プロローグ①
上下左右全てが石材で構成された薄暗いとある教会の地下室で、両手で握った日本刀『赤口葛葉』の刀身を光の線にしか見えなくなる程の速度を出しながら、目の前の『天使』に向かって袈裟懸けに振り抜く。
対峙している天使の左肩からするりと侵入した刃が、きめの細かい白い肌と身体に食い込むように巻かれた黒革のベルトを引き裂き、赤黒い血液と『マガツヒ』を撒き散らす。
文字通りの意味で、その身を引き裂かれた天使が絶叫と共に絶命する。
それを見た別の天使達が、俺に向かって罵声を浴びせながら一斉に「コウハ」と名付けられている光の矢を放つ。
「遅い」
並みの人間であれば触れただけで殺傷せしめる事が可能な光の矢を刀を逆袈裟に切り上げて破壊する。
下級とはいえ、魔法を物理で破壊されるとは思っていなかったのか、呆けた表情と共に致命的な隙を晒しているので、すかさずベルトの左腰に提げられたホルスターからFN-FiveSevenと呼ばれる拳銃を引き抜き、十体はいるであろう天使の額に1発ずつ打ち込む。
自分の額に打ち込まれたのがただの拳銃弾だと認識したのか、天使がニヤリと笑って追撃の為に魔法を放とうとした次の瞬間、黄金を溶かして作ったような美しい金色の髪と、黒い目隠しが顔の大半を覆っていても絶世の美女であることが容易に想像できる整った顔が、瞬く間に黒と赤のマーブル模様に染まり弾け飛ぶ。
「天使を名乗るなら、せめて呪怨耐性くらいは習得しとくんだったな」
「こ、の、異教徒風情が!」
散々に呪詛を練り込んで強化した銃弾を食らったせいで、唯一生き残っているこの白い法衣を纏った高位天使『ドミニオン』も最早虫の息といった所だが、それでも最後の力をふり絞って背中の翼をはためかせ、高位破魔魔法『ハマオン』を放ってくる。
「悪いな。祝福属性無効なんだわ」
ドミニオン渾身のハマオンも、過去の戦いで高い祝福耐性を獲得している上に装備で更に耐性を上げている俺にはただ単にピカピカ光っているだけに等しい。
実際、俺がさっき天使どもの魔法を斬ったように見えたのは、ただの物理的に斬ったのではなく、俺自身の祝福耐性で無効化されただけだったりする。
自身の魔法が俺に通用しないことを漸く理解したのか、背を向けて逃げようとしているドミニオンに、人間の限界を超えた身体能力を駆使して素早く近づき、問答無用で刃を振り抜く。
マガツヒと
「一件落着、だな」
抜き身の『赤口葛葉』を血振りして刀身に付着した血液とマガツヒを払ってから鞘に納め、唯一血塗れになっていない簡素な椅子に座って身体をほぐしていく。
ここ最近、相当数の異界攻略や悪魔討伐を重なってこなしていたので流石に疲労が溜まっているようだ。
今回の件の後始末が終わったら温泉とかでのんびりと疲れを癒した方がよさそうだ。
「八十稲羽の天城旅館とかがいいかもな」
『あの事件』の時は休暇で疲れを癒しに行ったのに、結局温泉や田舎でのリフレッシュを満喫する時間がなかったからな。
リベンジがてら今度こそ温泉を堪能するのもいいかもしれない。
それに、色々あって『彼ら』にはここ最近全く連絡出来てなかったし、連絡を取るいい機会にもなるか。
「
今後の休暇予定を頭の中で組み立てつつ、後処理部隊を待っていた俺の目の前に、いつの間にか紙で出来た折り鶴が重力を無視して浮かんでいた。
俺の名前を呼ぶ声はどうやらこの折り鶴から発せられているようで、この回りくどいやり方は、『ヤタガラス』―――俺が所属している組織―――の頭領の物だろう。
普段は文明の利器である電話で連絡をとってくるのだが、どうやら今回は違うらしい。
「此度の働き、見事だった。これで我が国にちょっかいを掛けてきていた国内のメシアンはほぼ排除出来たといってよかろう」
そう。
今俺がとある都市に存在するメシア教の教会の地下室で戦闘をしていたのは、そもそもこの教会の査察と、この国に敵対的な悪魔が存在した場合はそれを排除する事が、今回俺に与えられた任務だったからだ。
表向きは査察ということにしているが、この教会に所属している連中が人間の改造や教化という名の洗脳といった悪事に手を染めている過激派メシアンであることは事前の調査で判明していた。
なので、実際には武力を持って国民を害する外敵を排除する事がそもそもの目的だったと言っても過言ではないのだが、建前として査察ということにしていたのだ。
「此度の件で外敵には喫緊の対処は必要なくなった。だが、新たに一つ問題が浮上してきた」
「問題、ですか」
ここ数年、メシア教やファントムソサエティーという名のダークサマナー組織が国内で活発に活動していたのだが、それに業を煮やしたヤタガラスが主導で各地の霊能組織と連携を取り、奴らの拠点を物理的に破壊し、構成員を抹殺し、表にも裏にも最早奴らの居場所がこの国には存在しなくなるレベルで根絶やしにしてやった事もあり、今日のこの作戦が終われば、実質的にこの国の外敵というものは概ね排除できるはずだ。
となれば、外敵以外、国内で発生した問題ということだろうか。
「『認知異界』の出現が確認された」
「 う わ ぁ 」
認知異界。
重大で厄介で最悪の部類の問題だ。
基本的に異界というと、今回の天使や他の悪魔、この国由来の神も使うことが出来る、この世界とは別次元の空間に自分の領域を作成し、この世界に出入り口を作って運用する特殊な小さな一つの世界のことを指す。
これらの異界には確かな実体があり、異界を支配している悪魔の望む形で世界の内側の有り様を形作ることが出来る。
余談ではあるが、異界の主である存在を始末してしまえば、異界を崩壊させることも逆に乗っ取ることも容易に可能であり、ヤタガラスでも霊的資源の採取用だったり、友好的な悪魔の生活拠点としてだったりと、様々な形で異界は運用されている。
では、認知異界とはなんなのか。
端的に言うと、強大な力を持つ神性存在が人間の欲望を現実に反映するための異界だ。
つまり、認知異界というのは存在するだけで人類を壊滅させられるある意味で特別な異界と言う訳だ。
「5年前は月光館学園、3年前は八十稲羽市という地方都市、今回はどこが異界の中心になったんですか?」
「・・・東京だ」
「はい?」
「東京都全体が認知の影響を強く受ける認知異界と化しておる」
嘘でしょう、という俺の呟きは頭領も聞こえていたのだろうが、彼は特に反応することなく矢継ぎ早に言葉を重ねる。
「タルタロス、マヨナカテレビ、嘗てこの二つの認知異界による問題解決に貢献した手腕を鑑み、『十五代目葛葉ライドウ』に新たな任務を言い渡す」
その言葉と共に老人の声で喋っていた折り鶴が逆再生するように一枚の紙に戻る。
目の前で皺一つない紙になった元折り鶴には、一際目立つ文字でこう書かれていた。
『秀尽学園 編入届 氏名:雨宮蓮』
「急ぎ東京に戻り、捨てた身分を活用し、認知異界の実態の把握とそれに付随する問題を解決せよ」
この世界に転生して早17年。
今世は悪魔召喚師、そしてペルソナ使いとして生きる道を選んだ以上、いつかは訪れる出来事だったのだろうが、前々から懸念していた前世の俺の知識にない大事件が始まってしまったことを理解して、思わずため息が漏れてしまうのだった。
はい。
というわけでペルソナに悪魔とソウルハッカーズを混ぜてみました。
女神異聞録ペルソナやペルソナ2には悪魔出てきてるからね、多少はね。
プロローグそろそろ終わるので『他のキャラクター視点から見た主人公』はみたいですか?
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はい
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いいえ