我儘な天使 作:多様性の獣
※改稿しました。
教会設立から二年。僕がヴィジランテとしての活動を開始してから、大体十ヶ月程が経った。流石にこれだけの期間活動していると有名にもなるし、僕を追い始めるヒーローも出て来る。
「待て!白い悪魔!」
「ヒーローと争うつもりは無いので、帰ってくれると有難いんですが」
「お前にそのつもりが無くても追うのが俺達ヒーローの仕事なんだよ!」
「それもそうか」
こんな風に。
基本的にはヴィランとの戦闘が終わってから現れるし、余程の速度特化でも無い限り、脚への負荷を無視すれば逃げ切るのは楽だ。
ただ、僕に追い付ける程の速度を出せるなら、ヴィランとの戦闘が終わるより速く駆け付ける事が出来る可能性もある訳で。
「こっちです!インゲニウムさん!!」
「また面倒な人を……」
その筆頭が彼、インゲニウムだ。最近は保須を拠点に活動していたから、必然彼と関わる機会が増えた。
というのも、僕はヴィジランテ活動を行うにあたって定期的に活動範囲を変えるようにしている。
これは最初から懸念事項としてあったものだけど、一箇所に留まる、もしくは一箇所を中心に据えて活動するのは、些かリスクが大き過ぎる。
場所と言い相手と言い、何だかヒーロー殺しみたいで嫌な感じだ。
「俺に追われるのを面倒だと思うなら!少し止まってはくれないか!?」
「相も変わらず僕にご執心ですね。ほら、そこに大荷物を持ったお婆さんが」
「もうその手には掛からんぞ!」
「ほんとですって、助けてあげてくださいよ」
「マジか!?────…嘘じゃないか!!」
「これで三度目なんだから学んだらどうです?」
ターボヒーロー・インゲニウム。ヒーロー家系の長男であり、十数名に及ぶサイドキックを纏めあげる若きカリスマにして、一般市民からの支持も篤い人気ヒーローの一人。
原作ではステインに「弱者の分際でヒーローを名乗る偽者」として斬り捨てられた彼だけど、ぶっちゃけアレに関してはオールマイト至上主義なステインの理想が高過ぎるだけだと思う。
転生してから見て関わった等身大の印象としては、最上位にこそ届かないがかなりのやり手。行動も対応も迅速で丁寧だし、こうして追われる側に立つと恐ろしく厄介な相手だ。
「癪ではあるが、最近はお前のお陰でヴィランの活動も消極的になり始めててな!やっと市井の方々への対応にサイドキックを回せるようになったよ!」
「それは良かった。感謝の気持ちって事で、今日は見逃してくれても良いんですが」
「それとこれとは話が別だ!」
「でしょうね」
もう一歩、引き離せるように強く踏み込む。それを見越しての事なのか、それとも動体視力が優れているのか。恐らくはそのどちらもなんだろうけど、インゲニウムは僕の踏み込みに合わせるどころか一瞬先んじて加速を始めた。
「流石に沽券に関わるんでな!今日こそ逃がさん!」
インゲニウムは今までレシプロを使っていない。当然だ。自分の最高速度程では無いとはいえ、それなりの逃げ足を持っている相手を追いかけるのに、時間制限と以降のエンストというデメリットがある技を使う訳には行かない。
それでも、インゲニウムは速過ぎる。僕がこうして一歩一歩で脚を破壊しながら走っても、彼は容易く追い付いて来るどころか、口論をする余裕まである。
オールマイトに敗北を喫してからフィジカル信者になっていたオール・フォー・ワンが僕に積んでいた増強個性も、現在のワン・フォー・オールと同程度の出力はありそうなものなのに。個性を使わずに分厚いガラスを水中から殴り割るような腕でも、反動でズタボロになるレベルだし。
「ほんっとに速いな!?そんなデタラメなフォームで並ばれると、スピード自慢としてはちょっと自信無くすぞ!?」
「今並ぼうとしてるのはあなたですが」
「揚げ足取りめ!」
その会話を境に、インゲニウムは少しずつ速度を落とし始めた。包囲網を敷いた地点に差し掛かったからだろう。悪いけどそれはもう聞いてる。
「なっ……!?」
二人揃ってコーナリングでもするみたいに路地へと曲がって行けば、正面にはインゲニウムのサイドキックであろう集団が見える。それも、全員が昏倒し拘束された状態で。
昏倒するサイドキック達を見て言葉を失うインゲニウムは、しかし今一度脚を上げて加速を開始した。この路地からサイドキック達がいる奥までの10mと無い直線で僕を捕らえるつもりなんだろう。
ただ────
「僕は友人が多いんです」
それでは間に合わず、路地を作る両横のビルの屋上から僕らの目の前に向かって何かが投げ入れられる。円筒状のそれは地面に着弾すると同時に光と音を発して、目眩し対策をしていなかったインゲニウムを置き去りに、僕は彼のサイドキック達を飛び越えた。
「とても有難い事に、ね」
と、いう訳で。義爛から斡旋して貰った仲間達と別れた後、色んな道を経由して戻って来た僕は、今から天使様として振る舞う事になる。ヴィジランテとして活動している時の方が素に近いのもあって、この切り替えはまだぎこちない。
天使様として話すと肩が凝る。でも最近は僕の個性の支配下の外にいる信徒も増えて来たし、もう少し気合いを入れて天使ムーブをしないと。どこかで綻びが出ては困る。
いっその事、しばらくヴィジランテは休業しても良いかな。変に関係性が見えるのも避けたい事ではあるけど、僕がいない間に教会に訪れた人も、次があるならしっかり僕とお話して欲しいし。
それに、風の噂でヒーローを狙った通り魔事件が起きたと聞いた。これがもしステインの事なら、これ以上派手に活動するのは悪手だ。物語の要所に関わって変に無軌道になっても困る。
「あ、天使さん!」
地下室に繋がっている幾つかの秘密通路の一つから教会に戻った後、着替えをして地下を出れば、教会にはいつものように信徒が訪れている。ちゃんとした聖職者なら言わない事だと思うけど、今日来た信徒は他より少し特別な相手だ。
「おや?またいらしていたんですね」
「はい!来ちゃいました!」
元気良く答えるその子は、教会に置かれた長椅子からひょいと跳んで、一目散に僕の方へ駆け寄って来る。
刺々しいお団子を左右で二つ結った金髪と、切れ長な瞼の中に収まった猫のような瞳孔をした金眼。着ている学校の制服も、原作で見たものと同じだ。
「あ、また天使さんから血の匂いがするのです」
最初はあまり関わる気は無かったのだけど、この嗅覚と血への欲求が思いの外厄介で、関わらざるを得なかった。
とはいっても、別に僕から関わりに行った訳じゃない。トガの方から教会に訪れて、その時たまたまヴィジランテ活動から戻ったばかりの僕がいたってだけの話。
そして血の匂いを看破されて、どうにか誤魔化しながら相手をしている内に、この子も立派な教会の……いや、僕の信徒になっていた。
この十ヶ月間教会の天使様とヴィジランテを兼業してわかった事が一つ。このハイロゥを隠しても洗脳には影響が無いと思っていたのは間違いで、洗脳とハイロゥはしっかり関与していたらしい。
一度洗脳が済んでしまえばハイロゥを隠しても解けたりはしないけど、ハイロゥを隠した状態だと洗脳の効力が落ちてるような気がする。ヴィジランテの僕を追うヒーローに信徒が少ないのがその証左だ。
「ん……やっぱり、天使さんの血じゃない」
いつもここに訪れてそうしているように、トガは正面から僕に抱き着いて擦り寄る。半年程前にここを訪ねて来た時の対応が良かったのか、不思議なくらい懐かれているのだけど、その内刺されないかと戦々恐々としているのはバレてないんだろうか。
「私の血の匂いをご存知で?」
「知る方法なんて幾らでもあるのです!」
「あまりおいたをしてはいけませんよ?主はいつもあなたを見ているのですから」
「はぁい」
こうして宗教的な言い回しをして窘めると、この子は僕の立場をわかっているからか案外素直に引いてくれる。ただそれが妙に不満そうに見えるのは、この子が神なんかより僕の事を信じてるからだろう。
まぁ僕も神なんて信じちゃいないんだけど。
こんなスタンスでいたらどこかしらでボロが出そうで怖いけど……原作で神様どうのこうのなんて、それこそB組にいた────
「あっ」
「うん?どうかしました?」
「……いえ、何も」
そうだ、そういえば原作に一人いた。こんな事をしていたら、間違い無く関わる事になるだろうキャラクターが一人。原作では一年B組の
この教会に既に関わっていたとしても、僕と顔を合わせてないなら信徒にはなってないかもしれない。いや正直その方が助かる。まだ洗脳が掛かる条件はわかっていないけど、掛かる前なら僕が避けていれば良いだけの話だし。
B組であっても雄英の生徒である以上、どこかで話の中枢に関わっているキャラクターだ。僕の個性のせいでそれが捻じ曲がって、大きな穴になってしまっては困る。
なんて考え事で頭を回していれば、僕を抱き竦めていたはずのトガが、その両手を顔へと伸ばして来た。
「天使さんったらお顔が固いのです!」
「やめへくぁはい、被身子ふぁん」
トガはそんな事を言いながら僕の頬を掴んで、好き勝手に捏ねくり回す。お陰で堂々巡りになっていた思考が一本化したのは良いのだけど、そういや目の前のこの子の方が中心人物だったな。どうしようコレ。
・天使ちゃん
原作キャラとの絡みが増え始めた事でいよいよ本番が近い事に震えている。あまりにも信徒が増え過ぎてびっくり。当初は適当に使える駒が揃った所でやめようと思っていたが、そうも行かなくなって少し困っている。
・白い悪魔
活動開始から一年一ヶ月が経った頃、唐突にその消息を絶った。全国に渡る活動範囲から、準備期間が長引いているのだとする者も多かったが、姿を現さないまま半年が経った頃には死亡説なども流れ始め、時勢は新たな凶刃へと注目を寄せている。
教会の内情や信徒から見た天使の様子などの閑話とかいります?
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教会の内情
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信徒から見た天使
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どちらもいる
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どちらもいらない