ペルソナの主人公に転生したらしい   作:明人

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初っ端から飛ばしていきます。
ゲームとは色々と展開が変わています。十分にご注意した上で観賞お願いします。


本編
第一話


 俺がルブランに居候するようになってから既に四ヶ月が経ち、季節と年度も変わり世間は入学や進級シーズンとなった四月。

 いつもと同じ時間に起床し、今世では着ることはないだろうと思っていた高校の制服に袖を通して学園に通う準備を整える。

 

 白いハイネックセーターがアクセントになっている黒のジャケットにチェック柄のスラックスというデザイン性に富んだ制服には驚いたが、私立の高校だとこういうのが流行りなのだろう。

 着慣れない制服に違和感を感じながらも、制服の下に最新式のボディアーマーを着込み、懐に拳銃と小刀を隠してから、学校について行くと言って訊かないモルガナを鞄に詰め込む。

 

「うごご。おい、ワガハイこのままだとぺちゃんこになっちまうぞ!」

 

 教科書やノート、筆記用具等で既にパンパンな状態になっている鞄の窮屈さにモルガナが文句を言っているが、自分がついて行くと言い出したんだからこのくらいは我慢して貰わないと。

 往生際悪く文句を言ってくるモルガナを鞄に押し込んで階下に降りると、起きた時から漂っていたカレーのいい匂いが鼻腔を擽る。

 

「起きたか。蓮」

「おはようございます。惣治郎さん」

 

 この四カ月、時間があるときはルブランの手伝いをしてた事もあって、惣治郎さんを名前で呼ぶようになったし、惣治郎さんも俺を名前で呼ぶくらいには関係を構築できた。

 まあ惣治郎さんの態度が変わったのは、若葉さん捜索の打ち合わせの為に双葉が頻繁にルブランに出向くようになったあたりだったから、俺と双葉が仲良くなったことが大きな理由なのだろうが。

 

「学業をこなすにゃエネルギーが必要だろう? 特製カレーとコーヒーだ。食っていきな」

「ありがとうございます」

 

 惣治郎さんに促されるままにカウンター席に座って、用意されていたカレーを味わう。

 スパイスの配合、ルーに加えられた食材の種類と分量、米の炊き加減。それらすべてが調和して一緒に出されているコーヒーの味を引き立たせる。

 カレーを食べている内に数口。そしてカレーを食べきってからゆっくりと残りのコーヒーを味わう。

 たったこれだけの事なのに凄まじい満足感と幸福感が全身を駆け巡り、いつもよりも頑張れそうな気になってくるのだ。

 

「それにしても、あれで教師とはな」

 

 カレーを食べてる俺を眺めていた惣治郎さんが、眉間に皺を寄せながら苛立ちを隠せない口調で言い放つ。

 教師…? ああ。昨日挨拶に行った時に会った秀尽学園の校長と俺の担任になる女性のことか。

 

「まあ、聖職だなんだと言っても結局は人間ですから。本音を言えば『前』のある人間の面倒なんて見たくはないでしょうし」

「ふん。聖職が聞いて呆れる」

 

 教職というと世間では子供達の未来を導く尊い職業とされているが、実情はそんなにいいものではないのは明らかだ。

 無茶苦茶サービス残業させられたり、救いようのない生徒の面倒を見なきゃいけなくなって重責を背負わされたり、生徒に手を出して逮捕されたりもしているのだから、他の職業と同じように特別でもなんでもない、ただの職業だと考えるのが妥当だろう。

 むしろこの多様性を受け入れようとし始めている社会では、生徒一人一人を大切に思って真面目に指導している教師の方が絶滅危惧種だろう。

 

「目を付けられないように、当たり障りなく過ごしますよ」

「そうしておけ。学校なんて社会に出るまでの小さな箱庭でしかねぇんだ。必要を感じないなら、上手くやり過ごしちまえばいいのさ。ただし、成績は上位をキープしとけよ。保護観察の経過を報告する時に心証がよくなるからな」

 

 そんな現代の教育論に中指を立てる様な惣治郎さんの言葉に頷きつつ、食べ終えたカレー皿とカップをカウンター奥の流し台に置いてからモルガナ入りの鞄を背負ってルブランの外に出る。

 

「行ってきます」

「おう。気を付けてな」

 

 ルブランの前の細い道を通って大通りに向かい、四軒茶屋駅を目指す。

 四軒茶屋駅近くの段階で既に満員寸前の電車だが、渋谷駅を経由した時に乗車してきた人々が駅員に押し込まれるようにして電車に詰め込まれていく都会特有の混雑具合に耐えていると、学園に一番近い蒼山一丁目駅に到着する。

 

 人の波に流されながら到着した蒼山一丁目駅は、今の俺と同じ格好をした学生でごった返しており、新年度が始まったばかりということもあってか何処か浮ついた雰囲気がある。

 

「うわ、マジか」

 

 駅から地上に出ると同時に、曇り空からポツポツと雨粒が降ってきている事に気付く。

 朝一の天気予報では今日一日は曇り空でも雨は降らないという予報だったのだが、どうやら東京の天気予報は八十稲羽の天気予報ほど正確ではないらしい。

 いや、まあ、八十稲羽の方はマリーが能力で気象操作しているので本当は予報とは言えないのだが。

 

 周囲を見渡すと、俺と同じように傘を持っていない生徒が雨宿りしていたので、それに倣って俺も手近な場所で雨を凌ぐとしよう。

 雨が止むことを願う俺の想いとは裏腹に、次第にスコールの様な勢いになり始めた雨から逃れるために、雨が入り込んでこないくらいに入り組んでいて、車からの水はねを避けることもできるような位置にある軒下に移動して雨宿りをしていると、俺が居る場所に誰かが駆け込んでくる。

 

「もう、最悪」

 

 俺と同じ軒下に逃げ込んできたのは秀尽学園の生徒だった。

 雨を避けるために被っていたであろう白いパーカーのフードでは雨を完全に遮ることは出来なかったようで、フードの下から顔を覗かせているボリュームのある金髪は雨に濡れてしまっている。

 

 ジロジロ見るのもマナー違反なので女生徒から視線を逸らして未だに大雨が降っている大通りの方に視線を向けると、大通りの方にもソコソコの人数の生徒が俺達と同じように雨宿りしているのが見える。

 道路に近い場所で雨宿りしている生徒たちは稀に通る車の水はねで、ずぶ濡れになっているようなので道路から遠い場所に移動しておいて正解だった。

 

「うひー。マジでびしょ濡れだぜ」

 

 未だに雨が降り止む様子の無い雨空を眺めていると、派手な明るい金髪と制服を着崩した日本のヤンキーのテンプレを踏襲している男子生徒が、上着を傘のようにして雨を凌ぎながら俺たちが居る軒下に飛び込んでくる。

 

 割と長い間雨に打たれていたのか、上着を雑巾のように絞って水分をおとしながら女子生徒と俺を追い越しながら、更に路地裏の奥の方に進んでいく。

 

「そっちに何かあるのか?」

「あ?」

 

 男子生徒がどこに行こうとしているのか気になったから呼び止めただけなのだが、何か気に入らないことがあったのか男子生徒からガンを付けられてしまう。

 俺が純粋な疑問から質問していたことを察したのか、男子生徒はバツが悪そうに頭を掻きながら路地裏の奥に行こうとしていた理由を話してくれる。

 

「あー。こっち近道なんだよ。室外機とかがちょうどいい雨よけになってるから大して濡れずに学校まで行けるぜ?」

「ついて行ってもいいか? 転校初日で遅刻はマズいんだ」

「…なるほど、転校生か。どおりで俺に普通に話しかけるわけだ」

 

 なんだか普段は他の生徒から話しかけられるわけがないとでも言いたげな言い回しだが、何か事情があるのだろうか。

 俺が訝し気な表情をしたことが分かったのか、男子生徒が気を取り直したように俺に笑いかけてくる。

 

「まあいいや。俺、坂本竜司。お前は?」

「雨宮蓮」

「よろしく。んで、高巻はどうすんだ。このままだと遅刻だぞ」

 

 これまで俺たちの会話には一切参加することなくスマホを見ていた女生徒に向かってそういう坂本。

 名前を呼ばれた高巻という生徒は、不機嫌そうな表情をしながらもスマホを仕舞ったので、俺たちについてくるつもりらしい。

 

「んじゃ、行くか」

 

 厚い雲のせいで薄暗さに拍車がかかっている路地裏を坂本の言う通りにしばらく進むと、ここ最近何度も見た秀尽学園の校舎が近くに見える位置まで来ることができた。どうやら坂本のお陰で遅刻せずに済んだらしい。

 

「そういや高巻、お前まだ()()()()()気取りの()()()()センセーとは仲良いのか?」

「はぁ?」

「いやぁ、さっき路地裏に入る前に鴨志田が赤毛と茶髪の双子っぽい一年生に絡んでたからさ。気になってよ」

 

 俺達が雨宿りをしていた場所からは道路は見えなかったから気付かなかったが、表通りではそんなことが起きていたのか。

 女子に執拗に車で送ろうかとか聞いてた姿はマジでキモかったぜ? という続けざまに放たれた坂本の台詞に高巻の表情が曇る。

 

「あんたには関係ないでしょ。ってか、変な事言ってるとまた目を付けられるわよ」

「ま、そうだな。今の()()()()で野郎に逆らう奴なんかいないもんな。チクりたければ好きにしていいぜ?」

 

 そんな風に言い合いをしていた二人を諌めようと彼らに近づこうとすると、一瞬視界が歪んで眩暈のような感覚が襲い掛かってくる。

 特段体調が悪いわけでもないのに眩暈がするなんて。

 まあ、そこまで酷いモノではなかったから良かっ……いや、違う。()()()()()()()()

 

認知が歪む

 

 一瞬の眩暈を振り払って意識をハッキリさせると、ついさっきまではスコールのような大雨が降っていた筈なのに、今では雨粒一つ落ちてきていない天気に切り替わっている。

 そして、目の前にあった何処にでもある私立校の校舎も()()()()()()()()西()()()()()に変化してしまっていた。

 

(馬鹿な、イセカイナビは起動していないはず)

 

 慌てて自分のスマホを確認するが、スマホにインストールされている俺のイセカイナビは起動していない。

 であれば何故俺やモルガナだけでなく坂本や高巻がパレスに侵入出来て、いや、今はそんなことよりも一般人を避難させるのが先だ。

 

「坂本、高巻、一旦戻ろう」

「はあ? 何言ってんだよ。雨も止んでるし今のうちに入ろうぜ」

 

 多少困惑しているようだが、普段通っている学校が巨大な城に変化するという明らかな異常事態にも拘わらず、城になってしまった学校の中に入ろうとする坂本と高巻。

 

(クソ、そうか。パレスの特性!)

 

 事前のヤタガラスの調査で判明していたことなのだが、このパレスという認知異界には微弱な魅了効果があり、この手の魔法に耐性の無い人間の危機感をかなり希薄にしてしまっているようなのだ。

 魅了効果自体は大したことがないから、強引にパレスから連れ出してしまえば魅了は解けるし、後遺症などもないが、咄嗟に正常な判断が出来なくなるというのが厄介だ。

 

「いいから、早く!」

 

 俺のタダならない様子に、二人は驚いた様な表情をするがそれに構っている暇はない。

 隠し持っているとはいえ、武装した状態でイゴール製のイセカイナビを用いずにパレスに侵入してしまった以上、もうすぐ城の中からシャドウが溢れ出てくるのは確定している。今ならまだ逃げ出すことが出来る。早く撤退を

 

 

「『アイスエイジ』」

 

 

 それは、ほんの一瞬の出来事だった。

 

 撃ち出された銃弾のような猛スピードで上空から飛んでくる氷柱の津波(アイスエイジ)に気付いた俺は、躊躇うことなくアルセーヌを召喚し、坂本と高巻をその両手で掴んで安全圏に避難させ、モルガナ入りの鞄をアルセーヌに向かって放り投げる。

 パレスに侵入したことを認識した瞬間から十分に警戒していたから辛うじて反応できたが、あと少し気付くのが遅れていたら無数の氷柱に串刺しにされて俺達は全員死んでいただろう。

 

(坂本と高巻は避難させた。モルガナも大丈夫。なら後は自分の身の心配!)

 

 奇襲されて自身の意識が戦闘用のそれになった瞬間に、足元から立ち昇ってきた蒼い炎に包まれた俺の服装が切り替わる。

 

 真っ黒な外套に濃い灰色のインナー、黒のズボンと黒の革靴。

 顔に張り付いた目元を覆い隠す白い仮面と真っ赤な手袋という怪盗モノの映画に出てきそうな恰好になった俺は、押し寄せる氷柱をすべて躱し、懐から小刀と拳銃を取り出して油断なく構える。

 

「なんだ、服が変わった!?」

「ってか、この赤い巨人は何!?」

 

 いきなり俺の服装がガラリと変わったことと、突然現れたアルセーヌに後ろの二人が驚いている声が聞こえてくるが相手をしている暇はない。

 

 ベルベットルームでイセカイナビを受け取ってから、パレスやメメントスに潜ったことで判明したことなのだが、このイセカイナビを持った人間が異界に侵入して戦う意思を示すと特別な装束、モルガナが言うところの『怪盗服』とやらに服装が切り替わるのだ。

 

 モルガナやベルベットルームの住人曰く、この怪盗服は認知異界に対しての防衛反応であり、『反逆の意思』の表れらしいが今のところ俺とモルガナにしか発現していない現象なので、どういう原理なのかはまるで把握出来ていないのだが。

 

「モルガナ、二人の護衛を頼む!」

「ああ、任された!」

 

 放り投げられた鞄から抜け出したモルガナは、現実世界での黒猫の姿から二足歩行のマスコットキャラクターの様な姿になり、自身のペルソナを呼び出して坂本と高巻を守るように立ちふさがる。

 

 これで取り敢えず一般人二人の安全は確保できた。

 後は、目の前のこいつをどうにかしてパレスから脱出するだけなのだが、大きな翼を広げた悪魔(天使)の立ち姿には全く隙が無く、下手に逃げ出せば痛い目に合うのは確実だ。

 

「見たことある(ツラ)だな。何処かで戦ったか?」

 

 相対している天使の全身から放たれているピリピリと肌を叩くマガツヒの奔流から察するに、凄まじい力を持った天使なのは間違いないだろう。

 

「私は純潔を守護する大天使『ガブリエル』。我らの崇高な目的を破綻させた貴様を、この手で始末する日を待ちわびていました」

「ガブリエルだと?」

 

 ガブリエルと言えば、五年前のタルタロス案件と並行して対処していた、辰巳ポートアイランドにTOKYOミレニアムを作ろうとしていた四大天使の一体だ。

 だが、奴の言葉が本当だとすると妙な話だ。あの時現れた四大天使は全員確かに討ち滅ぼした筈だ。

 

「成程。あの時の連中は分霊だったのか」

「そうです。高々人間を支配する為に本体で出向くわけがないでしょう?」

「その慢心の結果、大事な大事なカテドラルとTOKYOミレニアムは爆発四散したんだったっけか? あれは傑作だったな」

 

 鼻で笑いながら五年前の事件で一番スカッとした出来事を俺が口にした瞬間、ガブリエルの青白い顔色が激怒によって赤く染まる。

 そしてその激情を隠そうともせず、全身に光のオーラを纏わせて、俺に向かって強力な氷結魔法(ブフダイン)を放ってくる。

 

「死ね、異端者!!!!」

 

 繰り出された魔法の威力は大したもので、回避した氷の塊が地面に当たった瞬間に石畳を爆散させて土埃を巻き上げる程だ。

 この攻撃魔法の威力的にガブリエルの本体か、それに近しい高位の分霊なのは間違いなさそうだ。

 

 無茶苦茶に放たれる氷魔法を小刀で弾き、躱し、時々自作の攻撃アイテム(業火の勾玉)拳銃(FN-FiveSeven)でカウンターを入れる。

 お互いに様子見程度の攻防だったが、俺とガブリエルの間に力の差がどのくらいあるかはハッキリ理解できた。

 

 今のこいつは()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()

 

 だが、その強大な力の使い方は下手くそと言ってもいい。力で上回っているのに不意を突いた人間一人殺せない所を見るに、付け焼き刃の力に振り回されているという感じか。

 

(今のこいつならつけ入る隙はあるが、本格的な戦闘をすると二人を巻き込む可能性が高いか)

 

 今はモルガナが守ってくれているが、本格的な戦闘になったら奴は凶悪な全体攻撃魔法や即死攻撃を連発してくるのは目に見えている。

 モルガナもこの四ヶ月で十分に強くはなったが、流石にこのレベルの大天使を相手に一般人を庇いながら戦うのは不可能だろう。

 パレスに大天使の本体が居ることもヤタガラスに共有しておきたいし、ここは切り札を一つ使ってでも撤退を優先するべきだな。

 

 次に奴が隙を見せたら悪魔を召喚する為に、相対しているガブリエルに気付かれないよう懐に忍ばせている緑色の液体が入った金属製の筒(封魔管)にマガツヒを送り込む。

 

 互いに次の攻撃への準備を完了させ、膠着状態から事態が動こうとした次の瞬間、野太い男の声が戦場に響く。

 

『手古摺っているようだな?』




今度は準備を怠らずに武装した状態だったのがアダになってます。
まあ、異能に目覚める素質がある時点で竜司も杏も裏側の事情に巻き込まれるのは確定してましたが。

主人公の怪盗服の色は結構迷いました。
スマブラSPのカラーバリエーションで存在する『怪盗・赤』やコトブキヤさんから海外限定で出てるフィギュアのレッドカラーが5のイメージカラーによく合ってるんですが、今回は断念しました。

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