Side:モモンガ
VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了の日、オーバーロードの姿でこの地に降り立ったモモンガ。
この新しい世界ではあまりに圧倒的な強さを持つモモンガだが、今モモンガは恥ずかしさで穴(ナザリック大墳墓)に入りたい気分だった。
理由は言うまでもなく、今のこの状況のせいである。
「どうしたでござるか殿?」
そう……このでかい、喋る、ござるの三つの要素を備えるハムスター。
コイツの背に跨っているためか、周りからとてつもない数の視線を感じるのだ。
(大の大人が一人で遊園地の遊具に乗っているような気分だ…………)
何この羞恥プレイと、モモンガ……いや、アインズ・ウール・ゴウンはそう思わずにはいられなかった。
「モモンさ……ん、よろしいでしょうか。」
心の中でアインズが頭を抱えていると、実に言いにくそうに、ナーベ……ナーベラルが話しかけてきた。
「どうしたナーベ、なにか用か。……後、言いにくいのであれば、今なら誰も聞いてないから普通にして良いぞ」
「はっ、ありがとうございます。……いえ、周りのゴミムシ共が至高の御方を前に直視するなんてあまりに光栄な事。……だと言うのにも関わらず誰も這いつくばって、その栄誉を噛み締めておりません。今からあのゴミムシ共を処分してきましょうか。」
どうしてナザリックの奴らはこうも血気盛んなんだろう。
忠誠心があるのはいいが、こうも高すぎると非常に疲れる……。
アインズはその事に再び頭を抱え、ナーベラルに命令した。
「おい、ナーベラル……私達の目的を忘れたのか、我々はこの地に情報収集と名声のために来たのだ。こいつらはその我々の名声を高めるために今日見た事を周りに話すだろう。そうすれば自ずと名声が上がり、この世界でも過ごしやすくなるのだ。」
そう自分でも確認するようにいうと、ナーベラルが肩を震わせ、
「も、申し訳ございません!アインズ様……この様な失態を晒してしまうとは……自害して」
「良い、ナーベラルお前の全てを許そう。……それとその命は私の物だ、勝手に死ぬことは許さん。」
NPC達は何か失態を犯すと直ぐに自害しようとするので言葉に被せるように支配者ロールをして阻止した。
(こういう事が有るから非常に疲れるんだけどな……)
ただそのお陰で羞恥心も幾分か無くなって来たので、周りを見る余裕が生まれた。
そうしてよく見ると、こちらを見る人々の顔は驚き、驚愕で満ちており、こちらを笑うような奴は誰もいなかった。
それに子供達はまるでヒーローを見たかの様な顔で、目をキラキラさせてこちらを見ていた。
(何だ……結構いけるじゃないか、まあこの世界の感覚だとハムすけはカッコイイみたいだし………この感じだと俺もかなりいいんじゃないか────)
「「──ブフォッ!!!!」」
「!?」
そう考えていると群衆の中から吹き出す声が聞こえ、さらに………
「カズマ、カズマ!ハ、ハムスターに乗っている男が歩いてます!………フフッ」
「お、おいめぐみん、わ、笑うなよ……し、失礼だろ……!た、確かに大人が遊園地の動く乗り物に乗ってるみたいだけどさ…………ブフッ!」
(うわあぁぁぁぁぁ!!!!!!!)
その明らかにこちらを見て笑っている声を聞いてアインズはさっきまでの余裕は無くなり、顔に両手を当て心の中で思いっきり叫んだ。
その影響は精神抑制を受けても、再び恥辱心でいっぱいになり、また強制的に抑制されるというループになり悪循環に陥っていた。
傍目から見るとそれは巨大な魔獣に乗った男がいきなり顔に手を当て、精神抑制の光によって点滅しているという不思議な光景だった。
(恥ずかしい!このまま穴を掘って埋まっていしまいたい!)
アインズはそう考えたが、その状態が長く続くわけもなく、次第に精神抑制により落ち着いてきた。
……というよりもその隣の方が不味いかも知れない。
「ゴ、ゴミムシがぁ……!し、至高の御方に対して何たる不敬……!アインズ様、今直ぐにあの者達に恐怖と絶望を知らしめて参ります!」
そう言って今すぐにでも飛びかかって行きそうなナーベラルに対し、さっきまでの恥ずかしさも忘れ、慌てて静止をかける。
「待てナーベラル!さっきの言葉を思い出せ!ここで騒ぎを起こせば活動がしにくく…………っ!」
そう言った所でアインズの頭に衝撃が走った。
(……待て!いまさっきの奴『遊園地』と言ってなかったか!?……まさか………この世界にも存在する可能性はあるが……一応、念は入れておくべきか………?)
モモンガは瞬時にそう考えると先程まで悶えていた事も忘れ、ナーベラルに向かって命令を下した。
「ナーベラル動くな、今すぐナザリックに伝言《メッセージ》を飛ばし、アンデッドの追跡系のモンスターをさっきの者達を見つけ出して監視させろ!……それと、くれぐれも気づかれるなとも伝えろ!」
「は?……ハッ!分かりました!」
そう言って耳に手を当て、伝言《メッセージ》を送るナーベラルを横目に、群衆に紛れもう何処へ行ったか分からない声の主について思うのだった。
願わくば、プレイヤー────ギルドメンバーの誰かだと言う事を期待して────。
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sideカズマ
「……ハア……ハア…………!」
辺りはすっかり暗くなっており、月明かりの下で僅かに淡く光りがともる。そんな恐ろしくも何処か安心する感じがする夜の街。
その街の少し大通りを外れた宿屋へと帰る道を俺とめぐみんは─────
「カズマ、もっと早く走ってください!」
「……む、無理……い、息が……」
─────息を切らして全力で走りぬけていた。
なぜこんな事になったか。俺達はハムスターに乗る全身鎧の男に出くわすという衝撃の出来事に思わず吹き出してしまった。
すると、その隣にいたポニーテールの美女に凄い恐ろしい顔で迫られそうになったので慌ててその場から逃げて来たのだ。
「はぁ……はぁ……お、おいめぐみん、大丈夫か?」
「え、えぇ……それよりもあの人、追ってきたりしてませんよね……。」
そう言って後ろを確認するめぐみんだが、その顔には汗がたくさん出ていた。
その汗が全速力で走ってきた為なのか、恐ろしさからかは分からないが、ともかくそれほどやばかったのは間違いない。
「あ、あぁ……敵感知に反応は無いみたいだし、大丈夫みたいだ。………それよりも凄かったなアレ」
「えぇ……あそこまで恐ろしいと思ったのは久し振りでしたよ………」
「ああ……いやそれもだけど、ハムスターに乗る男はやばかったな……あんな衝撃は空飛ぶキャベツを見た以来だ………」
そう言うと息を整えためぐみんがはてなマークを頭につけ、
「?何を言ってるのですかカズマ、キャベツが飛ぶのは普通の事でしょうに。……それと、ハムスターに乗っているのは確かにやばかったと思いますが、あの漆黒の鎧に大剣二本はロマンが溢れてとてもかっこよかったですね………。」
と言った。…………確かに大剣を二本持っていたかも知れないが、正直ハムスターの衝撃が強すぎて頭から抜け落ちてた。
「それに私もあの大きいハムスターを飼ってみたいものです。もし名前をつけるとしたらそうですね………、はむす………いえ、これはちょむすけと少し被りますからやっぱり、ハムたろ」
おっと、それ以上はいけない。
そんな事を俺とめぐみんが話しているとどうやら走り抜けていく内に宿の近くまで来ていたらしい。
めぐみんとハムスターや例の黒鎧の男について色々喋っているといつの間にか宿屋の前についた。
どうやらまだアクアとダクネスは帰ってきていない様なので部屋に戻ると先に体を洗い、宿で食事を取ることにした。
どうやらこの世界では風呂が一般的なものでは無いらしくて、体を清めるにはお湯や水で濡らしたタオルで拭いていくのが主流らしい。
ちなみに一緒の部屋で上着を脱ぎ捨てたらめぐみんから濡れタオルを思いっきしぶつけられたので仕方無く宿の裏手で夜風に凍えながら体を洗ったが。
……ぶぇっきしっ!
そうこうしているうちにかなり時間が経ったのだがそれでも二人共まだ帰って来ない。
さすがに心配になり二人で探しに行こうかと考えた時、突如夜の街に巨大な鐘が鳴り響いた。
「?何でしょうか、昨日はこんな鐘なりませんでしたよね?」
そうめぐみんが疑問を口に出すと、それに応えるようにさっきまで光の無かった夜の街に次々と明かりがついて行く。
するとそれは大通りの方に集まって行き列をなしていった。
どうやら光は人々がランタン等を手にとり、たくさんの荷物を持って移動しているらしい。
……何だろう、前もこんなの見た気がする……。
俺は前もこんな状態になった時を思い出した。
その時はアクセルの街に機動要塞デストロイヤーが近づいていた為だったが。──つまり、今はそれと同じ位大変な事が起こっていると言うことで…………!!
そこまで考えた所で部屋のドアがドンドンと強く鳴らされ、反射的に肩がビクッ!となった。
それはどうやら宿屋の主人のようで、ドアを強くノックした後、宿全体に聞こえる程の大きな声で
「おい、この宿に泊まっている冒険者共!!緊急事態だ!今すぐに戦える準備をして、冒険者ギルドに行け!二度は言わねえぞ!!」
と、あまりにも宿の経営者とはかけ離れた粗野な呼び掛けをして、離れていった。
すると、宿全体からガチャガチャと慌てたように準備する音が聞こえてきた。
……さて、俺はどうするべきか。
この街にはまだ転移してきて二日ぐらいしかいないので、愛着何ぞ湧いてない。
だが出ていくとなると何処に行けばいいのか分からないので、正直困る。
……それに、まだアクアとダクネスが帰ってきていない事から、もう何かを察知して冒険者ギルドに向かってるのでは無いだろうか。
そうだとすれば今すぐ準備をして向かった方が良いだろう。
そう考えた俺はめぐみんに声を掛けようとしたが、めぐみんはもうとっくに準備が終わっており、今すぐにでも出掛けられそうだった。
「何をしているのですか、さっさと冒険者ギルドに向かいますよ」
「…………。」
そうして俺は何か釈然としないままめぐみんに急かされながらも、準備をして冒険者ギルドへと向かって行った………。
★★★★★★★★★★★
宿に住んでいたほかの冒険者と共に冒険者ギルドに俺とめぐみんがつくとそこは既に阿鼻叫喚の嵐だった。
冒険者達が怒声を上げ忙しなく動き回り、職員達は何らかの羊皮紙を机に広げて、その怒声に負けないように話しあっている。
その中でも白髪の屈強な体つきをした男が冒険者と職員達に指示を出しているのが目に付いた。
周りの奴らが組合長と呼んでいるのを見る限り、どうやらあいつがこの冒険者ギルドのトップらしい。
まあ、見た感じ歴戦の猛者っぽいし、ギルドのトップと言われても全く違和感がない。
だが、そんなトップまで出てくるとは相当にヤバい事態みたいだ。
来る途中にも冒険者達が慌てた顔の表情で冒険者ギルドから南の方向へ向かっているのを見たが一体何があったのだろうか?
それにアクアとダクネスを見つけないとだし………。
そう考えた俺はちょうど目の前にいた事情を知っていそうな職員の女性に何が起こっているのか尋ねることにした。
「なあ、一体全体この騒ぎは何なんだ、まさかまたデストロイヤーでも攻めて来たのか?」
と、自分で言ってて緊張感がないと分かったが、何が起きているのかも分からないので俺はそう尋ねるしか無い。
それと、デストロイヤーは俺達が破壊したはずだから、そんな訳ないと思いつつも俺はそう問わずにはいられなかった。
なぜならこの慌てようがアクセルの街にデストロイヤーが攻めてきた時とまるっきり酷似していたからだった。
するとギルド職員は俺のそんな言葉に困惑しながらも、周りの怒声にかき消されない為か、大きな声で返答した。
「あなたが何を言っているのか分かりませんが、違いますよ!この街にある共同墓地から有り得ない量のアンデッドの発生が確認されたんです!もうかなりの被害が出ていてこのままでは街が壊滅してしまうかもしれないんですよ!あなたも冒険者なら共同墓地の方に向かってください!」
そう言うと、職員の女性はふらりと倒れそうとなり、慌てて近くにあった椅子にもたれさせた。
「お、おい大丈夫かよ……よく見ると顔も真っ青だし、少し休んだ方がいいんじゃないか?」
そう俺が言うと、職員の女性は首を振って、
「………いいえ、大丈夫です。ほんの少し目眩がしただけです。それに今、私が休んだら他の人の負担が増えますし、冒険者の人達にも迷惑がかかります。そして何よりここは私の生まれ故郷で、なんとしても守り抜かなければいけないんです!私の事はいいから墓地の方へ向かって下さい!」
と、職員の女性がよく漫画とかである「自分の事は良いから先に行け!」を言い、俺はその事に少し感動し、それに応える為、キメ顔で返した。
「ああ、任せろ!」
そう言って職員に俺の笑顔を見せると、何故か引き気味に目を背けた。
……………おい、なんだその反応。
そうするとめぐみんが俺の裾をちょいちょいと引き、
「カズマ、取り敢えずシリアスなこの雰囲気でその顔は辞めた方が良いと思いますが」
…………………。
「ん?どうしたんですか……って、カズマ!?カズマー!?」
俺はめぐみんの呼びかけを無視して冒険者ギルドを飛び出ると、目から溢れてくるものをおさえて、全速力で走り抜けた────!!
「───カズマー!そっちは墓地とは逆方向なんですがー!」
「…………クソッたれ!!!」