ネタバレ配慮しつつ、この小説に組み込めそうなら入れてみたいですね。
電話を掛けてきた高巻の様子から緊急事態と判断した俺は、戦闘用の装備を身に付けて手持ちの悪魔である『コウリュウ』を召喚し、寝ぼけているモルガナと共にその背に乗って、動揺していた高巻から教えられた場所、秀尽学園に向かう。
そこらの車よりも断然早いコウリュウの飛行速度のお陰で、ルブランからそれなりに距離のある秀尽学園にあっという間に到着した俺達は、コウリュウに周囲を警戒しておくように指示してから上空から飛び降り、校門前に座り込んでいた金髪の少女の目の前に降り立つ。
「高巻!」
「あ、雨宮くん……」
俺の声に反応して顔を上げた高巻の顔は涙に濡れていて、春先の涼しい夜にも関わらず玉のような汗を浮かべている所から、相当な時間走り回っていたことがわかる。
とりあえず、持って来ていた新品のハンドタオルを高巻に差し出してから事情を聞きだす。
「志帆、志帆が」
「志帆、というのは秀尽学園バレーボール部の『鈴井志帆』のことか?」
「う、うん。どうして」
「鴨志田の事は前から調査していたからな。奴に近しい人間のことはある程度把握している」
鈴井志帆、バレーボール部のレギュラーで、全国大会にも出場した経験のある生徒だ。
そして、あのバレーボール部で、美しく実力もある少女が鴨志田に狙われない筈もなく、セクハラや虐待紛いの行為の対象になっていたという報告もあったはずだ。
「今日、あの後、志帆に会って、志帆のスマホを確認したの」
「……赤いイセカイナビがあったんだな?」
「だから、雨宮くんから貰ったお守りを志帆に渡して、それで」
異能を持つ人間から渡された、確かに効果がある品を鈴井に渡せたので、ひとまずは鈴井の安全を確保できたと、高巻はそう思ったらしい。
その判断も間違ってはいないだろうが、イセカイナビがインストールされているのが分かったのであれば、すぐに情報だけでも俺に共有して欲しかった。
日本全国で起きている異常事態だから鈴井個人に護衛を付けるのは、ヤタガラスの人員の都合上無理でも、監視対象としての優先順位を上げることは出来たのだから。
そして、異界に侵入した影響で凄まじく疲れていた高巻は、そのまま鈴井と別れて自宅に帰って熟睡していたのだという。
「夜に目が覚めた時、志帆のお母さんから電話があったの。志帆がまだ帰ってきてないけど、何か知らないか、って」
「夜遊びや家出の可能性は?」
「そんなこと! そんなこと、する子じゃない。だから、心配になっていろんな場所探して、最後に学校の前に来たら志帆の部活用の鞄が落ちてて、もしかしたら、って」
「そうか……」
単純な誘拐とかの悪魔が絡まない事件に巻き込まれた可能性もあるが、イセカイナビを所持していてパレスが存在するこの学園のすぐ傍に遺留品があったことを考えると、渡した霊具の防御をものともしない悪魔に攫われた可能性の方が高いか。
イセカイナビの影響で、全国の異界や霊地に存在している悪魔の活動が活発になっているから、いずれはこういう事も起こると思っていたが、まさか昨日の今日でとはな。
「パレス内を捜索する必要があるな」
だが、俺とモルガナ、そして手持ちの悪魔だけでは、ガブリエルやアスモデウスに対処しつつあの広大なパレスから人間一人を見つけて救出するというのは至難の業だ。
モルガナのペルソナにも探知能力があるので探すこと自体は出来るだろうが、風花さんやりせさんのように探知に特化したペルソナではないから、戦いながら広範囲の情報を正確に拾うのは難しいとも言っていたしな。
赤いイセカイナビや活性化している異界への対応で二人も手一杯だろうし、他に人探しに特化した能力をもつ人員なんて、心当たりが……あるな。
可能性に賭けるためにスマホを取り出して電話を掛けようとすると、後ろから声を掛けられる。
「あ、あれ、雨宮に高巻か?」
振り返ると、散々走り回ったのか息も絶え絶えになっている坂本がそこに立っていた。
「坂本? どうしてここに?」
「あー、その、元陸上部の、中岡っていうんだけど、そいつが家に帰ってねぇって連絡があってよ。今日の話があったからもしかしたらと思って」
なるほど。もしかしたら、その陸上部員がパレスに引きずり込まれたんじゃないかと心配になって、ここまで確認に来たという事か。
「それならまずは連絡をしてくれ。もしもパレスに引きずり込まれていたのだとしても、何らかの異能がないとどうしようも」
そこまで口にして、坂本の恰好を見た俺の脳裏にとある考えが浮かぶ。
金属バット、膝や肘を守るプロテクター、背負ったリュックにぶら下げたバイク用のフルフェイスヘルメット。
特殊な伝手のない人間が入手できる、『武器と防具』を揃えたその姿は、何かと戦うことを想定した完全武装と言っても過言ではないだろう。
「まさか、一人でパレスに侵入するつもりだったのか?」
「中岡を助けたらさっさと逃げるつもりだったって! これは、その、もしもの時の備えってヤツだ」
……誰でも分かる嘘だ。
陸上部員を見つけたいという気持ちは本当だろうし、助けたいという言葉にも嘘はないように見える。
だが、『もしもの時の備え』というのは嘘で、何かと戦うことを想定しているのは間違いない。
それも、目的の対象を見つけたら確実に喧嘩を売るつもりで。
「……目的は、鴨志田か?」
「っつ!?」
俺の言葉に目を見開いて驚いた様な表情をする坂本。
なるほど。あわよくば鴨志田に復讐出来るかもしれない、という気持ちが、ここまでの行動を起こさせたのか。
確かに、もう一人の鴨志田であるシャドウが心を入れ替えて反省すれば、それは本体にも影響を与えるとはヤタガラスの本部で口にしたが、異能のない人間がシャドウを屈服させて反省を促すなんて、そう容易く事を運ぶことが出来れば誰も苦労はしない。
無謀なマネをしようとしている坂本をここで追い返しても良いが、それでは後々に遺恨が残るだろう。
「こういう奴にアレコレ言っても無駄だと思うぜ」
どうしたものかと考えていると、高巻を心配してそばに寄り添っていたモルガナが、坂本を見ながらそう言ってくる。
「バカは自分の身で体験しなきゃ理解出来ねぇよ。それに放置したら一人でパレスに突っ込んじまうかもしれねぇぞ」
「んだとぉ!」
「へん。事実だろうが。あの化け物染みた力を持った悪魔を見てんのに、あんなのの目を掻い潜ってどうにか出来ると思ってんのかよ」
相性が良いのか悪いのか、言い合いを始めた二人を仲裁しながら、スマホを取り出して馴染みの番号に電話を掛ける。
坂本の事は一旦置いておくとしても、悪魔に誘拐された可能性の高い鈴井と陸上部員の捜索は直ぐにでも取り掛からないといけない。
高巻の話から察するに、鈴井が攫われたのは高巻と別れた二十時以降。
高巻と会っていた渋谷から何らかの理由で秀尽学園に戻ったのだとしても、渋谷駅から学園まではたいして時間が掛からないから、今の時間から逆算すると四時間近くパレスに閉じ込められている事になる。
(四時間か。渡した霊具の魔除けと攻勢防壁が機能していれば生きている可能性は高いが)
何の耐性もない人間が異界に引きずり込まれた場合、最大の脅威となるのはシャドウや悪魔だ。
ましてや悪魔に目を付けられやすくなるイセカイナビを所持しているとなれば、より執拗に悪魔に狙われている筈だ。
知り合いの異能者の殆どが活性化している異界とイセカイナビの対処に出払っているので、全然電話が繋がらないが、それでも繋がらなかった番号を切り替えて手当たり次第に電話を掛け続ける。
一縷の望みを賭けて電話をし続けると、とある人物から返事が返ってくる。
『はい』
「アイギス! 今どこにいる?」
『現在はヤタガラス本部にて補給中であります。これから近場の異界調査に向かうところでありますが』
「悪いが、その予定は誰かにパスしてくれ。大至急でコロマルと大天使クラスの悪魔と戦える人員を連れて秀尽学園まで来て欲しい。秀尽学園のパレスに一般人が攫われた可能性がある」
俺の言葉を聞いた瞬間、電話の向こう側がドタバタと騒がしくなり、十分で向かいます。というアイギスのセリフと共に通話が切れる。
これで、鈴井の捜索の目途はついた。あとはアイギス達が到着するまで待機だな。
アイギスたちを待っている間に異界突入に備えて装備の点検や、今回の戦闘に参加して貰う予定の仲魔、『金時』と『ピクシー』を召喚しておく。既に召喚している『コウリュウ』を含めて完全に戦闘用の悪魔であるこの三体を同時に使役するのは、マガツヒの消費が激しいが出し惜しみは無しだ。
召喚した三体の悪魔の内、金時とコウリュウはやる気十分という様子なので問題ないだろうが、もう一体のピクシーはどうにもやる気なさげだ。
「やる気出してくれ。ピクシー」
「えぇー。うーん。甘い物いっぱいくれたら、やる気でるかもー」
「これが終わったら、好きなだけ食べさせてやるから」
「ん! 言質取ったからね!」
ここ最近色々と忙しかったので、ピクシーに十分に構えてなかったのが不満なのだろう。
まあ、大量のスイーツでやる気を出してくれるなら安いものだ。これが終わったら、とびっきりのヤツを用意しておくとしよう。
「お待たせしました。蓮さん」
「ワン!」
仲魔達のご機嫌をとっていると、ヤタガラスのトレーラーが秀尽学園の校門前に停車し、荷台から完全武装状態のアイギスとコロマルが降りてくる。
装備を限界まで積んで、ヤタガラスの真っ黒な戦闘服を着ているのでパッと見は重武装の美少女にしか見えない。
時間が惜しいから、坂本や高巻にアイギスの正体について説明しないで済むからちょうどいいか。
「申し訳ありません。大天使クラスの悪魔を相手に戦える人員は、全員出払っていました」
「まあ、そうだろうな。流石にいきなりだったしな」
アイギス曰く、琴音さんや悠さん、そしてヤマトといったメンツは、恐山や比叡山に代表される重要な霊地にある異界の沈静化に出向いていて手が離せず、他のメンバーも各々全国各地の異界鎮静化に手一杯らしい。
「二人が来てくれただけでも、十分に有難いよ」
二人戦えるメンバーが増えるだけでも、相当な増援だ。
それに、ヤタガラスの武器庫から装備一式を持って来てくれたのもデカい。普段は倉庫に死蔵されているライドウ装備も、今日の探索では日の目を見れそうだ。
さて、後は懸念点を解決しておこう。
「坂本、高巻。パレスについてくるのも、ここに残るのも好きにしていい」
一度異能に関われば、もう逃げることは出来ない。
悪魔や異能の存在を知ってしまえば、知らなかった時には戻れなくなってしまうからだ。
異能はその人の生にずっとつき纏ってくる呪いのような物だ。
助けたいと思える人間を守っているうちは良い。それがやる気や自己肯定に繋がるから。
だが、ダークサマナーに代表される異能を悪用する存在、異能がなくとも悪意に塗れた人間。
そんな奴らを否が応でも見続けなければならなくなってしまった時に物を言うのは、自分の意志の強さだ。
「ただ、自分の望む結末を手にしたいなら、他人任せにはしないことだ」
他者に押し付けられた地獄と、自分で選んだ地獄なら後者の方がまだましだろう。
まあ、異能を扱う才がある時点で、覚悟のあるなしに関わらず、二人が悪魔に狙われるのは確定している。
ここで居残りを言い渡しても素直に言う事を聞くとは限らないし、イセカイナビ持ちの二人をパレスのすぐ近くに放置しておけば悪魔に狙われる可能性がある。
結局、彼等を裏側の世界に巻き込もうとしている俺の言葉に、お互いの顔を見合わせた二人は、覚悟を決めた表情で頷き合う。
「「ついて行く!」」
「……そうか。だが、無茶はしないようにな」
俺達に同行することを選んだ坂本と高巻に、トレーラーに積まれていたヤタガラスの正式防具を装備させて、各種アイテムを渡しておく。
直接的な戦闘は無理でも行動阻害が出来れば逃げるのも容易になるだろう。
「良し。じゃあ手始めに高巻、鈴井のユニフォームでコロマルに匂いを覚えさせてくれ。コロマルの鼻なら異界の中でも人の匂いを追えるから、それを頼りに鈴井を探す」
「うん。分かった」
地面に置かれていた鈴井の鞄からユニフォームを取り出した高巻が、コロマルにその匂いを覚えさせているのを確認したあと、残りのメンバーにも指示を出す。
「モルガナは異界内の探知を頼む。鈴井以外にも学園の生徒がいる可能性があるから、パレスに入ったら人間が何人捕まっているか、居場所が何処か把握しておきたい」
「おう。任された」
「コロマルも鈴井以外の人間の匂いを感じ取ったら、金時かアイギスに伝えてくれ。情報は多角的に複数人で収集した方が確度が上がるからな」
「ワフ!」
動物会話が可能な二人がついていればコロマルの意図を詳細に知ることが出来る。モルガナの感知能力とコロマルの鼻があれば、この規模の異界でも、人間の居場所を特定することは出来る筈だ。
「コウリュウとアイギスは高巻と坂本の護衛をしつつパレスの入り口で待機。モルガナとコロマルが要救助者を見つけたら全員で協力してパレスの外に避難させてくれ」
「任務、了解しました」
コウリュウの巨体ならパレスに囚われている人間が十人単位でいても問題なく救出出来るが、その巨体から隠密性はないに等しい。
だから、他のメンバーが要救助者を見つけてから、コウリュウに現場に飛んでもらって回収する流れが理想的だろう。
「俺と金時とピクシーは陽動としてド派手に戦闘するぞ。ガブリエルとアスモデウスも含めたパレス中の悪魔とシャドウに、他のメンバーの動向を悟らせないくらいにな」
「おうよ。この間は脱出優先だったからな。今回はしっかり奴らの息の根を止めてやるぜ」
「久しぶりにマジだね、ライドウ。楽しくなってきたかも」
それぞれが準備を整え終わったのを確認した後で、俺のイセカイナビを起動する。
イゴール製のこのナビには履歴検索機能があるので、既に把握している『キーワード』を入力するだけで鴨志田のパレスに侵入出来る。
「鴨志田、学校、城」
『カモシダ ガッコウ シロ。一件ヒットしました。ナビゲーションを開始します』
「さあ、行くぞ!」
引き裂かれた秀尽学園の制服を強引に引っ張って、露わになっている白い肌を隠しながら、豪奢なカーペットが敷かれた城の中を一人の少女が駆け抜ける。
親友から貰った淡く輝くお守りのお陰で、悪魔の魔の手から逃げ出すことに成功した鈴井志保は、安全な場所を求めて歪な造りをしたパレス内部を彷徨っていた。
「さっきの、鴨志田先生、だよね。どうなってるの……」
志帆にとって、バレー部というのは地獄に等しい場所だ。
コーチである鴨志田が、練習中に執拗に女子部員の胸部や臀部を事故を装って触ってきたり、それを拒否したり避けたりすると平手打ちや恐ろしい威力のスパイクを無防備の状態で受けねばならないのだから、地獄以外の何物でもないのだ。
それに、今日は特に鴨志田がご機嫌斜めだったせいで、八つ当たり気味にいつもの倍以上の練習量を課せられてボロボロの状態だった。
正直、どうにか練習を終えて、親友の高巻杏と会って気持ちを切り替えることが出来なければ泣いていたかもしれない。
そして、杏と別れて帰宅しようとしたところに、鴨志田からメッセージを受け取ったのだ。
『レギュラーを外されたくなければ体育教官室に来い』と。
志帆は、親友が教師と関係を持っているという根も葉もない噂を被ってでも維持に協力してくれた、この居場所を捨てるわけにはいかなかった。
どんなに辛くて苦しくても、居場所を失いたくなかったからだ。
そして、恐怖を押し殺して学園に戻ってみると棘の生えた真っ赤な手に首を掴まれたと思った次の瞬間には、この異常な空間に放り込まれていたのだ。
『鈴井! 逃げても無駄だぞ!!』
「ひっ……」
何処に逃げても聞こえてくる、小さな王冠を頭にのせてブーメランパンツとマントというトチ狂った恰好をした鴨志田の声。
最初は何の冗談かと思ったが、この世界に引き摺り込んだ、あの棘のついた赤い手に押さえつけられ、鴨志田に制服を引き裂かれた瞬間に志帆は理解したのだ。
これは夢ではなく現実なのだと。
訳の分からないまま鴨志田に身体をまさぐられて悲鳴を上げた時に、杏から貰ったお守りが光のバリアの様なものを張ってくれなければどうなっていたかは、想像に難くはない。
どうにか逃げ出した先でも
「とにかく、逃げないと」
居場所を失うのは怖い。いや、怖かった。
だが、命の危機に遭遇し、自分の尊厳を穢されかけてようやく理解したのだ。
自分の居場所はあんな地獄のような場所ではなく、親友と笑い合える所なのだと。
命の危機に瀕したせいで、思考が飛躍しているのかもしれないが、ここから逃げ出せたら、とにかく警察に行こう。
そう固く誓った志帆が歩き出そうとすると、金縛りにあったように身体が硬直してしまう。
「尻を振って逃げる半裸の女を追い掛けるのは面白かったが、カモシダがお怒りでな。遊びはここまでだ」
「あ、ぐ」
さっきまで何もなかったはずの場所に、いつの間にか現れていた
光り輝くお守りがアスモデウスの腕を焼くが、その痛みを意にも介さず、アスモデウスは志帆の首を締め上げて気絶させる。
「さて、これで『ネガイ』は確保出来た。後は……」
囚われの少女を助ける存在は、まだ来ない。
原作と違い、杏が主人公や竜司と一緒に登校したこと、その日に主人公達が一緒に下校している所を目撃したこと、杏がスマホをヤタガラスに預けてたタイミングで電話かけたので繋がらなかったこと、たかが不良生徒ごときにビビってしまったことなどが重なって鴨志田のメンタルはかなり不安定になり、その影響はシャドウにも現れてます。
なので、バタフライエフェクトの結果として、志帆ちゃんが割を食ってます