聞いていてひとつ気になった質問を………もうなんとなく察しているが………ウィズに問いかけた。
「……その魔道具を買うためのお金はどうしたんだ?」
そう聞くとウィズは少し暗い顔をしたが、直ぐに笑顔になって俺の質問に返答した。
「はい!大変心苦しかったですが、金庫のお金を使いました………、けどこれは本当に良い物なんです!バニルさんも説明すれば分かってくれるはずです!」
そう言って嬉しそうな表情で喋るウィズを前に、俺は金庫の前で打ちひしがれるバニルの姿を見たような気がした。
「……さすがにちょっとあいつに同情するわね」
「……そうですね」
「……そうだな」
そんな事を呟いているアクア達を尻目に俺はウィズにそれ以上の追求をやめ、その転移の魔道具とやらを触ってみても構わないか聞いてみた。
「はい、構いませんよ。けれど見た目よりとても軽いので落とさないように気をつけてください」
「おーけー分かった……おぉ、確かにめちゃくちゃ軽いな、水に入れたら浮くんじゃないかこれ?」
びっくりした。確かに見た目こそ水晶のようだが持ってみたら発泡スチロール並に軽い。
なるほど。これは言われなければそのまま手からすっぽ抜けてしまったかもしれないな。
ただ俺にはそれだけで魔道具かどうかはわからない。
本当にこんな小さなトロフィーが膨大な魔力を含んでいるのだろうか。
ちなみにこのトロフィーのような魔道具は真ん中に赤い宝石がついており、とても鮮やかな綺麗な色をしている。
この宝石だけ売ればそこそこの金にはなるだろうが、流石に三億エリスには届かないだろう。
そんなふうに考えているとアクア達も気になったのか恐る恐る寄ってきて。
「ちょっと、それ本当に大丈夫なの?暴走したりしないわよね?」
「そうですよカズマ。いきなり溶岩の上や強力なモンスターの前に転移させられてりしませんよね?」
「おい、さらっと怖いこと言うなよ。」
そんな状況になったら嫌すぎる。
「大丈夫ですよ。どうやらその魔道具、あるキーワードに反応して動くようでそのキーワードを言わない限り発動しないようです。それにどうやら莫大な魔力も必要とするらしくて、今は動かないので安心してください」
どうしてそんな物を買ったのかウィズに今一度問いただしたいが………ひとまずは安全そうだ。
「というかこれ不思議な形の魔道具だな。この宝石なんか………ん?なんだこれ?」
俺は色々魔道具をこねくり回してみて、下の台座の裏の方に何やら小さく文字の様なものが書かれているのを見つけた。
「見たことない文字だな……。おーい、ウィズこれなんだかわかるか?」
「はい、どうかしましたか? ……あれ?こんな所に文字なんかあったんですね、気づきませんでした。………うーん、なんでしょう。古代文字でもありませんし見たことない文字ですね。……少し待っていて下さい。もしかしたら私の持っている蔵書の中に似たような言語の本があるかもしれません」
そう言うとウィズは店の奥にパタパタと入っていった。
どうやらウィズもこの文字の存在は知らなかったようだ。
……しかし何だろうなこれ、日本語でもないし。ウィズも見た限り知らない様だし。
そんなふうに俺がうんうん悩んでいると、横からアクアが話しかけてきた。
「ちょっとどうしたのよ、いきなり黙り込んじゃって…………ってそれ神語じゃない。なんでそんなものがこれに書いてあるのよ」
なるほど。どうやらこの文字は神語って言うらしい………………って、ちょっと待て。
「お前、この文字のこと知ってるのか?」
「ええ、この文字神界じゃ結構メジャーで使っている人も多い言語よ、かく言う私も結構使ってるわ」
アクアが言うにはどうやらこの文字は現代で言う共通語のようなもので、英語とかと同じようなものらしい。
しかし、アクアの言う通りなんでそんな物がここに書いてあるのか?
「なあアクア、この文字読めるんだろ?なんて書いてあるかちょっと声に出して読んでくれないか?」
俺はどうせなのでアクアになんて書いてあるか頼んでみる。
するとアクアはえー、と面倒くさそうに魔道具を受け取りながら渋々といった感じで読み上げる。
「はあ、仕方ないわね。えーと、なになに……………、
『 ──── 汝、未知なる世界を、欲するか?
ならば、神の資格を持つものを連れ、仲間と共に冒険せよ。ただし一度に行けるのは四人までである。
そして元の世界に戻りたくば、その世界での役割を果たせ。
己の身に災厄が降りかかるのならば、己自身の力のみならず仲間の力を使いその厄災を退けよ。
さあ、今未知なる世界への扉は開かれん!─── 』
………何かしらこれ? ………… って、ちょ!」
そうアクアが言い終えた瞬間、中心部の赤い宝石が光り輝いて……………。
「えっ? ちょ、ちょっとカズマ、何かアクアの持ってる魔道具が光ってますよ!?」
「か、カズマさん!? なんか私の魔力がどんどん吸われていってるんですけど!?」
「お、おい!このままじゃ本当にまずいんじゃないか!?」
「え、ちょ、ちょっと待て、捨てろ! アクア今すぐそれを捨てろっ!?」
俺はアクアに慌てて魔道具を捨てるように言うが。
そんなことはお構いなく中心部の赤い宝石の光がだんだん強くなっていき…………!
「あ、あれっ!?み、皆さーーーん!!?」
店の奥から戻ってきたウィズの驚く声を最後に……!
そして意識が暗転した。