公務員がいっちゃんええ   作:鯨油

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終盤と序盤しか考えず書き始めたら中盤がどうやっても面白くならない事に気が付いて書くのをやめてましたが面白くないなら飛ばせばいいと思いまた書き始めました。

久しぶりなので文章の書き方忘れた。


10話

 

リウシェンは黒革のオフィスチェアに深く座り、足を自身のデスクに置いたまま早川アキが纏めた報告書を読んでいた。MORIN HOTELで遭遇した永遠の悪魔との戦闘が事細かく記載された報告書は早川アキらしく丁寧で細かく、それでいて冗長な文章は読んでいて少し目が疲れること以外は完璧だった。

 

「それにしてもチェンソーね」

 

彼も勿論、マキマからデンジについて説明を受けているが実際に目にするとでは全く違う。

蝙蝠の悪魔、ヒルの悪魔との戦闘を早川アキと遠巻きから監視していた彼は、目を瞑りあの時の出来事を思い出す。

 

チューニングの外れたギターのような特有の金切り声を上げたチェンソーがぶよぶよとした悪魔の肉体をケーキのように切り刻み紫色の臓物をまき散らす。

ヒラメの干物のようにペラペラの肉と皮になった蝙蝠の悪魔の屍の上に立つのは魔人と青年。

それだけを見るのならば宗教画のような神聖を思わせた、中身がどれだけ俗物でもだ。

 

彼が幻視するのは、ソビエト社会主義共和国連邦で出会った槌の魔人だと思われていた男。

だが魔人と呼ぶには奴は知性があり過ぎた。デンジだってそうだ、馬鹿で下品でとても現代社会で育ってきたとは思えない男だが魔人と呼ばれるほどではない。

 

では彼らの正体は一体なんなのだろうか。

 

 

「リウシェンくん、もうすぐ歓迎会の時間ですよ」

 

そこで彼の思考は止まり、意識は目の前の伏に向いた。

伏はもうすでに退勤の準備を終えており、荷物を詰めた鞄を片手にコートを羽織っていた。

 

「…そうですね、行きましょうか。」

 

時計を確認すれば歓迎会の時間が近づいていた。

彼はデスクの引き出しに報告書を仕舞い、コートを二つ折りにして手に持つと伏と共に公安対魔特異4課の執務室を後にした。

 

 

「私は荒井ヒロカズです!22歳、契約している悪魔は狐、趣味は俳句です!」

「東山コベニです、ハタチです、契約している悪魔は秘密で、趣味は美味しいものを食べる事です」

 

公安行きつけの飲み屋街、その一角に位置する居酒屋に特異4課の歓迎会が行われていた。

前回のメンツに加えて新人の新井、コベニ、デンジ、それに魔人のパワーの4人を加えて行われている歓迎会は始まったばかりではあるもののそれなりに盛り上がっていた。

 

「ねぇ、東山さん。永遠の悪魔との時、おかしくなってトイレの水飲んだってマジ?」

 

「うえぇえええ、飲んでませんんん!!」

 

「嘘じゃ!コイツはそれはもうゴクゴク飲んどった!ホテル中の便器の水を飲むもんじゃからワシの分までなくなっとったわぁ」

 

「パワーは便器の水飲むの?」

 

「飲むわけあるかぁ!便器の水なんかコベニしか飲まん!」

 

「飲んでませぇぇんんんん!!!!」

 

東山コベニがおかしくなってトイレの水を飲みそうになったと報告書で読んだリウシェンが揶揄うと面白いように狼狽するコベニと一緒になって嘲るパワーがそこにいた。

 

「こら、コベニちゃんは初めての任務だったんだから虐めないの、ほらこっち来てコベニちゃん、よしよししてあげる」

 

姫野に頭を抱えられ席を移動するコベニを横目にリウシェンの視線はデンジに移った。

 

「くそ、読める漢字が少なぇ!リウパイ、これなんて読むんだ!」

 

「川豚ね…これは、うん、かわぶた」

 

「なんだそれ!?」

 

「デンジくんは知らないか、川に生息してる豚の事だよ、大きくなると海に流れていくんだ」

 

「じゃあこれ一つ!」

 

決して読めなかったわけじゃないが、あえて嘘をついた、あえてね、別に俺も読めたけどね。

バレないように伏さんに川豚の読み方を聞くと、伏さんは耳打ちで「フグだよ」と教えてくれた。

流石IQ134を誇る天才だ、俺もIQ133な気がするが川豚が読めなかった。あと1足りてればきっと読めたのにな、あーあ、IQが134あれば。

 

そんなこんなで飲み会は続く。

俳句が趣味の新井ヒロカズに即興なぞかけを求めて俳句となぞかけは違いまぁす!と無茶ぶりにテンパる新井を見てリウシェンが笑ったり、後から来たマキマさんと飲み比べをする姫野と早川アキを見ながら何故人間は同じ過ちを繰り返すのかとリウシェンは人類の愚かさについて考えたり、ゲロを飲んだデンジに珍しく心からドン引きしたりとイベントには事欠かなかった。

 

 

 

 

 

 

「オエェ!ボぇ、オエエェェ!」

 

「早川にしては珍しく飲みすぎたな」

 

リウシェンは飲み過ぎた早川アキの背中をさすりながら、微かに鼻腔をくすぐるアンモニア臭に顔をしかめる。

デンジの秘密を賭けたマキマとの飲み比べに敗北した早川アキはアルコールで満たされた胃の中を空っぽにする勢いで内容物を吐き出す。

 

「デンジくんの餌が沢山だ」

 

「気持ち悪いこと言わないでくださいよ…おえぇ!」

 

他人が吐く姿って滑稽だな、彼はそう思いながらも背中を摩るのを辞めない。

お店に言ってお水でも貰うべきか考えた彼はなんだかこの光景に既視感を感じた。

 

「…前も同じような事があったな。どれくらい前だっけあれ、飲み会でさ」

 

「…ありましたね、最初に特異4課で…集まった時」

 

「そうそう、前も同じように早川が飲み過ぎて…それで」

 

彼が古い記憶を探ると、まるで昨日の事のように鮮明に過去を思い出す。

 

“銃の悪魔を殺すのは…俺だ!”

“それに…姫野先輩にも告白する”

“両方だ、アンタの言いなりにはならない。俺は両方やる、絶対だ”

 

早川アキの宣誓だ。彼らしくもない、熱くて人間味のある言葉。

最近の早川アキは新人だった頃のギラつきを抑え、落ち着いた態度を取るようになった。

リウシェンはそれも成長の一つであることは理解しているが、それでもキマりきった目をして実力の割にはイキっていた早川アキが好きだったのだ、だからこそ現在の早川には少し寂しさを覚えていた。

 

「もうしたの、告白。好きなんだろ」

 

リウシェンがそう言うと、早川はホラー映画の動く呪いの人形のように首をぐるりと回し驚きの表情を浮かべリウシェンを見る。

まるで首が180度回ったかのような勢いに少しリウシェンは引く。

 

「…なんで…知って」

 

「いや普通に言ってたよお前。え、覚えてない?確かにすごく酔っ払ってたけどさぁ…」

 

リウシェンがそう返答すれば、青ざめていた早川の顔は今度は対照的にみるみる赤味を帯びていき、目線は下がり、わなわなと唇を震わす。

 

「いやまさかね、早川が…あの人を好きだなんてね、ヒッヒッヒ」

 

「ひ、広めるなよ。絶対に」

 

「アハハハ、冗談だよ、冗談。そんな動揺するなって誰にも言わないよ」

 

リウシェンはバシバシと早川の背中を強く叩く。

他人の恋路を邪魔するほど彼も無粋ではない。偏屈で強情な早川があれだけ本音をさらけ出し、宣誓したことを大体的に茶化すつもりはなかった。

 

彼の返答に安心したのか、大きなため息を吐いた早川は便器の水に移った自身の顔を見ながら安心したような口調で言葉を漏らす。

 

「本当に…言わないでくださいよ、俺がマキマさんの事が好きだって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歓迎会の翌日、リウシェンは自分のデスクの上に聳え立つ書類の山を適当な部下にぶん投げると、パトロールと言う名前の体の良いサボりを敢行した。

 

まだ五月だというのに、日差しは生暖かくコートなんて着ていたら熱くてたまったものではない。彼は煩雑に折りたたんだコートを抱え、道端で見つけたソフトクリームを舐めながらその辺のベンチで空を見る。

雲一つない晴れ渡るほどの青空は容赦なくその殺人的な日差しを漏れなく放射していた。

 

家電屋の街頭ウィンドウに重ねられたテレビからは、恐怖の大魔王が降臨すると遥か昔のよく分からない奴が予言していて世界の破滅を意気揚々と到底マトモに見えない格好をしたジジイが大げさに弁舌をふるう。

 

そんなに信じて欲しいのならそれに見合った格好をした方が良いんじゃないか。

 

そんな事を思いながらテレビに視線を釘付けにしていると、画面が一時的に暗転をした。

それはよくある演出の一つだった。VTRに移る前の演出。

暗闇を映したブラウン管の画面に自分の姿が反射する。

 

ベンチに座りぼけっとした顔をしてアイスを口に運ぶ自分。

そしてその後ろには自分に向け銃を構えた見知らぬ男性。

 

それは反射に等しかった。

 

眼にも止まらぬ速度で鞘から引き抜かれた青龍刀は鞘に刃をぶつけ火花を散らしながら襲撃者の手首を刎ねた。立ちあがり襲撃者に体勢を向けると周囲を確認。

 

四方それぞれの方向には拳銃を構えた複数人、いや…手首を服に入れて確認できなかった者も敵とすると10数名が周囲に確認出来た。

 

「…え?」

 

手首を切られた事に気が付かず、先がなくなった右手を彼に向けたまま引き金を引こうとする襲撃者の男は数秒してようやく自らの右手首が両断されたことに気が付いた。

 

「手…俺の手が…手、手、手…なんだこ__」

 

リウシェンは咄嗟に目の前の男を引き寄せると、彼の背後に周り羽交い絞めにしたまま地面に伏した。

同時に聞こえる乾いた銃声。

リウシェンに覆いかぶさる形で地面に倒れた襲撃者の男の全身から血が噴き出し、その全身に穴が開く。

10秒ほど続いた発砲音は止み、襲撃者達は動かなくなった二つの肉の塊に向かい距離を縮める。

 

「死んだか?」

「あれだけ撃ったんだぜ、生きてる方がおかしいだろ」

「油断するな、銃は構えたままでいろ」

「意外と弱かったな、デビルハンターも」

「じゃあもっぱつ撃つか?」

「弾が勿体ねぇや」

 

襲撃者の眼前には至る所から血を流し倒れる二人の男がおり、地面にはバケツをひっくり返したような血だまりが広がっている。

 

念のため目標の男にもちゃんとトドメをさしておくか。

用心深い襲撃者の一人が上に覆いかぶさった仲間だった男の死体に手を伸ばした瞬間、男の視界が赤く染まった。

 

爆発音と周囲に飛び散る死体の肉片、血液、臓物は周囲を囲んだ襲撃者の視界を塞ぎ目くらましのように広がった。

思わず瞼を閉じようとする彼らは、その狭まる視界の中で殺した筈の標的が起き上がり自らに刃を向ける姿を最後に映し、その瞳が再度開くことは無かった。

 

 

 

「許してください、命だけは…ヒィ」

 

1人だけ生かしておいた男はガクガクとまるでアニメーションのように大げさに体を震わせるものだから面白くなって思わず肩に青龍刀を浅く刺した。

 

「いだぁ!…お願いですぅ、殺さないでください!」

 

こめかみから血が垂れるのを感じたので、ずぶ濡れの犬が水を切るときのように体を震わせると血液や彼らの臓物が周囲に飛び散った。

 

我ながら死体の腹をぶち破り、目くらまし代わりにしたのは良かった。

最初の男を盾にしたおかげで全身の銃撃は間逃れたし…まぁちょっとは当たったがこれぐらいならちょっと痛いだけだ。嘘かも、割とかなり痛い、でも動きに支障はないからオッケー。

 

制服であるスーツも真っ赤に染まり場所によっては赤と言うより黒い。最悪だ。きっとクリーニングしても落ちないだろう…いやそもそも血だらけのシャツってクリーニングをしてもらえるのだろうか。痛みよりこっちの方が辛い、体は勝手に治るのに物は直せないのだから。

 

 

 

男の全身をプスプスと刺すと、その度にアダぁ!とかイタ!と大げさに叫ぶのでなんだか楽器みたいだった。こういう時に絶対音感でもあれば悶絶する声で〇〇を弾きます!みたいな芸が出来たのに。

 

俺は眼前の男の髪を掴むと、そのまま持ち上げ男の額に自分の顔を当てる。

 

「目的とお前らの数は?」

 

「ぁ……金だ!目標の奴らを殺したら報酬を貰えるって言われて」

 

金、一番ベーシック。つまりは末端だ、トカゲの尻尾切り。本丸の情報は知らないだろう。

 

「他に標的は?」

 

「公安だ!公安の特異課全員!それぞれ銃を持って同時に狙う作戦だと聞いた!」

 

公安全員…あれ、もしかして普通にヤバいやつかコレ?

敵対組織は謎、でも全員に銃を渡せる組織力がある。あとそれだけの金も。

しかも狙いは公安だ、公安…つまりは国だぞ国。国の治安を担う組織を担うピンポイントに狙った過激テロ。

 

こういう時の対策は一つしかない。

 

俺は懐から端末を取り出すと上司であるマキマさんに連絡を取る。

こういう時の判断は上に丸投げするのが良い、そうすれば俺が間違えても上司のせいに出来るって黒瀬さんが言っていた。

 

「リウシェンです、銃を持ったテロリストに特異課全員が狙われてるみたいです。犯人の一人は生け捕りにしました。次はどうすればいいですか?」

 

早口で事柄だけを伝えると、電話口のマキマさんはもうすでに知っているのか冷静な口調で返事を返す。

 

「現状は私の方でも理解しています。部下をリウシェン君の現在地に手配するので、犯人を無力化して後は野放しでいいのでデンジ君の応援に向かってください。どうやら襲撃者達の最優先事項はデンジ君の心臓のようなので」

 

「分かりました。デンジを保護した後はどうしたらいいですか」

 

「その時は再度連絡を。連絡が不可能な時はリウシェン君の判断で構いません、責任は私が持ちます…それと最後に」

 

それは先ほどまでの事務的な会話とは違い、血が通った湿り気のある柔い声だった。

 

「気を付けてね、リウシェン君」

 

だから俺は限りなく違和感のない、いつも通りの自分をイメージして返事を返した。

 

 

 

端末を閉じる。マキマさんの部下が来るならさっさと無力化してデンジの応援に向かわなくては。

俺は未だに体を震わせ、ただ刑の執行を待つだけを受刑者のように疲弊しきっている男に体を向ける。

 

「無力化…可哀そうだよなぁ、無力化だなんて」

 

俺はそう呟きながら青龍刀を構える。

 

「や、やめてくれ!命だけは!殺さないでくれぇ!」

 

殺さないよ、ただ無力にさせるだけだから。

文字通りの意味にはなるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「油断した、マジで油断した」

 

呪いの悪魔の攻撃を受け、確実にその命を散らした筈のサムライソードは武器人間の特性でもある不死性を発揮させ、沢渡の手伝いのもと蘇生した。

 

先ほどの負傷がまるでなかったかのように平然と立ち上がるサムライソードを前に早川アキは思わず驚愕の声を漏らす。

 

満身創痍の早川アキに、頭を打ち抜かれたデンジ。負傷で動けない姫野。

唯一無事なのはパワーだけだが、パワー1人でこの状況を打破するほどの力はない。

 

早川は考えるがこの状況を打開するための方法は一向に出てこない。

額に大粒の汗が流れる。

彼は呪いの悪魔の契約条件でもある釘を構え、相手の攻撃に備えると、視界の端を何かが通った。

 

それは音も無くサムライソードと沢渡の背後に立っていた。

 

それにサムライソードが気付いたのは天性の勘、はたまた偶然か。

振り返ったサムライソードが考える間もなく、本能のままに両手の甲から延びる刀を振るう。

 

全身を赤く染めたソレの赤錆のような色合いを放つコートが両断され、宙を舞うが肝心の本体はサムライソードの視界から消える。

 

リウシェンがそのまま早川アキの側によると周囲を見渡し、状況を確認した。

 

「姫野先輩がライターを持っているから早川は焼いて止血、パワーもそのままでいい」

 

彼は早川の返事を待たず、サムライソードの方へ振り返る。

鞘から取り出した青龍刀が落としきれていない返り血が光に反射して鈍く光った。

「お前…リウシェンか。ここに居るってことは俺の部下たちは」

 

「死んだ奴の事は後、今はコイツを殺すことだけ考えて」

 

沢渡はその細い左手を突き出すと「蛇」とつぶやいた。

彼女の爪がピンと弾かれるように剥がれ、虚空から唐突に表れた黄色い表皮に覆われた巨大な蛇のような生き物はリウシェンに一直線に向かう。

 

「丸呑み」

 

3mはありそうなその口を大きく広げた蛇はリウシェンの体を丸呑みにしてしまう。

蛇は大きく咀嚼をするようにそのくちばしのように伸びた口を流動させ、体内からは肉が砕かれるような籠った破砕音がする。

 

「なんだよ、案外あっけないじゃねぇか」

 

「………いや、違う!油断すんなバカ!」

 

咀嚼を続ける蛇がその動きを止めたかと思えば、今度は苦しそうに身悶えを繰り返す。

そうしてウネウネと体をくねらせる蛇は鷹の鳴き声のような甲高い声で鳴くと、その全身から紫色の血液を全方位に飛ばし、なます切りにされたようにその肉体が細切れに分解されていく。

 

細くみじん切りにされた体内から出てくるのは無傷のリウシェン。

赤黒かった全身を今度は蛇の血液である紫に染めた彼はその表情を一切崩さずに淡々とサムライソードとの距離を詰める。

 

「化物かよ、畜生」

 

大きく構えたサムライソードは眼にも止まらぬ雷鳴のような速度でリウシェンに迫る。

キィンと金属同士がぶつかる嫌な音が鳴り、サムライソードの攻撃を受け止めたリウシェンがその衝撃を殺しきれずに後方に転がるが、サムライソードの追撃が続く。

 

背中から地面に転がったリウシェンに振り下ろされる刀を倒れた態勢のままで受け流すと、幾度かの剣戟の末にリウシェンを外れ地面に突き刺さったサムライソードの左腕。

一瞬の間に生まれた隙を見逃さない彼は口で青龍刀を咥えながら両腕でサムライソードの左腕に猿のごとく絡みつくとアームロックを決める。

 

「グガァ!」

 

腕を関節とは反対の向きに曲げられたサムライソードは全身に走る痛みに思わず硬直するが、リウシェンは止まることなく口に咥えた青龍刀を手にスライドさせるとサムライソードの頭部に向かい数回青龍刀を突き刺した。

 

「蛇、尻尾!」

 

頭部をなます切りにされた蛇がそれでも力を振り絞り、自らの尻尾をリウシェンに向かい突き出すも、彼は流水のように尻尾を受け流し懐から取り出した先の襲撃者が持っていた銃を沢渡に向け発砲する。

 

「…あ゛ぁ!」

 

放った銃弾はその殆どが沢渡の体をすり抜けるが一発の銃弾が沢渡の足を貫いた。

彼は弾切れをおこした拳銃を捨てると、辛うじて武器人間としての状態は維持しているサムライソードの首を落とすために青龍刀を大きく振りかぶると一つの違和感を感じた。

 

頭の中が共鳴しているような微かな振動。

生存本能が急速に生命の危険を知らせるが、辺りにそれといった危険は見つからない。

 

「なんだこれ…」

 

気のせいかと思い、彼は振り上げた右腕を下ろそうとするが力を入れていないのに自分の右腕がゆっくりと捻じれ、その瞬間に爆ぜた。

肘から先が無くなった自分の右手を見てその状況が理解できない彼が何秒間かフリーズを起こすと、その隙を見計らい飛び出したサムライソードは足を打たれその場で座り込んだ沢渡を回収するとビルとビルの間を飛び越えてその場から逃走した。

 

ドクドクと止まらない血液と徐々に襲い掛かってくる燃えるような痛み。

おそらくこの攻撃を行った犯人達は逃亡、目の前には死にかけのデンジに姫野。

比較的動ける二人もサムライソードに勝てるかは不明。

 

彼は大きなため息を吐くと、弾けた右腕を抑えながらパワーに近づく。

 

「これの血止めてくんね」

 

「嫌じゃ!おぬしは命令ばっかりで辟易しとったんじゃ!そのまましねぇい!」

 

「マキマさんにチクる」

 

「…仕方ない、慈愛に満ちたこのわしが助けてやろう。涙を流し頭をたれるんじゃあ!」

 

コイツは後で殺そう。

しぶしぶ彼の血液を止めるパワーに可能な限り残虐な方法で教育的指導を行うことを決意した彼はこれからの特異課について考える。

 

みんな襲撃されたと仮定して…銃だもんなぁ。殆ど死んでるだろうな。

 

彼の頭にあるのは溜まった書類とこなさないといけないパトロールについて。

人手不足、業務多過、終わらない残業。

 

彼は確実に来るであろう未来に恐怖を感じ少し泣きそうになった。

 

彼は人の生き死にについて哀しむのは余裕がある時だ。

 

 

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