試用期間もどきとしてモネ様の元で仕事を続けて二週間程が経っただろうか。
その日は久々の戦闘任務で、俺とモネ様はしっかりと作戦を話し合った上で作戦に臨むこととなった。
……とは言っても、俺の仕事といえば爆発物での陽動や討ち漏らした敵の
信用されていないのかだとか信頼されていないのかだとか不安に思う──なんてことは全くないが、ただひたすらモネ様が心配だ。
過労死とは「まだ行けるだろう」の勢いで働いていたら突然やって来るものである(経験談)
モネ様が若様を大切に思っていることは分かっているし、モネ様の優秀さもよくよく理解はしているが、しかししかし。
(ことわざとしての意味とは多少ズレるが)雨垂れ石を穿つという言葉があるように、モネ様にとっては多少の疲労であろうときちんと休まず積み重ねていってしまったら、いつか俺の前世のようなことになってしまう可能性だって否めない。
……強制力とやらを信じられたのなら漫画で死んでいなかったのだから心配せずとも大丈夫だろうと言えたのかもしれないが、俺にとってモネ様はもう『キャラクター』ではなく『人間』だ。
原作にない発言を、表情を見せる『人』なのだ。
「……はァ……」
「がッ……」
とか、そんな心配を長々と口にしてもモネ様も面倒に思うだろうしなぁ……。
どうしたものかと考えながら脚全体が凍傷のような状態になったままでよたよたと逃げようとする敵を撃ち殺すと、いつの間にか背後にいらしたモネ様が「あら珍しい、貴方もため息なんてつくのね」と声をかけてきたので、慌てて振り返る。
モネ様がここに来たということは、今のが最後の敵だったのだろうが…………やってしまった、仕事中にため息とか絶対怒られるやつじゃねぇか。
「に、任務中にお聞き苦しいものを……大変失礼いたしました」
「別にそのくらい……、──!
……うふふ、そうね。任務中のため息だなんて緊張感が欠けてる証拠よ?とっても悪いヒト。
相応の罰を受けて貰わなきゃ」
やはり流石のモネ様もお怒りだ……!!
そう思った俺が指の一本や二本、いや四肢の一本や二本もぎ取られる覚悟で「はい、……」と返事をしながら頭を下げると、モネ様はとても楽しそうに告げた。
「それじゃあ、どうしてため息をついていたのか教えてくれる?」
「……えっ」
え???
……?
……………………なるほど!理由を聞いてから罰を決めようということか!!
一瞬まさかそれが罰なのかと思ってしまったがそんなわけはないだろうし、流石モネ様……この期に及んで温情をかけてくださるなんて、なんてお優しい!
──とはいうものの、流石に馬鹿正直に理由を話すのは恥ずかしい気もするし……。
などと考えていると、モネ様が俺の頬に手を添えながらこちらの目をまっすぐに見つめて距離をぐっと詰めてきた。
「理由を隠したければ隠してもいいけど……オススメはしないわ」
ドッ、と心臓がおかしな音をたてる。
モネ様の顔が至近距離にあるから──なんて理由ではなく、俺に触れたモネ様の手が不自然なほど低温になっていくからである。……つまり、モネ様は「誤魔化したり嘘をつくなら死ぬ覚悟を持て」と言っているわけで。
死と恥を天秤にかけて恥が勝つなんてことが起こるほど高いプライドも持ち合わせていなかった俺は、色んな意味で真っ青になっているだろう顔で即座に考えていたことを白状した。
「努力家かつ勤勉なモネ様がいつかお身体を壊してしまうのではないかと考えていたのですが、
「…………私のことを考えていたの?」
「?は、はい。そうですが……」
「……………………ふぅん、そうなのね。……そう……」
…………こ、この反応はどうなんだ……!?!??
如何せん俺の脳内上司シミュレーターは基準が前世の上司になっているためこの後嫌味やら何やらのコンボが叩きつけられる想定しか出来ないが、モネ様がそういうことをしないということはもう理解している。
つまり考えられる罰は……減給、もしくは元の部署に戻されるといったところだろうか。前者なら全く問題はないが、後者は嫌だな。……いや、その、何故と問われると俺自身もよく分かっていないのだが……うん、嫌だ。
と、俺の不安を投げ捨てるようにモネ様はあっけらかんと言った。
「ふふ、ならいいわ」
そこはかとなくご機嫌なように見えなくもないモネ様の発言に俺の脳内は大パニックである。
「も、モネ様……あの、罰は……?」
「? だからため息の理由を訊いたじゃない」
…………それだけ!?
理由を言うことが罰!!?
「ですが本来はなにかもっときちんとした罰を受けるべきなのでは……!」
「あら、そんなに私にお仕置きされたいの?
うふふふ、イケナイ人ね」
「へ…………?っ!?そ、そういうことではなく……!!」
「冗談よ。そんなに焦らなくてもいいのに」
「う、申しわ、………………はい」
からかわれたことが分かっても顔の熱さは引いてくれず、恐らく目の前のモネ様には俺の真っ赤な顔が丸見えになっているに違いない。
しかしそれを見てモネ様がひどくご機嫌そうに笑うから、俺は顔を逸らすことも出来ないままで、ただ彼女の方を見つめていた。