もうちょいプロローグは続くんじゃ
屋根裏の大掃除を手早く片付け、夕飯として佐倉さん謹製のカレーとコーヒーをご馳走になった後、近場の銭湯で汗を流す。
ルブランの真向かいにある銭湯は、どうやら様々な趣向を凝らした湯を提供する所だったらしく、丁度今日は薬湯の日(ゆず湯)だったようだ。
ゆずの匂いがする湯船に、のんびりと浸かってから風呂上がりのコーヒー牛乳を堪能してルブランに戻ると、エプロンを外して帰宅準備万端の佐倉さんが待っていた。
「戻ったか」
どうやら銭湯から俺が戻って来るのを待っていたらしく、薬湯を堪能したせいで長風呂になっていた俺に文句を言いつつ、椅子から立ち上がってカウンターに置いていた帽子を手に店の出入口に歩いていく。
「鍵はかけて行く。夜中に抜け出したりするんじゃねぇぞ」
そう言って、あっさりとルブランから出て行った佐倉さんを見送った後、軽くガスの元栓や戸締りを確認して簡易的な悪魔祓い用の結界を店に施しておく。
この結界は下級悪魔、具体的にはレベル10ぐらいの悪魔は出入り出来ない程度でしかないが、何かあった時には役に立つだろう。
その後、自室として与えられた屋根裏部屋の床に、今まで住んでいた場所から持ってきた手荷物を広げる。
部屋とは言っているが、基本的にはこの屋根裏部屋は土足で移動する場所になる。なので床に直接荷物を置かないために、持参したブルーシートを敷いて、その上に荷物を置く形にした。
床に広げた荷物は日用品や着替えが大半だが、中には拳銃型のペルソナ召喚器や悪魔召喚に使う銀色の筒があったり、愛刀『赤口葛葉』や愛銃の手入れ道具なんかもある。
刀や銃は商売道具であり命綱でもある以上、手入れ道具は欠かせないのだが、流石にこれらの危険物を常日頃からこの部屋に置いておくわけにはいかないので、ヤタガラスに倉庫か空き部屋でいいから裏稼業用の拠点を確保するようにお願いしておく必要がありそうだ。
愛刀や手入れ道具、拳銃なんかはひとまとめにして段ボールに詰め込んで部屋の隅に置いておく。
隠し場所はおいおい考えるとして、まずは今日の用事を片付けるとしよう。
「来い。ドッペルゲンガー」
俺のその言葉と共に床に置かれていた
このドッペルゲンガーは、戦闘力は大したことないが影武者やアリバイ作りといった面では必須級の能力を持った悪魔で、今世の小学校、中学校は俺の代わりに殆どこいつが通っていたくらいだ。
『久しぶりだなぁ、主ぃ』
「封魔菅の中でこれまでの状況は見てただろうが、まだ佐倉さんからの信用を得られてない内は、夜中に俺が居るか確認に来る可能性もある。その時の影武者、頼んだ」
『了解。模範的な学生を演じといてやるよぉ』
ドッペルゲンガーと会話をしながら、他人の印象に残らない為の変装用伊達メガネを外し、ジーンズと防寒用のコートを着て、マフラーを鼻から下を覆うように巻き、護身用の小刀とペルソナ召喚器を懐に忍ばせ、屋根裏部屋唯一の窓を開ける。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
『夜明けまでには帰って来いよぉ』
椅子に座って推理小説を読み始めた、自分と同じ顔をしたドッペルゲンガーに見送られながら、周囲に人影がないことを確認してから窓から飛び降りる。
音もなく地面に着地して、誰かに見られる前にすぐさま歩き出す。
十二月は日が暮れるのが早い。19時を過ぎれば日はとっくに暮れていて、辺りはすでに真っ暗だ。
今日は引っ越しやら佐倉さんとの顔合わせやら昼間の怪現象やらと、色々あって疲れているのでゆっくりと眠りたいところだが、昼間の渋谷駅で起きたあの怪現象の調査はしておかなければならない。
東京都全体が認知異界の中心になってしまった原因と関係があるのかは分からないが、あれほど明確な異常事態を調査せずに放置するのはありえない。
取り敢えず早歩きで四軒茶屋駅に向かい、渋谷行きの電車に飛び乗る。
電車に乗る寸前にドッペルゲンガーに渡していた俺の私用のスマホから連絡があったが、ルブランの公衆電話に佐倉さんから電話があったらしく、ガスの元栓しまってるか確認しといてくれ、という連絡だったらしい。
まあ、俺が夜遊びしていないかの確認も含めた連絡だったのだろう。ドッペルゲンガーに影武者をさせといて正解だったな。
四軒茶屋から暫く電車に揺られ、朝方にも見た渋谷駅と未だに多くの人が歩いているスクランブル交差点に漸くたどり着いた。
昼間の怪現象が起きた交差点の中心に立ってみて簡易的に霊視してみるが、悪魔や天使、またはサマナーが魔術を行使したような痕跡は全くない。
あの怪現象を目にしてからすぐに、ヤタガラス経由で東京に常駐している霊視が得意なサマナーに調査を依頼したが、その調査報告も異変無しとして報告が上がってきている。
人通りが多い交差点なので、サマナーが来る前にあの怪現象の痕跡が掻き消されてしまった可能性もあるが、そもそもあれは
これまで対処してきた異常事態に対しての経験則に当て嵌めれば、あれはどちらかというとペルソナ関連の、認知や認識が絡んだ出来事な気がしているのだ。
(だからこそ、この東京で発生している認知異界に関しての手掛かりが見つかるかと思って、勇んで調査に来てはみたが、どうにも無駄骨だったみたいだな)
見た感じ、道行く人の様子は普通だし、悪魔や天使の気配もない。
何らかの儀式や魔術が行使された気配も無い。
強いて言えば、街を歩いている人間からマガツヒや生体マグネタイト、ペルソナ的にはSPとも呼ばれる精神エネルギーが
「は?」
その事実を認識した瞬間、俺の体をとんでもない倦怠感が襲う。
「お、ぁ」
思わず足元がふらついて道端に座り込んでしまうが、そんなことを気にしている場合ではない。
今の今まで全く気付かなかったが、いつの間にか俺の心臓付近、両方の手足に合計して20本近くの赤黒い管の様なものが突き刺さっている。
どうやらこの管が際限なく俺の精神エネルギーを吸いだしているらしい。
地下に流れている精神エネルギーも漏れ出ていたものではなく、俺と同じように管を刺された他の人達から、抜き取られている精神エネルギーがそういう風に見えていたのか。
「こん、の!『ザン』!」
これ以上の精神エネルギーの流出を防ぐために、下位の衝撃魔法で管を斬り飛ばし、身体に残った管の先端を無理矢理抜き取って地面に捨てる。
(くそ。ルブランに居たときはほぼ満タンだった精神エネルギーが、もう1割も残ってないぞ)
タイミングの悪いことに、ただの調査のつもりだったので精神エネルギーを回復するアイテムは持ってきていない。
ペルソナ召喚器や護身用の小刀は持ってきているが、このまま戦闘になったら悪魔やペルソナを召喚するどころか威力の高い魔法を使うのすらままならないだろう。
「どうする」
この攻撃は悪魔によるものではないのは確定だ。
あの管は認識するまで見えていなかったし、あれだけ精神エネルギーを吸われていたのに、全く気付かなかった。
つまり、認識できること、
「おい、お前」
だがどうする。
今のところさっき以上の攻撃はされていないが、他の人間には未だ管が刺さったままだし、彼らの精神エネルギーも吸われ続けたままだ。
このまま放置しても彼らは死にはしないだろうが、魂に大きな傷を負うことになり、情緒が不安定になって最悪の場合は精神暴走事件に発展する可能性がある。
かといって、目に見えるだけでも数千本はある管が、蜘蛛の巣のように張り巡らされて、渋谷駅周辺の人間に突き刺さっている。
どう頑張ってもあれ全部を切り捨てるのは、今の状態の俺では不可能だ。
最低でもあの管の発生源を見つけないことにはどうしようもない。
「お前、吾輩の声が聴こえるか」
「悪いが後にしてくれ、今忙しいんだ」
飲み屋のキャッチか、チンピラに絡まれたのかと思い、追い払うために声がした方を向くと、そこには一匹の猫が佇んでいた。
「ようやく気付いたか。もっと早く気付けよな」
鼻と口周り、そして手足の部分だけが白く、それ以外の部分は真っ黒な猫。
そいつがにゃーにゃー、ではなく確かに日本語を喋って俺に意思疎通を図ってきている。
珍しくはある。だが、デビルサマナー的には前例を知らないわけではない。
「まさか、業斗童子、か?」
歴代ライドウの相棒と言っても過言ではない、しゃべる黒猫。
先代のライドウも業斗童子を連れていたらしいし、まさかこのタイミングでヤタガラスからの援軍ということだろうか。
「ゴウト…?いや、違うが」
しゃべる黒猫から最初に連想されたのが業斗童子だったから言ってみただけではあるが、あっさり否定されてしまった。
たしかに、目の前の猫をよく見てみると業斗童子のように罪を犯した人間が、呪術で猫の姿にされているという感じではない。
在り方的には、何度か会ったことのあるベルベットルームの住人や八十稲羽のクマに近い、のか?
「吾輩はモルガナ。この状況を打破する為に、吾輩と取引をしないか?」
モルガナ(CV.中田譲治)
嘘です。この世界のモルガナも大谷さん声です。
プロローグそろそろ終わるので『他のキャラクター視点から見た主人公』はみたいですか?
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はい
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いいえ