ペルソナの主人公に転生したらしい   作:明人

28 / 55
読んでくれている人がいっぱいいてうれしかったので投稿します。


第九話

 肉体を四分割にされ、凄まじい形相をした状態で死を迎えたガブリエルの遺体が完全に消滅するのを油断することなく見届ける。

 この手の分身体は今わの際に自分の死体を生贄にして本体を召喚してくる可能性があるから、死亡と死体の消滅確認はキッチリしておかないといけない。

 

「まずは一体、か」

 

 近接戦が得意そうだったアスモデウスと遠距離主体のガブリエルのコンビは、お互いの属性と性格の相性が良くないにも拘わらず戦闘時のコンビとしてそれなりに噛みあっていた。

 実際、パレスを探索する時にあのレベルの悪魔が連携を取りながら毎度襲撃してくるようなことがあれば、パレス攻略に大幅な遅延が発生していただろう。そういう意味で言えば、片割れのガブリエルをこのタイミングで始末できたのは僥倖だった。

 

 さて、これで残る障害はアスモデウスのみなのだが。

 

「ハッ、ハッ、クッソ、身体が重い」

 

「後、少し、なのに」

 

「ふ、二人共、大丈夫!?」

 

 ……どうやらここまでのようだ。

 

 カモシダを守るシャドウ達を削っていたキャプテン・キッドとカルメンの姿がブレはじめ、本体である坂本と高巻の足取りが重くなり、彼らは思う様に動けなくなりつつある。完全にマガツヒが尽きかけている時の症状だ。

 

 息も絶え絶えな二人の状態を反映するように、実体化を保てなくなったペルソナが二人の心の海に還り、髑髏の仮面と黒いライダースーツ姿の坂本とネコ科の動物を模した仮面に赤いボディスーツ姿の高巻が地面に膝をつく。

 程なくして俺やモルガナの物と似た意匠のある彼らの『怪盗服』が青い炎と共に消滅し、二人の姿が事前に貸し与えたヤタガラス製の防具で武装した秀尽学園の制服姿に戻る。

 

 初めての異界探索と本当の命の危機、そしてペルソナの覚醒にマガツヒを急激に消費する戦闘を一度に経験したのだ。当然、体力や精神力の消耗も激しくなるし、何なら今も意識を保てているのが不思議なほどだ。

 最早立ち上がれ無くなるほどに体力を消耗した二人と、その二人を介抱する鈴井がシャドウに狙われないように庇うが、それでもなお二人はカモシダを殴ろうと無理矢理立ち上がろうとする。

 

「二人とも、ここまでだ」

 

「なに、言ってんだ。まだ、やれる!」

 

「そう、よ。せめて、一撃、入れてやらないと」

 

 これだけ暴れても戦意が衰えないのは、それほどまでにカモシダが憎いからなのだろうが、これ以上戦闘を継続するのは不可能だ。

 ガブリエルを倒しはしたがアスモデウスは未だ健在な上に、さっきからシャドウが城の中から湧き出し始めている。このままいけばそう遠くない内に敵の数の暴力がこっちの継戦能力を超えてしまうのは目に見えている。

 

 シャドウの肉壁に隠れているカモシダを確保できなかったのは痛いが、異様な超回復能力のカラクリの解明とガブリエルの高位分身体を始末するという戦果を挙げられたのだから良しとすべきだろう。

 

「みんな、撤退だ!」

 

 俺のその言葉を聞いたアスモデウスと戦っていたメンバーが、それぞれ大技を放ってアスモデウスを大きく吹き飛ばす。

 

 歴戦の戦士や悪魔が放つ攻撃によって肉体の大部分を焼き払われ、削られたりしているにもかかわらず、あっという間に肉体を修復して怒りの形相を浮かべるアスモデウス。

 ガブリエルと戦っている時もアイギス達の戦況は見ていたが、苛立ったピクシーがメギドラオンで全身を消し飛ばした時も瞬く間に復活していたあたり、アスモデウスは超回復能力のカラクリである『ネガイ』をガブリエルのように体内に埋めてはいないとみて間違いないだろう。

 

「待てよ、俺はまだ」

 

「私も、まだ」

 

「ピクシー」

 

「はいは~い」

 

 なおもカモシダに突撃しようとする坂本と高巻の目の前に現れたピクシーが、その小さな両手を二人に翳す。

 

「そんな状態で行っても返り討ちになるだけよ。一旦頭冷やしなさい。『ドルミナー』」

 

 ピクシーの掌から放たれた紫紺の煙が二人の顔を覆い、興奮状態だった二人があっという間に深い眠りにつく。

 寝落ちした二人を金時とアイギスが素早く背負い、目の前で起きている事態を飲み込めていないせいで動けていない鈴井を、俺が抱き上げてパレスの出入り口に向かって走り出す。

 

「逃がすと思うか!?」

 

「捕まると思うか?」

 

 漸く体勢を立て直したアスモデウスが無数のシャドウを召喚して嗾けてくるが、一手遅い。

 そもそも俺達がパレスから脱出できなかったのは、パレスの出入り口にアスモデウスとガブリエルが陣取っていて、城側から出てくる戦力と挟み撃ちにされる状態になったからだ。

 

 しかし、ペルソナを覚醒させた坂本と高巻がその力をカモシダに向けたことで、自分の危機に恐れをなしたカモシダが何も考えずにアスモデウス達を自分の近くに移動させてしまった。

 つまり今この瞬間、パレスの出入りを邪魔する者は存在しないということだ。

 

 それに加えて、城の近くにいるカモシダを庇ったアスモデウスと、パレスの出入り口の近くにいる俺達。

 どちらが先に出入り口に到達するのかは、火を見るよりも明らかだ。

 

「おのれ、ライドウ!!」

 

 恨むなら戦術眼が欠片もないカモシダを恨むんだな。

 

 

 

 

 後ろから聞こえてくるアスモデウスの怒りの声を無視しながら、全員五体満足でパレスの出入り口から異界の外に出る。

 異界から現実に戻ってきた時特有の一瞬の立ちくらみと共に、パレスに入った時に見た秀尽学園の近くにある裏路地に景色が切り替わる。

 

「……やはり、追手は無しか」

 

 前回もそうだったがアスモデウスも死んだガブリエルもパレスから出てきて俺達に追撃をして来なかった。

 シャドウとは違って、悪魔であるアスモデウスはこの現実世界でも活動は可能だというのに、だ。

 

 前々から疑問ではあったが、今回の件でハッキリした。

 アスモデウス達のあの異常な回復力は人間の『ネガイ』によって実現しているから、認知異界特有の産物である『ネガイ』を保持したままパレスから出ることを嫌がったのだろう。

 

 認知異界の産物も物によっては現実世界に持ち帰ることが出来るが、それは原則現実に存在しうる物のみだ。

 武器に防具、魔法を発動させる札や回復薬なんかも材料と作り方さえ知っていれば現実に存在するもので作ることは可能だから、現実に存在するものと認識されて、認知異界の外に出しても消えたりはしないのだろう。

 まあ、現実の材料で作る場合、無茶苦茶金がかかる場合が殆どなので異界から持って帰ってくる事の方が多いのだが。

 

 では、逆に現実に持ってくることが出来ないモノとは? 

 

 現実には存在しえないモノ。本来は物理的な側面を持たないモノ。

 つまり、自身の精神を具現化させた『ペルソナ』だったり、人間の心を実体化させた『ネガイ』のようなものはよほどのことがない限り現実に持ってくることが出来ないわけだ。

 もしも現実に持ってくることが出来ても、力をかなり制限されたり、効果が弱まったり、別物に形を変えるといった変化が起きてしまって望んだ効果は得られなくなる。

 

 そういった事情があるから、アスモデウス達は頑なにパレスから出てこないのだろう。

 

「とはいえ、一長一短だな」

 

 アスモデウスを現実に引きずり出してしまえば、高確率でネガイが変質してしまうのであの異常な回復力は使えなくなるだろうが、パレスのある場所的に無辜の一般人を戦闘に巻き込む確率が跳ね上がる。

 かと言ってパレスの中で戦えば、ネガイを見つけ出して奪わない限り常に全回復する大悪魔と戦闘になる。

 

 まあパレスが崩壊してしまえばネガイも自動的に消える筈だから、どうしようもなくなった時の事を考えて、最終手段(鴨志田抹殺)も視野に入れておかないとだな。

 

「大将。なんか騒がしくないか?」

 

「ん? サイレンの音か?」

 

 今後のパレスとアスモデウス対策について考えていると、金時の言うとおりまだ深夜のはずなのにパトカーや救急車のサイレン音と、大勢の人間の声が聞こえてくる。

 サイレンの音と人の声が聞こえてきている路地裏の先を見ると、無数の人垣の先には道路と秀尽学園の校舎へと続く階段、そして学園の正門が破壊されているのが見える。

 

「あ」

 

 凄惨な事故現場のようにも見えるあの場所から、それなりに離れているここからでも感じられるあのマガツヒの力の波動はコウリュウのモノだ。

 恐らくだがシャドウ達と元陸上部員とバレー部員を連れてパレスを飛び出した時に勢いあまって秀尽学園の正門に突っ込んだんだろう。

 

「ヤバいんじゃないか、ライドウ?」

 

「……学園の正門は犠牲になったんだ」

 

 パレスから脱出した時の姿を見た限りでは相当な速度が出ていたようだから、パレスから出た瞬間に実体化を解いていたらそのままの勢いで負傷者達を放り出してしまうことになったはずだ。

 コウリュウがそれを防ぐ為に、実体化を解かなかったのだろう。

 

 幸いなことに、今回はパレスの出口が秀尽学園の方を向いていたので路地の建物に被害は無いようだが、その代わりに学園の前にある道路はアスファルトが捲れ上がって車両が通るのも困難な状態で、正門の鉄柵は無残にひしゃげて吹き飛び、校舎への入り口に続く階段は爆破されたのかというレベルで大穴が開いている。

 

 警察や消防が集まってサイレンをけたたましく響かせている中で、闇夜に紛れてヤタガラスの車もあるのが見える。

 パレスに侵入する前に連絡を入れていたから、回収要員や医療班が待機していた筈だ。

 コウリュウがパレスから連れ出してくれた大怪我を負っていた元陸上部の生徒や、バレー部の三島? だったか。

 恐らくは彼らもヤタガラスが回収して治療してくれているはずだ。

 

「これは、久しぶりに始末書を書かなきゃならなさそうだな」

 

 これだけ派手に痕跡を残して表側の人間に知られてしまった以上、ヤタガラスが異能を持った大きな組織だとしてもここから隠蔽するのは不可能だ。

 ヤタガラスは異能の存在を原則隠しているし、積極的に喧伝するような組織ではない。だが、隠していれば何をやってもいいと言う訳ではないし、派手にやらかしてしまった場合にはそれなりのペナルティがある。

 

 今回は緊急事態且つ不慮の事故だったから俺に課せられるペナルティも、そう重い物にはならないはず。

 

 凡その事情を察した仲()たちからの生暖かい視線に冷や汗を掻きつつ、夜中にもかかわらず集まって来ていた野次馬に混じって現場の調査と処理をしている警官と消防隊員の会話に耳を澄ませる。

 

「しかし、酷い有り様だな。ガス爆発でも起きたんだろうが、こりゃ当分の間は閉校だろうな」

 

「確か新学期が始まったばっかりだろ?」

 

「学生達も災難だな」

 

 ああ、そう言えば今日始業式だったか。

 休校になった場合、カリキュラムの遅れが出たり、学校行事とかがずれ込むか中止になるのかぁ。

 

「すぅ……」

 

 ……ペナルティ、重くならないといいなぁ。




主人公が現実でペルソナを呼んだ時に弱体化している理由付けです。
原作のP5Rでもメメントス出回収した『花』がメメントスから出ると消えていたり、パレスの主の『オタカラ』が別の物に変化したり、『イシ』がアクセサリーになったりしてたので、こういう話にしてみました。
ちなみに、現金も持ち帰れます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。