我儘な天使 作:多様性の獣
ヘドロ事件、該当無し。ウォーターホース殉職、該当無し。毒毒チェーンソー、二年前にオールマイトの手によって確保。つまり今は原作開始時点よりも過去。毒毒チェーンソー事件が二年前って事は、大体三年前って事になる。
まだ物語が動き始める前、オープニングにも足が掛かっていない段階────…と、うかうかしてはいられない。だって物語が動いてなくても、動かすためのターニングポイントは既に設置されている。手遅れって程でも無いけど微妙な時期だ。
今から保身に走るとしたら、一番安牌なのは国外逃亡だろう。この段階で日本から出るのが最も安全な択だと思う。今から四年以内に起こるイベントを全て回避するにはこれ以外無いし、オール・フォー・ワンの魔の手も海外までは届かない。
じゃあその択を選ぶのかと言われれば、ノーだ。
まず僕には渡航手段が無い。正規の方法で飛行機に乗る事は出来ないし、だからってどこぞに不法入国するのはリスクが大きい。天使があれば大抵の人間は丸め込めるだろうけど、効かない人間だって世界を探せばいるものだろう。
勿論、転生なんてしたからには原作軸に関わりたいというミーハー根性もあるにはある。好きな作品だった。最後まで読みたいと思って追いかけていた作品だった。
残念ながら最後まで追う事は出来なかったけど、もしかしたらもっと近い所で、物語の結末を知る事が出来るかもしれない。
けど、それらよりも、どれよりも優先したい理由がある。何を隠そう、僕はあの魔王に心底ムカついてる。物凄く怖かったし、敵対なんてしたくないという理性は当然ある。それでも尚勝るのが、ムカついたから殴ってやりたいという本能だ。
僕が逃亡の手段を探すより先に腰を落ち着けて私兵を募ろうと考えたのもそれが理由だし、ここに関しては今の所譲るつもりは無い。
決着に関わるつもりなんて無いし、正直そこはワン・フォー・オールに任せるつもりだ。それはそれとして、決着が付くまでに一撃だけでも入れておきたい。
あのムカつく横っ面に拳でも武器でも良いから叩き込んでやりたい。逃げるのはそれを済ませてからでも良いし、むしろそれをするためにヒーロー側に立っても良い。
────…そう、思っていたのだけど。
「天使様、南通りの墓地が荒れ果てていて……」
「わかりました。教会の信徒達は皆敬虔ですから、きっと手を貸してくれるでしょう」
ちょっとしたボランティアだったり。
「天使様ー!門の所にちっちゃいワンちゃんがいるー!」
「ちっちゃいワンちゃん……?捨て犬でしょうか。保健所で確認が取れるまで、教会で預かりましょう」
ひょんな事から小さな命を預かったり。
「天使様、そろそろこの教会では手狭かもしれません。パトロンも増えましたし、改装や移転などを視野に入れる頃かと」
「……確かに、ここを訪れる人も増えましたね。出来る事ならここを離れたくはありませんし、やはり改装、改築でしょうか」
教会の改築までして、いよいよ土地に根を張ってしまったり。
色々な事があって、色々な事を起こして。そうしてのんびり慎ましやかに、それでいて訪れた人を片っ端から信徒にしている内に、気付けば一年が経っていた。
一年が、経っていた。
「天使様────」
「もう一年!?」
「おわっ、ど、どうしました?」
「あ、あぁいえ……何でも」
もう一年が経ってしまった。これで原作開始まではあと二年、準備期間もそれだけ縮んだ事になる。
一年あれば何が出来た?少なくともこんな悩みはすぐに片付いただろうし、コネクション作りとか使える個性の確認とか、色んな事が出来たはずだ。
幸いコネクションの方は教会の噂が人伝いに広まって、今じゃ遠方から通う信徒もいるくらいになっている。中にはとんでもない富豪とかもいて、資金には事欠かないだろう。
ただ個性の方は壊滅的だ。把握出来ている個性なんて天使と超再生くらいのもの。ハイエンドである以上他にも有用な個性があるんだろうけど、生憎試す場も何も無い。
「どうしたものかなぁ……」
正直やってやれない事は無い。この世界には個性を試すのに打って付けの存在が、それこそ毎日のように湧いて来る。簡単な話だ。その辺に現れたヴィランで試せば良い。標的をヴィランに絞ればみんなヴィジランテとして扱ってくれるだろう。
ヒーローからの風当たりは強くなりそうだけど、顔と体を隠してしまえばそれも無い。この一年で作り上げた信用という地盤もあるし、決定的な証拠さえ掴ませなければみんなが庇ってくれる。活動拠点をここから離したならそうそうバレないはず。
よし、これだな。自分の力が確定してない段階での戦闘行動は嫌だったんだけど、そうこう言ってられないくらいに僕が弛んでいたのが悪い。
「何かお悩みですか?お力になれる事でしたら、是非我々に」
「いえいえ、皆さんのお手を煩わせる程の事ではありませんよ」
まぁその内、教会総出で何かしらの行動を起こす事にはなるだろうけど。少なくともその前に、どんな神を奉っている、なんて名前の宗教なのかって事くらいは決めなきゃだ。
────…そもそも僕の名前も決まってなかったな。みんなずっと天使様天使様って呼ぶから思い付きもしなかった。ちゃんとしたのを考えておこう。名乗れもしないんじゃ不便が過ぎる。
「それで、何か?」
「そうでした!実はポチが産気づいて……」
「えぇ!?い、今行きますっ!!」
そんなとんでも大ニュースに、僕は急いで立ち上がって呼びに来てくれた信徒Aに続く。ヴィジランテだとか名前だとか教義だとか、今は全部どうでも良い。今優先するべきなのは犬のお産だ。待ってろポチ、すぐに助けに行くからな。
・天使ちゃん
一年を無為に費やしたと思ったが、よくよく考えれば信徒も増えて人材資財的に余裕も出来てるので、割と軌道には乗っている。オール・フォー・ワンをぶん殴るためにはまず自身の力量の把握が必要と思いヴィジランテ活動を視野に入れ始めた。
それはそれとして拾い犬の方が大事。
教会の内情や信徒から見た天使の様子などの閑話とかいります?
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教会の内情
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信徒から見た天使
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どちらもいる
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どちらもいらない