我儘な天使   作:多様性の獣

6 / 11
六話。ロックな子の視点から。


邂逅と目的

 あれは中一の夏の事だった。その日そこを訪れたのはただの偶然。掘り出し物のレコードを取り扱ってる店がそこにあるってのを聞いて、良い機会だからと普段は乗りもしない路線の電車に乗って、ふらっと訪れただけだった。

 

 そんなほんの気まぐれの散歩中、ウチは事件に巻き込まれた。長閑な街の一角、商店街の隅で起きた強盗事件。集団犯罪で何人かの個性を使って起こされた事件だったってのは、後から聞いた話。

 

 その時は何が何だかわからなくて、天変地異にでも巻き込まれたような気分だった。目の前のお店のショーケースが内側から吹き飛んで、炎と煙の中から現れた姿が、それを引き起こしたヴィランだってわかっていたのに、体はどうしても動かなくて。

 

「ひっ……」

 

 小さく漏れた自分の悲鳴が、酷く情けなく聞こえた。ヒーロー志望だとか、ヴィランの格がどうのとか、そんなのは全部関係無い。ウチだってただの人間で、鍛えてたって怖いものは怖くて、それを本当の意味で理解出来ていなかったから。

 

 だから、その人が眩しく見えた。

 

ちょっと失礼

「────…へっ?」

 

 抱き上げられるような感覚の後、あからさまな機械音声で声を掛けられて、同時に唐突な浮遊感に襲われた。ウチを抱き上げた人が跳んだんだとわかった時には、もう着地まで済んでいた。

 

 いったい誰が、なんて声に出すより先に、ウチを抱えて跳んで下ろしてを済ませたその人が、視界の端からもう一度跳躍する。辛うじて目で追えたのは、どう考えても運が良かっただけだ。そう確信出来る身のこなしをしていたのを良く覚えてる。

 

 一挙手一投足が綺麗で、だからこそその格好は良い意味では派手に、悪い意味だと悪目立ちして見えた。優しく掛けられた機械の声も、抱き上げてくれた時の手付きも、まるで揺籃に乗せられたみたいに心地好かったのに、それをしてくれた人はまるで悪魔のような出で立ちをしていたから。

 

「白い悪魔が来たぞ!ズラかれ!」

随分とお目出度い頭ですね

「なっ────」

 

 ウチを助けてくれた人の姿を見てすぐに撤退の命令を出した一人が、次の瞬間には宙を舞う。続いて一人、もう一人と空中へ舞い上がって、最初の一人が自由落下を終える頃には、全員がその人からの一撃を受けてしまっていた。

 

 鮮やかな手練をぼーっと見詰めていたウチも、そこまで見届けてようやくその異常性に気付く。だって、その人の得物はそんな動きが出来て良いものでは無かったから。

 

 長い柄と、それに比例して長大な刀身。とんでもない重量をしているはずの両刃剣を、その人は右腕一本で振るっていた。増強系にしたって有り得ないとしか言えない出力だ。

 

そこの子、お怪我は?

 

 白い悪魔と呼ばれたその人は、大き過ぎる得物をアスファルトに真っ直ぐ突き立てると、振り返ってそう呟く。

 

 話し掛けられたであろうウチはと言えば、たった今まで見ていた大立ち回りのインパクトと、自分が事件に巻き込まれた事へのショックと、この天使のような悪魔が持っていた得物がいとも容易くアスファルトを砕いた事で、そんなパワーを出せる人に抱かれていた事に薄ら寒さを覚えていた。

 

「……ぁ」

あ、あれ?頭とかぶつけちゃいましたか?この指何本に見えますか?先に寝かせた方が良いかな?

「いやっ、大丈夫です!」

 

 その機械音声がウチに向けられたものだと気付いて反応すれば、ロボロボした声の溜息が聞こえて来る。「良かったぁ」なんて呟きもしっかり機械越しのものなのに、何故かこの世のものとは思えないくらい綺麗な声に聞こえた。

 

「おーい!ヒーローが来てくれたぞー!!」

 

 ウチが白い悪魔さんに話し掛けられてワタワタしていれば、商店街を抜けた先の大通りの方からそんな声が聞こえて来た。

 

 ヒーローならもう来てるじゃん……なんて思っていたら、腰のポーチを漁っていた白い悪魔さんは、機械音声のまま面白いくらいに慌て始めた。

 

やばっ……ごめんなさい、耳郎さん。僕はこれでお暇しなければなので、どうかご安静に

 

 白い悪魔さんはそう言ってウチにポーチから取り出した小さなスポーツドリンクを渡して、アスファルトに突き立てていた得物を担ぎ直すと、一目散に駆けて行った。

 

 それを見送ってようやくウチは気付いた。「ヒーローが来て逃げるって事はあの人ヴィジランテだったんだ」と。

 

 しばらくして胸の内に湧いて出た「なんでウチの苗字を知ってたんだろう」という疑念は、何故かそう気にならなかった。

 

 

 


 

 

 

 耳郎響香に会ってしまった。天使として教会で会った訳でも、ましてや犬の散歩でも無く、まさかのヴィジランテ活動中に。

 

 原作キャラとの邂逅って言っても、僕はそれこそ初手でラスボス共と会ってしまっている訳なんだけども、それはそれとしてメインキャラと会ってしまうハプニングに思わず動揺してしまった。

 

 ソードメイスを振り回してる所を凄く熱心に見てたみたいだけど、もしかしなくても滅茶苦茶引かれてたんじゃないだろうか。だってあんな鉄塊普通振り回すものじゃないし。

 

はぁ……よい、しょっと。どうしたもんかなぁ」

 

 転生したからには確かに原作に関わりたい……というか、原作の流れを近くで見たい気持ちはあるけど、別に大筋を捻じ曲げたいとかじゃ無い。原作通りじゃないと上手く行かない所なんて山程、それこそ殆ど全てがそうなってるはずだ。

 

 今からじゃ準備期間もそう長くは取れない。目指すとしたらハッピーエンドだけど、そもそも僕は原作の終わり方を知らない。決戦の行く末も────

 

 ……いや、これだな。義爛には言っていたけど、僕の最終的な目標もここにして良い。それまでに一発オール・フォー・ワンの野郎をぶん殴ろうって感じだったけど、最終決戦をヒーロー有利に進められるように準備するってのも良いんじゃないか?

 

 オール・フォー・ワンを一発殴って、最終決戦で少しでもヒーローが有利になるようにして、後は……

 

「後は……」

 

 何だろう。やりたい事とか、特に思い付かないな。強いて言うなら原作にあったシーンに立ち会うとか?でも自分が関わるっていうのも違う気がするしなぁ。

 

 取り敢えずはこの教会での活動とヴィジランテとしての活動が結び付かないようにするくらいかな。流石にこれがバレたら一大事だし、ヴィジランテ活動の時は他に拠点を用意しても良いかも────

 

「あれ、天使様帰って来てたの?」

「天使様ー!今日ヒーロー来てたー!」

「────…ウソでしょ……」

 

 えっもうバレてたりする?




・天使ちゃん
苗字で呼んじゃった事には気付いていない。

・白い悪魔
全身白装束に二本の角を生やし、背丈を越える全長をした両刃剣を持つヴィジランテ。身長は140cm後半から150cm程度と見られており、全身を隠している事と、変声機を使用して会話しているため、性別は未だ不明。扱っている武器から増強、或いは異形型の個性と推測されている。

教会の内情や信徒から見た天使の様子などの閑話とかいります?

  • 教会の内情
  • 信徒から見た天使
  • どちらもいる
  • どちらもいらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。