「──はァ?」
目の前の上司の告げてきたことを簡単に言うと、「お前モネ様の指名でモネ様直属の部下になることが決定したから!」ということらしい。
……はァ???
「俺が?何故?」
「知らん、モネ様に直接訊け。
……とにかく、これは若様からの命令だ。幹部様の直属だなんて栄誉なことだぞ」
「…………ありがとう、ございます……」
一応感謝の言葉を述べるが、頭は全く回っていない。
……まぁ、実のところ心当たりがないこともないのだが。
恐らく、先日の共同任務……あれが発端だ。
……モネ様の反応からまさかとは思っていたが…………
────やはり、セクハラ野郎として恨みを買っていたのだろう……!!
直属にすることで誰にも邪魔されることなく精神的に追い詰める、そういうことに違いない。
流石は頭脳派のモネ様だ、俺の弱点をよく分かっていらっしゃる……!
さようなら俺の前世よりホワイティーな環境……さようなら俺の前世より高い給料……。
──因みにこの男は前世よりホワイティーだのなんだのとほざいているが、ほぼ無休でこき使う会社はこの世界でも決してホワイトとは言わない。明らかな感覚バグである。
大丈夫だ俺、あんな綺麗な人にされる罵倒と嫌がらせなら前世のオッサンハゲ上司からのそれより万倍マシだ。
というか頑張ってそういう趣向に目覚めれば御褒美に出来る。大和魂を見せろ。
──大和魂に謝ってほしい。切実に。
◇◆◇
「モネ様直属の部下としてこちらへの配属辞令を賜りました、本日よりお世話になるヤスダ・カズキと申します。
何卒よろしくお願いいたします」
平静を装いながらそう言ってモネ様へと深く頭を下げる俺だが、内心では冷や汗が物凄いことになっている。
……この部屋、モネ様のものを含めデスクが二つしかねぇじゃねェか……!!!
つまりモネ様の直属の部下は俺のみということで。
明らかな
「あら、来たのね。
この間の共同任務以来だけど、覚えているかしら」
「はっ、はい。勿論でございます」
これ『(お前が私にやりやがった無礼を)覚えているかしら?』ってことだよな……!?
「……なら、貴方が私に言ったこともちゃんと覚えているわよね?」
「……はい」
絶対そうだ……!!
美しいだとか綺麗だとかいう美醜に関わる発言はセクハラに該当するって前世で散々聞いたってのに、俺のアホ……!!!
「……そ。忘れていたならこの場で永遠に眠らせてあげようかと思っていたけど、覚えてるならいいわ」
……ん?
『ならいい』??
「『少しでも貴女様の助けとなりたい』……だったかしら。……うふふ。
その言葉を真に受けてこき使ってあげるから、精々これから覚悟しておくことね」
あれ???
……もしかして、セクハラ野郎とは思われてない……?????
◇◆◇
さて、モネ様直属の部下として働き始めて数日が経った。
試用期間のようなものとしてまずはそこまで重要度の高くない内容の仕事を任されているのだが……。
……仕事量が、グロい。
いや、前世に比べればポメラニアン程の愛らしさすらを感じる量ではあるのだが、これが重要度が高くない内容だけ、しかも試用期間に相応しいものを選んで任された仕事だというのが恐ろしい。
何故なら、つまりモネ様は前までこれを含めた仕事量を一人でこなしていたということなのである。最早社畜とかそういう次元ではない。
この量の書類仕事抱えてその上戦闘任務までこなしてたのかよ……やっぱモネ様ヤバいな……。
…………っつーか、作業速度はっっっっっや。
書く音がもうカリカリカリカリカリとかじゃなくてカカカカカカカカカカ!!!!!じゃねェか。
俺もモネ様の力になれるようにトップスピードで作業せねば……!
このままではモネ様が過労死する……!!!
と、不意にモネ様が口を開いた。
「……もうお昼だけど、進捗はどう?」
「は、はっ。仰せつかりました取引先の情報整理ですが、現在128件中92件の情報整理が完了しております」
「……92件?」
「っ、作業速度が遅く申し訳ございません!」
絶対『もう昼なのにたったの92件?』って思われただろ……!
昔の上司なら進捗訊いてきた時点で終わってないと即罵倒だったし、モネ様も罵倒こそしてこないかもしれないが落胆はなさった筈……!!
「? 朝からここまでで92件もこなしたなら随分早い方だと思うけど……?」
「…………へ?」
「前の共同任務の時も優秀だとは思っていたけど、書類仕事も早いのね。やるじゃない」
「………………あり、がとう、ございます……??」
……褒め、られた……?
仕事って褒められることがあるものなのか……???
「ふふっ、どうして疑問形なのよ。やっぱりおかしな人ね」
「あ、いや、そのようなお言葉に慣れていないもので……申し訳ございません」
「……前もそういう風に謝ってたけど、貴方のそれはクセ?」
「あ…………そうかも、しれません……」
全然意識してなかった……言われてみれば俺ってよく謝ってるな。
「謙虚さは場合によっては美徳にもなるかもしれないけど、能力に見合った自信がないのは軽んじられるだけよ?
幹部である私に直々に指名されたんだから、もっとそれに相応しい振る舞いをしなきゃ」
「……はい。申し訳──…………ありがとうございます」
「うふふふふ、それでいいわ。少しずつ直していきましょ」
……………………滅茶苦茶いい上司ィ……………………。
私刑フラグとか言ってすみません。もう本当に、これはクセとか抜きにして謝らせてほしい。すみません。
「……モネ様は本当にお優しいんですね」
「!」
「美しくてその上そんな風にお優しいだなんて、まるで女神様のようです」
「あの、待っ」
「その上仕事も早くて……俺は学ぶべきところばかりですよ。
若様は、モネ様のようなファミリーがいらして幸福でしょうね」
「~っ!!……そっ、それもクセなの……!?」
「へっ?!」
何!?どれだ!?
今度こそやらかしたか!?!?
「どれのことでしょうか!?ご指摘くだされば繰り返さないよう早急に対処を──」
「べ、別に直せとは言ってないでしょう……!!もう!!」
「え、あ、申しわ、…………はい……。
……?????」
じゃあなんで怒ってんだ……???????