なんということだろうか。
ダクネスの見たという奴らがただの魔法使いの美女と全身鎧の男の組み合わせならば、違う可能性もほんの少しだけあっのだが。
しかしそこにデカいハムスターも一緒にいたという事はまず間違いなく、俺とめぐみんが大通りで見た奴らで間違いないだろう。
……というかなんで、あんなデカいハムスターが存在するのか。
実はここは俺たちが知らないだけで、アクセルの街と同じ世界なのではないか?
そう思うも現実は非情である。
ここは俺たちのいた世界とは違うし、多分滅茶苦茶強いと考えられるハムスターに乗った全身鎧の男に対してつい噴き出してしまった事実は変わらない。
なんせ数百近いアンデッドの大軍を相手に無双する相手だ。冒険者なんていう最弱職の俺なんかプチッと一瞬で潰されてしまうだろう。
確かにただちょっと噴き出してしまっただけでそんな事になるとは思わないが、先程のあの恐ろしいまでもプレッシャーを思い出すと絶対にないとは言い切れないのが怖い。
もしも相手が、自分を笑った相手は絶対に許さないとかいう奴だった場合………。
そんな恐ろしい想像を張り巡らせて背筋を凍らせていると、めぐみんが焦った顔を近づけアクアとダクネスに聞こえないように小さな声で。
(どどど、どうするんですかカズマ!ハムスターに乗った人って私達が笑ちゃったあの全身鎧の人ですよね!?ダクネスの話を聞くととてつもなく強い気がするのですが!)
(おおお、落ち着け!もしかしたら心の広い人かもしれないし、謝ったら許してくれるんじゃないか?そ、それにあの人通りの多い大通りでいちいち俺たちの顔なんて見えてないかもしれないし!うん、きっとそうだ!)
(………でも、隣の魔法使いの人は思いっきり、私達の顔を見てましたよね?なんならとてつもなく恐ろしい顔で追いかけられそうでしたよね?)
(…………………)
(…………………)
(と、とりあえず二人には黙っていよう。ダクネスはともかく、アクアは余計なことにしかならなそうだからな)
(……分かりました。本当にどうしようもない時は私の爆裂魔法で相手を消し去ってしまいましょう)
「いや、やめろよ!?この歳で殺人犯とかシャレにならないからな!」
そう叫ぶといつの間にか背後に来ていたアクアが驚いた声で。
「うわっ!どうしたのよ、いきなり二人でこそこそしだしたと思ったら今度は大声なんか出して…………ねえ、さっきからいったいカズマとめぐみんは顔を青くしたり赤くしたり何をしてるの?二人でにらめっこでもしてるの? 今はそんな状況じゃないし帰ってからたっぷり出来るんだから我慢しててよね!」
こいつは俺とめぐみんを何だと思っているのか。
「この状況でにらめっこなんてするわけが無いし帰ってからもやらない。…………こっちの事は置いといて、とりあえず今がどんな状況なのか知りたいから壁の上に登りたいんだが」
とりあえず問題を未来の自分に託した俺は………問題の先送りとも言う……壁の向こう側がどうなってるか知るためにそう質問する。
するとアクアに綺麗してもらい、鎧を装着し直していたダクネスが反応して。
「ああ、それならあそこの扉の横の建物から階段を登って上がれるぞ。先程ここの兵士に教えてもらったんだ。……ただ何故か私が後ろから話しかけると怯えた顔でこちらを見ていてな。それほどまでにアンデッド共の猛攻が恐ろしかったのだろう」
「いやそれ、多分血塗れのお前ががいきなり後ろから話しかけたせいだろ」
こんな状況の中で後ろから血塗れのやつに話しかけられたら俺も死ぬ程びっくりするわ。
「な、なるほど、道理で近くにいた兵士や冒険者達に恐ろしいものを見るような目で見られてたのか………てっきり、アンデッドの軍勢に恐れ怯えていたのかと思ったんだが」
「いや普通気づけよ」
遅まきながら気が付いたのかそんな事を呟いているダクネスに俺がそう突っ込むと、ダクネスは顔を赤くして。
「し、仕方ないだろう!周りも暗くなっていたし、住民の避難や誘拐犯達のことで頭がいっぱいだったんだ、………それに、もしも私が最前線で戦っている時にあのアンデッド達の軍勢に敗れ、皆の前へと連れ出されてアンデッド達から凌辱の限りを受けると考えていると……んんっ!」
「おい、今興奮しただろ」
「してない」
「いや、してただろ」
「してないったらしてない……そ、そんな事よりカズマ、ここの階段を上がれば壁の上へと通じているはずだ。ただ、私とアクアは先程戦場を見たから分かるが、カズマとめぐみんは多分驚くと思うぞ」
こいつ誤魔化しやがった。
そう言って話すダクネスは先程までの変態性がウソのように真面目な顔だった。
出来るならずっとそのままでいろと声を大にして言いたい。だがしかし、ダクネスが言う驚く事とは一体なんのことだろうか?
階段を上がりながらそう言うダクネスに首を傾げつつも見えて来た景色に目を向けると─────、
「な、なんだよこれ…………」
そこには骨骨骨と、スケルトンだったものが視界を埋め尽くすほど大量に存在していた。
…………そう、だったものである。
元々は死んだ後も動き回るはずのアンデッド。だがしかし今は本当の動かぬ骸として辺り全体に散乱していた。
何秒固まっていただろうか。
敵感知でなんとなく把握はしていた。
しかし実際にその目で見て確認すると余りにも衝撃が強い。
ふと、隣のめぐみんを見てみるとこちらも同じ様に驚きで体を固めてた。
当然だろう、このような有り得ない数のアンデッドに対して俺達は何とか倒そうと考えていたのだ…か………ら……………っ!?
そこまで考えて俺はとんでもない事に気がついてしまった。
そして気がついたのは俺だけではなかった。
その光景を見た瞬間にめぐみんは気がついていたのだろう。
アンデッド達にはなにか巨大な物で押し潰されたような後や、焦げた後などが残されていた。
つまり、それは誰かに倒されたということであり。
このありえない量のアンデッド達を片付けた奴らがいるということを。
現に、俺がその事に気が付くと同時にめぐみんはダクネスに対し絞り出したような声で。
「………つまり彼らはこのアンデッドの量をたった二人と一匹であっという間に倒したって言うんですか………?」
「ああ、城壁の上に居た兵士が言うには黒鎧の男がいきなり来て、一足で城壁を飛び越えそのまま自分の体躯と同じ大きさの大剣を振り回す圧倒的な力で殲滅を始めたらしい。
私は直には見てないが兵士が言うマジックキャスター?の女も空を翔んで魔法を撃ち込んでいたらしいが……、そして、二人が見えなくなる頃に魔物――でかいハムスターがその二人の後追いかけて行っていたが………」
空を翔ぶって、なにそれすごい。
大剣を二つ振り回すってどんな腕力してんだ。
ていうかあのハムスター魔物だったのかよ。
そんな突っ込みが俺の中で次々と浮かんでは消えていった後、最終的に口からついて出てきたのは。
「これ俺らいらなくね?」
と、大量のアンデッド達の死体を前に俺はぽつりと漏らすと、全員なんとも言えない表情で目を逸らすのだった。