忘れっぽい自分の備忘録にもなるし(ボソッ
抑えきれずに垂れ流しにされているだけで呼吸困難に成るほどに濃密なマガツヒと、鮮血の様に真っ赤な色をした、触れるだけであらゆるものを切り裂けそうな程に鋭利な外殻に欠損どころか傷一つないアスモデウスの姿を見るだけで、ついさっきまで陽動班と戦っていた筈なのに全く消耗していない事が分かる。
恐らくはガブリエルと同じ様に、メシア教徒の『ネガイ』を利用した仮初の不死を実現させているのだろうが、本当に厄介だ。
「皆は、どうした」
『うん? ああ、あのペルソナ使い達か』
いくら今のアスモデウスが強大な力を持ち、ほぼ無制限に死から復活するクソ面倒くさい敵なのだとしても、歴戦の戦士である陽動班の皆がこんな短時間でやられる筈がない。
しかし、アスモデウスがこの場に現れた事と、ペルソナを通してりせさんと連絡が取れない事に不安が募る。
『なに、配下の悪魔とシャドウを全部嗾けただけだ。いかに奴らが強き者達だとしても、あれだけの量と質を持つ連中を捌き切るには時間が掛かるだろうさ』
低い声で笑いながらそう言ったアスモデウスがおもむろに右手を正面に突き出す。
攻撃の予備動作だと反射的に判断した身体は、俺が思考するよりも早く動いて鞘に納めていた刀を抜き放ち、どんな攻撃が来ても反応できるようにアスモデウスの一挙手一投足を見逃さないように集中を高め始める。
『随分とこっぴどくやられたようだな、カモシダ』
だが、アスモデウスは俺のそんな様子に構うことなく、罪を裁かれるのを待つ罪人のように力なく項垂れる鴨志田に目を向けている。
シャドウが力を失い、マーラとの合体が解けた事で元のスペックに戻っている今の鴨志田に、まだアスモデウスが興味を向けているのは、何故だ?
『だが、どんな結果になろうとも我は何度もお前にチャンスを与えよう。そういう契約なのだからな』
アスモデウスがそう言うのと同時に鴨志田の身体がひとりでに浮き上がり、アスモデウスのいる場所に飛んでいこうとする。
「させるか!」
アスモデウスの方に飛んで行こうとする鴨志田の手を掴み、その身体が飛んで行かないように必死で踏ん張る。
別に鴨志田の身を案じて助けたわけではない。単純にアスモデウスの好きにさせるのがマズいという直感に従っただけだが、引っ張られる力が強すぎて、長くは持ちそうにない。
助けを求める為に怪盗団のメンバーが居る方向を見るが、あっちもあっちで大変な事になってしまっている。
「うぉお、わああぁあ!?」
「何やってんだ、しっかり掴んどけよ、スカル!」
「ちょ、ちょっと、全然止まんないよ!」
焦ったような竜司達の声がする方を見ると、アスモデウスの方に向かって飛んで行くオタカラを竜司が両手で掴んで引き留めようとしている姿が見える。
モルガナと杏が竜司の両足をそれぞれ掴んで、ペルソナを召喚してまで踏ん張っているがオタカラを引き寄せる力が余りにも強いようで、徐々にアスモデウスの方に引き摺られてしまっている。
というか、こっちもそろそろ限界が。
『健気な事だが、邪魔はしないで貰おう』
《マハラギダイン》
鴨志田とオタカラを手中に収めるのを邪魔されたアスモデウスが空いた左手を俺達に向け、無数の特大の火球を放つ。
「クソ! オタカラはもういい、全員回避しろ!!」
大悪魔が放つ魔法の威力は桁違いだ。耐性やら霊的防御が鍛えられている俺でも直撃すれば大怪我は免れないだろう。ましてや、異能者としては駆け出しも同然のモルガナ達では一撃で死にかねない。
攻撃を回避する為にオタカラから手を離すように指示を出して俺自身も鴨志田から手を離し、人間一人どころか十人程度なら纏めて消し炭に出来るような火球を回避する。
移動を阻害するものが無くなった鴨志田とオタカラは、アスモデウスの目の前で宙に浮いたままピタリと止まる。
「もう、いいんだ。俺は、俺の罪を償う……だから」
『だから?』
「もう、彼らに手を出さないでくれ」
『それは、我との契約内容が完遂した、という事でいいか?』
アスモデウスに囚われた鴨志田がゆっくりと頷く。
ダメだ、悪魔との契約には対価が伴う。契約が完遂したと認めてしまえば、悪魔が要求する対価を絶対に支払わなければならなくなってしまう。
「やめろ! 頷くな!」
『黙っていろ、ライドウ』
《マハラギバリオン》
視界全てが真っ赤に染め上げられる程の爆炎が俺達とアスモデウス達の間に壁を作り上げる。
瓦礫の山が融解し始める程の余りの熱量から一般人である志帆達を守る為に、ようやく立ち上がったサマナー達が氷結系の呪符を展開して氷の壁を作る。
マズい。氷の壁と未だに燃え上がっている魔法攻撃のせいでアスモデウスと鴨志田に近付けない。
「ああ……契約は完遂した」
『ク、ククク。マーラと合体させて、力に溺れる快楽を与えて従わせようと思っていたが、心が削られたことで、あらゆる問い掛けに《Yes》と応える聖人のような傀儡が出来上がるとは……カモシダを打倒したライドウと我の計画に乗らなかったマーラに感謝しなければな』
手を伸ばしたアスモデウスが宙に浮いたままの鴨志田とオタカラを掴み取り、自分の身体に埋め込むようにしながら、取り込み始める。
まさか、鴨志田を取り込むつもりなのか!?
だが、鴨志田は別に有能な異能者という訳ではない。取り込んだところで大した戦力強化にはならない筈。
『ああ、これを入れたままでは不純物になってしまうな』
鴨志田とオタカラを取り込んでいたアスモデウスが、オタカラである王冠から装飾の一つを取り外し、放り捨てて踏み砕く。
アスモデウスに踏み砕かれ、硬質な音と共に砕け散ったオタカラに付いていた装飾の中では透明度が低いその白い石は、ガブリエルが持っていた物と同じ色合いをしている。
まさか、あれはガブリエルが持っていた『ネガイ』と同様のものか?
あれのせいでアスモデウスが不死身になっていたのか……だが、鴨志田のオタカラに『ネガイ』を入れただけで、何故その恩恵をアスモデウスが受け取ることが出来る?
『さあ、今まで貴様のネガイを叶えてやったのだ。契約の代価を頂くとしよう……もっとも、我からしてみれば最初から、お前の
アスモデウスの狙いはパレスにあると思っていた。
認知異界を利用して何らかの企みをしているのだろうと考えたからこそ、パレスを消滅させる事に狙いを絞って事に当たっていた。オタカラの奪取もその一環だった。
『ネガイの仕組みを研究し、歪んだ欲望と認知異界と人間の関係性を調べ上げ、悪魔と人間の
だが、もしもアスモデウスの計画に必要なのが鴨志田本人なのだとしたら。
ビチャリ。
ダメージを受けていないにもかかわらず、鴨志田とオタカラを取り込んだアスモデウスの身体から鮮血が流れ始める。
そして、完全に鴨志田とオタカラを取り込んだアスモデウスが全身を震わせながら、歓喜の叫びを上げる。
そして、俺の姿を見て得心がいったとでも言いたげに口を開く。
『我が
「アスモデウス!」
『その汚らわしい名で我を呼ぶな、下郎!』
アスモデウスという名に激しい怒りを示したアスモデウスの身体から、さっきの比ではない夥しい量の鮮血が流れ落ちる。
流れ出した鮮血は崩壊した大広間の床を真っ赤に染め、壁も天井も消し飛んだことでこれ以上ないほどに風通しが良くなった筈なのに、咽返るほどの鉄錆の匂いが辺り一帯に充満する。
「我こそは拝火の悪神!
俺達の足首が浸かる程の血のようなナニカで元大広間を真っ赤に染め上げたアスモデウスの身体は、先ほどまでと姿形は大体同じではあるが、血のように赤かった体色は今や一点の曇りもない白になっている。
まさか、アスモデウスとして貶められていた間に受けた色欲を司る悪魔としての概念を血液として吐き出した事で、一神教によって貶められた嘗ての神としての姿を取り戻した、とでもいうのか。
『あの忌々しい創造主を騙る簒奪者が世界に敷いた法も、人間の精神世界でならば縛りが緩む!』
白い姿になったアスモデウス──いや、アエーシュマが一言喋るたびにボロボロになった城が軋み、空間が
今の奴が放つ威圧感は、今まで見てきたどんな悪魔よりも凶悪で強大で、感じる圧力はさっきまでの比ではない。
何なんだ、これは。
『この世界を現実世界に具現化し、あの簒奪者を抹殺する。そして、我こそが神の玉座に至るのだ!』
恍惚とした声を上げながら自分の目的をベラベラと喋っていたアエーシュマの動きが止まり、その視線がゆっくりと俺に向けられる。
『その為にも不安要素は摘み取っておかねばならん』
アエーシュマがそう言った次の瞬間、強烈に感じた危機感に従って抜き身の刀を自分の前に置いて防御体勢をとる。
「つ、が!?」
瞬く間に俺の懐に飛び込んでみせたアエーシュマが、マガツヒを固形化させたような
アエーシュマの攻撃を防ぐ為に咄嗟に割り込ませた愛刀がアエーシュマの爪に一切抵抗出来ずに砕かれ、鋼色の破片と共に刀の峰の部分を支える形で防御に使った
「「「ジョーカー!!」」」
「「「ライドウ様!!」」」
左腕を斬り飛ばされた上に、攻撃を完全に防御出来なかったせいで左半身に深い爪痕を刻まれ、大ダメージを負った俺の姿を見た怪盗団の仲間達とヤタガラスのサマナー達が俺を庇おうと走り寄って来るが、アエーシュマが左手で放った魔法ですらないただのマガツヒの放出に吹き飛ばされ、床に叩き付けられる。
(強い……神話の主神クラス、いや、下手をすれば、それを上回る程に!)
油断は一切なかった。
意識も既に戦闘用に切り替えて警戒心を最大にまで上げていたし、完全に戦闘態勢に入っていたにも拘らず、アエーシュマの速度に対して十分に反応出来なかった。
ギリギリで愛刀と左腕を割り込ませたから致命傷にはならなかったが、左半身の傷が深すぎる。
オマケに、奴の赤黒い爪には猛毒の様な効果もあるのか、
「この、っつ? なん、だ?」
一端アエーシュマとの距離を離そうと脚に力を込めるが、前世で酒を飲んだ時でも体験したことの無いほどの強烈な酩酊感に襲われ、視界が歪み、前後不覚になる程の眩暈に襲われる。
アエーシュマには確か、酒による酩酊やそれに由来する暴力を司るという伝承があった筈だが、その権能がただの殴る蹴るという通常攻撃にすら付与されているのか。
これでは、悪魔というよりは伝承に現れる超越者としての『神』みたいじゃないか。
『死ね』
「ッツ、誰が!」
咄嗟に唇を噛み千切って酩酊する意識を無理矢理覚醒させる。
刀身の半ばから折られた愛刀にマガツヒを流し込み、瞬時に形成した蒼いクリスタルの様な刀身で振り下ろされるアエーシュマの狂爪を受け止める。
「
片腕のみの状態だが、吹き飛ばされたサマナー達の誰かが
上下左右あらゆる角度から蒼い軌跡を残す刀を斬り上げ、斬り下ろす。
腕が残っていて早く処置をすれば再接合も可能にする回復魔法があるのだから、葛葉流の秘伝書に記されていた片腕での刀術なんて使うことはないと思っていたが、こういうのっぴきならない事態になれば、成る程確かに役に立つ。
相手が素手である為キッチリと間合いを取って、刺突をメインにしたこちらの攻撃を的確に当てながら、消耗しているこっちの負担を減らす戦い方をアエーシュマに押し付け、相手の隙を伺う。
蒼と赫が入り混じった命を懸けた
「
全身の筋肉と血管が破裂してしまうのではないかと思うほどに渾身の力を込めた連撃でアエーシュマの爪を押し返し、そのまま上段から振り下した刀でアエーシュマの胸部を斬り裂いて互いの距離を強引に引き離す。
「クソ、浅いか」
片腕で放った連撃はアエーシュマの外殻を浅く傷つけただけに終わってしまうが、奴の爪の攻撃範囲から抜け出せたのは大きい。
一旦、距離を取って腕をくっつけるぐらいはしておきたい。
腕自体が残っていれば
『大蛇狩りの権能……権能をベースにしたマガツヒの刃……やはり、貴様
斬り飛ばされた自分の腕を探していると、浅く削られた外殻を一撫でしてマガツヒを補填し、外殻の傷を修復しきったアエーシュマがこれまで以上に明確な殺意の籠った視線を俺に向ける。
『最早逃す事は出来ん。我が野望の成就の為に、ここで死んで逝け
主人公の種族がようやく判明しましたが、作中で詳しく語る事はないかもしれないので、読者の皆様にはここで設定開示します。
主人公はイレギュラーなナホビノです。
高次の観測宇宙から堕ちてきた魂が、偶然生み出された最高の肉体にくっついた状態で、真Vでの悪魔と人間の逆の立場として成立してます。
そして、曲がりなりにもナホビノであるが故にペルソナの性質が他の使い手と異なり、ナホビノの力の一端として
真Vでの知恵を司る人間と、力を持つ悪魔という関係性が、
とはいえ、イレギュラーなナホビノなので、真V主人公のナホビノのような悪魔に由来する強大な力はなく、世界を作り出す創世の能力も持ってません。
悪魔の力と創世の力がないイレギュラーなので、未だに唯一神の法が敷かれているこの世界でもナホビノに成れた訳です。禁忌とは行かないまでも仕様の穴を突いたみたいな感じ。
まあ、この世界の悪魔と更に合一を重ねれば今よりも遥かに強大な力を振るえるし、世界の創造も出来るようになるんですけどね。唯一神激おこ案件。
高次元の魂とはいえ、無茶苦茶情報量の多い人間の御霊と合一したようなもので、真Vでいう所の主人公とアオガミと似た立場ですが、本来備わっている筈の精神と魂が肉体のスペックに圧倒されて自我を持てていないので、アオガミと同じ立場である主人公のみが肉体に宿る人格になっています。
スペックどころか生き物としての規格すら異なる
この世界の本来の雨宮蓮は肉体の格に魂が耐えられず、自我のないロボットのようになり、不気味な少年扱いをされて、ほぼ一般人の実の両親からも邪険にされる筈でしたが、何の因果か高次元の魂が転生し、補填されたことで人間として活動できるようになった状態です。
因みにですが、肉体の本来の合一可能対象はサタンとスサノオと■■■と■■■■■とシヴァだったりします。
武器にマガツヒを込めると蒼い刀身が生成されるのは、真Vの主人公と同じ
まあ、つまりは女神転生の世界観的に、『転生』してる時点で本人にも厄ネタが生まれて然るべきだよねって話です。
クソわよ。