真琴は言わずもがなだが、他の人もかなりの重力場を発生させています
「一体、どうなってるんだ?」
今年も残すところ後数日と言った年の瀬の12日23日の夕方。
例年に負けず劣らず今年も色々と大変な出来事が起きはしたものの、どうにかこうにか終末世界到来の危機を防ぎきって今年こそは穏やかな年の瀬を迎えられるんじゃなかろうかと思っていた。
例年通りであれば年末年始も異界や悪魔案件を片付けていたのだが、今年は色々あったせいで表立っての行動がし辛くなってしまったので、ほとぼりが冷めるまでとはいえ現状は実質的な戦力外通行を受けてしまい、こうしてルブランでコーヒーを飲みながらカウンターに突っ伏して暇を潰していたのだが、ここ最近途轍もなく困ったことが起きている。
「何か良くないことの前兆か?」
困ったこと、それは俺がヤタガラスから長期休暇を言い渡されてルブランで暇を潰すようになってからずっと、ヤタガラスの活動の中で助けた人達から一切の隙間なく『お誘い』を受けている事だ。
この三日間は昔から交流のある異能の大家の令嬢や、悪魔やダークサマナーに襲われていた所を助けた事のある女性、ヤタガラス所属の異能者といったそれなりに交流があった女性達から食事やらショッピングやら修行やらと様々な理由でお誘いを受けてそれらの対応をしていたのだ。
彼女達の行動は何らかの裏や悪意があってのものでは無いようだったし、例の事件の時に色々と助けてもらった恩もあったので、普段なら色々と理由を付けて断っていた類のお誘いも今回は断らなかったのだが、見目麗しい様々なタイプの女性が入れ替わり立ち替わり俺と交流を持とうとギラギラした眼つきでやって来るので、精神的には割と疲れている状態なのだ。
「おごご。一体俺が何をしたというのだ」
「釣り上げた
後ろから聞こえてきた聞き覚えのある声に驚きながら振り返ると、そこにいたのは見慣れたヤタガラスの制服ではなく、私服姿のマコトさんが立っていた。
「マコトさん!? もしかして迎えに?」
「いえ。偶々近くに寄ったのでついでに、です」
ルブランで世話になる様になってからは殆ど機会がなかったのだが、今日は久しぶりにマコトさんに夕飯をご馳走になるという約束をしていたのだ。
前世の記憶を思い出して、葛葉家の養子になってデビルサマナーとして一人で活動するようになってからは、殆どの時間を訓練と任務と移動に充てる生活をしていた。色々と忙しい時には、まともな食事をとる暇すらなく戦いに向かうようなこともよくあった。
子供の頃から付き合いのあるマコトさんは、そんな俺の様子を見かねて、時々俺を自宅に招いて食事を振舞ってくれていたのだが、今日は久しぶりにその食事会のお誘いを受けたのだった。
「ごめん、直ぐ準備するから」
「いえ、そのままで大丈夫です。すぐに向かいましょう。時間が惜しいですから」
最後の方は聞き取れなかったが、まあ、いつも通りの食事会だからそんなに色々と準備する必要はないか。
「あー。じゃあ行くか」
「ええ。
この世界の女性にはごく稀に
「あ、お土産用意したから、ちょっと待っててくれ」
久しぶりに食事をご馳走になるということもあり、お礼の意味も込めてマコトさんの好物の宇治抹茶パフェが入った和菓子セットをルブランの冷蔵庫に入れていたのを思い出した。
折角用意したのに渡せなかったら意味ないからな。
カウンター席から立ち上がっていそいそとお土産の準備をしていたこの時の俺は気付いていなかった。
俺を見るマコトさんの目が、ここ最近何度も見たギラギラした怪しい光を宿していたことに。
「お。来たわね。ライドウ君。待ってたわよ」
「遅いぞ~、ライドウ。で、お土産は?」
「開口一番でそれか。少しはオトメさんを見習ったらどうなんだ?」
マコトさんが運転する車に揺られて到着した都内のタワーマンション。
ヤタガラスと懇意にしている不動産会社が所有しているこのマンションには、それなりの人数のヤタガラスの人員が住んでおり、マコトさんも昔からここに住んでる。
久しぶりに踏み入ったマコトさんの部屋で待っていたのは、部屋に設置されたコタツに入って準備万端のIHコンロを囲む柳谷オトメさんと菅野フミさんだった。
この三人は所属こそ全員ジプスというわけではないがよく一緒にいるところを見掛けるし、かなり仲が良いいのは知っていたが、年の瀬に集まって鍋パーティーをするほど仲が良かったとは知らなかった。
「残念ながら、お土産は和菓子詰め合わせだ。マコトさんの好みに合わせたからヨークシャープティングも寿司もないぞ」
「む。残念」
身体をコタツに入れたまま動く気配のないフミさんをよそに、いそいそと立ち上がったオトメさんは俺の手からお土産を受け取って勝手知ったる我が家のようにキッチンの冷蔵庫にお土産を収納する。
若干嬉しそうだったのは、お土産の内容がオトメさんが好きな甘い物だったからというのもあるだろう。
「それで、今日はどうしてここにいるんだ? マコトさんだけだと聞いていたが」
「ん? ああ。そっか。哀れな子羊は知らないのか」
「??」
俺の質問に対して答えになっていない回答をするフミさんに、どういう意味か問いただそうとするが、それよりも先に部屋に戻ってきたオトメさんに後ろから抱きすくめられ、背中を押される。
「まあまあ、気にしない気にしない。ほら、主賓は座って待ってて」
「は、はぁ」
コートを脱いで部屋着になったことで、もろに背中に押し当てられている柔らかい感触に若干ドキマギしながら、フミさんの正面に座ってコタツに入る。
今年の冬はかなり寒かったのだが、ルブランの屋根裏は土足で歩き回る場所なので昔ながらの石油ストーブしか置けず、コタツを設置できなかったので、コタツに入るのはかなり久しぶりだ。
「はぁああ。暖か……!?」
コタツに入って冷えた身体を温めていると、誰かの足が俺のズボンの裾をめくりあげてそのままその滑らかな肌を俺の足に絡みつかせて来る。
「……」
現状コタツに入っているのは俺とフミさんのみ。
俺の足に絡み付いている滑らかで柔らかい感触がホラー映画よろしくな幽霊の物でなければ、この現状を生み出しているのはただ一人だ。
「んー。どうしたー?」
嗜虐的な表情でニヤニヤと笑うフミさんをジロリと睨むが、ここで問い詰めると更にエスカレートしだすというのは良く知っているので放置しておくのが一番だ。
どこか嬉しそうな表情で足を絡めてくるフミさんと睨み合っていると、湯気を立たせている土鍋といくつかの料理を持ってマコトさんとオトメさんが戻ってくる。
「あまり彼に迷惑を掛けるなよ。フミ」
「うーん。こんな美人からのアプローチはむしろご褒美なのでは?」
「はいはい。みんな入るんだから足どけて」
笑顔のはずなのに何処となく圧のある二人に逆らうつもりはないのか、二人の言葉に従ってフミさんが足を引っ込ませると、マコトさんとオトメさんもコタツに入る。
「色々と用意したが、メインは牡蠣鍋だ。存分に味わってくれ」
「おお。牡蠣か」
真冬の牡蠣は美味しいというのは知っていたが、まさかこのタイミングで食べられるとは。
各々が取り皿を取って、全員で手を合わせて鍋をつつき始める。
「ん! 上手い」
これはただの鍋ではないな。出汁からして違う。
結構な時間と手間がかけられているであろう鍋を味わいつつ、他に用意されている一品料理を味わっていると、俺以外の成人している皆は酒瓶を開け始める。
「珍しいな」
「まあ、折角の機会ですから」
「勢いと踏ん切りをつけるのに必要だからね」
もしもの事態に備えて、基本的に飲酒をしないマコトさんとオトメさんが珍しくアルコールを口にしているのを眺めながら、談笑を挟みつつ食事を続ける。
暫くして鍋の中身も他の料理も尽き、お土産の和菓子に舌鼓を打っていると、思っていたよりも長い時間お邪魔していたようで、そろそろ終電が近い事に気付く。
(そろそろお暇するか。今夜は特に予定もないし、今日こそゆっくり眠れそうだ)
酔いが回っている女性陣にそろそろお暇するというのを伝えようとすると、初っ端から度数の高い酒を浴びるように飲んでいたからか既に出来上がっているフミさんが俺に近寄ってくる。
「ねぇ、ライドウ」
アルコールと女性の甘い匂いを漂わせながら、酔っ払い特有のふらついた動きで近付いてきたフミさんが俺に寄りかかり、俺の頭を抱きしめるような体勢を取る。
後頭部に感じるボリュームのある柔らかさに困惑していると、耳元でフミさんが囁く。
「ここまですれば、哀れな子羊が誰なのか分かるでしょ?」
いつの間にか俺の左側に陣取っていたオトメさんが、輝くような笑顔で俺の左腕を絡めとりながら上着を少し捲って、自分の服の中に誘導しようとしているのが見える。
「今日の夜は私達の時間だから、たっぷり楽しもうね」
服をはだけさせたオトメさんから目を背けるように右を見れば、いつの間にか上着を脱いた状態で頬を赤らめて遠慮がちに右手を握っているマコトさんの姿を認識して、ようやく俺は今の状況を理解する。
「七年待ちました。もう、逃がしません」
彼女たちが俺に好意を寄せていたのは知っていたし、色々と柵もあるのでこれから行われるだろう行為を拒否する理由はない。
彼女達とそういう関係になることが嫌とかいう訳ではないが、これだけは言わせて欲しい。
これは、罠だ!
「「「いただきます」」」
『四人で特別な時間を過ごした……』
日を跨いだ12月24日の早朝。
命懸けの死闘程ではないが、それなりに激しい運動をしたことで多少の倦怠感を感じながら、マコトさんの部屋から出てマンションの外に出る。
マコトさん達はまだ寝ていたので、そのままにしておいた。
ほぼ一晩中運動していたからかそれなりに眠気があるはずなのだが、特に問題なく活動出来ているのは、身体を鍛えていて体力があるからだろうか。
「しかし、こんなことになるとはな。どう考えても誰かが裏で手を引いてそうだが」
彼女達が昨日の行為を突発的に決行するとは考え辛い。
あの事件が起きてからそんなに時間が経っていないとはいえ、いろんな女性の猛アプローチがほぼ同時期に重なるというのもおかしな話なのだ。
「彼女達を焚き付けて得をする奴…?」
まあ、第一候補はヤタガラスや葛葉家の老人達か。
この世界の異能力が軒並み衰退してしまっているせいで、血の貴重さとか血脈の拡散云々よりも、将来的に異能者が増加する見込みがあるというのなら諸手を上げてこういう事に手を貸すだろう。
「十分にあり得るか」
この状況を招いたのが誰なのかを考えながら、ルブランに帰る為にノロノロと駅に向かって歩いていると、歩道を歩いていた俺の真横に黒塗りの高級車が横付けされる。
横付けされた車のスモークガラスになっているドアウィンドウがゆっくりと降り、搭乗者が顔を出す。
色素の薄い、藤色の髪と瞳。
長い付き合いである峰津院ヤマトと同じ特徴だが、ヤマトのようにしかめっ面はしておらず、その美貌は街を歩けばどんな人間の目も惹くだろう。
「お疲れのご様子ですね。ライドウ」
俺にそう言ってきたのは、『峰津院ミヤコ』。
この世界では正真正銘のヤマトの一つ年下の妹であり、秀尽学園に通う俺の後輩でもあり、許嫁の一人でもある。
「ミヤコ。君は知っていたのか?」
「釣り上げた
したり顔でそう言うミヤコに、溜め息をつく。
この世界に転生して、裏の世界に生きるデビルサマナーとして活動しているからか、前世で培った倫理観は大分ボロボロではあるが、最低限誰かを不幸にするようなことは避けて生きてきたのだ。
特に、女性関係で色々やらかすとロクな事にならないというのは理解しているから、恋愛関係に発展するようなお付き合いは原則お断りしていたのだが。
「年貢の納め時、という奴です。さあ、今度は私の番です」
車のドアを開けて手招きするミヤコに苦笑いしながら後退りするが、ミヤコが手に持っていた鞭が素早く伸びて俺の右手首に絡みつく。
腕力では勝っているはずなのだが、
というか、朝っぱらから人を捕まえるのに魔法を使うなよ。
「見逃しては、くれないか?」
「昨晩はマコト達と楽しんでいたというのに、許嫁の私からは逃げようとするとは感心しませんね」
現状、互いの膂力は拮抗しているが、俺が魔法を使えばこの拮抗の天秤は簡単に俺の側に傾く。
とりあえず落ち着いて話をする為に、一旦この拘束を解こうと魔法を使おうとした次の瞬間、不意に誰かに背中を押されて、バランスを崩してしまう。
バランスを崩して踏ん張りが効かなくなったせいで、魔法の力で伸び縮みする鞭に引っ張られる形で高級車に飛び込んでしまった俺は、下手人が誰なのかを確認しようと窓の外を見ると、そこに立っていたのは滅多に見ないような笑顔を浮かべたヤマトだった。
「おま」
「避妊はしなくてもいいが、時間は守れよ。ミヤコ」
「ええ勿論。協力感謝します。お兄様」
笑顔のヤマトが見送る中、無慈悲に窓が閉まり、ドアがロックされ、車が発進する。
更には運転席との間に結界が張られた事で完全な密室に閉じ込められてしまう。
これは、逃げられない、か。
「では、みっちり六時間、お互いに楽しみましょう?」
幼い頃から知っている、幼馴染が顔を近付けてくる。
まあ、ここまで来てしまえばもうどうにもならんか。
目も眩むような美少女と唇を重ね、互いの服に手を掛ける。
ミヤコの絹のような白い肌に唇をおとしながら、今回のこの一連の出来事の主犯と目されるヤマトを心の中で罵倒する。
(そうかそうか、そういえば、君はそんなやつだったな)
俺は受けた
ヤマトにもしっかりと
『ミヤコと二人きりで特別な時間を過ごした……』
ヤタガラスのメンツは絆レベルが上限に到達しているのでデートイベントは発生しません。
問答無用で画面が暗転して特別な時間を過ごすことになります。
ライドウが食べられてしまったのか、頑張って逆転したのかは各々の想像に任せます。