「はあっ……マジで……ツラい……」
遊矢の舞網チャンピオンシップ出場が確定した後、俺はLDSでの講義中に赤馬零児に呼び出された。
『赤馬零王への戦力は多い方が良い。そのためにも君には私が目星を付けた者に会ってもらう』
『断る』
『……理由を聞かせてもらおう』
『俺があんたと交わした契約はLDSの底上げだ。他の奴までやる道理は無い』
丁度目ぼしい奴も何人かいるし、そいつら鍛えればスタンダードの防衛はさせられる。
『今はアカデミアへの戦力を整える時。そのような事を言っている場合ではないのではないか?』
『おいブラック企業。お前は椅子にふんぞり返ってれば部下が手柄持ってくるだろうし顎で使うだけで済むだろうがな、それを外部委託のほぼ部外者にまで強要するな。契約以外の事なんぞしない。してほしいんなら給料上乗せしろ。今の倍な』
『まあいいだろう。その代わり、キチンと仕事は果たしてもらうぞ』
という事で今俺が息を切らしながらたどり着いた場所は【風魔デュエル塾】。山奥に籠り忍者とデュエリストとしての技量を鍛える事を目的としたデュエル塾である。そしてそこにいる二人は
「待たれよ。貴殿は何用にしてこの地に来たのか」
「……その口調はデフォルトなのか。風魔日影、風魔月影」
そう、カラーリング以外は全て同じ故に片方を原作で早々に退場させられた風魔兄弟である。紫雲院素良に意気揚々と勝負を挑んだのに一話分の時間も無くカード化された日影兄貴……カワイソ
まあ俺はやる事やるだけだし、俺自身の仕事もせにゃいかん。
「俺はLDS、赤馬零児の指示で来た。名は本郷敦人。目的は君らのスカウト。その先は、受けると答えてくれた後に答えよう」
「笑止。我らとてLDSが何をしているのか程度把握している」
「数多くのデュエル塾の買収。その手段も強引なものが多く、中には法に触れかねないものもあると聞く。そのような者らに助力など誰がするものか」
「……耳が早いと言えば良いのか、あいつらの行動が迂闊というべきか」
LDSのデュエル塾買収、大手企業とはいえやはり歓迎されるというわけでもなく、ネットの反応とかも一度見てみたが、恐らくは買収されたデュエル塾の関係者であろう人物から散々な罵詈雑言が書き込まれていた。そんなんじゃ信用もへったくれもないよなぁ……
「今回は塾買収じゃない。君たちへの個人的なスカウトになる。これからの世の動乱には、一人でも戦える人間が欲しい」
「先程申されたその先の事か。動乱とは、穏やかではないな」
「まあ、悍ましいのは確かだがな。だが、それを答えるのはハイと答えた時だけだ」
「我らに殺しをせよと?」
「ノーコメント」
カード化を殺しととるなら、いずれ目を向けなければいけない問題だ。俺だってそんな事させたくないし、させない前提で戦う。そして、それは俺の役目だ。
「話にならぬな。そのような誘いを受けると?」
「俺としては、遅かれ早かれって話だから話聞いてもらっただけで仕事はほぼ完了として良いんだよ」
「遅かれ早かれ?LDSのライバル企業なぞ聞いた事も無いが」
「まあ、言っても信じられる事じゃねえし。俺からはこれ以上の動きは出来かねる。信用に値しない男の言葉をとは思うがね、無茶を承知で言ってるのはこちらも理解してるさ」
「成程……む?」
日影と月影が同時に同じ方向を見る。俺もつられてそちらを見ると、この山奥に似つかわしくない色調の強い赤と黄色の制服に身を包んだ三人の学生。
「……丁度良いな」
「本郷殿、何を?」
俺は風魔兄弟と三人の間に陣取るように立つ。要領を得ない風魔兄弟に対し、三人の学生はニタニタとこちらを舐めるように睨みつける。
「おっと、こんなところに人がいるとはな。どうせ偵察だし人気のない所に転移したつもりだったんだがな」
「関係ないだろ。ここでカードにしちまえばいい。プロフェッサー曰く、スタンダードのデュエリストはどいつも粗末な腕しかないらしい。こいつで試してみようぜ」
「こやつら……何を言っておるのだ?」
「分からぬが、我らが貶されている事だけは分かる!」
「……風魔兄弟。ここで二つの選択肢がある」
「何?」
「いきなり何だというのか」
「一つ、ここで逃げて何も見なかった。聞かなかった事にする。俺もこれ以上関わらないし、君らも危険には巻き込まれないだろう。赤馬零児にもそう言っておく。それでこの話は終わりだ」
「もう一つ……というのは」
「俺を見ていろ。それだけでいい」
俺はデュエルディスクを展開し、デッキをセットしスタンバイを済ませる。三人の学生もディスクを展開し、デュエルが始まる。
「「「「デュエル!!!」」」」
本郷敦人
VS
学生A,B,C
LP4000
「ほ、本郷殿!これはバトルロイヤルルール!我らも!」
「いらん。さっきも言っただろう、俺を見ていろと。先攻はもらう!!
俺は永続魔法『炎舞-天璣』を発動!発動時の発動時の処理としてデッキから獣戦士族モンスター『武神-ヤマト』を手札に加える。そして召喚!カードを3枚伏せてエンドフェイズ!ヤマトの効果発動。デッキから『武神』モンスター、『武神器-ハバキリ』を手札に加え、その後、手札1枚墓地へ送る。これでターンエンド」
静かに終わる俺のターン。それに三人がケラケラと笑い声が上がる。
「ほら見ろ。やはりデュエルは底辺!ただ1体出しただけで終わりだ!」
「こんな的がゴロゴロいるってんなら、プロフェッサーも早くスタンダードへの侵攻命令を出してくれればよかったってのにな!」
「先ずは俺が行くぜ!俺のターン!『
本郷敦人
LP4000→3400
猟犬の口から火球が放たれる。それは俺の頬を掠めるように通過し、風魔兄弟の近くの木に当たり火花が弾けた。
「っ!こ、これは!」
「アクションデュエルでもないのに、火の熱さが実際に!?」
「そういえば、スタンダードのデュエルは実際の衝撃が来ないんだったな」
「どこまでもぬるま湯に浸かっているようだ。俺はこれでターンエンド!」
「俺のターン!古代の機械猟犬を召喚!」
「何っ!?」
「同じカード、という事は!!」
「相手に600のダメージを与える!」
LP3400→2800
今度は足元に火球が放たれる。ジャンプして避けるが、火の熱さが俺の腕や脚に襲い掛かる。600程度故か問題は無いが、これが大型モンスターになればどうなるか、考えるまでもないだろう。
「本郷殿!!」
「問題ない」
「強がりを!ターンエンド!」
「俺のターン!猟犬を召喚!600のダメージ!」
LP2800→2200
「更に!古代の機械猟犬の効果!1ターンに1度、手札・フィールドのモンスターを使って、融合召喚を行う!」
「ほう、融合召喚を使うんだな」
「我ら融合次元の象徴!その力を見るがいい!!俺は手札の『ヘル・ドラゴン』とフィールドの古代の機械猟犬を融合!
地獄の竜よ 機械仕掛けの猟犬よ 神秘の渦で一つとなりて 新たな力と姿を見せよ!
出撃せよ!『重装機甲 パンツァードラゴン』!!!」
重装機甲 パンツァードラゴン ☆5
ATK1000/DEF2600
「ここで融合でござるか」
「あのモンスターは……破壊されるとフィールドのカードを破壊する効果を持っていたはず」
「カードを1枚伏せてターンエンド。さあお前のターンだ。さっさとやって終われ」
「次の俺たちのターンでやっつけてやるからよ!」
「やはり、プロフェッサーの力は偉大だぜ!!」
「「「プロフェッサーに栄光あれ!!!」」」
高らかに勝利宣言した彼らはこれまた高らかに大笑いをあげる。風魔兄弟も今にも割り込まんとする様子だが
「ならエンドフェイズ、トラップを発動だ」
「何?」
「『おジャマトリオ』。これで相手のフィールドに3体のおジャマトークンを呼び出す。チェーンで『おジャマデュオ』発動。これも相手フィールドにおジャマトークンを2体特殊召喚する。最後に『ナイトメア・デーモンズ』を発動。俺のヤマトをリリースして、相手フィールドにナイトメア・デーモン・トークンを3体特殊召喚する」
3枚の開かれたカードから合計で8体ものトークンが呼び出される。それを見た学生たちは数秒ぽかんとした後、更に笑い出した。
「これはお笑いだ!!勝てないと諦めて自分のモンスターまで差し出すなんて!」
「それでもデュエリストかよ!あーおっかしい!!」
「分かった分かった。サレンダーなら認めてやるよ。その後は保証できねえがな」
「本郷殿!!」
「……何?」
「本郷殿!勝利を諦めたでござるか!我らも入ればまだ「何言ってんだ?」……なんと?」
「俺のターンでいいか?」
「なんだ、まだやるつもりか?」
「いいんだな?」
「ああ良いぞ。それでさっさと終われ」
最後にターンを回した奴のバックが1枚。機械族サポートというより、攻撃反応かパンツァードラゴンを再利用するための蘇生札と考えるのが妥当か?まあいいけど。
「じゃあ俺のターンドロー。『武神-トリフネ』を召喚。そのまま効果発動。このカードをリリースし、デッキから『武神』モンスターを種族が異なるように2体特殊召喚する。『武神-マヒトツ』と『武神器-ヘツカ』を特殊召喚。何事も無ければこのままいくが良いか?」
「好きにしろよ。俺たちの勝ちは確定だ」
「なら、レベル4の武神-マヒトツと武神器-ヘツカでオーバーレイ!!」
「っ!なんと!!」
「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!!
混沌の世を正すため 雷と共に戦いの神が舞い降りる 魑魅魍魎に裁きの一閃を!
天と地を導け!『武神帝-スサノヲ』!!!」
武神帝-スサノヲ ★4 光
ATK2400/DEF1600
「エクシーズ召喚……!」
「奴等も融合を使うのなら、本郷殿もエクシーズ召喚で対抗する!これを狙っていたでござるか!」
「しかし、なら何故ヤマトをリリースしたのでござろうか……」
風魔兄弟はエクシーズ召喚に息を呑み、俺のデュエルに考察をしている。一方で学生三人は
「エクシーズ……」
「エクシーズ……」
「エクシーズ……」
「「「……っぷ!はーはっはっはっはっは!!!」」」
無様なものを嘲笑うように高笑いをあげた。
「何事だ……」
「何故、彼奴等は笑っているのだ」
「これが笑わずにいられるか!エクシーズ召喚なんて底辺のカードを使うなんて!」
「エクシーズが!」
「底辺だと!!」
いきなりカードを貶す奴等に風魔兄弟が怒る。それを気にも留めないといった様子で三人が続ける。
「我ら融合次元に負けた負け犬の召喚法!」
「オーバーレイユニットが無ければ効果も使えない!」
「その証拠にエクシーズ次元は、我ら融合次元を前にあっけなく壊滅した!!」
「壊……滅?」
「何を言っているのだ……?」
風魔兄弟は最早情報処理が間に合っていない。まあ俺自身横槍が無いからありがたいけど。
「スサノヲの効果、オーバーレイユニットを一つ使い、デッキから『武神』モンスターを1枚、手札に加えるか墓地へ送る。俺は『武神器-オハバリ』を手札に加える。そしてオハバリの効果発動。こいつを捨てて、俺の『武神』獣戦士族に貫通能力を与える」
「何!?」
「だが、それでもまだ俺たち一人も倒せない!」
「時間の無駄だ!さっさとターンを終われ!!」
「スサノヲは、相手の全てのモンスターを攻撃出来る」
「「「なんだと!?」」」
「そして墓地の『武神器-ハチ』の効果を発動。こいつを除外して相手の魔法・罠カードを1枚破壊する」
「なっそんなカードいつの間に!」
「っ!最初のあのモンスターか!」
地面から飛び出してきた青の巨蟲が、学生の伏せカードを食い散らす。カードは『次元幽閉』だった。
「バトル!先ずは最初に俺にダメージを与えたお前からだ」
「ひぃ!」
「武神帝-スサノヲでおジャマトークン3体を攻撃!【蒼炎天武】!!」
学生A
LP4000→2500→2200→700→400→0
「ギャアアアアアアアアアアア!!!!」
「重村!!」
「お前……よくも!!」
「何言ってるんだ?お前らも同じ事をしたじゃねえか」
「何ィ!?」
「エクシーズ次元で、こんなことやってたんだろう?」
「俺たちの行いは、お前みたいに野蛮じゃない!!」
「プロフェッサーの目的は、お前のようなクズとは違う!!」
「知った事か!命を奪う事!!それを世界規模でかましておいて、崇高なんてものが存在してたまるか!!」
俺の叫びが三人、一人気絶してるから二人を黙らせる。だがそんなのどうでもいい。
「デュエルを続ける。次はお前だ!」
「や、やめろ!やめてくれええええ!!」
「だが断る!!」
学生B
LP4000→2500→2200→700→400→0
「うああああああああああああああああああ!!!!」
スサノヲの刃が二人目のライフを削り切る。その刃には心なしか、妙な力みが見えた気がした。
「……お前も、怒っているのか?」
当然スサノヲから返答なんて無い。それでも、背中から感じる気迫が物語っている。
「絶対、仇は打つぞ。武神帝-スサノヲでナイトメア・デーモン・トークン3体を攻撃!」
学生C
LP4000→3500→2700→2200→1400→900→100
「がああっだあああああああああああああああああ!!!!」
学生がのたうち回る。仕留めそこなったが、パンツァードラゴンを倒せば終わりだ。
「な、なんで……こんなにダメージが……」
「ナイトメア・デーモンズは、破壊されればコントローラーに800のダメージを与える。3体で2400、そして貫通分を入れて3900だ」
「……んで」
「?」
「なんでこんな事が出来るんだよ!!」
学生が悲痛に叫んだ。それは彼にとって魂の叫びなのだろう。
「俺たちが何をした!お前にとってここまでの事をしたのか!こんなのあんまりじゃないか!」
「……お前」
「俺たちはただ、理想郷を創りたいだけだ!誰も傷つかない、争いの無い平和な世界。それを望んで何が悪いんだ!!」
「……本郷殿」
情報の処理が終わったのだろう日影と月影が話しかけて来た。この学生に思うところがあったのだろう。
「も、もういいのではないだろうか?この者もここまですれば悪さも出来まいて」
「左様。第一にこの者が何者か、聞かねばならない。よろしいか?」
「……」
パンツァードラゴンは攻撃表示。調子に乗ってやった結果が自分の首を絞めるとはよく言ったもので、スサノヲの攻撃が通れば終わる。風魔兄弟は痛い事をしないで欲しいといったところだろう。だが
「スサノヲでパンツァードラゴンを攻撃。ダメージ計算時、手札のハバキリの効果を発動」
「へ?」
「スサノヲの攻撃力を元々の倍にする」
武神帝-スサノヲ
ATK2500→4800
「本郷殿!!」
「ご乱心召されたか!?」
「ひぃ!?や、やだ……やだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
学生C
LP100→0
風魔兄弟の声を意に介さず、俺はオーバーキルをかます。スサノヲの手には雷の剣ハバキリ、蒼炎の剣オハバリが握られ、圧倒的な力で竜戦車を両断する。呆気なく爆散した竜戦車の爆風は、学生たちを数メートル先の岩壁に叩きつけた。
「風魔兄弟、戦争ってなんだと思う?」
「戦争……?」
「いきなり何を……!」
吹き飛んだ学生たちを見た風魔兄弟は信じられないといった表情を浮かべる。うめき声をあげた学生たちは、数秒程度経過した後、赤紫の光に包まれ、消滅したのだ。
「本郷殿!これは……」
「これが俺の言ったその先だ。今ならまだ、見て見ぬふりで済むぞ」
「世迷言を!」
「このようなものを見て黙っていられるものか!」
彼らがやってきたのは、思うところはあるが僥倖だった。これで説明がしやすくなる。
「ならばようこそ!これからは、生きるか死ぬかしかないぜ」
兄弟は、確かに死神の手を取った。
学生は勿論アレです。まだ二人には知られていないから名前を伏せました。意味ないけど。目的は手柄です。