公務員がいっちゃんええ   作:鯨油

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7話

 

天使の悪魔は都会の日々に辟易していた。

マキマに捕まって田舎から強制的に都会に連れてこられ地下深くの暗くてジメジメとしている通気性の悪い独房に閉じ込められ、外に出してもらえたと思えば悪魔との戦闘が待っている。

プライベートもなく、常に監視の目が光る公安本部地下の自室と呼ぶべき独房のベッドに横になると天使の悪魔は眼を閉じた。

 

最近の楽しみは寝る事だけ。

睡眠は良い、何も考えなくていいし自室にいる間は安全だ。特に二度寝は最高だ。綿毛のように柔らかく花びらのように薄い多幸感が全身を優しく包んでいるみたい。

まぁ、時々悪い夢も見るけど。この前は自分がどこか知らない場所でチェンソーで殺される夢を見た。やけにリアルだったけどチェンソーで殺されることってあるのかな。

 

公安に捕まってからは毎日が楽しくない。

 

悪魔と戦え、とか

武器を出せ、とか

そういうやりたくもない事を命令されて無理やり働かされる。

この前なんてケツを出せなんて言われた。だからこっそり腕を触って寿命を吸い取ってやった。バレなかったけどこれがバレたら殺処分されてたかも。

 

最近は別にそれで死んでもいいかなと思ってる。

死ぬのは怖くないと言えば嘘になるけど、それでもこの生活よりはマシな気がする。

 

聞きなれた振動が部屋に響いた。

地下に続くゴンドラが駆動している音だ、誰か来た。

 

天使の悪魔は最近一つの悩みを抱えていた。

 

もう聞きなれてしまった足音だ。その規則性のない変則的なリズムは一人しかいない。

その悩みの種が天使の悪魔の独房の前までたどり着く。

 

乱暴なノックの音が室内に響く。アイツはいつも適当にノックをする、2回だったり3回だったり…この前なんて7回ぐらいされた。煩くてたまらない。

 

「やあ、今日も遊びに来たんだ、一緒にアイスでも食べよう!」

 

子供をあやすようなわざとらしい口調に分かりやすい作り笑いを浮かべた男が何も考えず独房の扉を手の甲で連打する。

 

天使の悪魔はベットの上で体を丸め両手を耳に当て目を閉じた。

 

アイツとは関わりたくない。

人との距離感を全く考えないデリカシーの欠片もない変人。

リウシェンと名乗る男には。

 

 

 

夏の暑さがまだ残る初秋の正午。

陽射しは弱まることを知らず、熱を反射するアスファルトに垂れた汗は少しの音と共に蒸発をした。

 

思わず座ったベンチは太陽光に熱せられまるで鉄板のように熱い。

反射的に立ち上がった。

日陰に居たい。いや、それより早く家に帰りたい。

あの暗くてジメジメとした地下が家だとは思いたくないが此処よりははるかにマシだ、独房の中はひんやりとして涼しい。

 

「いや、それにしても暑いな。地球温暖化が進んでいるとニュースで言ってたけど原因はCO2なんじゃなくて実は悪魔の仕業だったりするんじゃって最近思ってさ」

 

「…」

 

「合コンに行ったんだ。高収入はモテるって聞いたから年収を教えたら食いつきが良くて、それで「何の職業を?」って聞かれたからデビルハンターって答えたらさっきまでが嘘のように引いちゃってさ。職業に貴賤は無いけど人間に貴賤はあるな」

 

「…うるさい」

 

「ファミリーバーガ―に行ってさ、あそこは百円でハンバーガーが食べられるんだけどじゃあ千円で十個買えば安くて腹いっぱいだと思って買いに行ったらさ、いざレジを前にすると恥ずかしくなって普通にセット頼んじゃった。アレはずるいな、沢山買えない人の性質を分かってやってるんだ」

 

「…うるさい!ただでさえ暑いのに余計に熱くなる」

 

隣で絶えず、聞いてもいない話を繰り返す男と一緒に仕事をするようになってから1週間が経とうとしていた。

バディではないのが唯一の救いか。

 

突然現れたコイツは「キミと仲良くなりにきた、友達になろう!」と大声を上げると僕の手を引っ張り外に連れ出そうとした、勿論服越しに。

 

どうにか抵抗して話を聞くと「マキマさんの許可は取ってあるから大丈夫」と僕でも分かるような胡散臭い笑顔を浮かべた彼は有無を言わさず僕を外に連れ出し好き勝手に街を奔走させられた。

 

あの店は美味しいとか、このお店はお洒落とか、このパチンコ店は全然当たらないとか、あの店の女の子は可愛いとか聞いてもいない事を蛇口の壊れた水道のように吐き続ける彼を嫌いになったのは当たり前の話だろう。

 

「それにしても暑いな…なぁ天使くん、こういう時はどうするべきか知ってるか」

 

リウシェンが額に流れた汗をシャツの袖で拭うと眼を細め、良くない事を考えていそうな悪い笑みを浮かべる。

コイツが言いたそうな事は分かっている。そして僕もこの時ばかりはコイツと同感だった。

 

 

 

 

 

エアコンの効いた室内は少し肌寒いほどに冷え切っており、暑さで茹で上がっていた体には丁度いい。

 

適当に目についた喫茶店は特段目立った特徴のないありふれた内装をしていた。

窓際の席に座る。

古いエアコン特有の唸るような低い機械音と店内に流れる流行歌と自分たちと同じように熱さから逃げてきた客達の話し声はお互いが存在を強調し合い、とてもうるさい。

都会の喧騒だ。僕が居た田舎ではこんなことは無かった、エアコンなんてない南の島だったけど。

僕の心は未だにあそこにある。何もなかったけど暖かくて優しかった。

 

「こちらバニラのアイスクリーム2つとコーヒーとオレンジジュースでございます」

 

店員が先ほど注文した品をテーブルまで運んできた。

アイスクリーム?こんなの頼んだっけ。

 

「俺が頼んだ、夏にアイスを食べないなんて祝日のない6月みたいなもんだ」

 

「6月に祝日ってたしか無かったけど」

 

アイスクリームはコーンの部分がちょうど挟まる銀色の入れ物がついており、テーブルの上で直立するようになっている。

リウシェンは大きく口を開き一口でコーンから飛び出たアイスの部分を食べた。

僕はアイスクリームを見つめる。これがアイスクリームか…見た事はあったけど…そうか。

 

「アイス苦手?」

 

「いや…違うけど、多分。……初めてだから」

 

「…え?」

 

アイスクリーム。話だけでは聞いたことあったけど初めて食べる。だって僕が居た田舎にはアイスは無かったし都会に来てから普通の食事はしたことはあるが基本自由が無いから街で遊ぶことも出来ない。

 

「こうやってサボってる時とかに食べねぇの?」

 

「僕は悪魔だからお金貰ってないし、それにこれまで同行してた人は皆真面目だったから」

 

「ふ~ん」

 

恐る恐るアイスクリームを口に運ぶ。…甘い。

凍っているのにフワフワで固形なのに口に入れた瞬間、柔らかく溶ける。

バニラ?の風味が口の中で広がりその冷たさはエアコンにより冷えた体を余計に冷やしたがそれが良い。

 

「…うまい」

 

「ならよかった」

 

そう言いったリウシェンはコーンをバリバリと音を立てながら噛み砕くとガラス張りの壁を見つめ外の風景に目を移している。

僕も同じ向きに首を曲げた。

 

お昼の陽気な日差しの下に人々が汗を流しながら移動している。

シエスタには程遠い、この暑さでは外を歩くだけで拷問に等しい。

僕たちも店に入るまではこうだったのであろう。

夏なのでジャケットの着用は強制ではないが、それでも長袖のシャツは夏に向いていない。

 

「エアコンの効いた部屋で外にいる暑そうな人を見ている時が一番楽しいかもしれない」

 

彼の言葉にわざわざ口に出さなかったが心の中で同意した。

人が苦しむ姿は嫌いじゃない、だって僕は悪魔だから。

 

 

 

 

大きな岩の塊が街を闊歩している。

岩の悪魔は丸い岩に直接手と足が生えているような姿をしており、シルエットで言うとXの中心に円を被せたみたいだ。

 

「刃物通らなそうだな~」

 

遠方より双眼鏡で姿を確認したリウシェンは面倒臭そうにぼやいた。

ああいう表皮が堅牢な悪魔は対処が難しい。

カビの悪魔を使い体内にカビを生やすとか、呪いの悪魔を使用するなど物理的ではない攻撃で倒すことが定石のようだがリウシェンはその手段を取れる悪魔と契約していない。

 

彼が体の前で両手を拝むように合わせるとそのままに頭を下げた。

 

「天使くんの力で倒してくんね」

 

僕の力、天使の悪魔の力。

僕は直接触れた生物の寿命を強制的に吸い取り武器に変えることが出来る。

だから寿命を消費した武器の力を使うかそのまま素手で悪魔と触れれば倒せるだろう。

それでも僕は…。

 

「めんどくさい」

 

「ん~そうか。」

 

悪魔を倒すのは面倒臭いし力を使うのも面倒くさいしそもそもあまり吸い取った寿命を消費して武器を作るのも好きじゃない。特に理由は無いが、それでもなんだか嫌だ。

 

「それに僕は悪魔だから基本的に人間が嫌いだ、あの悪魔が生きているほうが人間が嫌がるでしょ、だからやりたくない」

 

やりたくないだけで別にヤレと言われればやるけど、特にマキマに告げ口されると僕はやらなくちゃいけない。だからこれは僕の我が儘だ。どうせコイツも他と変わらない。

 

「じゃあ、仕方ないか。ちょっくら行ってくるわ」

 

「…はぁ?」

 

何を言っているんだコイツは。僕は公安に生け捕りにされている悪魔なんだ。

無理やり命令すれば断れない、なのになんで。

 

そう言った彼は片腕をぶんぶんと回すとゆっくり悪魔に向かっていく。

僕はその後姿を黙って見ていた。

 

 

 

 

「本当に人間なのかアイツ」

 

悪魔から距離をとって遠方より二人の戦闘を見ていた僕は思わずそう呟いた。

 

リウシェンの戦い方は至って単純であった。

丸い岩から生えた両腕両足を素手で掴むと一本ずつその馬鹿力でちぎり、岩の悪魔を身動き一つ取れないダルマにする。

そして抉れた両腕両足の傷口に腰に装着している青龍刀を差し込むとスープを混ぜるように岩の悪魔の内部をぐちゃぐちゃにかき回した。

 

思わずゾッとした。リウシェンが悪魔と戦う姿を見た事はこれまでも数回あったがこんなに野蛮な姿を見ることは今まで無かった。

 

僕も…もしマキマや公安に敵対したらこんな目に合うのだろうか。

自分も岩の悪魔のような肉の塊になる未来を想像して、身震いをした。

 

 

 

 

 

「…助けて」

 

それは今にも消えてしまいそうなさざ波のような声だった。

辺りを見渡す。細い路地の先、確かにそこから聞こえた。

音のありかを辿る。

 

そこには下半身が潰れた黒髪の女性、きっと岩の悪魔にやられた体でここまで逃げてきたんだろう。

 

「…たす…け…」

 

救いを求める声は掻き消えその命の灯は今にも潰えそうだ。

震えながらも僕に伸ばした腕は力を失ないがらもただ救いを求める。

きっと助からないだろう。

出来る事と言えばただ楽にしてあげるだけ。

 

彼女の手を握る。

冷たい手だ。死が近づいている人間の温度だ。

 

寿命を人間から奪う。

自分以外の誰かの血液が僕の中を流れるような言語化出来ない不快感。

思わず何かを吐き出してしまいそうになるが体は何も吐き出さず魂は拒絶を繰りかえす。

 

 

 

彼女の心臓はもう動かない。

さっきまで生命だった肉塊、魂を無くした入れ物。

でもどこか安らかな顔をしている。

 

「大丈夫…キミは天国に行くよ…ごめんね」

 

これはきっと祈りだ。地獄があるなら天国だってあっていいはずだから。

 

 

 

 

後方から気配がした。

即座に振り返る。

 

細い路地に右半身を預け腕を組んだリウシェンが僕を見ていた、見られた、コイツに見られた。

別にみられてもどうってことないけど、別にこんな奴に見られても…そうだ関係ない。なんにも悪いことなんてない。

 

「…いつから?」

 

「…」

 

彼は何も言わずにその顔に何の表情も浮かべないままゆっくりと僕に向かい歩みを進める。

岩の悪魔と戦っていた姿を連想した。。

なんだ、何でこいつは何も言わない…?

 

悪い考えが頭を駆け巡り体温が上昇する。夏の暑さと相まって汗でシャツが湿り、皮膚に張り付いたシャツがやたらと気になる。

 

…殺されるのか。天使の悪魔の力を民間人に使ったから。

この力は民間人に使ってはいけない、それが例えただ死を迎えるだけの人間であっても。

 

彼の細い腕が僕に伸びる。

頭の片隅に古い記憶が起こされた。黒髪の女性、僕が田舎に住んでいた時のこと。

彼女はきっと天国にいる、僕を待っているのは地獄。死んでも再会することはない。

死をイメージして思わず眼を閉じた。

 

 

 

最初に感じたのは熱、体温、暖かい…これはなんだ?

眼を開けた、視界には白いシャツが広がる。

そして理解した。

 

彼が僕を抱擁している。

 

でも、なんで。

いや、そんなことよりも…!

 

「な、何を、いやそれより駄目だ、僕に触れてるかも」

「そんなことは知っている」

 

彼の胸を手で押し離れようとするが、彼の体は岩のようにびくとも動かず僕とくっついたままだ。

 

「キミの寿命まで奪っているかもしれないんだぞ!今すぐ離れろ」

 

「生きている人間は冷たいか?」

 

僕は次第に無駄だと悟り抵抗を辞めた。

彼は戦闘を終えたばかりだからか体温は熱く、その心臓の鼓動すらも服越しで伝わる。

そういえば人間とこうやって触れ合ったのはいつぶりだろう、そう思った。

遥か昔、それこそ僕がまだあそこにいて…。

 

 

皆で楽しく…暮らして…それで。

 

 

あれ、僕はどうして彼らを殺したんだろう。

 

 

 

 

 

 

「…夏だから暑い、だから離れて欲しい」

 

「そうか」

 

彼がそう言うと僕から体を離し、僕は自由になった。

リウシェンの体が離れたからか、少しだけ涼しい。

 

「多分、寿命を奪う感覚が無かったから皮膚に接しては無いと思う」

「そうか」

 

ひどく愛想のない返事だ、自分の事なのに、自分の寿命が奪われているのかもしれないのに。

彼の眼からは何の感情も察知することは出来ない、酷く冷たい眼だ。こんな目をした彼は初めだった。

 

「なんで…なんでこんなことをした。それともキミはそっちのケがあったのか」

 

思わず毒を吐いた、彼がそんなつもりじゃないのは理屈ではないが分かっていた。

それでも言ってしまう、少しだけ胸が痛くなった。

 

彼は、自分でも何故こんなことをしたのか分かっていないのか、何度も言葉を濁し自分の考えを吐き出しながら整理し、それでやっと自分の中の答えに至った。

 

「誰からも抱きしめてもらえないのは、寂しい…だろう、かなって」

 

馬鹿みたいだ、そう思った。

頼んでもないのに、勝手に想像して勝手に気遣って勝手に行動して。

そうである根拠も確証もないのに、独りよがりな優しさを僕にぶつけてきた。

意味が分からない。第一こんなことされても僕は嬉しくない、人間は嫌いだし、外は熱いし、馴れ合いみたいで好きじゃないし。

 

「なんなんだよ…もう」

 

僕がそう言うと、彼は気まずそうな顔をして焦っているような顔を浮かべた。

 

「そんな顔をするならやめろよ」そう言おうとしてやっぱりやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リウシェン君は他人を軽視しているフシがあるよね」

 

ガラス細工のように透明で美しく、それでいて少女のような幼さを内包されている妖艶な響きは砂漠に落とされた水滴のように鼓膜の内側に浸透していく。

バディの変更を申請する為にマキマさんの部屋を訪れた俺は気が付けば偉い人が来た時だけ使われる応接室でマキマさんとティータイムを取っていた。

 

自分の家にあるソファと一桁は価格が違いそうなフカフカの黒いソファから体を起こし、マキマさんと自分を隔てているローテーブルの上に置かれたやや年配向けの茶菓子に手をつける。

 

「…そんなつもりはないんですけどね」

 

「そっか、う~ん、きっと本心では大切に扱っているのかな。でもごめんね、外から見てたら思ってしまうことがあって」

 

あれ、これって詰められてる?

詰められるのは嫌だ。

いや、そもそも詰められるのが好きって人はこの世にいないだろうけどそれでも俺は大嫌いだ。詰められ嫌い選手権があれば俺は一回戦でラスボス校の噛ませ犬にされる全国常連の強豪校くらい強い自信はあるし、多分ルールの穴をつくテクニックタイプだし、詰められを大会にしようって最初に言った奴頭ヤバいだろうって思う。

 

「リウシェンくん、聞いてる?」

 

マキマさんの鈴の様な清涼な声が思考の海から意識を引き上げる。

やや顔を近づけたマキマさんが俺の視界の中心で手を振りながら意識の確認を取っている。

所作がいちいち可愛い人は苦手だ、好きになっちゃう。

 

「すいません、見惚れてました」

 

「ふうん…姫野ちゃんとバディ組んだ成果が出てるね」

 

姫野ちゃん…?あまり聞かない響きに脳が混乱した。

 

マキマさんが無言で紅茶が注がれたティーカップを俺の前に進める。

縁に青い模様が添えられた白くて華奢なティーカップの持ち手に指を挟む。

なんでこうティーカップの持ち手は人が持ちにくい構造をしているのか。

甘ったるく、それでいてさわやかなハッカの匂いが広がる。

 

「結構なお手前で」

 

「それだと茶道になるんじゃないかな」

 

恥ずかしくなって少し笑うとマキマさんも百合の花のように小さく微笑んだ。彼女は綺麗に笑う。美人でも笑うと表情が崩れて残念になる人がいるが、マキマさんだと持ち前の容姿がさらに際立つ。

マキマさんは手慣れた、それでいて細やかな動作で紅茶を口に運ぶ。その動作だけで何度も繰り返されたルーティーンなのだと理解できるほどには。

 

「私はね、リウシェン君はホントはいい子だと思ってるの」

 

それは幼児をあやすような優しい声だった。

 

「だからリウシェン君が周りから勘違いされるのはあまり良しとは思えないの」

 

「俺って勘違いされてるんですか?」

 

「うん」

 

嘘だよな…?俺って優しくてスマートでとっても強いリウシェン君だと思われていないの?

勘違いって…では何と思われているんだ。確かめたい、でもまずはマキマさんの言葉を聞かないと。なんとか逸る気持ちを抑える。

 

「だからね、リウシェン君はもっと人の気持ちを察して行動してほしいの、言い方は悪いけど理想の上司って言うのかな。そういう存在を演じて欲しいの」

 

「理想の上司っすか」

 

「うん、そうっすよ」

 

あ、その返しかわいい。

 

「これからリウシェン君が仕事をしていくと出世をして部下が出来たりするよね、厳しいことを言うけど今のままだと部下の管理を任せられないの」

 

「…すいません」

 

「謝らなくていいの、だってこれまで普通に生きてたら部下を持つことなんか無いしね。リウシェン君がこれからそういうことを意識してくれたら私は嬉しいかな、例えば周りにいる人を真似てみると分かりやすいんじゃないかな」

 

周りの人…?

基本雑なのに細かいところは煩かった黒瀬さん。

全てが雑だった天童さん。

アホバカ暴力じじい岸辺。

ゆるふわ精神薄弱の姫野さん。

 

 

…周り?

 

「具体的なアドバイスを貰えると有り難いんですけど」

 

そう言えばマキマさんは親指と人差し指の間を顎にあて視線を右上に逸らすとしばらく考えて…考えて…考えて。

 

「うん、相手が求めている事を察して行動してみよう。最初は…いやこれはずっと難しいと思うけど頑張ってやってみて欲しい」

 

「手伝ってほしそうだったら手伝ってあげて、寂しそうな人が居たら側にいてあげて。そうしたらリウシェン君はもっと良くなるよ」

 

マキマさんが何とか絞り出した言葉は凄く普通の事だけで意識していないと行動出来ない事で俺はどうやら大人になる時が来たらしい。

 

 

 

 

 

俺の新しいバディは当分お預けとなった…というよりバディになる相手が居ない。

自分で言うのもアレだけど仕事が出来る方だから強い悪魔に当てられる。

だから俺と一緒になる人は強くないと簡単に殉職しちゃうし、なんなら一人で回らせた方が効率的という意見も出ているとマキマさんは教えてくれた。

 

これじゃ京都と一緒だよ~トホホ。

 

肩を落としてトボトボと公安本部を歩いていると同じくデビルハンターの同期に話しかけられる。

 

彼曰く、公安本部で捕えている天使の悪魔とやらは手を触れるだけで寿命を奪い取ると。

何それ怖い。でもちょっと触れるくらいなら数か月ぐらいしか取られないみたい。

じゃあ大丈夫だな、年取った後の人生なんて消化試合なんだから数か月縮まったところでなんも変わらない、ただ死を待つだけだ。

しかもどうやらその寿命を消費して武器に出来るらしい。

 

寿命を消費した武器、良い響きじゃないか。

しかも物によっては永続的に武器が残り、寿命の長さによってはとても強力な物を生み出すようだ。

 

熱すぎる。俺の寿命10年くらい使っていいから俺だけの武器を作って欲しい。

マキマさんの執務室にUターンで戻る。

理想の上司ね、おけおけ。ようは仲良くなって俺だけの得物作ってもらえばいいって事か。

 

スキップで廊下をかける。その足取りは鳥の羽のように軽い。

 

 

 

 

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