ペルソナの主人公に転生したらしい   作:明人

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これにてインタールードは完了。
次回はアンケートの結果を反映してメンバーたちが主人公に向ける激重感情を羅列していきます。




インタールード⑤

 厳しかった冬が過ぎ、春の陽気を感じ始めた3月下旬。

 今日はルブランの定休日だったので、東京周辺の異界を探索する為に渋谷にまで足を伸ばしている。

 ここ最近はこれといった事件もなく、ルブランの手伝いをしながら時間を見つけてはパレスとメメントスを探索しつつ、双葉やヤタガラスの人員と共に一色若葉さんの消息を追う毎日だ。

 

 当初は相当の時間が掛かると思われていたパレス探索には大きな進展があった。

 何度もパレスを探索していた結果判明したことなのだが、パレスに入る際に非武装状態、つまり丸腰であればいきなり発見されるようなこともなく、ある程度活動が出来るようなのだ。

 この非武装状態というのは『武器』になり得る物を所持していなければいいのだが、そうなるとパレス内にうようよしているシャドウと悪魔にはペルソナ能力や自前の異能で対応するしかなくなる。

 だが、パレス内でペルソナや悪魔を召喚したり、魔法を使用すると今までと同じようにシャドウ達に包囲されてしまうのだ。

 

 こうなってくると探索のやり方と各々の役割というのは明確になる。

 単純な肉弾戦(ステゴロ)でもシャドウを叩きのめすことができる俺と明彦さんと真次郎さんが城内の探索をしつつ、もしも敵に見つかったら速やかに目撃者を物理的に黙らせてパレス内の探索を続ける。

 そして他のメンバーは危険の少ないパレスの外側でパレス自体の構造の把握と、もしもの時のバックアップ要員として待機という役割分担で探索を行うようになった。

 このパレスの仕組みに気付いてから今日で大体二週間程度経ったが、パレス外周の構造と城内の一部はマッピングが完了しているし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 後は、武装した状態でもパレスに潜入出来る方法を確立させてしまえば完璧なのだがな。

 

 それにしても、嘗ての五輪金メダリストも人には言えない欲望を抱えていたということだろう。

 まあ、個人の妄想の中で完結している欲望ならどうこう言うつもりはないが、パレス内で生徒の姿をしたシャドウに対して行っていたような、可愛がりと称した暴行や女生徒へのセクハラ行為を現実の学生に日常的に対して行っているのだとしたら、いよいよもって救いようがなくなってしまうな。

 実際、『鴨志田卓』のシャドウの蛮行を目の当たりにした明彦さんや真次郎さんは、『これじゃ、俺…こいつを守りたくなくなっちまうよ…』と言いたげな表情をしていたのだから、鴨志田へ向けられるヘイトは相当な物になってしまっただろう。

 

 ヤタガラスに調査結果を報告した時に開かれた局長クラスが集っていた幹部会議では、『最悪の場合はパレスを消し去ることも止む無し』と結論が出た辺り、上層部は鴨志田を必要な犠牲にすることに躊躇いはないだろう。

 扱いは完全に執行猶予付きの要監視対象といったところだろう。

 

 パレスの探索がおおむね順調なのに対して一色若葉さんの捜索は現状手詰まりの状態だ。

 霊視や千里眼、過去視といった能力を持つ異能者の手を借りて色んなアプローチで若葉さんを捜索したが、分かったことはごく僅かだった。

 

 現状で若葉さんについて分かっていることは、『生きていること』『日本国内にいること』ということのみだ。

 ヤタガラスの精鋭がプライバシーガン無視で異能を悪用して捜索しているのにこれ以上の情報が出てこないということは、十中八九若葉さんは外界から隔離された異界に居ると考えるのが妥当だろう。

 強力な主が治める異界は、大体異界の外側からの干渉を弾く性質を備えているので霊視や千里眼が効果を発揮しなかった理由にも説明がつく。

 そうなると今度は何処の異界に囚われているのかが問題になるが、この国には大小様々な異界が存在してて、それを全部虱潰しで捜索するとなると相当に骨が折れるのだ。

 今もヤタガラスのデータベースに登録されている異界の情報から人間が生存可能で国内にある物に限定して捜索しているが、成果は出ていない状態だ。

 

「ままならないものだな」

 

 焦っても仕方ないが、早く見つけるには越したことはないので、若葉さん捜索を兼ねた今日探索する予定だった異界に向かう為に歩き出そうとすると、俺の目の前をいつか見た青い蝶が横切る。

 目を擦ろうが、瞬きをしようが俺の目の前から消えずに何処かへ誘導しようと羽ばたいている蝶の行動から察するに、どうやら俺についてきて欲しいらしい。

 

(他の人間には見えていなさそうだな)

 

 青く輝く燐光を纏いながら飛ぶ蝶なんて凄まじく目立つはずだが、俺以外の人はまったく騒いでいないので、どうやら俺以外にはあの蝶は見えていないようだ。

 何かしら理由があって俺の前に現れたのは明白なので、裏路地に向かってゆっくりと飛び始めた蝶を取り敢えず追いかける。

 

(青い蝶って時点で誰の使いなのかは明白だがな)

 

 俺が追いかけ始めたのを確認したのか、青い蝶は次第にスピードを上げて渋谷の細い裏路地に迷いなく飛び込み、結構な速度を出して飛んでいく。

 ごちゃごちゃした裏路地を飛んでいるので、蝶の姿を見失わないようにしながら暫く進むと、周りに何もない広場に建てられた怪しげな雰囲気の建物に辿り着く。

 

Velvet Room

 

 建物に辿り着いたと同時に蝶は役目を終えたかのように消えてしまい、英語表記でベルベットルームと書かれた青いネオンの看板が掲げられた建物の扉が内側から開かれる。

 

「ようこそいらっしゃいました。お久しぶりです、ライドウ様」

「無事だったんだな、『テオドア』」

 

 店の中から出てきたのは、銀髪に黄金の瞳というベルベットルームの住人に共通する特徴を持った懐かしい人物だった。

 ペルソナ3の事件以降、現実では殆ど会うことがなかった彼がどうして渋谷にいるのだろうか。

 いや、あの偽イゴールの元から逃げきって、その後本当のベルベットルームを取り戻す為に此処に店を構えているのだろうか。

 

「どうぞ中へ。姉上達も首を長くして待っています」

 

 テオドアに促されるまま店の中に入って椅子に座ると、まず視界に入ったのは青を基調とした落ち着いた雰囲気の内装だ。

 広い空間を活かして一段上にあるグランドピアノと歌姫が良く見えるような位置にテーブル席が配置されている。

 そして今も歌っているあの歌姫は、まさか『ベラドンナ』か? ゲームではベルベットルームのBGMは彼女が歌っているという設定だったが、まさか姿を見ることが出来るとはな。

 

 店の壁沿いには青いガラスで作られたカウンターが置かれ、その背後にはこの世界では見たことない銘柄のボトルが無数に並べられシェイカーや様々な形をしたグラスの手入れも十分に行き届いているようだ。

 このバーは前世でも数回しか行ったことがないような高級感のあるバーと言っても過言ではないだろう。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ。貴方の来訪を我等一同、心よりお待ちしておりました」

 

 どこかで聞いたことのある声がして振り返ると、一際大きな椅子に座ってこちらを見ている銀髪金眼の美女、今世では初めて会うエリザベスがそこにいた。

 よく見ると俺の出迎えをしてくれたテオドアはいつの間にかバーのカウンターに立ってグラスを磨いているし、何やら大きな本を膝の上においてこっちを見ているマーガレットの姿もある。

 そして、俺の知らない鏡写しの様な双子の少女が物騒な処刑器具を手入れしている姿もそこにはあった。

 

「お初にお目にかかります。私の名は『エリザベス』。以後お見知りおきを」

 

 そう言って恭しく礼をするエリザベスの姿を見るに、本当に彼らはここで俺を待っていたらしい。

 

「どうして、現実に?」

「我らが主が囚われてしまい、本当のベルベットルームへの出入りが禁じられてしまったからよ。貴方にも心当たりはあるはず」

 

 そう言ったのは、およそ二年ぶりぐらいの再会になるマーガレットだ。彼女のその言葉に合致する記憶が確かにある。というか、つい最近遭遇した奴だ。

 

「あの偽イゴールか」

 

 俺のその言葉にベルベットルームの全員が頷いているところを見るに、どうやら正解だったらしい。

 偽イゴールも言っていたが、ベルベットルームの住人はメメントスから逃げ出すことが出来たようだが本来の住処であるベルベットルームに帰ることが出来なくなってしまったということだろう。

 

「我らがここに居座らざるを得なくなったのは、我らの主を騙るあの存在が原因です」

 

 エリザベスのその言葉から続く話をまとめると、おおよそ以下のようなことがあの精神と物質の狭間にある本物ベルベットルームで起きたらしい。

 

 ある日、イゴールがとある存在(正体は教えてくれなかった)から拒否不可能な賭け事(ゲーム)を持ち掛けられ、そのゲームの駒として俺ともう一人の人間がトリックスターとやらとして選ばれたらしい。

 

 イゴールはゲームを持ち掛けられた段階で、ゲームの駒として選ばれた人間は大きな困難に立ち向かわざるを得なくなることを把握しており、ゲームに勝ちうる人間を駒として選んだのだという。

 だが、ゲームを持ち掛けた側は端からまともなゲームをするつもりはなく、油断したイゴールを捕まえて彼の力を奪い取り、ベルベットルームの住人達をも捕らえたのだという。

 

 そして、そいつ(異界の主とでもしておくか)がいざゲームを始めようとした時に、タイミングが良いのか悪いのか、俺が渋谷にやってきてメメントスの存在に気付いてしまった。

 当然、異界の主としては完成していないメメントスに気付いた者を放置するわけにはいかず、いくらでも替えの効くゲームの駒である俺と、ついでに一緒にいたモルガナを排除しようとしたのだという。

 

「貴方の力を甘く見ていたのでしょう」

 

 俺が何の力も持たない普通の人間だったら容易く排除されていたのだろうが、生憎と俺は普通ではなかった。

 結局差し向けた膨大な数のシャドウと悪魔は俺とモルガナと琴音さんに駆逐され、虎の子の刈り取るものも排除されてしまった事で異界の主は一時的に力が弱まってしまったのだという。

 当然だが異界の主の力が弱まれば囚われていたベルベットルームの住人達への拘束も緩むこととなる。

 

「稀代の大脱出劇の始まり、でございます。貴方に見せられなかったのが残念です」

 

 異界の主に直接捕らえられていたイゴールを連れ出すことは出来なかったそうだが、他の住人は隙を見て逃げ出し、異界の主の影響から逃れるために現実のこの場所に拠点を作ったのだという。

 

「いずれ出迎える予定だった貴方という契約者には、完璧なベルベットルームを提供したかったのですが、主のいない我々では現実と虚像、物質と精神の狭間にある空間にこの場所を構築するので精一杯でした」

 

 グラスを磨き終わったテオドアがそう言いながら、どこか悔しさを滲ませるエリザベスの姿に苦笑いしながら近づいてくる。

 テオドアから手渡されたショットグラスには蒼く透き通った液体が入っていた。ウェルカムドリンクという奴だろうと判断して手渡されたカクテルっぽいものを一気に飲み干す。

 

「あ、アルコールは抜きか」

「アルコールの提供は貴方がこの国基準での大人になってから、ですね」

 

 口の中に広がる香草系の味を楽しみながらグラスをテオドアに返すと、椅子に座っていたエリザベスが立ち上がって俺の方にやってくる。それに合わせるように他の住人も俺の傍にやってくる。

 エリザベスが行動の発端になっている所から察するに、どうやらイゴール不在のベルベットルームはエリザベスが取り仕切っているらしい。

 

「貴方様をお呼びしたのは他でもありません。契約者に協力するのが我らの存在意義。歴代の契約者様と同様に貴方様にも万全のサポートをお約束します」

 

 エリザベスのその言葉を合図に『力を司る者たち』が、椅子に座っている俺の前に整列する。

 全員の顔面偏差値が凄まじく高いので妙な迫力があって、自然と俺の背筋も伸びてしまう。

 

「私エリザベスが、悪魔の合体と強化を担当いたします。そして、妹のラヴェ……失礼。カロリーヌとジュスティーヌはペルソナの合体と強化を」

 

 悪魔合体!

 マジか。この世界には業魔殿も邪教の館も存在しなかったので、契約した悪魔を強化するにはマガツヒの大量供給や特別なアイテムを与えるしかなかったのだが、ここで悪魔合体が出来るようになるのならヤタガラス全体の戦力アップも夢じゃないぞ。

 

 それにペルソナの合体と強化が出来るようになったのもデカい。

 俺のペルソナがブギーマンだったころは成長と共に様々なスキルや魔法を覚えていたのだが、アルセーヌには覚えるスキルや能力の成長に制限がある様で、ある時から新しいスキルや魔法を一切覚えなくなってしまったので、タルタロスやマヨナカテレビで拾ったスキルカードでスキルを無理矢理構成していたのだが、ワイルド能力に覚醒してペルソナ合体も出来るようになるというならこれを使わない手はない。

 

「あたしは、カロリーヌ。我らが主が見込んだその力、しかと見極めさせてもらうぞ」

「わたしは、ジュスティーヌ。貴方が真のトリックスターとなりうるように尽力いたします」

 

 右目に眼帯をしていて勝気な方がカロリーヌ、左目に眼帯をしていて冷静な方がジュスティーヌね。

 ちゃんと覚えておこう。

 

「マーガレットお姉さまは悪魔全書とペルソナ全書の管理を担当いたします」

 

 マヨナカテレビ事件の時に何度も顔を合わせているマーガレットが俺に向かって会釈する。

 ベルベットルームが敵に襲撃されたことはペルソナ使いの中では共有しているので、住人達が無事だったことは後で連絡しておこう。

 琴音さんも悠さんも安心するだろう。

 

「そして、テオドアは特別な力を付与するカクテルの提供とアイテムの販売を担当いたします。因みに今しがた貴方様が飲んだ物は戦闘で取得する経験値を増やす効果があります」

 

 ゲームだったら新要素追加って感じか。この感じだと獲得金アップとかエンカウント率アップとかありそうだし、色々とお世話になりそうだ。

 

「今後私たちが提供するサービスは以上となります。そして最後に、我等の主が残した贈り物を貴方に」

 

 エリザベスがそう言うと、サイレントマナーモードにしていた筈のスマホが震えて、アプリをインストールした時の完了音が鳴る。

 ズボンのポケットからスマホを取り出して確認すると、青を基調としたアイコンに『閉じた目』が描かれたアプリがインストールされていることに気付く。

 

「それは、『イセカイナビ』。それを起動してキーワードを唱えればパレスに正当な形で侵入する事が可能です」

「正当な形で、か」

 

 なるほどな。パレスに入った瞬間にシャドウに取り囲まれていたのは異界への入り方が間違っていたからか。

 非武装状態であればパレスに迷い込んだただの一般人扱いになって、パレスの主に認識されていなかったのだとすれば一応の筋は通るか。

 

「今までは完全武装した状態で強盗のように押し入っていたけど、イセカイナビを使ってパレスに入れば、偽装したIDを使うみたいに騒ぎを起こすことなく不法侵入できるってことか?」

「その認識で間違いありません。イセカイナビを使っての侵入であればどれだけ武装していても問題ありません。人数制限もございません。主の渾身の一作ですので」

 

 基本的に異界に侵入する行為は、押し入り強盗のそれに近い。

 異界の主の領域に無断で侵入し異界の住人(シャドウや悪魔)を倒しながら色んな場所を隅々まで探索して貴重品を根こそぎ奪い取って自身の目標を達成する。

 

 事実を羅列すると中々にひどいが、これらの行為を今回は異界の主に気取られることなくこなす必要があり、その為のツールとしてイゴールがイセカイナビを用意してくれたのだろう。

 初めて会った時からそうだが、色々と手助けしてくれているイゴールには頭が上がらないな。

 

「イゴールには助けられてばかりだな」

 

「だから」

 

「今度は俺が彼を助ける番だな」

 

 ベルベットルームを乗っ取り、イゴールを捕らえた異界の主にはシッカリと覚悟を決めておいて欲しいものだ。

 なにせ、当代のライドウとニュクスを宿した琴音さんと国生みの大神を宿した悠さんがいずれお前をブッ飛ばしに行くのだから。

 

 余談だが、再会したベルベットルームの住人から色んな話を聞いたりテオドアが取り扱ってる商品の確認をしたりして、時間を忘れるくらいにベルベットルームに入り浸っていたせいで見事に今日やるはずだった異界探索をすっぽかし、同行予定だった琴音さんにこっぴどく説教されてしまったのだった。




ふと思ったんですが、原作がある世界に転生して、物語上の重要な事件が起きた正確な日時と場所を覚えていることってあるんでしょうかね。
正直、ただゲームとしてプレイしている最中にその辺の情報を完全に記憶して、ずっと保持してる人ってどのくらいいるもんなんでしょう。
どんな事件があったかは言えても、いつ、何処で、何時何分何秒のタイミングで起きるのかを把握してずっと覚えておくのは無理な気がしてます。

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