武器とアイテムを売ってくれるコミュ相手をどうするか悩みました。ヤタガラスが最高性能の物を支給しちゃうんですよね。
ちなみに今代のゲイリンは陰陽道を修めた優秀なサマナーです。メシアン贔屓の先代頭領が辰巳ポートアイランドで発生した悪魔と天使の大戦争時に殺されて後釜にゲイリンが座った感じです。
「大分財布が薄くなったな」
やれやれと首を振って気持ちを切り替えて暗い裏路地を歩く。
あれからベルベットルームで悪魔合体とペルソナ合体を行ったことで、サポート特化のペルソナの作成と手持ちの仲魔の強化を行うことは出来た。
ペルソナの方はレベルが低い事もあって大した額ではなかったが、悪魔合体の方は仲魔のレベルが高いのと、全書から新しい悪魔を引き出したことで相応の金銭を支払う事になってしまった。
金銭だけでこれ程の秘儀を施して貰えるのは破格の対応と言われればそれはそうなのだが、財布の中身が目減りすると悲しくなってしまう。
「後用意するのは……アイテムか」
この世界に転生してから今まで装備品やアイテムの類はゲームとは違って俺個人で用意する必要はなかった。基本的に武器に防具、各種アイテム類はヤタガラスの装備局が最新の物を任務に応じて提供してくれていたからだ。
だが、ここ最近日本各地の異界が活性化した影響で、ヤタガラスのサマナーのみならず協力組織のサマナーにも装備を提供して日夜異界の沈静化と討滅作業に当たっている事もあって、現状装備やアイテムをポンポンと無償配布出来るほどの余裕が今のヤタガラスにはない。
「武器は本物の霊具を受け取ってるからいいとして、アイテム系は認知異界の特性を上手く利用するほうがいいか」
俺達が立ち向かおうとしているパレスやメメントスといった認知異界というのは認識が全てだ。現実世界の物理法則に則した現象も、認知異界では認識次第でそれを捻じ曲げることが出来る。
『空飛ぶ蝿を龍に見せる』とまでは行かずとも、認識の仕方一つで何の力も持っていない人間が自分の理想通りの戦い方を披露し、刃を潰した刀に名刀よりも鋭い切れ味が宿り、銃弾どころかBB弾を打ち出す機構すら備わっていないモデルガンから銃弾が発射されるようになるし、現実世界ではただの食べ物や医療品でも認識次第では霊能アイテムと同等の効果を発揮する。
つまり認知異界で使用する前提なら、それが本物と見間違う程に真に迫った出来映えであれば、本物と同じ性能を発揮するということだ。
俺が合流する前のSEESや特捜隊の面々は『ポロニアンモールの交番』や『だいだら.』で取り扱っていた武器でも十分に戦えていたし、アイテムの類も特別なところは何もない市販の医薬品で怪我を回復させていた。
それらを踏まえて考えれば今回も認知異界の中で戦うという前提であれば、認知の力で本物同然の性能を発揮するという異界の法則が十全に働いてくれるだろう。
そんな事を考えながら渋谷の裏路地を歩いていると、ふと一つの店が目に留まる。
(あれは、ミリタリーショップか?)
そのミリタリーショップは、知る人ぞ知るというか余程のマニアでないと知らないという表現がピッタリな風体で、人の出入りも殆どないようだ。
道路側に面したガラス窓から店内を覗き込むと、所狭しと並べられたミリタリーグッズに光学サイトや拡張グリップ等の各種アタッチメントパーツ。そしてカウンターの裏に並べられた本物と見紛う出来映えのモデルガン。
これは僥倖だ。認知異界で使う武器の予備を用意するのに色んな所を歩き回って探す手間が省けた。
(それに、店の近くで放置されているあの
十中八九、霊能絡みの厄介事に巻き込まれるだろうが、見過ごす訳にはいかないので店の扉を開けて中に入った次の瞬間。
「いい加減吐いたらどうだ。ネタは上がってんだぞ、岩井!!」
いきなり聞こえてきた中年男性の怒声が俺の耳朶を叩く。
突然の大声に顔を顰めながら店内を見回してみると、どうやら大声を出しているのはノーネクタイでスーツを着崩した男性のようだ。
その男性がカウンターの奥にいるこの店の店主らしき男性に対して怒鳴り散らしているのを観察していると、彼がどんな人間なのか見えてくる。
脅しの掛け方や声の張り方は堂に入っている。相当にやり慣れたことなのだろう。
身体の重心が僅かに左に傾いている所からそれなりの重さのモノ、恐らくは拳銃のたぐいを左の懐に忍ばせている。パッと見た感じだとヤのつく自由業の人間に見えるが、暴力に酔っている様子もない。
後ろに優男風のグレーのスーツをしっかり着込んだ若い男性を連れているし、仕事熱心な私服警官、という所かな?
「まあまあ、落ち着いて。岩井さんも正直に言ってくれればこっちも事を荒立てるつもりはないんですよ?」
「……知らねぇな。俺は足を洗ったんだ」
「テメェ。それが通ると思ってんのか! 手前の古巣の奴も近くに居ただけの一般人もヤラレてんだぞ!」
「ッ……関係ないな。オヤジ達とは縁を切ったんだ。もう、何年も会ってすらいない」
そう言ったカウンター席の奥にいる男性、恐らくはこの店の店主が冷静にそう言うと業を煮やした中年男性が店主に掴みかかる。
「テメェ、シラぁ切ってんじゃねぇぞ!」
「ちょっと、流石にマズいですよ!」
このまま乱闘騒ぎに巻き込まれるのは御免だな。ヒートアップしている男性を落ち着かせる為にこっそりと『エナジードロップ』を発動して激怒状態を解除しつつ声を掛ける。
「あの、買い物したいんですけど取り込み中だったりしますか?」
魔法の効果で興奮状態だったのが多少は落ち着いたのだろう。いつの間にか店に入ってきていた俺に気付いて怪訝な表情をする店主と優男。
そして、俺の顔を見た瞬間、心底驚いた様な表情をする中年男性。
(あの驚きよう、俺の顔を知っているのか?)
驚きで固まってしまった中年男性に代わり、優男の方がなるべく威圧感を感じさせないような口調で話しかけてくる。
どうやら、岩井と呼ばれている男性に詰め寄るのを余程邪魔されたくないらしい。
「君、今取り込み中だから買い物は後にしてくれるかな?」
「おいおい、刑事さん。そいつはウチの客だぜ。勝手に追い返されちゃ商売あがったりになっちまう。営業妨害するのは止めてくれよ」
「なんだと」
店主の方も俺が入って来たのをこれ幸いと言わんばかりに、俺を言い訳にして刑事達を退かせようとしているのが見て取れる。
別段急いでるわけでもないし、これは本当に後から来た方がいいかもな。
「おい」
一旦撤退することも視野に入れ始めていた俺に中年男性、恐らくはベテランの刑事が話しかけてくる。
その表情は硬く、表面上はただの学生にしか見えない筈の俺に対して警戒心を露わにしている。
「なんですか?」
「この男……岩井もお前らの仲間か? 『カラス』」
刑事の言葉に表情筋が動きそうになるが、意識的に表情を固めて無表情を貫き通す。
成程。こっちの刑事は
「関係者ではないですよ。今はまだ」
「ハッ……そうかよ」
俺の言葉にそう返した刑事は、他をあたった方がいいな。と呟き、さっきまでの剣幕は何処に行ったのやら、さっさと帰り支度をして優男を引き連れて店から出て行こうとする。
えらくあっさりと退いたな。
「ちょ、いいんすか!? 今のところ最有力の手掛かりっすよ!?」
「いいさ。奴らが来たなら遅かれ早かれ進展がある。
裏側が関わってなければ表側に丸投げするヤタガラスのやり方を知ってる、と。後で彼についての情報があるかヤタガラスに確認しておこう。
さっきの口ぶりからして既に表側に被害が出てるようだし、情報を渡すくらいはした方がいいだろうし。
「そちら側の案件だったら連絡しますよ」
「いらねぇよ。
そう言って優男を強引に引き摺ってあっという間に店から出て行った刑事を見送り、急展開に付いていけていない店主に向かって用件を切りだす。
「それで、買い物していってもいいですか?」
「……あのやり取りを間近で見せておいてそう言えるのは素直にスゲェよ。どんな度胸してんだお前」
店主の皮肉を笑いながらスルーして俺以外に客の居ない店内を物色する。
やっぱり、この店は当たりだ。一般的なミリタリーショップよりもマニアックで品揃えが良いし、展示されているエアガンはしっかりと手入れされているし、モデルガンに至っては使っている素材や各機構の再現が本物同然のディティールをしている。この出来栄えならパレスで使っても問題なく本物として動作するだろう。
手近にあった
「それで、お前は何なんだ」
「はい?」
「とぼけんな。あの
流石に誤魔化すのは無理か。
まあ、丁度いい感じに刑事が居なくなったから、ついでにこの店の出入り口に残っているマガツヒの残滓と、近くの路地に放置されていた惨状の事について聞くとしよう。
プラスチック製の破片手榴弾や閃光手榴弾のレプリカに、怪盗団メンバーが得意としている銃のモデルガン数丁とそれ用のマガジン数本を買い物かごに入れてカウンターに置きながら店主に話しかける。
「店主さん、不躾ですが、ここ最近身の回りでオカルト染みた出来事が起きたりしませんでしたか?」
目の下に濃い隈を作り、ゲッソリと頬がこけて青白い顔をしている店主の表情が強張る。
俺が言葉を発したと同時に彼の背後で急速に集まり始めたマガツヒの塊を睨みながら、懐に隠しているナイフの場所をさり気なく確認して、いつでも抜けるように備える。
「……なんの、話だ」
「例えば、そう」
この店の扉にベッタリと付いていたマガツヒは真新しいモノだった。
ふらりと悪魔が立ち寄った程度の話ではない。それなりの期間この店にやって来ては毎夜毎夜誰かを呪っていなければ、あのレベルの呪詛となったマガツヒが溜まることはない。
そして、誰にも見つからないように結界が貼られたこの店の近くに
「犬の姿をした怪物に襲われる夢を見る、とか」
反応は劇的だった。店の奥で集まっていたマガツヒが大きな犬の頭部に変化し、店主と俺を丸ごと食い殺そうと、その大きな顎を開いて鋭い歯をギラつかせながら襲い掛かって来る。
「ちょっと、失礼します」
俺の突然の行動に驚いた顔をする店主を無視してカウンターを飛び越え、こちらに飛び掛かってくるイヌガミに素早く懐から抜いたナイフを突き刺す。
狙い違わず犬の頭部に突き刺さったナイフを上方向に振り抜いて頭を割り、そのまま左拳でイヌガミを床に叩き落として全力で右足を振り下ろす。
振り下ろした右足の先、鉄板の仕込まれた靴の裏で中身の詰まった果実を踏み潰したような感覚と共にイヌガミの頭部が砕け散り、赤黒いマガツヒがまき散らされ、空気に溶けていく。
やっぱり『イヌガミ』か。それもただのイヌガミではない。
飢えさせた犬の首を刎ねて作る古典的な呪術による式神を作り、更にはその式神を悪魔としての『イヌガミ』に混ぜ合わせているのだろう。
悪魔としての力を持ったイヌガミを、呪術として成立する様に手順を踏んで作られたイヌガミの指示系統で使役している。このイヌガミを使役している輩は相当な手練れだ。
(だが、妙な点もある)
この店の近くに放置されていた犬の亡骸は十を超えていた。
複数の亡骸を作るという行為は犠牲になった者の恨みつらみを積み重ねて呪いとしての強度を上げるための手法なのだが、今しがた倒したイヌガミは捧げられた生贄に見合った程の力は無いようだった。
つまり、あれらの無数の亡骸は単純にイヌガミを作るのに失敗した結果ということだ。
(これだけ式神を使役できる術者が『イヌガミ』を作成するのに失敗している、か)
術者としての力量は十分なのに、作り慣れていない『イヌガミ』を使用して他者を呪っているのは不自然というか、そもそも悪魔を使役しているのなら悪魔に襲わせた方が手っ取り早いのに、わざわざ呪いに形を変えて人を襲わせているのも妙だな。
「まあ、とりあえず怪我はありませんか?」
「あ、ああ。あのバケモノは一体……」
一瞬とは言え、命の危機に瀕したせいで悪魔の姿が見えてしまったのだろう。
いつものように魔法で記憶を消して誤魔化すのが手っ取り早いが、この人が狙われている理由が分からないと記憶を消したとしてもまた同じように狙われる。なにか事情があるのなら聞き出しておいた方がいいか。
「悪魔にデビルサマナー、ねぇ。正直信じ難いが、あんな化け物をこの目で見ちゃあな。つうか、人の店のそばでそんないかがわしい儀式をやるなんざ、ふざけた奴がいたもんだ」
あんな出来事があったからか、流石に今日は営業を続けるつもりは無いらしく、閉店作業をした後の店のバックヤードで店主……『岩井宗久』と名乗った男性が紫煙を燻らせる。
襲ってきたバケモノが悪魔であること、そしてそれが誰かからの呪いであること、店のそばでそんな呪術を行使する為の儀式を行った形跡があることを説明し終えた頃には岩井さんは完全に開き直っていた。
紙巻きたばこを持つ手はまだ若干震えているが初めて悪魔の姿を認識してこの程度で済んでいるのは相当肝が据わっている。
「恨み、か……心当たりはなくもない」
彼は昔、とあるヤクザな組織に所属しており、そこでガンスミスの真似事をして生計を立てていたという。
色々あって組を抜け、ガンスミスの真似事をしていた伝手でこのミリタリーショップを開いて隠居生活を楽しんでいたのだが、この一週間の間に昔所属していた組の人間が相次いで惨殺死体で発見される事件が起きているという。
当初は組に恨みを持った奴の仕業と判断され、裏の世界特有の報復活動も計画されていたが、そんな計画をしている
「組の連中も物騒な得物を引っ張り出してきて警戒していたらしいが、反撃すらできずに事務所に詰めていた全員細切れになったらしい。俺に情報を持ってきた昔の兄貴分の『津田』が言うにはな」
当然、昔とはいえその組に所属していた過去がある彼も標的になる可能性があり、その辺のこともあってあの刑事は数少ない生き残りである岩井さんを尋問する為に令状もなしに突撃してきたのだろう、と言うことだった。
実際、俺が偶々この店を訪れなければ次の犠牲者は岩井さんになっていただろう。
「人体が細切れに……まあ、人間業じゃないですね」
「常識的にあり得ない犯行とは言え、それだけで悪魔だの祟りだのという発想にはならんさ。薬漬けになって馬鹿力を出せるようになった奴とか複数人で犠牲者に襲い掛かったって言われた方がまだ説得力がある」
まあ、実際は化け物の仕業だったんだがな。と言いながら二本目のタバコに火を着けた岩井さんを見ながら考えを巡らせる。
これはどう考えても悪魔絡みの事件であり、俺達ヤタガラスが対処しなければならない案件だ。ここ最近は異界鎮圧やパレスの対応にかまけていたせいで異能絡みの事件に対する対応が後手になっていたのもあるが、これだけ派手にやっていてヤタガラスに勘づかれてないということは犯人は犯行がバレないように相当うまくやっていたのだろう。
「今回は偶々対応できたから良かったものの、今後の事が心配ですね。事件の概要を聞く限りだと犯人は標的を始末するのに周りを巻き込むのをためらわないようですし」
「それが問題だ。クソ。俺一人がくたばるならヤクザ者なんかになった自分のツケが廻って来ただけだが、無関係のアイツを巻き込むわけには……!」
「根本的な解決には至らないですが、対処法ならあります。勿論、幾つか我々に協力していただくことが条件になりますが」
弱みに付け込むようだが、異能絡みの事件を解決する代わりにこっちの銃器の調整を手伝って貰おう。
あれらの抜群の完成度を誇るモデルガンを作り上げた岩井さんのガンスミスとしての手腕は確かだ。ヤタガラスに協力してもらえればあまり成果が出ていない銃器分野でテコ入れが出来るだろう。
「……胡散臭いが、背に腹は代えられないか」
「では」
「いいだろう。取引だ。アンタに協力する代わりに、この厄介な事件を解決してくれ」
そう言った岩井さんと握手をした瞬間、聞き覚えのあるフレーズが脳裏にリフレインする。
岩井さんとの間に感じる、魂の繋がり。この人もコミュの相手か。
まあ、なんにせよ人命が掛かっている以上はこの事件も早めに解決しないとだな。
刑死者コープは世界観融合の煽りを受けて難易度上がりました。
14代目みたいにしっかり事件の調査をしてもらいましょう。
因みに、今回出て来たベテラン刑事は主人公が悪魔と戦っているのを知識として知っています。
主人公が戦った後に出来た破壊されたビルの輪切りとかを見ているので超警戒しています。一般人からしてみれば超人って普通は怖いよねっていうアレです。