ドドドド   作:ああああ

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書き溜め制作所


1話

速さは強さ、AGI特化型以外ありえない。俺は常々そう思っていた。

 

「出たぞ、マッハ君だ!」

「撃ち落とせ!!!一発当てれば俺たちの勝ちだ!」

 

 砂漠をモチーフにしたステージで、銃を持った男たちが叫ぶ。VRFPS「GGT」は、様々な個性を持ったキャラを育成することが出来る。男たちのようにスタンダードな万能型もいれば、俺のような特化ビルドもまた存在するのだ。

 

 男たちの手に握られているのはライトマシンガン。筋力と耐久力、敏捷など全ての能力値をバランスよく必要とする面倒な武器だ。だがその代わりに圧倒的な火力と弾数を誇る。この武器の存在により、ステータスを満遍なく振り分ける万能型は最強と言われていた。

 

 だが、その弾丸はいずれも当たらない。銃弾の嵐を俺は凄まじい速度で駆け抜けていた。俺の操るキャラはガスマスクで顔を隠した軽装の男だ。速度特化型ビルドの俺は防具は最低限かつ武器も拳銃しか持てない。だがその速度は相手のエイムをぶっちぎり、一方的な攻撃を可能にするのだ。

 

 車を追い越すほどの足の速さで戦場を駆け抜け、遮蔽から遮蔽へ移動する。銃弾が一発でも当たれば死亡というリスクに笑みが堪えられない。この速度感とひりつく危機感。オワタ式なんて呼ばれるこの遊び方が、俺は好きだった。

 

 回避を繰り返す。いつもであればこのまま敵の懐に潜り込めるはずだった。だが俺の腕に弾丸が命中し、HPが一瞬で9割消し飛ぶ。原因は分かり切っていた。

 

「大幅ナーフされたビルドで勝てるわけねえだろ!」

 

 

 その言葉と共に無数の弾丸が俺の体を貫いた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 教室の机にだらりと体を投げ出す。周囲の生徒は既にほとんど散っており、おしゃべりをする数人の生徒と、翌日の授業を準備している国語の鈴木先生が残るのみだ。教室の窓からは部活動に励む生徒と、反射した自分の顔が見える。平々凡々、黒髪黒目の高校二年生。名前は特田速人、趣味はゲームと速度特化。

 

 目立つ存在でもなければ部活に入っているわけでもない。だから普通であれば皆放置するはずなのだが、今日はそんな俺に話しかける奇特な人物がいた。

 

「先輩、まだ「GGT」のナーフでうだうだ言ってるんっすか。速度特化型は酔いとかラグの関係で特にナーフされやすいんですし、しゃあないっすよ」

「うっせえ……あのゲームのキャラビルドの自由度、最高だったんだよ。昨日まではな」

 

 「GGT」に絶望した翌日の放課後。教室でぐったりとしている俺を呆れた目で見下ろす小柄な少女の名を、桜井ナオと言う。黒髪をポニーテールに纏めた少女で、高校1年生であるはずだ。だが体が小さく雰囲気が幼いこともあり、未だに似合っていないように見えてしまう。実際かなりかわいい部類のはずだが、浮いた話を聞いた記憶がない。せめて背を伸ばすべく毎日牛乳を飲んでいるのを知る身としては、憐みの視線を向けざるを得ない。お前んち、両親もちっちゃいから多分望みはないぞ。

 

「本当にスピード狂なんですから。来年運転免許を取ったとしても、絶対隣には座らないっすよ」

「何でお前がコースにまでついてくるんだよ」

「コースってことはやっぱり馬鹿みたいに速度を出す気じゃないっすか……」

 

 そんな彼女との関係は幼馴染。幼稚園の頃から家が近く両親同士の仲がいい。そして何より、俺たちは趣味が一致していた。「そんな先輩にお勧めのゲームがあるんっすよ」そういって彼女は身を寄せ、俺に端末を見せてくる。

 

 それは動画で、中身はゲームのプレイ動画……と呼んでも良いのか悩むものだった。ただ荒廃した廃墟と謎の機械を眺めながら歩くだけ。時たま開いているウィンドウがこれをゲームだと知らせてくるが、それ以外の質感はリアルとほとんど変わらない。

 

 タイトルは、「Desolate Waypoint Online」。海外のゲームだろうか、グラフィックの作りこみは確かに最高レベルだろう。しかし面白さらしきものは、現時点では全く伝わってこない。何を楽しむゲームなんだこれ? 俺の反応は想定済みだったのだろう、ナオの細い指が別の動画に伸びる。

 

「内容はGGTと同じ、VRFPSっぽいんっすよ。でも凄いのはリアルさ。これ見てください」

 

 次に開かれた動画を見て、俺は思わず顔を顰めた。コンクリートで四方が覆われた部屋に、うつろな表情の老婆が横たわっている。この老婆、プレイヤーなのか? さっきの映像を見る限りNPCはほとんどいなさそうだったが。そんな俺の思いを他所に、老婆の前に一人の男が立つ。

 

 軍服を崩して羽織り、肌をさらさぬよう顔に包帯を巻きつけた不審者が画面に映る。不審者は無言でショットガンを老婆に向け発砲。瞬間、老婆の腹が吹き飛び赤黒い臓器が飛び散っていく。直ぐにシーンが切り替わり、映像は別の部屋に。今度は暴れる青年がワイヤーで拘束されており、そこに向けて―― 

 

「おいおい、グロ動画はやめろよ。……ってか、今のはこのゲーム内で撮影されたのか?」

「そうみたいっす。この動画は昨日投稿されて、一部では話題になっていんっすよ。そこで、動画投稿のネタとして調べてみたいんです!」

「確かに。ネットで調べてもほとんどヒットしない、公式サイトすらないのか。この段階で動画にできれば伸びるかもな」

「そうっす、そこで暇人のマッハ君の出番っすよ! ゲーム内住所のオーサカ3-1-1で集合した上で……」

 

 ナオがそう盛り上がっている横で、鈴木先生は教室を出ようとする。生徒からも人気も高い鈴木先生は、眼鏡の位置を直しながら部屋に残る生徒に軽く声をかけた。

 

「皆、寄り道せず早めに帰るようにしてね。最近、物騒なことも多いみたいだから」

 

 そういって先生は扉を優しく閉め、教室から出ていく。確かにそろそろいい時間だ。続きはゲーム内でするか、と俺とナオは頷いた。  

 

 

◇◇◇◇

 

 

 家に帰り、予備のPCを開く。この時代、何にウイルスが入っているかわからない。だから俺とナオはゲーム用の、個人情報の入っていないPCを一台ずつ持っている。それにVR機器を接続し、URLからソフトをダウンロードする。

 

 現代のVR機器は五感へのフィードバック機能を兼ね備えており、ある程度であれば触覚や味覚も再現する。とはいっても安全面の問題もあり、かなり抑え気味なのが実情だ。仮にVR機器にウイルスが仕込まれたとしても、せいぜいくすぐり攻撃や歪んだ映像を見せる位で、体への影響が起こるはずはない。

 

 昔のアニメではVRゲームがデスゲームに変貌し、ゲーム内で死ぬと現実で死ぬ、という作品もあった。だが現実問題としては出力が足らず、デスゲームのデスを満たすことが出来ないのである。

 

 ソフトがダウンロードできたのを確認し、俺はVR機器を被った。直ぐにソフトは起動し、初期設定の画面に入る。「アバターを設定してください」とりあえずリアルにほど近く、それでいて髪色は赤、少し格好つけた感じに変更していく。そしてその上からアクセサリーのフルフェイスマスクを装着する。角ばっていて口元が開く仕様になっているのが格好良い、軍用のマスクだ。何度か微修正を行い、一旦これでいいか、とOKボタンを押し込む。同時に画面が切り替わり、俺の周囲が廃墟へ変化した。

 

 設定としては近未来なのだろう。普通のビルもあれば見覚えのない構造をした巨大建築物もある。ただそれらは全て崩壊していた。何か戦争があったのだろう、あちこちに弾痕や焼け焦げた跡があるが、人影は一つたりとも残っていなかった。

 

「チュートリアルとか世界観説明とかねえのかよ……」

 

 そう思いながら周囲の標識を確認する。「オーサカ3-4-5」どうやらある程度までは現実のものと同じく書くと泣ているらしく、そして待ち合わせの指定場所は3-1-1。比較的近くが初期地点でよかった、と思いながら俺は歩き出した。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 前言撤回、死ぬほど怠かった。

 

「立体構造なのかよ……」

 

 迷路の如き道を歩く。幸いにも数字はXYZ座標をそのまま示しているようであり、道の複雑さの割には迷わずに済んだ。ただ、距離が兎に角長い。怠い。

 

「先輩、遅いっすよ!」

 

 そういって手を振るのが見覚えのある姿、ナオである。プレイヤーネームもそのままナオ。だが見た目は青い髪を下ろしており、かつ背も若干伸びている。それでも子犬っぽさがぬけないのがナオらしいが。服装は俺と同じく改造された戦闘服だ。要所要所に金属装甲がとり付けられているなど改造が施されており、腰には拳銃も吊り下げられている。

 

「遠かったんだよ、ログイン地点が違ったからさ」

「……普通、同じログイン地点じゃないっすか?」

「それは運営に聞いてくれ。とりあえず、配信始めるのか?」

「あ、そうっすね。……ぽちりと」

 

 このゲーム自体には配信機能は一応搭載されている。しかしこんな怪しいゲームのプログラムに、配信サイト用のパスワードを打ち込みたくないのは当然だ。映像データだけを取り出し、セキュリティがしっかりしたPCで配信サイトに接続したい。

 

 そこでナオは録画モードにしたうえで、一度外部モニターに2D化した映像をとり出し、それを特殊カメラで直撮りして配信しているらしい。ガチすぎるだろ、とも思うがナオは当然未成年。問題が起きれば対処するすべも乏しいし学校や親から厳しい処分を受ける可能性もある。

 

 金でどうにかなるならやっとくっす、とは本人の弁だ。いや高1の思考じゃねえぞ。だが、それを押し通すだけの人気が彼女にはあった。

 

「どうも皆さん、ナオチャンネルの生配信、始まります! 今日は謎のゲーム、「Desolate Waypoint Online」をやっていこうと思います!」

『マッハ君だ!』

『神回確定か?』

『ナオちゃんちょっと画面からどいてくれる?』

「私がチャンネル主っすよ!」

 

 ナオのゲームチャンネル。可愛い声の女の子が良いリアクションをしながらゲームをする配信……のはずである。が、通称はマッハ君のサブチャンネル。100万回再生越えは俺絡みのものばかりであり、ちょっと複雑である、まあ俺が出たことで欲望丸出しの男が即消滅したのは予想外だったが。俺自身は動画投稿者ではないものの。チャンネルのマスコットキャラクターとして知られるようになっていた。抗議するべく、トレードマークのフルフェイスマスクでコメント欄に突っ込みを入れる。

 

「俺は何もしてないぞ」

『しとるわ』

『始まりの街にレベル90モンスターばら撒いた男の言葉か、それが?』

 

 ちなみに始まりの町事件とは、俺がバカみたいな速度で町に帰還した結果、結界の判定をすり抜けてしまった事件である。悪いのはプレイヤーの体にしがみつくメガミニスライムなのに、どうして俺が。あの一件以降、一部で俺の扱いが妙なことになっているのは極めて不本意であった。

 

「もう、とりあえずゲームをやっていくっすよ。チュートリアルも公式サイトもないので全て不明っす。ただ他VRゲームと同じ要領でステータスは出せました」

 

 ナオの言葉を聞いて俺も同じように操作を行う。すると宙に半透明のウィンドウが浮かび上がった。中身は極めて見覚えのある、スタンダードなVRゲームの画面である。ステータス、アイテムボックス、設定等、一通りの項目がそろっている。そのうち一つを選ぶと、ステータスが表示された。

 

プレイヤーネーム:マッハ

レベル:1

STR:1 VIT:1 DEX:1

INT:1 AGI:1 LUK:1

残りステータスポイント:99

取得スキル:なし

 

 

「ステータスポイントを割り振って初期能力値を決めるようですね。各能力値の説明は……マッハ君!?」

「AGIAGIAGIAGIAGIAGIAGIAGIAGIAGIAGI」

『知ってた』

『いつもの』

『速さに魂を売った男の末路』

 

 パラメータを見る限り、素早さに関わりそうなぱらメータはAGIだけだった。一応VITはスタミナにも関係するようだが、あくまで長距離移動の際に関係するようで、最高加速を目指すだけならば不要らしい。俺に呆れた目線を向けながらナオはステータスポイントの割り振りを検討していく。数分して決まったのか、よし、と手を握りしめる。

 

「なるほど、重火器を使うのならばSTRで反動を押えてLUKで初期資金を増加させるのがよいみたいっすね。あとは打ち合いと移動のためにVITを加えて、完成っす。次は武器っすね」

「よし、全部終わった」

「早いっすね!?」

 

 というのも。俺のLUKは1,初期資金は最低だ。拳銃の予備パーツとヒートナイフくらいしか購入できるものはない。一方のナオは購入できるものが多いからか、未だに配信に向かってあれやこれや話しかけている。

 

 俺はその隙にスキルについてのヘルプを見る。どうやらスキルは行動で上がるらしい。隠密行動をすると忍び足のスキルレベルが上がるし、狙撃をすれば狙撃スキルが上がる。面倒な話だ、と思いながら周囲を見渡す。

 

 ずっと廃墟が並んでいる。誰一人生活している様子が無く、このゲームは何なのか悩む。調べたところ、真っ当な公式サイトがない。海外産かと思いきや海外でも困惑の声が引っかかる始末である。

 

 今のところ、感覚や視覚に違和感が無く素晴らしい完成度だ。ここまで鮮明に世界を描けるゲームは未だ遊んだことが無い。であれば、このゲームは一体何なのだろう。ステータスやスキルといった、遊ぶための仕組みは用意されている。だが遊ぶ人とNPCが全く存在しない。

 

 ナオは未だに装備を決めるべく配信に向かって話し続けている。まったりとそれを眺めている瞬間、びりっと嫌な感覚がよぎる。ゲーム内システムではない。経験則に基づく恐怖が俺の体を動かした。これはあれだ。HP1、一撃で死ぬ状態で背後から不意打ちを貰う時のやつだ。速度特化は紙装甲なので不意打ちは避けないと即死、だから事前察知する感覚は自然と身についていた。背後からの音の反響。熱。妙な衣擦れ。風の流れ。匂い。

 

 

<危機感地1を取得しました>

 

 

 背後の暗闇に男が隠れていた。ひょろりとした軍服の男は、肌を包帯で隠し、ショットガンを構えている。姿勢を低くし、廃墟の瓦礫を縫うように男は静かに前進していた。脳の中に戦慄が走る。グロ動画に映っていた映像。ショットガンを受けたその末路。

 

「ナオ!」

 

 ショップ画面を見ているナオに向かって叫びながら、俺は反射的に拳銃を抜き、射撃を行う。拳銃は他ゲームで知っているものとほぼ同じ機構であり、安全機構が外れ、弾丸を何発も吐き出す。

 

 AGI極振りの俺の速度に追いつくことはできず、ショットガンを俺に向かって構える前に3発弾丸が命中する。直ぐに男の頭上に浮かぶHPゲージは0になり、しかし男は立っていた。どういうことだ、何かのスキルか?そう思いながら俺は最後の弾丸を打つ。

 

 その一発はHP0の包帯男の頬に掠り、命中した瞬間男は逃げ出した。

 

 男が去った後、突然の出来事に俺たちは目を見合わせる。急に襲い掛かってきたPK。そしてあの男の姿は、確かにあのグロ動画の主のもの。

 

「他のプレイヤー、本当にいたんっすね……」

「お、そうだな……他に誰も歩いているの見かけなかったもんな」

 

 微妙な雰囲気になり、会話も疎かになる。数分もしないうちに配信は終了し、俺たちはもやもやとした気持ちを抱えながらログアウトした。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 翌日、休み時間。学校で俺は震える。端末に映るのは俺たちの住む町の名前と、「連続殺人事件! 散弾で腹を撃ち抜かれた模様、しかし弾や火薬の跡は無い模様。」という文字列。

 

 その被害者の顔写真の一つ、老婆の顔に俺は見覚えがある。あのグロ動画に移っていた人物だ。他にも見覚えのある青年の顔も、被害者の顔写真には含まれていた。

 

 そしてもう一つ。

 

「皆、朝礼を始めるよ!」

 

 笑顔で鈴木先生が教団に現れる。だがその頬は、俺が銃弾を撃った場所には。何故か絆創膏が張られていた。背筋が寒くなる。そう、俺たちを偶然襲うなんて、あんな広くて人に会えないマップでできるわけがない。配信したとしても、ログイン先がずれる以上、すぐに辿り着くことは不可能。例えば教室で、待ち合わせ場所を盗み聞きしていない限りは。

 

頭の中で、今思い浮かぶ推察を纏める。

 

 

1つ、「Desolate Waypoint Online」はデスゲームである。

2つ、このデスゲームは、プレイしていない人間をも殺すことが出来る。

3つ、連続殺人事件の犯人は鈴木先生である。

 

 

 

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