感想やここが好きだった、などのお言葉をもらえると奇声を発しながら喜びます。(投稿速度も上がるかも)
今ガチの収録が終わってから、一年程。時間というものは呆気なく過ぎるもので、気がつけば3年生になっていた。番組の収録や舞台の稽古はもちろん、父親への復讐心で必死で過ごしていたから、ということもあるんだろうが。周到に奴を追い詰めようとしていた俺の目論見は、あまりにも呆気なく終わりを告げた。
一人過ごす朝の食卓。ルビーは食卓から自分の部屋へと朝食を持って行った。アイの秘密…いや、俺たち家族のことを暴露してからというもの、ルビーは俺のいる空間に居たくないらしい。…それもそうか。ルビーにとってアイは大好きな母親で、最高のアイドルだったのだから。
目玉焼きの乗せられたトーストを頬張り、少し冷めたコーヒーを啜る。皿の横に置いていた携帯が震え、ニュースサイトの目録が浮かぶ。飛び込んできた文字に、目を疑った。
『神木プロダクション社長 カミキヒカル氏、何者かに刺されて死亡』
「…は?」
記事を開くと、現場検証をしている警察の映像が映し出されていた。カミキの自宅付近の裏路地らしい。
着ていた制服を脱ぎ捨て、パーカーとジーンズに着替えた俺は、弾き出されるように家を飛び出した。
電車を乗り継いで、神木プロダクションの前に向かう。報道陣が押し寄せ、職員たちに質問を投げかけていた。所属しているモデルたちが喪服を着ている。記者陣の波をかき分ける。
「父さんは…本当に死んだんですか…?」
ぽろり、と。言葉がこぼれた。復讐鬼の雨宮吾郎ではなく、恐らく、きっと、初めてこぼれた、星野愛久愛海本人の、心からの言葉。
わなわなと唇が震える。これは、喜びか、後悔か。分からない。一度として会ったことのない、ただの血縁上の父親の死に哀しむ星野愛久愛海としての慚愧の言葉なのか、復讐鬼としての悦びなのか。思考がまとまらない中、懐疑的な目線を向ける所属タレントたち。
「…社長に、似てる。」
ぽつり、ひとりの女性タレントがつぶやいた。
彼女は、俺の手を掴むと裏手に回り、車に乗り込んでそのまま発進した。
1時間ほど走ってようやく着いた場所は、カミキの検死が行われている病院だという。手続きを終えた俺と女性タレントは、検死を行なっている部屋の前で待機をしていた。
「…震えてるね。」
俯いたままの俺に、そう声をかけた。
「社長に子供がいるなんて、驚いたよ。しかも、キミ…星野アクアくん、だよね。」
「…はい。」
そっか。目元なんか、そっくりだもんね。合点がいったらしい彼女は、言葉を繋ぐ。
「私は席、外しておくから。何時間か後に、また来るね。」
そう言い残して、彼女は去った。独り、検死室の前で、震えていることしかできなかった。
30分ほどして。検死室から出てきた検死医に声をかけた。
カミキが自分の血縁上の父である可能性が高いこと、葬儀や通夜には出られないだろうからせめて一目見えたいことを話した。もちろん、理由は適当に論ったものだ。葬儀に出るつもりなんて、かけらほども無かった。
乗り気では無かった検死医も、根負けしたのか霊安室への立ち入りを許可してくれた。床に伏せった顔をまじまじと眺めた。なるほど、確かに俺に似ていた。推察から俺の父親であることはほとんど確定だった。覚悟はしていたが、目鼻立ちが、髪質が、そっくり俺のものと似ている。ああ、本当に死んだのだ。母の仇が。推しの仇であろう男が。自分の命を賭して殺そうとしていた相手が、無残に、そして呆気なく死んだ。胸に去来したのは、ほんのちっぽけな達成感と、それを上回って余りある虚無感。ぽっかりと大きな空白が胸に開いた気がする。うつろな思考のまま、毛髪を何本か取り、丁寧に仕舞った。黙祷だけして、俺は霊安室を後にした。
その後、神木プロダクションの彼女に最寄りの駅まで送ってもらった後に自宅へとたどり着いた。記憶も曖昧なまま、カミキヒカルの毛髪を遺伝子検査にかけるべく手続きを行う。カミキは死んだ。これで、俺の生きる意味も無くなった。
「…そうだ」
せめて、あの子の墓前に行こう。生きるのか、死ぬのか。復讐は終わったのか、終わっていないのか。それすら定かではないままに、俺の復讐は幕を閉じた。