かまくらぐらし   作:とくめ一

5 / 7
社畜、上司とドレスローザを歩く。

 

 

 戦闘任務から三日が経過し、漸くモネ様と二人きりでの書類仕事にもなれてきた頃。

 日が落ちてすぐの、仕事終わりにしては随分と早い時間に、モネ様は俺に問いかけた。

 

「今日の夕方に緊急で任された情報整理についてだけど、あとどのくらいで終わりそうかしら」

「そうですね……あと三十分足らずで完了することが出来るかと」

「ふふ、いいペースね。今日はこの後別に行く所があるから、その作業が済んだらすぐに報告してちょうだい」

「はい、承知しました」

 

 なるほど、モネ様は今日はご予定があるのか。

 任務の可能性もあるが……この時間だとプライベートなご予定の可能性の方が高いな。

 

 まぁ、どちらにせよモネ様の時間が貴重であることには変わりないので、俺の仕事を待たせたせいで遅らせるのは何としても避けねばならない。

 俺は最高速度で作業を済ませると、急いだ分念入りにミスがないかのチェックをして、モネ様に報告を行った。

 

「まだ十五分しか経っていないのにもう終わったの?」

「モネ様をお待たせするわけにはいきませんので」

 

 驚いた様子のモネ様の言葉に頷いてそう答えると、モネ様は「そう」と期限良さげに返事をして、それから続けた。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「はい。…………えっ」

 

 なるほど、どうやら任務(俺と)だったらしい。

 

 返事の後、そんな気付きと共に漏れた声に「どうかした?」と小首をかしげたモネ様に「いえ、何も」なんて返して不思議そうな顔をさせて、それから数分経った頃。

 俺たちは、ドレスローザの街中(まちなか)を歩いていた。

 

 実は、こんな風に街中に出るのは少々珍しい。

 というのも、モネ様は隠密や潜入、サポートなどを主な任務内容とする、所謂裏方、後衛的な(かた)だ。

 それ故に顔はあまり知られない方が良いのだが、ドンキホーテファミリーの一員というだけでこの島では大分目立ってしまうので、任務に赴くときは大抵裏道を使う。……というのに、今日は一体どうしたのだろうか。

 

 何の理由もなくこういったことをする方ではないし、何かお考えがあるのだろうが……と考えていると、斜め前を歩くモネ様がこちらに目線を向けて口を開く。

 

「そういえば、貴方って好きな動物はいるの?」

「……好きな動物、ですか?」

 

 突然の問いにぽかんとしてしまった俺を見て、モネ様は「何となく気になっただけよ」と付け足した。

 恐らく、所謂移動中の世間話というやつだろう。

 

「そうですね……。……毛が柔らかくて触り心地の良い生き物は割と何でも好きですが…………白いうさぎが、特に好きかもしれません」

「白いうさぎ?」

「ええ、前に世話をしていたんです。なので何というかその、愛着がありまして……。

 まぁ、今は離れ離れになってしまっているのですが」

 

 俺がそう説明すると、モネ様は少し訝しげな表情になった。

 

「離れ離れって……貴方って天涯孤独じゃなかった?

 まるでその子が拐われたみたいな言い方ね」

 

 流石はモネ様だ。俺を部下にする前にしっかりと身辺調査を行っていたらしい。

 

 確かに、うさぎと離れ離れなんて状況はそうはないだろう。あるとすれば家族に預けているだとか捨てたとかそのくらいのものだろうし、捨てたうさぎがその後も生き延びるとは考えづらい。

 俺の言い方に疑問を抱くのももっともだろうと思いながら、俺は再度口を開く。

 

「野良うさぎだったんです。

 訳あって急遽俺がその場所を離れることになったので連れては来られませんでしたが……可愛らしい子でしたから、今も何とかやっていっていると思いますよ」

 

 ……元気にしているだろうか。

 俺にとっての癒しだったあの子を思い出して、俺は少しだけ頬を緩めた。

 

「…………貴方、口角上げられたのね……」

「え」

 

 俺、いつもそんなに表情なかったか……?と衝撃を受けてモネ様に問いかけてみると、「焦ったり驚いたりした時の表情は分かりやすい方だと思うけど」と返された。それはつまりそれ以外の表情は薄いということでは……?

 

 と、そんなことを考えている内に目的地についたらしい。

 

 「着いたわよ」と声をかけられ目の前に意識をやって、俺は固まった。そこはドレスローザでも珍しい完全個室制の食事処──所謂、高級料理店だったのだ。

 

 …………?

 ……………………。

 ………………………………!

 

「なるほど、本日はこちらで潜入捜査ですか」

「……前から思ってはいたけど、貴方のそれは真面目すぎてズレてるのか元々の性質なのかどっちなのかしらね」

「………………まさかとは思いますが、普通にこちらで食事を?」

「そのまさかよ。寧ろ拠点にしている島の高級料理店まで来て潜入捜査する方が珍しいでしょう」

 

 モネ様は呆れたようにそう仰るが、俺からすれば上司にこんな場所まで連れてこられることの方が余程珍しい。

 脳味噌の回路が追いつかずポカンと惚けていると、既に入口のすぐ側まで歩いていたモネ様に「入らないの?」と言われてしまった。

 

 ……マジで入るのか……??

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。