たたん、たたん、たたん、たたん。
規則的に揺れる電車の中で、特に何をするわけでもなく、ぼうっと空を眺めていた。今思えば、家出なんて人生で初めての経験だな、なんて、そんなくだらないことばかりが頭をよぎる。夜の帳は雨雲に覆われていて、黒々とした空だけが俺を見下ろしていた。
携帯に着信はない。それが、俺のあの家での価値を表しているようで…けれど、それが少しだけ心地がよかった。
「…ん」
掛け布団を剥がし、伸びをする。窓から差し込む朝日と、規則的に揺れる視界。普段とは違う風景に、寝台列車に乗っていることを思い出した。手洗い場に置いてあるアメニティを取り、そのまま歯を磨く。
ぼやっと蕩けたままの思考の中に、ひとつだけの後悔があった。
「ルビー…」
守らなければいけないと誓った人。アイの忘れ形見。アイツはどうしようも無く明るくて、元気で…そして、底抜けのバカだったけど。
それでも、人の道に外れたことは、絶対しない。だからこそ、アイの選択を無下にした俺のことが許せないのだろう。きっとこの先、許されることはないのだろう。
過保護な兄だっただろう。やることなすことに口を出して、きっと気がついていないだろうけど、ルビーの夢路を邪魔したことだってあった。ルビーという人間の魅力が、アイドルなんていう酔狂なものに消費されてしまうのが怖かったからだ。…ドルヲタだった俺が、なにを言ってるんだ、とは思うが。ルビーには、人並みの幸せを手に入れて欲しかったんだ。有象無象の評価を気にして精神をすり減らして欲しく無かった。アイを追い続けるあまり、傷ついた自分に気付かずに進んでいくルビーが、いつか壊れてしまうんじゃないかって、不安だった。
結局、それらは全て杞憂だったわけで。人付き合いが上手いルビーなら、きっとメンバーは自分で集められただろうと思う。練習だって、人一倍努力家なアイツのことだ。きっと、無我夢中でやりきって、それでもアイツは笑っていたんだろう。炎上騒ぎだって、ルビーの真っ直ぐな言葉と、誠意があれば、さして問題にはならなかったかもしれない。問題になったとしても、ルビーは困難に立ち向かっただろう。そして、アイ譲りのそのクソ度胸で、乗り越えられたのかもしれない。
俺がルビーにしたことは、きっと全て無駄なことだったんだ、と…そう思う。むしろ、こんな偏屈な兄さえいなければ、ルビーはもっと早い段階から、華々しい世界へと足を踏み入れていただろう。俺のエゴに付き合わせて、そのせいでトラウマを刺激してしまった。あんなに快活で優しいルビーが怒ったのを、俺は今までほとんど見たことがなかった。それこそ、アイが死んでしまった頃…ネットに呟かれていた罵詈雑言に喰ってかかっていた頃だけだろう。
俺は過去のネットの罵詈雑言を思い出し、思考が沸騰して…そして、冷や水をぶちまけられたように冷静になった。ルビーにとって、俺はネットで罵詈雑言を飛ばしてきた顔の見えない悪意と同レベルのことをしてしまったんだ、という現実に、酷く打ちひしがれた。
大切だった。幼い頃からずっと一緒にいて、生意気なところも、すぐ拗ねることも、おやつを半分与えたらすぐに機嫌を直してくれるチョロい所も。喧嘩したその日の晩に、こっそり布団に入ってきて、寝たふりを決めている俺に謝る、少し素直じゃないところも。あんな華奢な背中に不釣り合いなほどに大きな夢を背負って、それでも一度も諦めようとしなかったその姿は、ただひたすらに格好良かった。
だからこそ、守らなければいけない、と強く思った。
人はうんざりするほど利己的で、身勝手で、度し難い人間なんて、ごまんといるから。アイドルの綺麗な部分を見て育ったルビーには、きっとその悪意がわからないと思ったから。全て自分のせいだと思い込んで、一人で背負い込んで…その果てにルビーが壊れたら、俺まで心折れてしまうから。なにも守れなかった俺に、唯一残された大切な妹で、ルビーはきっと、