我儘な天使 作:多様性の獣
一年と二ヶ月前に出来た街外れの教会。最初はこぢんまりとしていたそこは、半年も経たない内にささやかな観光名所として扱える程に大きなものへと改装されていた。
ただそれだけなら不思議に思うだけで、特に何をする事も無かったんだろう。だが、不思議な点はそれだけじゃ無かった。街へ出入りする人間が不自然に増えたり、教会が不思議と賑やかになったり、大荷物を幾つも搬入していたという噂もある。
当然、教会が調査に立ち入られる事もあった。しかし教会から出て来た者は漏れ無く教会の信者になっていて、その口で「問題は無かった」と吐くのだ。
教祖である天使様とやらはまだ中学生かそこらにしか見えないが、この世のものとは思えない程に整った顔をしていて、頭の上には呼び名通り天使の輪のような光を浮かべている。ただそれだけしかわからない。
わかってるのは顔や体格と、頭の上に光輪があるってだけで、名前も家族も出身も年齢も不明。誰にでも分け隔てなく笑い掛ける様子からか、それとも洗脳でもしているのか、教会の周囲の住人は全員が教会を支持しているらしい。
これで後暗いものは無いなんて、馬鹿でも嘘だと気付くだろう。こうして俺のように好奇心に駆られる奴がいるのも無理は無い。
だから俺は誰もが寝静まった丑三つ時に、教会の裏手から塀を越えて侵入した。警備はザルで監視カメラが幾つか付いているだけ。人が立っている訳でも無い。
その後も何が起きる事も無く、するすると教会の内部まで入る事が出来た。何故か足は奥へ奥へと進んで行き、しばらくして目の前に見えて来た、セラーに続くハッチのような、床に備えられた戸の前で止まる。
思えばその時点で怪しんで、さっさと逃げてしまうべきだったのかもしれない。
「どうかなさいましたか?」
背後から声を掛けられた後にそんな事を思った所で、とっくに手遅れなんだろうが。
「何かお悩みですか?辛い事が?苦しい事が?或いはそんな事で無くとも、私は、教会は、主はここを訪れた者を見逃しなどしません。主のお導きのままに、私がその手を取りましょう」
振り向けない。今振り向いてしまったら、全てが終わってしまうような気がする。何もかもが手遅れになってしまうような気がする。
なのに、俺の体は今後ろへ振り向こうとしている。掛けられた声はいつ、どこで、誰の口から聞いたものより、ずっと優しげに聞こえた。
「……用なんて、ねぇんだよ。俺はただ迷い込んじまっただけだ。な?だからもう────」
「おや?おやおや、そうですか。ですが迷える子羊を導く役目も、主より仰せつかっておりますので……どうぞこちらへ」
やがて耐え切れずに振り向いて、真後ろにいたそいつと、その方と目が合った。暗がりの教会の中でも瞳と、そして頭上の光輪だけが輝いて見える。
「さぁ、私が手を引きましょう」
「あ、あぁ……」
その瞬間こそ俺が、教会でこそ泥なんて馬鹿な真似をしようとしていた哀れな子羊が、この教会の信徒となった瞬間だった。
昨日聞いた「ヒーローが来てた」というのは、パトロールついでに立ち寄ったというだけの事だったらしい。僕がいない間に査察でもされたのかと戦々恐々としたものだけど、杞憂だったみたいで何よりだ。夜中のお客さんもただの迷子だったみたいだし。
なんでそんな事で気を揉むのかと言われれば、それはこの教会の現状によるものとしか言えない。僕の個性とか、法人化してない事とか、地下に置いてる銃火器類の事とか。
端的に言うなら、この教会は大きくなり過ぎた。地区や県の内外を問わずやって来る信徒達。その総数は万を超える。そうなったら人の口に戸を立てるなんて無理ってものだ。
元々この教会はただ建物を建てて、その中に人を集めてお祈りをしてるってだけの集団。そこにあくまでご厚意での融資……じゃ無くて、御布施を貰ってるってだけの話。
ただその言い訳も、これだけ人が集まって有名になったんじゃ通せなくなる。宗教法人として登録した訳じゃ無いから資金運用とかは違法だろうし。
「という訳でして、少しばかり査察の方させて頂きたいんですよ」
「えぇ、えぇ、問題ありません。どうぞこちらへ」
だから今までもこうして役人さんが何度か来ていたのだけど、その人達は査察が済む頃には何故か、何故か信徒になっていたし、問題は無いと報告してくれると言うから、特に大きな問題は無かった。
が、しかし。査察に行った役人が信徒になって帰って来て「何も問題はありませんでした!宗教団体じゃないです!」なんて言い始めたら、そりゃ怪しまれもする訳で。
むしろ今まで一年以上も追求の手が強まらなかった辺り、新しく信徒になった役人さん達は上手くやってくれてたんだろう。確か税金とか掛からなかったはずだし、早めに法人化しとけば良かったかも。
「こちらは地下の入口ですか?」
「えぇ、そこの戸を開けると下への階段があります」
「では地下も見させて頂きますが」
「構いませんよ」
そう言って役人は地下へ続く階段の戸を開くと、ゆっくり下に降りて行く。僕も一応はこの教会のトップな訳だし、その後ろへと続く。
「銃火器や弾薬の類を置いているのですが、特に問題はありませんね?」
「────…はい。ここに銃やその弾があった所で、問題はありません」
我ながら恐ろしい個性だなぁ。
・天使ちゃん
僕の個性こわ〜……
・モブ
教会に盗みに入ったこそ泥だったが、天使に見付かって信徒になる。大体の信徒が彼のように天使を一目見る事で教会の天使を崇拝し、天使に近付くために信徒となる。信徒全体で見ても凡そ半数程が教会では無く天使の信者。残りの半数は天使や教会の噂などを聞き、天使が不在の際に教会を訪れ信徒になった者などが殆ど。そういった者は一度でも天使に会った時点で「天使の信者」になるため、時期の問題であって、割合は拮抗してなどいない。
教会の内情や信徒から見た天使の様子などの閑話とかいります?
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教会の内情
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信徒から見た天使
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どちらもいる
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どちらもいらない