我儘な天使   作:多様性の獣

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九話。




 別に、神様がどうとか、信仰がどうとかに興味なんてありませんでした。

 

 その日は外で誰かが血を流す所を見ちゃって、しっかり掛けていた箍に罅が入ったような気がして、何となく家に帰るのを遅らせたかっただけ。

 

 ちょっとした休憩にその教会を選んだのもたまたまだし、最近有名だってお母さんが言ってたけど、それも話半分でどんな人がいるかなんて聞いてなくて。

 

『────…何か、お悩みですか?無論そうで無くとも、教会はあなたを歓迎しますよ』

 

 だからその人を見た時、一目惚れでもしたみたいに胸が高鳴った。

 

『さぁ、どうぞこちらへ』

 

 きっとこの人が、トガの人生の天使様なんだって。

 

「おぉぉ……!」

「じゃあ天使さまとお姉ちゃんはラブラブなの?」

「その通り────…きゃんっ!?」

「こーら、あまり色事を流布してはいけません。あなた達も、根掘り葉掘りと聞いてはいけませんよ?」

 

 そんな風に教会の子供達にトガと天使さんの馴初めを語っていれば、いつの間にか帰って来てた天使さんから軽いお叱りを貰っちゃいました。

 

 ちょっぴり息が上がっているような気がする天使さんは、やっぱりほんの少しだけ血の匂いを漂わせています。誰も彼もが気付けるものじゃ無いくらい薄い、それでもこんなに綺麗で、こんなに清廉で、こんなにかぁいい天使さんからしちゃいけない香り。

 

「天使さんは今日も良い匂いなのですっ」

 

 そう言いながら正面から抱き着いてみれば、天使さんは「ふふっ」と微笑みを一つ零して、とんとんと背中を優しく叩いてくれる。

 

 思えば、お母さんにもこんな風には甘えてなかった気がする。ずっと前から血が好きだし、その事でお父さんにもお母さんにも心配されて、叱られて、たまに酷い事も言われて。

 

 でも、天使さんは私の告解を聞いても全部受け入れてくれました。「人から産まれた者に怪物なんていません」って。「少し人と違うだけなのだから、それを気に病む必要はありません」って。

 

 思わず泣き出しちゃうくらい優しい声でそう言って貰えた時、ようやく私は産まれる事が出来た気がした。

 

「被身子さん?そろそろ離れて頂かないと……」

「や!もう少しだけ!」

「……まったく」

 

 この教会に通う人も、大半が私みたいに人と違う所を持ってる人達。それは見た目が違うだとか、異形型の個性がどうとか、そういう事だけでは無いのです。

 

 例えば、どこにも居場所が無い人。例えば、一度道を踏み外してしまった人。例えば、大切な存在に見放されてしまった人。

 

 生きる糧も理由も無くして、もうどうにもならないような人達を、天使さんは掬い上げてくれます。

 

 教会総出で炊き出しをしていたり、仕事が無い人には沢山の伝手を使って簡単な日雇い業務を斡旋していたり、身寄りの無い人を一時的に保護していたり。

 

 もうこの周辺には教会にお世話になった人ばっかりで、そうなれば当然天使さんを崇拝する人もどんどん増えて、教会を訪れる人も比例して増えて行くに決まってて。

 

「はい、おしまいです。今日はまだこれから、信徒の方々がいらっしゃいますから」

 

 だからこうして甘えていても、人が来るのを理由にして、満足する前におしまいにされちゃいます。天使さんが沢山の人のために頑張ってるのは知ってるし、今のままでも他の人よりとっても優遇して貰えてるのもわかってます。

 

 でも、チゥチゥしたいのをずっと我慢してるから、たまには独り占めもしたくなっちゃう。血の匂いがする日は殊更に。

 

「……むぅ、仕方無いから我慢してあげます」

「ふふ……えぇ、ありがとうございます。被身子さんは偉い子ですね」

 

 今まで我慢出来てたのは、こう言えば天使さんが褒めながら頭を撫でてくれるからなのです。私の事を怖がってるんじゃないかってくらい慎重に、罅の入ったガラスを触るみたいに慎重に、優しく優しく撫でてくれるからなのです。

 

 けれど、けれどもし、その触れ方が本当に私の事を怖がってるからなんだとしたら。

 

「良い子良い子」

「……えへへ」

 

 それも良いのかな、なんて思ってしまうくらい、私は天使さんに心酔してしまってる。

 

 

 


 

 

 

 ……ふぅ。やっぱりヴィジランテ活動の後にトガがいると肝が冷える。まだバレてなさそうなのは、多分僕の個性が効いてるからかな。今日でヴィジランテとしての僕は一旦お休みだし、これからはいつ来られても大丈夫だろうけど。

 

 にしても、随分長い事続けてしまった。教会もそうだけど、まさかヴィジランテとしてここまで名が広まるとは。

 

 僕がヴィジランテとして活動していた理由は大まかに言えば三つ。その中でも一番大きな目的と言ったら、やっぱり僕自身の強化だ。とは言っても肉体の強化は個性のお陰で必要無くて、僕に必要なのは体の動かし方と個性の使い方を覚えるくらいだった。

 

 正直、オール・フォー・ワンを一発殴れさえすれば僕が戦場に立つ理由は無くなる。最終決戦では人員の派遣だとか、この個性を使った混乱の沈静化でもしていれば、後はヒーローがどうにかするだろう。

 

 だから奴を一発殴るだけの状況を作り出せる力が付いたなら、僕はもう鍛える必要なんて無い。個性で筋力増強していないとその辺のプロにすら負けかねない性能なのは、多分僕がハイエンドとしては未完成だったからだろう。弱いままにする意味無いし。

 

 で、だ。問題はトガヒミコと塩崎茨をどう扱うか。

 

 そう、塩崎茨の方もだ。彼女、懸念通りここに来てしまった。まぁそれだけなら良いのだけど、問題は彼女の対応をしたのがハイロゥを出していた僕って事。色々と間が悪くて信徒任せに出来なかった。

 

 やたらと僕の事を褒めていたけど、あれはしっかり個性の効き目が出てしまっていそうだ。

 

「天使様、お手紙です」

「えぇ、ありがとうございます」

 

 信徒の一人が運んでくれた手紙を開けば、適当な日記帳のような文がそこにあった。義爛が使う暗号文だ。そそくさと地下室へ降りて行って、暗号文に記された通りの連絡手段を使えば、コール音が二度、三度と鳴って通話が繋がる。

 

『よう白い悪魔。最後の大仕事、随分派手にやったじゃねぇか』

「ありがとうございます。ご期待に応えられたようで何よりです」

『おうよ。あんたが商売敵を減らしてくれたお陰で、こっちは久々の好景気だ』

 

 義爛が言うこれもヴィジランテとして活動していた理由の一つ。正直力を付けるならわざわざヴィランを狙わなくても、実力がわかっているヒーローを狙う方がずっと楽だ。それでもヴィランを狙っていたのは、良くしてくれている義爛に恩を返すため。

 

 元々彼はヴィラン側だし、僕自身ヴィランが好きって事も無いから、その内敵対はするんだろうけど……まぁ、このくらいしたって良いだろう。

 

『それで?結局やめちまうのか、ヴィジランテ』

「あくまで無期限休業です。それに、あなたも世間の目が他に向き始めている事はご存知なのでしょう?」

『まぁ、な。ヒーロー殺しだったか?あんたもインゲニウムとの追いかけっこだの何だので話題にはなったが、あぁいうのの方が良くウケる────…ってのはあんたには気の悪い話か』

 

 ヒーロー殺し、ステイン。彼はもう活動を始めている。三ヶ月程前からの事だけど、世間の関心はもうそちらに向いていて、一年以上活動していた僕が消えてもそう世論は動かないはずだ。

 

「いえ、私とて清廉とは言えない身です。全ては主の御心のままにありますが、法を犯している事に変わりありませんので」

『高潔だねぇ。ま、気が向いたら連絡してくれや。俺から頼みたい事も、そん時にゃ出来てるだろうよ』

 

 それだけ言って、義爛は通話を切ってしまった。少し申し訳無い気もするけど、やめる気なんてさらさら無いのだから仕方無い。

 

 僕がヴィジランテを続けていた理由の最後の一つ、それは仲間を増やす事。教会をその前身とするつもりだったのだけど、そう上手くは行かなかった。ただ、教会を設立して人を集めたお陰で個性の有効活用法も思い付いたのは確かだ。

 

 義爛から紹介されたヴィジランテ活動を補佐してくれる仲間達。元は裏社会の人間で、ヴィランも何名かいるのだけど、彼らは全員僕の信徒になって貰った。

 

 仕事をする度に一人ずつ時間を取って、二人きりになった所でハイロゥを出しながら会話するだけ。全員が裏で流通する情報を横流ししてくれると確約してくれたし、表は教会、裏はヴィジランテの情報網で、情報戦で僕が出遅れる事はそう無いだろう。

 

 後は公安とまでは行かなくても、ヒーロー側にも情報提供者を作っておきたい。原作とは違う流れを辿るかもしれない雄英の情報も欲しいし────…いや、成程。良い事を思い付いた。

 

 取り敢えず公安の事は置いといて、今はお茶菓子とお紅茶の選定をしておこう。美味しいお茶とお菓子があれば話も弾むだろうし。

 

 塩崎茨、また彼女が来てくれる日が楽しみだ。




・天使ちゃん
情報網が出来上がり始めてホクホク。

・ヴィジランテの仲間達
腕利きのヴィジランテを主として、中には数名のヴィランも在籍している集団。基本的に状況に応じて義爛が選別するため、面子は殆ど毎回変わる。
が、それによって天使の手駒は増えた。

教会の内情や信徒から見た天使の様子などの閑話とかいります?

  • 教会の内情
  • 信徒から見た天使
  • どちらもいる
  • どちらもいらない
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