ペルソナの主人公に転生したらしい   作:明人

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カモシダパレスの探索描写はスキップです。
レベルを上げたメンバーによる瞬殺劇でしかないので。



第十二話

 カモシダパレスに突入してから暫く。

 事前の調査で城の構造を大体把握していたこともあり、道に迷ったりすることもなく『オタカラ』が隠されている場所として候補に挙がっていたこのパレスの中でも屈指の広さの大広間に辿り着くことが出来た。

 だが、以前の調査では見かけなかったイレギュラーが一つ。

 

「門番か」

 

 大広間の天井に設置されているシャンデリアから見下ろした先にいるのは、趣味の悪い黄金の鎧を身に纏った巨人の様なシャドウだ。

 そのシャドウは、人の身の丈を超える大剣を床に突き刺した状態で不審者がいないか周囲を見渡しながら、自身の背後にある過度な装飾が施された扉を守るように立っている。

 ああいう立ち姿はゲームとかでよく見る門番を想起させるポーズなのでロマンを感じない事もないが、あんな風に武器をすぐに使えない状態にしていたら咄嗟の事態には対処できないんだよな。

 

「こっちにとっては好都合だが」

 

 物音を立てないように気を付けながら格納していたナイフを抜き、足場にしていたシャンデリアから飛び降りる。

 俺がシャンデリアから飛び降りてもなお、こちらに気付く様子のないシャドウの右肩に音もなく着地し、左足でシャドウの大きな頭を蹴り飛ばして兜と胴鎧の間に強引に隙間を作る。

 そして人間であれば頸動脈が通っている辺り、首筋目掛けてナイフの刃を突き立てて、そのまま勢いよく振り抜く。

 

『グ!?』

 

 奇襲によって赤黒いマガツヒが噴水の様に噴き出すほどの大ダメージを負わせることは出来たが、伊達に重要な場所の守護を任せられている訳ではないようで、シャドウは自身が奇襲を受けた事を瞬時に把握すると、自分の肩に乗る侵入者を排除しようと大剣で自分の頭部付近を薙ぎ払おうとする。

 

 だが、一手遅い。

 

 僅かな風切り音と共に何処からともなく飛んできたパチンコ玉がシャドウの手に当たった瞬間に爆発して大剣を弾き飛ばし、シャドウ本体も大蛇の様に素早く這い寄って来た鞭に足を取られて強引に膝をつかされる。

 完全に死に体を晒すことになったシャドウはせめてもの反撃として己に狼藉を働いた侵入者を罵倒しようと口を大きく開くが、どこからともなく現れた銃口が大きく開いた口にねじ込まれる。

 驚愕を露わにしたシャドウのその曇った瞳には、闇に浮かぶ髑髏の仮面が映りこんでいるだろう。

 

Good Night(グッナイ)

 

 ショットガンの発砲音と共にシャドウの頭部が弾け飛ぶ。

 

 人外の大きな頭部が消音器(サプレッサー)代わりになったようで、普段よりも幾分か大人しくなった銃声が大広間に響き渡る。

 

 侵入者に対して抵抗するどころか、声を上げることも出来ずに絶命したシャドウの巨体が仰向けに倒れながらマガツヒになって消滅していくのを確認した後、パレスに住み着いている他のシャドウや悪魔が音に引き寄せられてやって来ていないか様子を窺う。

 

「……増援はなし。出てきていいぞ」

 

 俺のその言葉と共に、天井に吊るされているシャンデリアからモルガナが飛び降り、大きな柱の陰から杏が現れ、銃口から硝煙を漂わせるショットガンを持った竜司が近寄って来る。

 

 モルガナは元々戦える方だったが、竜司と杏も大分戦い慣れてきたな。

 今の戦闘も作戦自体は俺が立案したが、特に指定した訳でもないのに連携のタイミングはしっかりと合わせられていたし、戦闘方法も自身の能力に見合ったやり方だ。

 やはりあの地獄の訓練は無駄ではなかったらしい。

 

「ちょっと、銃撃ったら音で奴らに見つかるじゃない」

 

「あ、ヤベ」

 

「おい、何も考えずにぶっ放したのかよ」

 

 ……まあ、テンションが上がって派手に止めを刺したくなる気持ちも分かる。

 とどめの刺し方を指定しなかったのは俺の落ち度か。

 

 ワイワイと今の戦闘に対しての批評をしている三人を他所に、結局今回も戦闘を回避出来なかった事に浅く溜息をつく。

 本当は当初の予定通り出来る限り痕跡を残さずにオタカラへのルートを確保したかったのだが、ここまでの道のりでそれなりの数のシャドウを処理することになってしまった。

 

 予想自体はしていたが、やはりカモシダの警戒度が上がっている。以前と比べてパレス全体に巣食うシャドウの量が増しているし、チラホラと強力な力を持った悪魔も見かけるようになった。そして人員が増えたことに比例するように巡回の人数も増え、不意の遭遇戦に発展してしまう確率も上昇している。

 

 今はまだ俺達がパレスに侵入してきていることは察知されていないようだが、はたしていつまで誤魔化せるか。

 今やっているルートの確保もそうだが、本番は今よりももっと時間との勝負になりそうだな。

 

「だが、ようやく辿り着いた」

 

「だな。ワガハイのオタカラセンサーにデッカイ反応がある。お目当てのモノはこの扉の向こう側だぜ」

 

 さっきの戦闘内容を杏にダメ出しされて若干萎びている竜司を放置してこっちに来たモルガナが俺の言葉に反応する。

 モルガナの言葉を信じるなら、目の前の無駄に豪奢な扉の先に「オタカラ」があるのだろう。

 

「罠は?」

 

 素早く扉に近づいて腰のツールベルトから取り出した道具で一頻りアレコレ調べたモルガナがこっちに振り返って親指を立てる。

 

「大丈夫そうだな」

 

「よっしゃ、開けるぞ」

 

 俺が扉の右側に、竜司が扉の左側に立ってそれぞれが両手を当てて、力を込める。

 重い音を立て少しずつ開かれ始めた扉の隙間から漏れ出す眩い光に目を細めながら、更に力を込めて扉を開け放つ。

 

「うわ。すげぇ」

 

「すご。これ全部本物?」

 

 どうやら大広間の後ろにあった部屋は宝物庫だったらしく、目も眩む程の金銀財宝が山の様にうず高く積み上げられている。

 なるほど。この光景は『城』で大事なモノを保管するというなら、それは宝物庫以外には無い、という認知によるものだろう。

 

「残念だが、あの辺の物は特別な力を宿していないただの背景だ。パレスから持ち出した時点で消え去るだけだぜ」

 

 モルガナのその言葉に、金銀財宝に釣られてそちらの方にフラフラと歩み寄っていた竜司と杏の足が止まる。

 認識によって有り様が変わる認知異界ではよくあることだが、これ見よがしな高価そうな品物や意味深な装飾品も、特別な力が宿っていない物や実体を持っていない物は認知異界から出た瞬間に霧散してしまう。

 あの金銀財宝もご多分に漏れず現実に持っていけば消えてしまうだろう。

 

「金銀財宝という程ではないが、この件が片付けばヤタガラスからそれなりの給金が出る。それで我慢してくれ」

 

 未成年だし、命の危機がある面倒事に巻き込んでいるからヤタガラスも三桁万円は確実に出してくれるだろう。

 勿論、裏側でむにゃむにゃするから非課税で所得税も掛からないクリーンなお金として、だ。

 

「お、おう。というか、ここからオタカラを探すの、かなり大変じゃね?」

 

 手にしていた金貨をあった場所に戻して、手持ち無沙汰な様子で俺とモルガナの側までやってきた竜司が、うず高く積まれた財宝を前にして辟易した様子で呟く。

 竜司の懸念も当然か。この中からどんな形をしているかも分からないカモシダのオタカラを探しだすのは至難の業と言ってもいいだろう。カモシダの見栄と欲望が形をなした偽物の財宝が本物のオタカラ()を見つけ出すのを困難にしているというのも皮肉な話だが。

 

「それに関しちゃ問題ないぜ。何処にあるか何てこの部屋に入った瞬間に分かってるからな」

 

「え、モルガナってそんなのまで分かるの?」

 

「ワガハイの様な鼻を持ってなくてもすぐに分かるぜ。なにせ、あんなにデカくて光ってるんだからな」

 

 モルガナの視線の先にあるのは、この部屋に入ってから一番最初に目に入ったもの。外からの光を入れるための窓が一切なく、部屋を照らす筈のロウソクすらないのに何故か真昼のように部屋を照らし、財宝に輝きを与えている存在。

 

「まさか、アレがオタカラなのか」

 

 部屋の中空に浮かぶ光の塊。地面に落ちている金貨を当ててもすり抜ける所から実体が存在しないだろう、七色の光の塊がオタカラだと? 

 異界でよく見かける類の摩訶不思議な光源だと思っていたのだが。

 

「……これ、盗むの無理じゃね?」

 

 オタカラを前にして一人にゃふにゃふと笑うモルガナ以外の心が、困惑した竜司の声に同意した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうするんだよ」

 

 夕暮れ時の人で込み合うファストフード店『ビッグバン・バーガー』に集って、出来立てのフライドポテトを咥えた竜司が虚空を見つめながらぼやく。

 竜司の言葉を聞いた杏もいい策はないものかと悩んでいるようだが、その唇がストロベリーシェイクで満たされた容器のストローから離れる様子はない。

 

「どうしたもんか」

 

 モルガナがいうところの『オタカラ』という物はパレスの中に実体として存在するものだと思っていたが、まさかあんな曖昧な状態で存在しているとは。

 いや、歪んでいたり異界の中に存在していたりと条件は特殊ではあるものの欲望という感情に実体があるというのも妙な話ではあるのだが。

 

「アスモデウスが確保していた『ネガイ』という前例があったからてっきり『オタカラ』も物質化していると想定していたんだがな」

 

 実際、志帆がアスモデウスに誘拐された時に見た実体化した人の感情・心である『ネガイ』という前例があったから今回の『オタカラ』も同じ様に実体化していると想定していたからこそ、モルガナが提案した『オタカラ』を奪うことで歪んだ欲望を取り除き、パレスを崩壊させるという案に乗ったのだから。

 

「流石の着眼点だな。蓮」

 

 目の前に積まれたビッグバン・バーガー名物の大食いチャレンジ用のハンバーガー(コスモタワー・バーガー)を頬張りながら自分の見通しの甘さを嘆いていると、俺の通学鞄の中でナゲットを貪っていたモルガナが顔を出す。

 

「ワガハイもオタカラが既に実体を持っていればラク出来ると思ってたが、このモルガナ。そうでなかった時の対処の方法も考えてある」

 

「はぁ? まさかあんなフワッとした物に形を与えるってか?」

 

 テーブルに肘を置いて頬杖をついた竜司の皮肉交じりの台詞にモルガナが目を見開く。

 

「驚いた。竜司のクセに冴えてるじゃねぇか」

 

「認知異界の物の形を変える……なるほど。()()()()()()()のか」

 

 認知異界に存在する物は全て誰かの認知によって生み出されている。タルタロスやマヨナカテレビがそうだったようにパレスもまたその法則から逸脱することはない。

 そして、パレスは個人の歪んだ欲望が元になっている。

 

「つまり、パレスの大本である鴨志田の認識に手を加えればあのオタカラに実体を持たせることも可能、と」

 

「そういうことだ。そして、その実現もわりと簡単。鴨志田のヤローに自分の歪んだ欲望(オタカラ)を強く意識させればいい。そうなりゃこっちのモノってことさ」

 

「欲望を意識……私たちにしようとしてた事とか、バレー部員への体罰やセクハラの事を、でいいんだよね」

 

 鴨志田の歪んだ欲望、つまりカモシダパレスの大本はその欲望と見て間違いない。

 バレー部員への体罰は暴力を振るう事への快感と優越感を。セクハラや杏と志帆を標的にした淫行未遂は単純な色欲。その欲望が生来の素養なのかアスモデウスという大悪魔がパレスに巣食ったが故のものなのかはわからないが。

 

「となると、鴨志田の罪の証拠を集めて『お前の罪を知ってるぞ』って鴨志田自身に突き付ける必要があるんじゃね?」

 

「証拠集めかぁ。警察に通報とか?」

 

「微妙だな。警察は基本的に事件が起きた後に動く組織だ。明確な証拠や証言がない状態で通報してもイタズラで片付けられる可能性が高い」

 

 というか、異能絡みの事件に一般人を巻き込むのがよろしくない。警察に通報して現実世界の鴨志田が追い詰められた時に、鴨志田を守るために奴のパレスに潜んでいるアスモデウスが現れて警官を皆殺しにする可能性が高い。

 シャドウと違って悪魔は現実世界でも活動が可能なのだから。

 

「俺達で監視するか?」

 

「……いや、鴨志田に余計な警戒をされたくない。今日の探索でも感じたと思うが奴の警戒度がかなり上がっている。これ以上警戒度が上がったらパレスでの行動に支障が出かねない」

 

 実際、今日の段階でもシャドウが雨後の筍の如くいたのだ。もしも現実世界で鴨志田を監視していた事がバレたりすれば、パレスに居るカモシダの警戒心を無駄に煽ってしまい今日以上の数のシャドウで守りを固めるようになるだろう。

 

「証拠はなくても問題ないと思うぜ。必要なのは鴨志田の意識を自分の歪んだ欲望に向けることだ。竜司の言うとおりに『お前の罪を知ってるぞ』と言いふらすだけでも効果が期待できる」

 

 そうか。意識させるだけならそれでも問題ないのか。

 自分の悪事が裁かれることはないと思っている類の人間には最初の告発ってのは強く意識する理由にもなる。

 勿論、何度も繰り返せば戯言と切り捨てられて慣れてしまい意味をなさなくなる。最初の一回で勝負を決める必要があるな。

 

「それよりもいい加減、パレスの中でお互いの名前を呼ぶの辞めた方がいいぜ。今朝鴨志田の態度が露骨に悪かったのも、パレスの中で各々の名前を呼びまくりながら戦ってたからその時のカモシダの悪印象が本体に反映されてるんだろうからな」

 

 あ。その可能性は考えつかなかったな。

 単純に杏と志帆を連れて登校したのが目障りだったからあんな態度を取ったのかと思っていた。

 

「そうなると今後はパレス内では偽名か、コードネームで呼び合うか」

 

「じゃあ俺は、仮面が骸骨だから『骸骨仮面』とか、どうよ」

「ダセェ。あと咄嗟のタイミングで呼びにくいだろそれ」

「んだよ、じゃあ骸骨を英語にして……ボーン? スケルトン?」

「頭蓋骨なんだから『スカル』でしょ」

「おお。なんかいいな。スカル、スカルね」

 

「杏殿の仮面はネコ科の動物っぽいな……キャット?」

「うーん」

「全身真っ赤だからレッドとか。なんか戦隊モノのリーダーみたいだな」

「可愛くない」

「赤、スカーレット、大型のネコ科は、ジャガー、サーバル、大分類ではパンサーとか」

「それ! 蓮の案! 『パンサー』がしっくりくる」

 

「モルガナはなんだろう」

「こいつのは仮面っていうか覆面だしな。それこそネコなんじゃね?」

「猫じゃねーよ!」

「シンプルに縮めてモル、ルナ、モナ……」

「モナが呼びやすいかも」

「はい、決定! ワガハイ今日から『モナ』!」

「分かりやすすぎんだろ」

 

「チーム名は?」

「SEESとか特捜隊とか格好いいよな」

「まあ、正体不明の奴から狙われるより、明確に名前のある集団から狙われていると意識した方が認知に効果ありそうだな」

「オタカラを盗むんだから……怪盗団?」

「実際の財宝じゃなくて盗むのは心だけどな」

「実体のない心を盗む怪盗団。『ザ・ファントム』って感じか」

 

 各々ピンと来る名前があったようでよかった。命懸けの戦闘中に呼ばれても反応出来るかどうかは大切だしな。

 俺は正直、コードネームはライドウでいいんだがな。何だかんだ呼び慣れてるし。

 

「蓮はあれだな」

「そうね」

「最強の手札で」

「何でもできるワイルドカード」

「ワガハイ達の切り札」

 

「「「ジョーカー!」」」

 

 ……まあ、折角だしな。ライドウの名前を矢鱈と言いふらされるのも問題があるか。

 

「オーケー。俺のコードネームは『ジョーカー』だな」

 




色々と落ち着いたのでちょこちょこ更新していきます
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