咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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私って、本当に幸せ者だなぁ…

 ツキバミ先輩のトレーナーさん…? そう言えばツキバミ先輩はどうなったんだろう? 何かのトラブルで転倒して、私に覆い被さって来たところまでは覚えているけど……。

 

「ツキバミはレース中に再度の骨折をして、今は市内の病院で治療中です。コスモスキュートさん、貴女がツキバミを受け止めてくれたから、彼女は絶望的な怪我を負わずに済みました」

 

 そっか、ツキバミ先輩()()骨折しちゃったのか……。

 

 メジロパラディンさんやトッカンクイーン先輩の時もそうだったけど、怪我の話は聞いていてとても辛い……。

 

 ☆

 

 一般にウマ娘にはヒト男性の何倍もの筋力がある。でもその筋力を支えるウマ娘の骨は、ヒトの何倍もは強くはない。

 

 競走ウマ娘は応援してくれるファンや、何より自分の夢の為に走る。そしてその時に発揮する強大な力の負荷は、徐々にだがウマ娘の肉体を蝕んでいくのだ。

 

 もちろんそれは私だって例外ではない。私は今まで『運良く』怪我や病気を回避してきたに過ぎない。

 関節や筋肉の怪我や骨折は、ウマ娘ならばヒトよりも遥かに身近な問題なのだ。

 

 ツキバミ先輩の走りは、デビューの頃から恐ろしい程にパワフルで激烈な物だった。結果、彼女の脚は、彼女の生み出す『力』に耐える事が出来ずに「折れて」しまったのだろう。

 

 卓越した力を持つが故に、その力を維持する事が出来ない。何とも皮肉で悲惨な現実だと思う……。

 

 ☆

 

「ツキバミを守ってくれた事に対して、そのトレーナーとしてコスモスキュートさんに多大なる感謝を申し上げます。同時に恐らく成し得ていたであろう貴女の勝利の妨げとなってしまった事に深くお詫び申し上げます。本当にすみませんでした…」

 

「そんな、勝利だなんて…」

 

 確かに私は最終直線でツキバミ先輩を捉える寸前まで追い上げた。でも私のすぐ後ろにはエバシブさんやブラックリリィ先輩、トッカンクイーン先輩が私以上の追い上げを見せていたはずだ。

 

 仮に私が倒れて来るツキバミ先輩を上手く回避してゴールまで走れたとしても、1着になれたかどうかは疑問が残る。

 

「救急車の中でツキバミが言っていたんですよ。『本気で抜かれるかと思った。怖かった』って」

 

 そこでトッカン先輩を始めとする周りのウマ娘達が「おぉ〜」と軽くどよめく。

 

 ()()常に自信に溢れて連勝記録を伸ばしてきたツキバミ先輩が、そんな風に他人を評価するなど聞いたこともない。恐らく他の娘も同じ理由で感嘆の声を上げたのだろう。

 

 現役でありながら『伝説級』と名高いツキバミ先輩を怖がらせる走りが出来たなんて、とてもとても光栄です!

 

「ありがとうございます。ツキバミ先輩にそこまで言ってもらえるなんて、私にとって一生の自慢になると思います!」

 

 感無量だ。レースは完走すら出来なかったけど、その実力を尊敬してやまないツキバミ先輩に認めてもらえただけで幸せな気持ちが込み上がってくる……。

 

「とにもかくにもコスモス(あなた)に大きな怪我が無くて本当に良かったです。これからも頑張って下さい、応援しています」

 

 そこまで言って大橋トレーナーは帰っていった。

 そして病室に少しの間沈黙が流れる。これからどうすれば良いのだろう…? っていうか、他の皆はそろそろライブの時間じゃないのかな…?

 

「ねぇコスモス。ウイニングライブはどうする? もし痛みとか無いなら、せめてライブだけでも一緒に()れないかな…?」

 

 私の気持ちが通じたのか、ハピネスちゃんがライブの話題を出してきた。

 気持ちとしてはやりたい! でも私が決める訳にもいかないよね… 新代トレーナー?

 

「一応お医者様からは『激しい運動をしなければOK』とは言われている。ライブのダンスくらいなら大丈夫だろう。コスモス次第だな…」

 

 私の視線(といかけ)に新代トレーナーが答えてくれる。もし許されるのならば私もライブに出たいです! だって元々は新代トレーナーにNEXT FRONTIERのステージを見てほしくて有記念に出たんだから……。

 

「あ、でも私は途中棄権扱いなのでライブに出る資格が無いのでは…?」

 

 今になってハッと気付く。そう、そもそもライブには出られない可能性が……。 

 

「そこは私が全権を上げて掛け合うわ。今日のレース、勝ち負けはともかく一番注目を浴びたのはコスモスさんの末脚だもの。まぁボーカルは無理でしょうけど…」

 

 おぉ、スメラギレインボー生徒会長… 何と頼もしくて神々しいんだ… 格好良すぎか!

 

 贅沢は言いません。バックダンサーでも全然構いません! NEXT FRONTIERならバックダンサーでも十二分に名誉な事ですし、何より新代さんに有記念のライブでの私を見て欲しい。

 

 その後、アバロンヒルが「会長に感謝しなさいよ」とバックダンサー用の衣装を持ってきてくれた。勿論もちろん、大感謝だよ!

 

「アバロンも色々とありがとうね。貴女や会長が居なかったら、今日私はまともに走れなかった」

 

「ふん、貴女は私と同じで『才能』よりも『努力』で走る人ですからね。だから真面目代表として応援したかったのよ…」

 

 アバロンの笑顔は少し寂しそうに見えた……。

 

 ☆

 

 ライブステージに有記念を走ったウマ娘が並ぶ。ライブを待っていたお客さん達は、それぞれの推しにこれ以上無いほどの熱い声援を送っている。

 

 スメラギ会長の計らいで、私は他の全員がステージに上がった後で、1人だけで入場する。

 主役でも無いのにスポットライトが当てられて、困惑しながら順位による定位置へと急ぐ。

 

 そこで会場全体が爆発したかの様に、大きな声援の嵐が巻き起こった。

 

「コスモスーっ!!」

「無事で良かったぞーっ!」

「ツキバミを助けてくれてありがとうーっ!」

「今日一番輝いていたぞーっ!」

「来年も期待してるぞーっ!」

「お前のおかげで良い年の瀬を迎えられそうだーっ!」

「ありがとうーっ!!」

 

 色々な声が聞こえてくる。中山レース場に来てくれた12万人の温かい気持ちが一斉に私を包みこんでくれる。

 

「私って、本当に幸せ者だなぁ…」

 

 零れそうな涙をグッと堪える。ライブで泣いたら駄目だ。今は我慢。

 

 私が定位置に付いたタイミングで、ステージの照明が全て消え、その直後にエバシブさん、リリィ先輩、ヴァーンズインさんのセンター3人を照らし出す。

 

 そしてピアノのイントロダクションが流れ出す。さぁ、今年最後の「NEXT FRONTIER」だ!

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