ペルソナの主人公に転生したらしい   作:明人

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本日二回目の更新です。

特殊タグってすんごい。


プロローグ⑦『覚醒』

(くそ、クソクソオォォォオ)

 

一匹の黒猫が夜の闇に閉ざされた街中を疾走する。

背負ったバックパックから洩れる赤い燐光がテールランプのように赤い尾を引き、町行く人たちの目を惹いていることにすら気付かないくらいに、必死に歩道や裏路地、はたまた車道を全速力で走り抜ける。

 

(偉そうなことを言いながら、なんの役にも立ってねえ!)

 

その黒猫は、現実世界に帰還したモルガナの現実での姿だった。

 

モルガナは理解していた。

自身が不用意に放った『メメントス』という単語を、あの場所で『雨宮蓮』に伝えてしまったが故に、自分だけでなく、彼すらもあの異界の主の抹殺対象になってしまったことを。理屈ではない。だが理解出来てしまうのだ。

 

しかも、そんな巻き込んだ自分が巻き込まれた彼に守られ、助けられ、あまつさえ彼をあの死神との戦いに置き去りにしてしまったのだ。

 

(ようやく見つけた取引相手を死なせてたまるかよ!)

 

モルガナには過去の記憶がない。

彼の一番古い記憶はほんの数ヶ月前、路地裏で泥水に塗れながら泣いていた記憶だ。

 

それ以前の記憶は全く思い出せないが、知識、いやもっと単純な欲求ともいうべき想いが彼の身体を動かした。

その想いとは、『相応しい者』を見つけ出し、メメントスに導いてあの場所を()()()()()()()だ。

 

そのためにも先ずは自分が強くなければと考えたモルガナは、この世界にいくつも存在する異界に潜り込み、その中で自分の力を付け、戦い方を学び、何故か強烈に必要だと感じた()()()()()()()()()()()()も習得する事が出来た。

 

そうして力と自信を付けてメメントスに一人で潜入しては見たものの、独りきりでは頻繁に現れる雑魚シャドウや、あの赤い管にすら四苦八苦する始末。

このままでは到底自分の目標を達成できないと感じたモルガナは最初の想いの通り『相応しい者』を探すようになる。

 

色んな人間を見てきた。

欲望を貪る者、悪意に塗れた者、意地汚い者、自分のない者、自分の痛みを他者に押し付ける者。

勿論、人間の中には善人や良き隣人足りうる者もいたが、それでも全体的に見れば悪意に偏っているように、モルガナには思えた。

 

悪人の協力者は相応しくないし、ただ優しく善を説くだけの奴も同様だ。

相応しい者を見つけられず悶々としていた日々が続いた。

 

だがその悶々とする日々は、唐突に終わりを告げた。

今日、この日、道端に座り込んでいたあの雨宮蓮という人間の真紅に輝く紅蓮の魂に、確かな希望を見たのだ。

 

「死なせねぇ。死なせてたまるか。借りを作ったままなのは吾輩のポリシーに反するんだよ!!」

 

東京周辺の地理は今までの生活で、地図をタダ読みしたりして頭に入れている。

その記憶のお陰で自分が今どこにいるかは把握している。確かここは新橋駅のすぐそばだったはず。

 

築地の根願寺まではもう、そう遠くはない。

 

最後のひと踏ん張りと、足に力を入れた次の瞬間、モルガナの首根っこが何者かに摘ままれ、小さな体がふわりと浮き上がり、逃げられないように捕らえられてしまう。

 

「何しやがる!放せ!」

 

ジタバタと手足を振って逃げようとするが、全く逃れられる気配がしない。

それに、何だか妙な威圧感を感じてしまい、抵抗しようという気が段々削がれて行ってしまう。

 

「猫が喋ってるのも気になるけど、それよりもどうして君は『これ』を持ってるのかな?」

 

その人影は若い女の声を発しながら、モルガナのバックパックから雨宮蓮がモルガナに託した赤い燐光を放つヤタガラスの文様が入った根付のキーホルダーを取り出す。

託された物を取り返そうと藻掻くモルガナを地面に下した女性の姿が、雲の切れ目から覗く満月の光によって照らし出される。

 

その女性は、息を吞むほどの美貌を持った女性だった。

ルビーのように輝く赤い瞳。赤みががったブラウンカラーの髪をポニーテールにし、黄金比のような人を惹き付けてやまない抜群のプロポーションと、ローマ数字のXXII(二十二)を象った特徴的なヘアピンをした女性だった。

 

「事情、聴かせてくれるよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モルガナを見送ってからどれだけ時間が経ったのだろう。

もう何時間も戦っている気もするし、まだ数分しか経っていない気もする。

 

この戦いが始まってから手を変え品を変え、刈り取るものに二回ほど致命傷を与えはしたが、まさか死から復活して更に強くなるという、どこぞのサイヤ人もびっくりな手段を使って来るとは思いもしていなかった。

余程この異界の主は俺に死んで欲しいらしい。

 

「ぐぅっ!」

 

心の中でそんな軽口を叩きはしたものの、状況は最悪だ。

早々にSPが枯渇してしまったのでペルソナ召喚や魔法は実質使用不可能になり、召喚器も破壊され、小刀も二回目の致命傷を与えた際に刀身が折れてしまっている。

 

そんな俺の状態とは真逆に、つい先ほど斬り飛ばした首も元通りにくっつき、小刀で散々に空けてやった身体中の風穴も全回復してしまった、禍々しいオーラを身に纏う刈り取るものが、巨大な銃身を横薙ぎに振るう。

 

万全の状態でも回避が難しい速度で振るわれた銃身を、俺は回避しきれず、咄嗟に防御に使ってしまった左腕が鈍い音を立ててへし折れてしまう。

その衝撃で踏ん張りが効かなくなってしまい、異界の壁に身体が叩きつけられ、続けざまに至近距離で放たれた弾丸をギリギリで躱すが、紙一重で回避したせいで弾が額を掠める。

馬鹿げた威力とそれに付随する衝撃波で脳味噌がシェイクされ、さらに弾丸の通過で発生した強風に煽られ身体が転がるようにして更に吹き飛ぶ。

 

「こ、れは、拙い」

 

これまで闘った刈り取るものとは比べ物にならない程の強さだ。

この状態のこいつはもしかすると、ベルベットルームの住人であるテオドアやマーガレットに匹敵、いやそれすらも超えているかもしれない。

 

何度打ち倒しても奴の傷は修復され、膨大なマガツヒが注ぎ込まれて強化される。

こいつも異常だが、こんな真似のできる異界の主は、どれだけ強大な存在なのだろうか。

 

追撃を警戒して立ち上がろうとするが、自分の意思に反して体は背中を壁に寄りかかるようにして最早ピクリとも動かなくなってしまう。

刈り取るものが持つ銃の撃鉄が持ち上がるのが見える。此処で終わるのか。

 

時間感覚が引き延ばされ、何もかもがゆっくりと動く中で、脳裏に何かの光景がフラッシュバックする。

これは、走馬灯か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の前世は、色んなモノを諦めた人生だった。

 

プロのサッカー選手になる夢は、自分に才能が無く、諦めた。

医者になる夢は、孤児院出身の俺では学費の高さが壁となり諦めた。

少しでもいい学校に行くために、勉強とアルバイトを両立させるため、青春を諦めた。

漸く見つけたやり甲斐のある仕事も、病気で辞めることになってしまった。

恋人との結婚も、死が確定している自分では幸せにできないと、愛していると言葉にすることもなく身を引いた。

 

そんな前世の記憶でも、今世はそれのお陰で上手くやれていたが、こんなにあっさり死ぬ時が来るとは思いもしていなかった。

身構えているときには死神は来ないものだ、と好きだった作品のキャラクターも言っていたが、正にその通りだ。

どれだけ強くとも、どれだけ上手くやれても、死はいつだって突然訪れるモノなんだから。

 

刃の砕かれた小刀の柄が力の抜けた手から滑り落ち、人間の頭なんて容易く粉々に出来る銃弾を打ち出せる大きな銃口に眼を向ける。

 

ああ、今度は

 

 

 

 

 

『今度は、自分の命を諦めるのか?』

 

 

 

 

 

何処からともなく聴こえてきたその言葉に、心臓が強く脈打つ。

 

『前世に比べ危険に満ちたこの世界で、今度こそ悔いを残さないように全力で生き抜くと誓ったのではなかったか?』

 

修行で三途の川を渡りかけた時、悪魔として降臨したニュクスやイザナミと死闘を繰り広げた時、魔人を地獄に送り返した時、死にかけたことはこれまでの人生で何度もあった。

 

それでもその時諦めなかったのは、こんな俺と共に居てくれた仲間を残して、死ねないと思ったからだ。

前世の自分のように理不尽に嘆く誰かを守りたいと思ったから、前世の自分のように理不尽に死にたくないと思ったから、困難を前にして心が折れそうになったとしても、今度こそは理不尽に打ち勝つのだと自分に誓ったじゃないか。

 

『ヤタガラス、葛葉家、悪魔や天使に苦しめられた者たち、数多の死線を共に潜った戦友たち』

 

『貴様は多くの人間を救い、守り切った』

 

『彼らに、理不尽へ反逆する姿を、確かな希望を魅せた責任が、お前にはある』

 

『立て。私はまだ、諦めてはいないぞ』

 

いつの間にか刈り取るものの後ろに立っていた赤と黒の炎で構成された人影が消え、それと同時に引き延ばされていた時間感覚が正常に戻る。

 

刈り取るものの指が引き金を引ききる前に、下位の風魔法である『ガル』を暴走の危険性のある血を媒介にした方式で発動させ、わざと自分に当てて、刈り取るものの射程範囲から脱出する。

自分から流れ出た血で赤い線を引きながら、震える両足に力を入れてボロボロの身体を無理矢理起こし、刈り取るものを睨み付ける。

 

(まさか、そういう事だったとはな)

 

昼間に見た異常現象、ついさっき俺を煽るだけ煽って消えた人影。

こいつらは同一の存在で()()()()()()()()()()()()()()()()()から他のサマナーや、なんなら俺自身にも痕跡を感知出来なかったのだ。

そりゃそうだ。なんせこいつらは、特異な力でも現象でもなく、俺の認知にしか存在しないもう一人の『俺』なんだから。

 

「やって、やるさ!」

 

召喚器は破壊されてしまったため、使えない。

魔封菅も部屋に置いてきてしまった以上、悪魔召喚も出来ない。

肉弾戦も、今までの戦いで負った傷のせいで、このままではまともに出来はしないだろう。

 

だったら、八十稲羽の自称特別捜索隊のメンバーがやっていたように自力で俺の本当のペルソナを引き出して、どうにかこの状況を覆すしか、ない。

 

心を燃やせ。

魂を燃やせ。

理不尽に抗うのなんて、この十年間何回もやってきたことだろうが!

 

 

『よかろう。その覚悟、確かに聞き届けたり』

『我は汝、汝は我。汝、己が反逆の翼を広げ、今こそ飛び立たん!!』

 

 

頭が割れてしまったんじゃないかと思える位の激痛。

視界が真っ赤に染まり、枯渇していたはずの精神エネルギーが俺の身体から漏れ出し、青い炎に変換され、隙を見逃さずに俺に攻撃してきた刈り取るものの無数の銃弾ごと、辺り一帯を燃やし尽くす。

 

いつの間にか顔に貼り付けられていた白と黒の仮面を、心の底から湧き出てくる衝動に従い、何度も口にした言葉と共に右手で無理矢理剥ぎ取る。

 

 

 

 

 

『ペルソナ!!』

 

 

 

 

 

黒と金に彩られた鋼鉄の翼、漆黒と深紅の衣装を身に纏ったペルソナの姿は理不尽への反逆の証。

このペルソナこそが、俺の本来のペルソナだということが、感覚で理解できる。

 

「行くぞ!『ラウール』!」

 

ラウールの性能は朧気ではあるが把握出来ている。

全身ズタボロでも、今にも意識が飛びそうでも関係ない。今ここで勝つしか生き延びる道がないなら、全力で押し通るだけだ。

 

「さあ、SHOW TIMEだ!」




今までレベル70ぐらいの実力で事件を解決に導いていたので、レベル99オーバーの刈り取るものにはそのままでは勝てないです。普通にイゴります。

なので、前世の幼少期から心の底にいる諦めることへの恐怖の象徴であり、前世の自分のシャドウである《ブギーマン》を正しく受け入れて、どんな苦境でも諦めない今世の自身の心を体現するペルソナ《ラウール》をレベル99状態で『一時的』に覚醒させる必要があったわけですね。

イレギュラー刈り取るもの戦、工事完了です・・・
お疲れ様でした。

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