なーんで敵がパワーアップするんですかねぇ。
『その程度か、ライドウ!!』
大気を切り裂く風切り音と共に急接近してきたアエーシュマの爪が、俺を仕留めようと高速で振るわれる。
散々修羅場を潜ってきた経験が、アエーシュマの放った致死の一撃を回避する為に反射的に俺の身体を動かす。
攻撃を回避されたせいで標的を見失ったアエーシュマの爪が床に巨大な爪痕を刻み、元大広間の床が城の一角ごと切り落とされて階下へ崩れ落ちていく。
鴨志田と『合一』とやらを果たしたアエーシュマの戦闘能力はもはや尋常のモノではない。
拳を振るえば人間どころか高位の悪魔ですらミンチに出来るような風圧が発生し、踏み込み一つで堅牢な石造りの城が震えて崩壊し、放たれる火炎魔法は太陽の様な熱量であらゆる物を溶解させていく。
今のアエーシュマは、ただそこにいるだけであらゆるモノに災いを齎す生きる災害の様な存在になったと言っても過言ではない。
「ただの人間相手に、そんな力を振り回すな!」
『クハ、貴様がただの人間だと? 面白い冗談だ!』
モルガナ達やヤタガラスのサマナー達が放つ銃弾や魔法攻撃の弾幕をその身体の堅牢さにものを言わせて完全に無視して、俺個人を殺害対象に絞ったアエーシュマが襲い掛かってくる。
一息で間合いを詰め、赤黒いマガツヒを纏った爪での爪撃、手刀による斬撃に貫手。
馬鹿みたいな力を持った存在が人間の技術を巧みに使いこなして、戦術を立てながら攻撃してくるせいで対処のし辛さは尋常じゃない。
「いい加減、離れろ!」
《ザンダイン》
『む』
折れた刀身をマガツヒから生成した蒼い刀身で延伸し、アエーシュマの鋭い爪と鍔迫り合いをする。
そしてその状態を保ちながら、今の自分が出せる最大威力の衝撃魔法でアエーシュマを吹き飛ばすが、全力で放った魔法はアエーシュマが防御に使った腕に大きな切り傷を作る程度で霧散してしまう。
並みの悪魔なら防御や耐性をものともせずに真っ二つに出来る程度の威力がある魔法なんだがな。
『やはり、素晴らしい力だ。力こそが全ての
右腕の外殻に入った大きな亀裂にマガツヒを注ぎ込んで修復したアエーシュマが、ギチギチと音を立てて拳を固く握る。
浅く腰を落として右腕を引き、空手の正拳突きの予備動作のような行動をしたアエーシュマが、コマ送りというかコマが飛んだと錯覚してしまう程の速度で俺の真正面に飛び込んでくる。
『だからこそ、ここで始末する。人の身のまま神たる我に迫る力など、我が作る世界には必要ない』
引き絞られたアエーシュマの右腕が、さっきまでとは桁違いの速度で突き出される。
奴の腕が掻き消えたと認識した瞬間、咄嗟に腹部にマガツヒをかき集め、残った右腕と虎の子のテトラカーンの呪符を展開して防御を固める。
「──」
鼓膜が破れるのでは無いかと思えてしまう程の衝突音。
そして、身体がバラバラになったのではないかと思えてしまう程の衝撃が全身を襲い、思考が真っ白になる。
自分の身体が石畳を砕きながら何度もバウンドする感覚を感じながら、全身に走る激しい痛みで飛びそうになる意識を必死に繋ぎ留める。
テトラカーンの発動はギリギリ間に合ったのだが、反射魔法を力業で砕いて攻撃を当ててくるなんて。
『終わりだ』
《ゴッドハンド》
吹き飛ばされた俺に追い打ちを掛ける為に、アエーシュマが何らかのスキルを発動したのをマガツヒの揺らぎから感じ取る。
アエーシュマから射出されたマガツヒの塊で出来た巨大な黄金の拳を回避しようとするが、その拳の進行方向に志帆達がいる場所が含まれていることに気付く。
(回避は出来ない。なら、迎撃する!)
万全の状態だったら攻撃自体を撃ち落とすことも可能だっただろうが、今の俺では攻撃の進行方向を逸らすのもまともに出来ないかもしれないが、やるしかない。
ボロボロではあるものの、どうにか動いてくれる右腕に力を込めて、俺に迫って来る巨大な黄金の拳を睨み付ける。
『……ほう、英傑の悪魔か。珍しい』
「黄金衝撃!!」
「八艘跳び!!」
覚悟を決めて黄金の拳を睨み付けていた俺の目の前で、一息の間に八回振られた名刀の銀閃がアエーシュマの首に向かって殺到し、アエーシュマはダメージを負いはしなかったものの、衝撃を殺しきることが出来ずに後退する。
そして、幾筋もの雷撃を一纏めにした戦斧がアエーシュマが放った
「大将、無事か!?」
「遅れてしまい申し訳ありません、主殿」
アエーシュマと奴の技を退けたのは、志帆達の護衛を優先させていた為に戦闘に参加しないように厳命したヨシツネと、このパレスに囚われてしまった他の一般人を救出する為に別行動をしていた筈の金時だった。
「お前ら、どうして」
「他の一般人は全員現実に戻した。おれっち達が記憶処理をしてる暇はなかったが、外で待機していたヤタガラスの連中に任せたから問題ないだろ?」
「あの者たちの護衛は必要なくなりましたので、敵将の首を刈りに来ました」
どうやら仲魔達は俺の意図を察して一般人の救助を優先して動いてくれているようで、志帆達を強引にその巨体の背に乗せて素早くこの戦場を離れていく黄龍の姿が見える。
取り敢えずこれで戦う術を持たない要救助対象達はこのパレスから居なくなったと思っていいだろう。
そして、消耗した様子ではあるものの陽動をしてくれていた明彦さん達と、アエーシュマの攻撃から復帰したヤタガラスのサマナーと怪盗団のメンバーがこちらに駆け寄ってくるのが見える。
志帆達がパレスから脱出してくれたお陰で、もう後顧の憂いは無くなった。後はアエーシュマをどうにかするだけだ。
『チッ。ライドウを片付けた後で補給の為に喰らう予定だったのだがな』
パレスの外を目指して既に遥か遠くに飛んで行った黄龍とその背中に乗る人影達を見ながらそう言ったアエーシュマ。
やはり、カモシダの為ではなく自分の為に異能の素養が高い人間をパレスに引き摺り込んだのか。
「ライドウ、治療するから腕出しなさい」
「……ありがとう、ピクシー」
「無茶し過ぎ。そういう所、悪い意味でホント十四代目にそっくり」
アエーシュマに斬り飛ばされた後、何処に飛んで行ったか分からなくなっていた左腕だが、どうやらピクシーが探し出してくれていたらしい。
手のひらサイズの小さな身体であるにもかかわらず、二の腕から切り落とされて血の気の失せた俺の左腕を軽々と持ち上げて俺の腕の切断面に合わせ、回復魔法を唱える。
「はい、じゃあ治すわよ」
《ディアラハン》
『させると思うか!?』
《マハラギバリオン》
ヨシツネの攻撃をもろに食らったせいで首周りに裂傷を負った事で一旦後退していたアエーシュマだったが、流石に俺の戦闘力が激減している現状を回復させるつもりは無いらしく、仲間達諸共俺を焼き払おうと強力な火炎魔法を発動させる。
「治療の邪魔は」
「させん!」
アエーシュマの行動に対して反射的に動き出そうとしていた俺を押さえて飛び出していったのは、真次郎さんと明彦さんだ。
召喚したペルソナを盾にする事でアエーシュマの魔法の一部を相殺した二人は、そのままアエーシュマに突撃する。
殆ど密着した状態と言ってもいいショートレンジで拳を繰り出してアエーシュマの注意を引いている明彦さんと、少し距離を取って的確に明彦さんのカバーをしながら大型武器でアエーシュマに着実にダメージを与えていく真次郎さん。
どんな相手でも必ずと言っていいほどに勝利を収めてきた二人の戦い方だ。
それに加えて金時とヨシツネも戦いに加わり、アエーシュマへ肉薄し、攻撃を重ねていく。
だが、アエーシュマの余裕な態度は崩れない。
『悪くはない。だが、力不足もいいところだぞ!』
あの四人の猛攻に晒されていたにも拘らず、体表に多少の傷しかないアエーシュマが拳を大きく振りかぶり、自身の近くにいたヨシツネに振り抜く。
「グッ!?」
契約したばかりで俺の契約悪魔の中ではレベルが低めとはいえ、高位悪魔と比較しても遜色ない防御力のあるヨシツネの腹部にアエーシュマの拳が易々と突き刺さる。
「せめて、一太刀……!」
腹部にアエーシュマの腕が突き刺さった状態にも関わらず、全力で振るわれた刃はアエーシュマの胸部を引き裂き、確かなダメージを与える。
だが、ヨシツネの抵抗はそこまでだった。
『貴様らに用はない。死ぬがいい』
ヨシツネの腹部に突き刺さったアエーシュマの拳から炎が発生し、灼熱の炎に焼かれ許容量を超えたダメージを負ったヨシツネの体が爆散する。
そして、ヨシツネが一撃で倒されても動揺せずにアエーシュマへ猛攻を仕掛けていた金時が頭を掴まれて床に叩き付けられ、石畳をぶち抜いて遥か下の階層にまで落とされる。
「お、おおおおお!!」
仲魔が次々と倒れていく姿を見てもなお、果敢にアエーシュマを攻め立てていた明彦さんはアエーシュマの蹴りをモロに食らって血反吐を吐きながら吹き飛ばされる。
「アキ!!」
『余所見をする余裕があるのか?』
「!? しまっ」
大ダメージを負って動かなくなってしまった明彦さんを見て動揺した真次郎さんの隙をアエーシュマが見逃すはずもなく、明彦さんと同じようにアエーシュマの攻撃を食らってしまった真次郎さんも明彦さんと同じ様に蹴り飛ばされる。
瞬く間に明彦さん達を殲滅したアエーシュマが嗜虐的な笑みを浮かべながらゆっくりと俺達の方を向く。
『さあ、続きと行こうか。ライドウ』
創世やら永遠の命やらを持っていたらしい合一神としての力を取り戻せば、真VVで追加されたレベルキャップ解放後のLv.150位の力は持ってて当然ですよね。
まあ、四文字に知恵を奪われているあたり全知全能って訳ではないんでしょうが。