絵面は映えるが、ダメージは雀の涙なのが芸術点高い。
『貴様ら、楽に死ねると思うなよ!』
自身の攻撃が全く当たらず、自分だけがダメージを負っている現状に怒り心頭といった状態のカモシダが、何処からともなく取り出した巨大なバレーボールを上空に放り投げ、カモシダ自身もその巨体を物ともせずに高く飛び上がる。
そもそもが五メートル越えの巨体を誇る変身したカモシダが、マーラと合体したせいで今の奴は十メートル近いサイズがある。
そんな存在がわざわざ自力で空高く跳び上がり、大きな隙を晒しながらでも技を繰り出しそうとするという事は、まあロクでもない技なのだろう。
『世界を獲った、俺のスパイクを受けてみろ!』
《金メダル級スパイク》
真夏の太陽の様な輝きを放ち始めたバレーボールを、カモシダが渾身の力で俺達に向かって打ち出す。
炸裂音というか衝突音とでも言えばいいのか、凄まじい音と共に打ち出されたバレーボールは、俺達どころか後ろにいる志帆達をも巻き込む進路で飛んでくる。
物理攻撃、いや、何らかの魔法攻撃か?
なんにせよ対処しなければ。
「テトラカーン、マカラカーン」
バレーボールがカモシダの手で打ち出される寸前に懐から取り出した二枚の呪符を、バレーボールが飛んでくると予想される進路上に投げて魔法を発動させる。
俺が投げた呪符を起点として透明な二枚の障壁が空中に展開され、カモシダが打ち出したバレーボールと衝突する。
物理攻撃を反射するテトラカーンと魔法攻撃を反射するマカラカーンを展開したから、大体の攻撃は反射される筈なのだが、高速で飛来するバレーボールはその二枚の障壁を紙切れを破るかのように貫通し、俺達に向かって飛んでくる。
「チッ。万能属性か。面倒な」
大体の攻撃を反射するカーン系の魔法にも反射出来ない攻撃がある。
俗に言う状態異常を引き起こす攻撃と、万能属性を帯びた攻撃だ。
状態異常系は本人の耐性や精神力次第で弾くことも出来るが、万能属性はそれが出来ない。
つまり、本人の生命力と防御力に任せて耐えるか、攻撃自体を回避するしかないのだが。
「この状況を読んでいたのかは知らないが、厄介な真似をしてくれる」
飛んで来ているボールの軌道が俺達どころか後ろにいる志帆達も巻き込む様に飛んできている為、俺には回避するという選択肢が端から存在していない。
だからこそ、彼女たちの安全の為に一枚でウン百万円もするカーン系の呪符を使ったのだが。
「ジョーカー!」
もしもあの攻撃がメギド系の様な実体がない万能属性の攻撃だったら、全力で防御を固て文字通りの意味での肉壁をやるしかなかったが、今回は不幸中の幸いというか、カモシダが取り出したバレーボールが攻撃の起点であり核になっている。
「心配しなくていい。任せろ」
俺がいる方に駆け寄ってくる怪盗団のメンバー達を手を振って押し留め、ついでにハンドサインでカモシダの頭の上に乗っているオタカラ確保の準備をする様に指示を出してから、志帆達を庇う様に前に立つ。
「こういうのは、久しぶりだな」
右手に握っていた愛刀を鞘に納め、腰を落とす。
瞬きほどの間に左手で鞘を抑え、全身の力を抜き、呼吸を整える。最早隕石のようにも見えるボールを視界に収めてから両脚にマガツヒを巡らせ、降ってくるボールに向かって力の限り跳び上がる。
「葛葉流刀術」
瞬き程度の時間すら経たない内に眼前へ迫った攻撃に向かって、刃を滑らせて居合の要領で刀を振り抜く。
「虚空斬破」
鞘から抜かれた愛刀は俺が刀に込めたマガツヒの分だけ
一般的な打刀と同じ長さの刀身しか持っていない愛刀の刀身が二メートル近くにまで延伸され、居合抜刀の勢いを保ったまま眼前に迫るボールの左下から斬り上げ、するりと入った刃が右上に通り抜ける。
出来る限り真ん中から両断するように刀を振るった関係上、巨大なバレーボールが綺麗に左右に分かれると同時に打ち出された時の勢いを保ったまま、城の外側へと飛んでいく。
『ば、馬鹿な!?』
斬り捨てられて左右に分かれながら城の外の遠い場所まで飛んで行ったボールがそれぞれの墜落した場所で大爆発を引き起こす。
それなりに距離が離れた所で爆発したというのに、ここまで爆風と熱が伝わってきている。
あんな威力の攻撃を自分の城がある場所に打ち出していたら、俺達だけでなくこの城も倒壊していただろうに。
「中々面白い技だったが……宴会芸は終わりか?」
実際のところ、カモシダの攻撃をまともに食らっていたら俺を含めた全員が爆殺される位の威力があの攻撃には秘められていた。
だが、あの攻撃には高位悪魔がやるような緻密さが無いというか、繰り出した魔法なりスキルなりはどれも稚拙さが目立っていた。
やはり戦い方のイロハを知らない一般人が元になっているから、戦い方も技の練りも甘いのだろう。
『き、貴様ぁあ!!』
自身の切り札であり、この状況を打開するつもりで放った一撃を宴会芸呼ばわりされたからか、怒り心頭といった様子で絶叫するカモシダ。
怒りで我を忘れ、視野が狭まるのは分かるが、今お前と戦っているのは俺だけではないんだぞ?
「決めろよ、モナァア!」
カモシダが俺との戦闘に掛かり切りになっていた間に、カモシダの背後に回っていた竜司がモルガナをカモシダに向けて全力で投げ飛ばす。
俺がカモシダの攻撃を捌いている間に何か作戦を立てたのだろう。
「ニャアアアアア!」
身体が小さく体重も軽いモルガナが、疾風属性の魔法をジェット噴射のように自分の背後に吐き出すことで更なる加速を得た状態で空を駆ける。
カモシダは正面に立っている俺に気を取られて空を飛ぶモルガナに気付いていない。
「来い! ゾロ!」
最大の加速を得たモルガナがその勢いを殺さないようにペルソナを召喚し、そのままペルソナごと王冠に体当たりする。
ただ頭に乗っかっているだけだった王冠がその勢いに耐えられるはずもなく、モルガナごと王冠が前方に射出される。
『お、俺様の王冠が!!』
突然前方に飛んでいった王冠に向かってカモシダが手を伸ばすが、王冠自体は全力で加速したモルガナが激突した影響もあって、それなりの速度で飛んでいってる。
このまま放置しておけばカモシダの手が届かない位置まで飛んで行ったかもしれないが、今のカモシダは凄まじいサイズをしており、当然ながらその手の長さも巨体に比例するように長大だ。もう一押し、策が必要だぞ。
『そう簡単に、オタカラを取られるもの……』
「油断大敵だぜぇえ! カモシダァア!!」
「行くよ、カルメン!」
カモシダがオタカラをその手に掴もうとした瞬間、モルガナを投げ飛ばすと同時にカモシダに向かって走っていた竜司が自分の武器でカモシダの手を叩き落とし、その勢いを保ったままカモシダの顔面に蹴りを叩きこむ。
その間に、杏がオタカラに鞭を巻き付けて自身のペルソナを召喚し、オタカラを志帆達がいる場所の後ろに放り投げる。
『そ、それに触るな! 俺のオタカラ、それがないと、それだけが俺の価値なんだ!』
王冠が自分の頭から弾き飛ばされた瞬間、あからさまに激しく動揺し始めるカモシダ。
それと同時に全身から立ち昇っていたマガツヒの量が明らかに激減し、下半身部分のマーラも萎びてしまっている。
高位の悪魔が活動するには大量のエネルギーが必要になる。
だというのに、カモシダとマーラを無理矢理合体させて活動可能にし、あれだけの力を振るわせるとなれば尚の事エネルギーが必要になるはず、
だからこそ、カモシダのオタカラをモルガナ達に確保するように指示を出したのだが、やはりオタカラをエネルギー源と核にして、あの状況を実現させていたか。
「畳み掛ける! 総攻撃だ!」
俺の合図と同時に仲間達全員がカモシダに自分が出せる最大火力の攻撃を放つ。
全身を切り裂く風、雷撃を纏った打撃のラッシュ、全身を焼き焦がす炎の魔法。そして一定間隔の空間を丸ごと斬撃で飽和させる絶技がカモシダを襲う。
『ガ、ガ』
全身に傷を負い、金色のチャリオットから放り出されたカモシダが力なく地面に倒れ伏す。
攻撃力はとんでもない位に高かったが、その分防御力が低かったのか、総攻撃を食らったカモシダの全身からマガツヒが漏れ始め存在感が希薄になっていく。
『お、俺の、栄、光が……』
倒れたカモシダが光に包まれ、その巨体が三つに分裂する。
放心状態になってしまったのか空を見上げて微動だにしない鴨志田本人と、立ち上がれなくなる程に消耗した様子のシャドウのカモシダ。
そして。
『グハハ。中々に面白い体験じゃった』
三つに分裂した中の一つであるそいつは、そそり立つご立派な姿はそこにはなく金色のチャリオットにも乗っていないものの、深緑色の体色に聞き覚えのある声を出すその存在は、間違いなく『魔王:マーラ』だった。
「随分とご機嫌だな、マーラ」
『むぅう? おお、その声にその魂の輝き。貴様、ライドウか。なんじゃその妙な格好は』
カモシダと融合した状態で倒された為に弱体化したのか、頭部に当たる部分しかない状態、差し詰め『ちぎれた煩悩大王』とでも呼称できる姿になったマーラが低い声でゲラゲラと笑う。
最初に見ていた時から何となく察してはいたがやはりというか、何というか。
「お前、ワザとカモシダと融合したな?」
『クク。いいや。融合に抵抗しなかったのは事実じゃが、あのサマナー達に敗れるまでは本気で戦っておったさ。それに、アスモデウスがほざいておった計画とやらが何なのか気になっての』
戦闘で消耗していようが第六天魔王と称されるほどの力を持っている悪魔が、そう易々と他の悪魔の策略に利用されることをよしとする訳がない。
やはり、気になる事か確かめたい事があったからこそカモシダとの融合を容認したという事だろう。
「で、計画とやらは分かったのか?」
『ふむ、そうさな。儂にとっては大してそそられん計画のようじゃから教えてもいいが……』
こちらの様子を伺っている杏と志帆に目を向け、更にその周囲にいる女性達に目を向け、その後俺を見てニヤリと笑うマーラ。
昔から何度か相対しているから知っているのだが、こいつがこういう表情をする時は大体ロクな提案をしないんだよなぁ。
『儂と契約しろ、ライドウ』
「は?」
『手持ちの悪魔に儂を加えろと言ったのだ』
妙な提案だな。今まで何度か戦ったり味方側だったりしてきたが、態々こんな提案をしてきた事はなかったのだが。
「何を企んでいる」
『なに、そう遠くない未来で面白そうなものが見られそうじゃからな。それを間近で見たいというだけよ』
マーラの基準で面白そうなもの、か。
誰かが堕落していく様だとか、快楽に溺れる姿とかの事だろうが、俺と契約したがるという事は俺自身か、俺の周囲でそう言う事が起きるという事だと予想できる。
「……それ以外には?」
『無い』
胡散臭い。が、まあいいか。
アスモデウスの狙いを知れる事に比べれば大した対価ではない。それにただ見ているだけというのなら大きなリスクにはならないだろう。全力状態のマーラも強い事は強いが、それでも今の俺の実力なら御しきることも可能だし、契約者である俺が快楽に溺れないように気を付ければいい。
「いいだろう、契約だ」
『グハハ。儂は魔王、マーラ。コンゴトモヨロシク』
千切れた状態でも魔王としての格を落とさないマーラに尊敬やら呆れやらが混ぜこぜになった感情が沸き上がってくるが、今は先に情報を聞き出さなければ。
「それで、アスモデウスの策略ってのは何なんだ」
『なに、簡単な話じゃ。アスモデウスはあの簒奪者を神の座から引きずり下ろすつもりなのだろうさ』
全くもって詰まらん。今のままだからこそ人間は面白いのに、と言ったマーラはそのまま俺が持っていた空きの封魔管に自分から入りそのまま沈黙する。
「おい、待て、簒奪者? 神の座だと?」
知らない情報を出すだけ出して逆にこっちを混乱させようとしているのではないかと思って、黙り込んでいるマーラに問いかけるが、返事はない。
どうやら、これ以上の事を答える気はないらしい。
「……神の座、簒奪者……」
前世で最後にやったメガテンやペルソナシリーズのナンバリングは女神転生4が最後だったが、そんな話か設定が何処かにあっただろうか。
それとも、この世界特有の何かがある感じか?
「ダメだな。
最後の最後で懸念事項が増えたものの、これでカモシダのオタカラは回収できる。
今は姿が見えないアスモデウスの企みも、オタカラを奪取してパレスが消えてしまえば叶うことはなくなる筈だ。
さっさと回収しよう。
「それで、オタカラは何処に?」
「あそこだぜ、ジョーカー」
近くに寄って来ていたモルガナが指を差した先には、戦闘が一段落ついたことで巻き込まれた一般人の怪我の治療をしているヤタガラスのサマナー達の後ろに安置されている巨大な王冠が見える。
そして、その
「何してるんだ、お前ら」
「あ、ジョーカー。何って……カモシダがオタカラから離れなくて困っているの」
「なんか知らねーけど、スゲー力でオタカラに引っ付いてて退かせないんだよ」
ふむ。
本体の方は悪魔と合体した影響からか放心状態のようだが、シャドウの方はまだ行動できる位には元気があるらしい。
まあ、このままにはしておけないし、陽動班の方も気になるのでさっさとオタカラを回収しようとオタカラに近づくと、放心状態だった鴨志田が口を開く。
「最初は、ほんの気の迷いだったんだ」
「五輪で金メダルを獲得してから俺のファンを名乗る女性が俺の前に現れた」
「小学生から社会人になるまでバレー一筋、いやバレー以外の拠り所が無かったから、それに縋り付いて生きてきた俺には、その女性は劇薬に等しかった」
何処か虚ろな目でオタカラに縋り付く
「学生の頃から世話になっていた恩師の娘と許婚関係にはあったが、相手は俺の一回り程年上で、性格もお世辞にも良いとは言い難い人だったから、その女性に惹かれるまでは一瞬だった」
「そして、彼女と関係を持つようになるまでも一瞬だった」
「幸せだった。初めてまともな恋愛のような物をしたし、一緒にいる為なら
意外だな。バレー選手としての活動は好きじゃなかったのか。
あれだけ執着していたし、自慢していたから心の底から好きでやっていることだと思っていたのだが。
「バレー、好きじゃなかったのか」
「自分の得意な物が必ずしも好きな物であるという訳ではないさ。本当は陸上選手になりたかったんだが、才能が無くてな……ああ、坂本に辛辣だったのもアイツの膝を壊したのも、その才能に嫉妬したからだ。アイツには悪い事をした」
「鴨志田……」
直接被害を被った筈の竜司が複雑そうな声を出しながら鴨志田に近づく。
憎しみや怒りもあるが、ただ、それだけで片付けていいとも思えていないという感じだろうか。
「昔の体育会系は地獄だった。意味のないしごきに、コーチの暴力。夏のクソ暑い体育館の中で滝の様に汗を流しているのに水すら飲ませてもらえない。あんな環境でバレーを好きになる筈無いだろう?」
「だが、それ以外に出来ることが無かったから仕方なく続けて、チームメイトに恵まれてオリンピックでも金メダルを取った。順風満帆だった。初めて恋をした相手が未成年で、チームメイトの妹でなければ」
「後はまあ、俺のシャドウとやらが言ったとおりだ。チームを追い出され、
ふらりと立ち上がった鴨志田がオタカラに縋り付くカモシダに近付き、カモシダの肩に手を置く。
その表情は何処か毒気が抜けているというか、以前までの欲望に振り回されている感じはない。
「ここまでだ。素直に罪を償おう」
『今の地位を失った
「それでも、だ。何故だかもう、今までのような事をする気は起きないんだ……案外、あの怪盗団とやらに
鴨志田がそう言うと、シャドウの方もその言葉に納得したのか縋り付いていたオタカラから離れ、巨大なオタカラを手のひらサイズにまで縮小し、そのまま竜司に投げ渡す。
「……いいのかよ。あれだけ執着してただろ」
『いいさ。本体が歪んだ欲望を捨てて、自分の罪と向き合うというなら影である俺もそれに従うまでだ』
そう言ったシャドウの姿が次第に薄れ、鴨志田の中に戻っていく。
当初の予定では本人が心を入れ替えてシャドウを受け入れるなんて想定していなかったが、丸く収まるならそれでいいか。
「オタカラを回収したから、もうこのパレスに用はない。一般人達もいることだし、陽動班の状況も気になる。早く撤退を」
パレスから撤退する為に全員を集めようとすると、俺の背後からパチ、パチ、パチとまるで心の籠っていない拍手のような音が鳴り響く。
急に重力が増したかのような重圧が全身にのしかかり、呼吸すら困難になる程の凄まじいプレッシャーが降り注ぐ。
『よもや、悪魔と融合した人間すら救って見せるとはな……いや、どちらかというとマーラの気まぐれが原因か?』
「……アスモデウス」
『さあ、この喜劇に幕を下ろそうか』
悲報:カモシダはかませ犬
速報:ここからが本番だ
カモシダ戦は終わりましたが、カモシダパレス編はもうちょっとだけ続くんじゃ。
主人公は別に覚者でも救世主でもないですが、マーラのお眼鏡に叶っていたのでかねてから堕落させてやりたいと思っている感じです。傍迷惑ですね。
あ、鴨志田はペルソナ使いにはならないです。
鴨志田があっさりと欲望を手放したのは、マーラと融合したことで欲望と心の大半を失っているからです。ほぼ無欲な状態になってしまったので、唯一残った良識に従っている感じです。
悪魔と合体した代償としては、安い物でしょう?