(エタっては)ないです。
「ながく、くるしい、たたかいだった」
「もう、むりぃ」
秀尽学園の正門が粉砕される事件から丁度一週間後の今日。
この一週間訓練三昧だったことでゾンビと見間違う程に疲労困憊になってしまった坂本と高巻……いや、竜司と杏、そしてそれのサポートしていた志帆と共に学園までの通学路をのんびりと歩いている。
秀尽学園が一時閉鎖となってから今日までの期間で、竜司と杏には出来る限り戦闘のイロハを教え込んだ。
具体的にはヤタガラス本部での摸擬戦だけではなく、メメントスや難易度の低い異界での悪魔を相手にした実戦経験を交えた本格的なものをだ。
「ふ、二人共しっかりして! 今日から学校始まるから、あんなスケジュールではもう訓練しないって蓮君も言ってたし」
「そうだな。学園が再開されたから、今までのような時間をかけた訓練はしないから安心していい」
俺がそう言うと明らかにホッとした様子を見せる竜司と杏。
ほんの一週間前までは一般人だった二人にしてみれば、あの訓練はかなりの負担になっていただろうからその苦行から解放されると言われれば嬉しくもなるか。
「確保できる時間が限られるから、より短時間で効果が期待出来るハードな訓練に切り替えるからな」
俺の言葉を聞いた二人の表情が嬉しそうなモノから打って変わって絶望に染まる。
ゆっくりと基礎から積み上げて一人前になるまで訓練してる時間を確保するのが難しいなら、実戦経験を多めによりハードな訓練をして密度を上げればいい。
なお、訓練を受ける側の負担は考えないものとする。
「「うそだろ(でしょ)」」
「ところがどっこい……これが現実……!」
「あ、あはは」
「そもそも、ヤタガラス印のお高い霊薬で疲労も怪我もきれいさっぱり無くなってるんだから肉体的には何の問題も無いのでは?」
「「心のダメージは治らないんだよ!(のよ!)」」
とうとう今までの不満が爆発したのか、やいのやいのと文句を言い出した二人の言葉を右から左に受け流す。
まあ、彼らが不満を言うのも当然だ。そもそも当初の予定では竜司と杏に施す訓練はあくまで自衛出来る程度の力を身に付けるくらいに留める想定だったのだが、二人のポテンシャルが想定よりも高かった事も相まって、今や精鋭部隊を育成する為の訓練を受けさせている状態なのだから。
「けど二人共、あの地獄の訓練のお陰でメメントスでの戦闘は割と余裕でこなせる様になっただろう?」
俺の通学鞄から顔だけを出したモルガナがしたり顔をしながらそう言うと、実際にシゴキを受けた二人が渋い顔をしながら首肯する。
「そりゃあ、尋常じゃない難易度だったSEESメンバー相手の連続組手に比べればなぁ」
「まあ、特捜隊相手の勝ち抜き戦に比べれば、どうってこともないレベルだけど……」
「あの人達、すっごく強かったもんね。テレビで見たことある有名人が結構いたのも驚いたし」
現状のメメントスやパレスの敵は数の暴力で圧し潰してくる戦い方を主流にしていて、正直個体の戦闘力は大して高くはない。
特に悪魔に比べて戦術の悪辣さや戦い方の卑劣さが足りないシャドウ相手であれば尚の事、戦闘の難易度は下がる。
「とりあえずはカモシダのパレスを片付けるまでは頑張ってくれ」
竜司と杏には既に
パレスで起きた出来事を記憶の底に沈め最低限の自衛手段を手に入れた後、目を閉じ、耳を塞ぎ、口を閉ざして日常に戻るのか、それとも自分の意志で困難に立ち向かい、自分が受けた仕打ちの報いを仇に受けさせるのかを。
「わかってるさ。少なくとも教師の風上にも置けねぇあの野郎をブッ飛ばすまでは辞める気はねぇ」
「私も同じ。絶対にあいつの罪を暴いてやるんだから」
「その調子で訓練も頑張ってくれ」
そんな雑談を交しながら通学路を進むと、前方に真新しくなった学園の正門が見えてくる。
一週間ぶりの学校生活に喜びを露わにする生徒達と対照的に、保護者への説明やカリキュラムの見直しなんかで忙しかったのか、どことなく疲弊した様子の教師陣が正門前に立っているのが見える。
恐らくは、久しぶりの登校かつ事故が起きたことに対して生徒達に不安を与えない様にする為に生徒達に挨拶をしているのだろう。
「……あ?」
学園の正門に立っていた教師陣を眺めていた竜司が不意に怪訝な表情をする。
竜司の視線の先にはこういう場でいの一番に目立てるように声を張り上げていた体育教師が居た。
「うっわ、最悪」
「うわぁ……」
あちらも俺達に気付いたのか、俺達の姿を確認したと同時に複数の感情が入り混じった視線を向けてくる。
鴨志田の視線は主に杏と志帆に向けられているが、その視線に籠っている
「俺は元々奴に目を付けられてるから今更だが、蓮もスゲー睨まれてないか?」
「さて、心当たりはないこともないが」
シャドウを追い詰めた時の影響で本体の鴨志田も俺達にマイナス感情を抱いたという事も考えられるし、自分が目を付けていた女生徒が問題児と一緒に登校しているというのが気に入らないだけという事も考えられる。
だが、その点を差し引いても鴨志田のあの様子は感情が肥大化しているというか、感情を制御できなくなっているという感じに見える。
「俺と竜司が壁になってさっさと通り過ぎよう」
「おう」
杏達が俺と竜司の影に隠れるようにさり気無く立ち位置を入れ替えた途端、鴨志田の視線から色欲の気配が消え、激しい怒りと憎しみの籠った視線が俺達に向けられる。
まるで、自分の欲望の発露を邪魔してくる輩を殺すことも厭わない、ダークサマナーのような、悪魔のような視線を。
その視線をあえて無視して杏達を鴨志田の視線から隠したまま、鴨志田の横を通り過ぎようとしたその瞬間。
「調子に乗るなよ、ガキが」
すれ違った瞬間、俺と竜司にだけ聞こえるレベルの声量で発されたその言葉に竜司が反応しかけるが、ここで揉め事を起こすのは得策ではない。
額に青筋を浮かべて今にも鴨志田に掴みかかりそうな竜司の背中を強引に押して校舎に向かう。
しかし、ああも露骨に喧嘩を売ってくるとはな。何か心境の変化があったか、あるいは。
歪んだ心の具現そのものであるパレスに欲望を司る悪魔だけが住まう様になったことで、理性という箍が外れかかっているのか。
「どちらにせよ、早く片を付ける必要がありそうだな」
その日の放課後。
カモシダに狙われていた志帆にパレスが片付くまではバレー部の練習に行かないように言い含めてヤタガラスのサマナーを護衛に付けて見送ってから、俺達四人は学園近くの人気のない裏路地に集まっていた。
「さて、予想通りならパレスに侵入出来る筈だが」
「そうじゃなきゃ困るぜ。パレスに侵入出来なきゃ、最終手段を取るしかなくなっちまうからな」
実はこの一週間、赤いイセカイナビを使用してもカモシダのパレスに誰一人として侵入出来ないという問題が発生していた。
パレスというものが個人の認知の産物である以上、それはつまり認識の在り方次第でどのようにも変容する不安定な異界ということでもある。
だから、現実の学園が物理的に閉鎖されたことで連鎖的にパレスも閉鎖されてしまったようなのだ。
それ以外にも、強大な悪魔が侵入したことで元々無理が生じていたであろうパレス内で俺達が大暴れし、ガブリエルを殺害したこととカモシダを討ち取れる力を俺達が持っている事を示してしまった事でカモシダのパレスが門を固く閉じてしまった、という可能性もあるのだが。
「
そう。堅く閉ざされてしまったのは赤いイセカイナビを使用すれば誰でも通れていた方の出入り口だ。
俺達にはそれをかいくぐる為の
「俺達の方はやっぱ駄目だな。蓮の方はどうだ?」
「ナビの候補に出ている。やはり
俺のスマホに映し出された画面をモルガナ、竜司、杏に見えるように向ける。
候補地が一つも現れなくなっていた赤いイセカイナビとは異なり、俺のスマホの画面には巨大な城を模した建造物とそこへ侵入するための三つの『キーワード』がしっかりと表示されている。
「こんなこともあろうかと、という事か。イゴール」
思えば長い付き合いの、今は囚われの身になってしまった長鼻の老人に心の中で感謝しながら、再度仲間達に作戦を伝える。
「今回の作戦は事前に説明した通り、『オタカラ』にノーアラートで辿り着く為のルート構築だ」
鴨志田の歪みそのものであり、パレスを構築する為の核でもある『オタカラ』の在り処には既に見当が付いている。
というのも、カモシダパレスは俺達以外のペルソナ使いやサマナー、デビルバスター等が散々に探索しているので、その構造自体は完全に把握出来ている。だから、あとは『オタカラ』の在り処の確認と、そこに素早く誰にも見つからずに辿り着く為の侵入経路の確立をすればいい。
「だから今日は少数で行く。頼りになる先輩たちの助けは今回は無しだ」
正直に言えば大火力を持つ琴音さんや悠さんを引き連れて、立ち塞がる障害を全て薙ぎ倒しながら進撃してオタカラを強奪するのが一番手っ取り早いのだが、どうにも嫌な予感がしたので、今回はその手段を取らないことにした。
何となくではあるのだが、今回のパレス案件は力押しでは解決しない類のものである気がしている。
この嫌な予感の正体を確認する為にも、事態解決の為に取れる作戦の選択肢を増やすという意味でも、今回はパレスという存在に対抗する為の力の発露であろう怪盗服を持つ者のみでスニークミッションを行うことにしたのだ。
「準備は?」
「万端だぜ」
「バッチリだ」
「OKだよ」
「よし、行くぞ!」
新しい二次ネタをいくつか思い付いて、一発ネタにしようか続き物にしようか迷ってます。
一次創作も書き始めてしまったので、執筆時間がががが