我儘な天使   作:多様性の獣

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五話。昨晩は更新出来ず申し訳ないです。車に轢かれて寝ている間にバーに色が付いていてびっくりしました。ありがとうございます。
上記の理由で利き腕を負傷したため、執筆と投稿の遅れや、誤字などが目立つ事になると思います。ご了承ください。


悪魔

「それで?あんたみたいなちんまい嬢ちゃんが、こんな掃き溜めに何の用だい?」

「何の用、と言われましても」

 

 歓楽街、路地裏、夜。こんだけの条件が揃ったなら、そこはもうゴロツキの楽園だ。翌朝食う飯もねぇような社会のゴミから、人を人とも思わねぇようなクズまで勢揃い。

 

 俺はそういう奴ら、主にヴィランを客として商売をする裏商人。当然この時間この場所では俺に客が訪れるもんだが、今日ばかりは毛色が違った。っつーのも、到底俺らが相手するような、いや、俺らを相手するようには見えねぇ奴が来たからだ。

 

「商人の前に座るのは、いつだって客でしょう?」

「それがわからんのよ俺は。何だってあんたみてぇな「清廉潔白な聖人です」ってツラした女がここに来るのかね」

 

 不思議そうに頭を傾げるもんだから、肩に触れない程度に揃えられた白髪が揺れた。今俺の目の前にいる、一昔前のコミックでよく見たような顔の上半分を隠す仮面を着けた女は、口元だけでもここに来るような人間じゃねぇ事がわかる。

 

「ツラ……は見えていないと思いますが、あまり隠せていませんか?」

「あぁ隠せてねぇな。及第点もやれねぇ出来だ。」

「そうですか、御教授ありがとうございます。次からはもっと広く隠せるものにしましょう」

 

 体全部を隠しちまうフード付きローブを着て来た割に顔の隠し方は三流なこの女。俺はこいつをよく知ってる。つい一年程前に現れた新興宗教団体の頭目……いや、教祖か。

 

 名前は不明、来歴も不明。ただどこぞの山中に天から舞い降りて、今の司教様の前に現れて、神託なんてもんをくれてやったらしい。信者共からの呼び名は【天使様】。随分と大仰な呼ばれ方をしてると思ってはいたが、成程こりゃ呼びたくもなる。

 

「あの天使様がこんな掃き溜めによくもまぁ……」

「そこまでバレていましたか、不覚です。流石は情報通の義爛(ぎらん)さん」

「止せよ。とっとと本題を話しな」

 

 試すように一睨みしてやれば、天使は「こほん」と一つ態とらしい咳払いをして話し始めた。それもとんでもねぇ与太話を。

 

「近い内にこの国で戦争が起こります」

「────…はぁ?」

 

 一口に戦争っつっても種類がある。ただ銃と砲をぶっ放すだけが争いじゃねぇ。そしてそうなる予定があるってんなら、必ずその匂いがするもんだ。だが俺の所にはそんなのは届いちゃいねぇ。

 

 ならこいつが俺に嘘を吐いてんのか?普段なら絶対にそうだと、確信を持って言えていた。当たり前だ。そんな与太話を幾つも信じてちゃ、こんな商売はやってられねぇってもんだ。

 

 大体この辺りには「いずれ終末が来る!」だの「この歪んだ社会をひっくり返してやる!」だのと宣う気狂いがうようよいる。だから一言目にその類を持って来られた時には、俺は必ず突っ撥ねてやると決めていた。そのはずだった。

 

「信じられませんか?」

「当たり前だろ。戦争だなんだと、宗教家のあんたが言う事かよ?」

「だからこそです、義爛さん。私は無為な血を流す事を望みませんが、犠牲が少なければ良いと言える程度には、あなた達に理解を示す事が出来る」

 

 だが俺は否定し切れなかった。頑なになれなかった。続く言葉に聞き耳を立て、あまつさえ「早く話せ」とばかりに続きを待ってしまった。

 

「起こってしまうものは仕方ありません。ですが、流れる血を減らす事くらいは望めるでしょう」

「……そんな綺麗事のために、戦争を止める手伝いをしろってのが今日の用事か?やめとけ。もし本当に戦争が起こるんだとしたら、そりゃ俺達にとって恰好の稼ぎ時だ」

「いいえ」

 

 天使が口を開く度に、脳みそをこねくり回されるような感覚に陥る。それを遠ざけようと早く口を回せば、強い口調で遮られた。緩やかな弧を描く唇が、ただ人体の部位の一つであるだけのそれが、この瞬間だけは異様に恐ろしい。

 

「戦争を止める手伝いをして頂く必要はありません。ただ、私が戦争に介入出来るだけの支援をして頂きたい」

「「私が」って事は、あんた……」

「えぇ、たとえ一人でも」

 

 ……成程、こりゃあ人も集まる訳だ。

 

 共感しちまうって訳でも、放っとけなくなるって訳でも無い。平和の象徴とはまた違う光だ。見る者の目を潰すような、圧倒的な光。他人を頼らず行われる、たった一人の献身の光。

 

 それが個性のものなのか、今し方見せられた狂気によるものなのかは、俺にはわからねぇ。わからねぇが────

 

「イカレ女が。良いぜ、乗ってやる」

「……そう、ですか。ありがとうございます」

 

 口をへの字に曲げた天使は、イカレ女扱いが相当気に食わなかったのか、如何にも不機嫌そうな声で礼を言う。

 

「言っとくが俺はあくまでフリーな商人であり斡旋業者、ブローカーでしか無い。第一優先は損得勘定だ」

「勿論あなたの商売の邪魔をするつもりはありませんので、客層を変えろなどとは言いません」

「そりゃ良かった。じゃあ帰んな。諸々は後で教会の方に送ってやるから、そん時の連絡手段で応じるこった」

 

 信者になるつもりは毛頭無ぇが、こんだけ面白いネタを放っとくのも無理な話だ。卸業者には色付けとくように言っとくかね。

 

 ────…なんて思ってたが、あの射撃の腕じゃなぁ……

 

 

 


 

 

 

 ポチの出産と義爛さんとの商談から早二ヶ月が経ち、僕は今日もお仕事に勤しんでいる。勿論仕事というのは天使としての救済だとか、人々に寄り添って祈るだとか、そういうのでは無い。

 

「出やがったな【白い悪魔】!!」

人……いや、種族違いです

 

 今相手にしているのは郊外で暴れ回るチンピラの群れ。火遊びしたくなるような歳頃の不良か、ちょっと魔が差して事を起こしてしまった困窮者か、或いは趣味でやっている根っからのドクズか。

 

 僕が相手するのはそんな奴らの中でも最下層も最下層、木っ端ヒーローが相手にするまでも無いような雑魚共だ。街の片隅で燻っているような奴らを相手に、今は練習期間と洒落込んでいる。

 

 こうして気軽に戦場に出るなんて、ちょっと前じゃ考えられなかった。教会のコネクションが無きゃ裏の住人とは繋がれなかっただろうし、斡旋業者にも会えなかっただろう。教会様々、義爛様々だ。

 

 彼に天使が効いたのかはわからないけど、何だかとても気に入ってくれた様子だった。イカレ女呼ばわりされた時は少しムッとしてしまったけど、その時の義爛はとってもニヒルで素敵な笑顔を浮かべていたから、あれがウケたのかもしれない。

 

 そんな義爛はあの時の言葉通り、教会に連絡手段を送り付けてくれた。それを通じて連絡が取れたのは、特殊な物品……包み隠さず言ってしまえば火器や兵器などを卸してくれる業者だった。

 

 有難い事には有難いのだけど、それはそれとして懸念点が一つ。それは僕が銃火器を扱えるのか否か、という所。

 

 義爛が相当に色を付けるよう言ってくれていたらしいから、お言葉に甘えてそれなりの数を買わせて貰ったのだけど、結局今は教会の地下倉庫に眠ってる。理由は懸念に確証が出来てしまったから。

 

 最初から実銃握って実弾ぶっ放す馬鹿なんてそうそういない。そして僕はそれを理解している側の人間だった。取引先も当然プロだし、ある種のリスクヘッジで僕は射撃場へ招かれた。

 

 大小様々な悪徳を積んだ人達が利用してたけど、まぁそれは僕には関係無い事で。むしろその日は僕が迷惑を掛けた側でもある。何せ正面に向けて撃った弾が射撃場内を跳ね回るものだから、その人達も隠れ避けるのに必死になっていたのは申し訳ない。

 

 射撃場で迷惑を掛けたというのも大いにあるんだろうけど、恐らくは一つの優しさという形で、卸業者は僕に銃火器以外の武装を売ってくれた。今ヴィラン相手に振るっているものがそれだ。

 

「この間はよくも兄弟を叩き潰してくれやがったなぁ……!!」

潰れる方が悪いと思いません?

 

 どうやら僕に兄か弟をボコられたらしい木っ端ヴィランは、僕の得物を見ながら恨み言を吐いて、それに返答してやれば額に浮いた青筋を濃くする。

 

「このクソアマがぁっ!!」

お口が悪いです……よっ!

 

 多分増強系の個性なんだろう。右拳を握り込んで正面から突進して来るそのヴィランに向かって、僕も同じように大きく左足で踏み込むと、前に出ながら引き摺るように得物を引っ張って、右手で握ったその鉄塊を振り下ろす。

 

 僕の片腕程はありそうな柄と、僕の身長分はある刀身。細身で分厚い両刃剣の形をしたそれは、斬撃を行うような利器では無くて。

 

「ぁがっ!?」

 

 僕に積まれていたらしい推定増強系の個性によって発揮される膂力を使って持ち上げた大質量の鈍器が、その特大の自重を強く引っ張る地球の重力に任せて落下を開始し、馬鹿正直に突っ込んで来た馬鹿を真上から叩き潰した。

 

「く、クソ……悪魔が……!」

 

 木っ端ヴィランはそう呟いて事切れ────…いや死んでは無いな。

 

 悪魔。そう、悪魔だ。ヴィジランテ活動をするにあたってコードネームのようなものを名乗る事はしなかったのだけど、僕の呼び名はいつの間にやら白い悪魔という事になっていた。

 

 理由は幾つかあるとしても、一番大きな理由は装備だろう。

 

 今も身に着けている変声機と暗視ゴーグルを兼ねた顔をすっぽり隠せる仮面は、義爛からの初回サービスと銘打ったプレゼント。目元のデザインは僕が以前着けて行ったものに似ている辺り、顔を隠しきれてなかっただけで、デザインは良かったのかも。

 

 全身はアーマーって程でも無いけど、それなりに防御力があって軽量な白いプロテクターを幾つか着けている。どうやら僕の体はかなり頑丈らしく、銃弾を受けた程度なら痛いだけで済むらしい。

 

 それはそれとして痛いのは嫌だからプロテクターは買った。

 

 デザインは案の定トゲトゲしいもの。カラーデザインこそ白を基調にしてはいるけど、形状からして普段教会でお祈りしている天使様とは掛け離れた見た目。何なら仮面にも二本の角が生えているし、成程これは悪魔って感じの外見だ。

 

 そもそも僕が普段着てるのは黒い修道服だし、別に普段のイメージが白って訳じゃないけど。

 

 そして僕が悪魔と呼ばれる理由にして、天使と呼ばれなかった理由。それは、僕がこの一年で最も精力的に行った鍛錬に起因している。

 

 ずばり、ハイロゥを隠す事だ。しょぼいかもしれないけど一番大事だったし、結果的に一番成果が出た鍛錬でもある。

 

 一年前はどれだけ頑張っても一分に届かなかったのが、今じゃ十分近く隠していられるようになった。十分と聞くと短く感じるかもしれないけど、十分間も戦い続ける事なんてそうは無いし、仮にそうなるかもしれない相手がいたら逃げれば良い。

 

 ちなみにさっき使った筋力増強の個性もこの一年で使えるようになったものだけど、まだ加減が足りない上に使った後は筋肉痛になってしまう。まぁそのデメリットも超再生で一瞬で消えてしまうけど、痛いものは痛いからちょっと億劫。

 

「お、おい……ボスがやられちまったぞ」

「何怯んでんだよ!俺らで仇を取らなきゃ……」

「でもよぉ!あんな武器でぶっ潰されたら、マジに死んじまうんじゃねぇのか……?」

 

 白い悪魔という呼び名とこの恐れられ方、潰す事以外を考えていない武器とで、全く別の作品が浮かんで来る。武器の形状も似てるし……良し、今日から君の名前はソードメイスだ。

 

「やるしかねぇだろ!あいつをぶっ殺しゃ、あとこの辺にいるのは雑魚ヒーローくらいのもんだ!」

「そ、そうだ!そうすりゃここら一帯は俺らのシマになる!」

……はぁ

 

 さて、相手はさっき言った通りチンピラの群れ。たった一匹叩き潰しただけじゃ終わらない。そろそろステップアップの時期だと思っていたし、こいつらをシメたらもう少し派手に活動してみようか。




・天使ちゃん
商談の口上はいっぱい練習した。何だか気に入って貰えたようで一安心だが、多分個性の影響なので少し申し訳なく思っている。銃の扱いが死ぬ程下手なために近接武器を購入した。
林間合宿編の装備を知っていたため、仮面以外のデザインはかなり口出しした。

・【天使?】
他者を魅了し、誘惑し、扇動してしまう個性。所有している当人がそうと捉えているだけであり、この個性が天使なのかも、効果が想定通りのものなのかも判断が付いていない。
ハイロゥを隠せる時間が十分に到達しそう。

・【筋力増強?】
一年間の内に身に着けたものの一つ。強化倍率がイカれている代わりに代償はそれなりに重く、初めての使用の際には初スマッシュ時の緑谷出久のような状態になり、本人は自分でドン引いていた。しかしハイエンドらしく超再生も積まれていたため、このデメリットは同格以上と戦いでもしない限りあって無いようなもの。
発露のキッカケは地震によって倒れて来た本棚に潰されそうになった子供を庇おうとした時。

・装備類
天使's 仮面…目元の暗視ゴーグルを仕込んだバイザーと、上下がガッチリ噛み合ったネコ科の牙のような意匠をしたマスクが一体になった仮面。暗視ゴーグルの上には二本の角があしらわれている。
天使's 防具…プロテクターは胸当てと手甲、足甲の計五箇所。胸当ては流線型を意識し、正面からの衝撃を上手く流すような造り。手甲は左右で形状が異なり、左腕には動きを妨げない程度に盾として働く小さなプレートが備えられている。足甲は靴と一体になったニーハイブーツ仕様で、関節部の機動性を重視した造りになっている。
天使's 衣装…上着は半袖のクロップドジャケットを着ており、前を開ける事によって胸当てが露出している。それぞれのプロテクターはインナーの上から着けているため、肌の露出は無い。ジャケットにはフードが、腰には小さなポーチが幾つか付いている。
天使's 武器…「ソードメイス」で検索すると一発で出て来る。

教会の内情や信徒から見た天使の様子などの閑話とかいります?

  • 教会の内情
  • 信徒から見た天使
  • どちらもいる
  • どちらもいらない
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