咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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パラディン外伝 新たなる希望

「中山レース場… 来るのはアネモネステークス以来かしら…?」

 

 私のトレーナーでもあるりえさん… もとい北野トレーナーが、私の乗った車椅子を押しながら感慨深げに話しかけてくる。

 

 今日はトゥインクルシリーズ年末最後の大一番である有記念の開催日。私は入院中の身ではあるのだが、我が儘を言ってレース観戦に来させてもらっていた。

 

 来年からはトレセン学園を休学し、メジロ本家の所有する北海道の病院へと転院し、本格的な治療に入る。なので、たくさんのお友達ともしばらく会えなくなるだろう。

 

 今日の有記念にはコスモスキュートさんやハピネスシアターさんなど、親しくしてもらった()()()()が多数出走する。

 

 彼女達の走りを直接この目で見て、この耳で聞いて、全身で感じ取る。彼女達の熱量をこの身体で覚えておかないと、遠く離れて私の熱意が萎んでしまうだろう。寂しい、とても寂しい……。

 

 そう、私はこの有記念の場に走る事が叶わなかった。エリザベス女王杯を走って、すぐにジャパンカップに挑もうとした所で骨折してしまい、今に至る間抜けなウマ娘だ。

 

『メジロパラディン』などという大層な名前を頂いても、先達の足元にも及ばない。メジロのおばさま達の名を汚す事しか出来なかったボンクラウマ娘でしか無い。

 

 レースが始まり最初のコーナーに移った辺りで、私はもう涙を止める事が出来なかった。

 コスモスさん、ハピネスさん、ヴァーンズインさん… その他同期の娘達が素晴らしい走りを見せてくれている。

 

 対して私は何も出来ない、何も出来なかった。何も残せずに学園を去り、仮に足の治療が完了したとしても元の様に走れる保証は何も無い。

 

 悔しい。寂しい。申し訳無い。様々な感情が渦巻いて荒れ狂っている。迸る気持ちが抑えられない。また秋華賞やエリザベス女王杯の様な『熱い』戦いがしたいよ……。

 

 でもそれは恐らく叶わない。怪我が治っても、その頃には私の全盛期は終わってしまっているだろうし、そこからメジロの悲願である春の天皇賞を穫るのは絶望的だろう。

 

 せめてトレーナーのりえさんが隣りにいてくれればまだまだ頑張れるのだが、春からは彼女とも引き離されてしまう。私は1人だ……。

 

「パラディン、大丈夫…?」

 

 りえさんが急に泣き出した私を気遣ってくれる。その優しさが嬉しくて、その優しさを近日失うのが悲しくて、涙は余計に止まらなくなる。

 

 レースは第4コーナーを回って最終直線。涙にボヤけた視界だが、結末を見届けない事には来た意味がない。

 

 これまでのツキバミさんのレースは、ほとんどが『圧勝』と言える物だった。でも今日は違う。

 

 大勢のウマ娘がツキバミさんを捉えるべく速度を上げた。その中でもコスモスさんが抜群の伸びを見せ、ツキバミさんに肉迫する。

 

 その直後、ツキバミさんが転倒し、コスモスさんはそれに巻き込まれる形で倒れてしまった。

 驚きと心配のあまり、私の涙も引っ込んでしまった程だ。

 

 騒然とする会場、搬送されていったコスモスさんの無事が運営から発表されたのは約1時間後。レースは失格扱いとなってしまったが、打ち身と擦り傷だけで大事には至らなかったらしい。本当に良かった……。

 

 ☆

 

 そして空も暗くなった暮れの中山で歌われるNEXT FRONTIER。コスモスさんも末席ながらライブに出演し、舞台を盛り上げてくれた。

 

 返す返すも私があの場所に居ない事が、悔しくて寂しくて遣る瀬無い。

 

 だが嘆いてばかりいても仕方が無い。環境もトレーナーも、そして私自身も一からやり直しだ。

 そしていつか、「ずっと待っている」とまで言ってくれたコスモスさんに挑戦しよう。

 

 この際トゥインクルシリーズ等もどうでも良い。またコスモスさんと走りたい。あの『ドキドキ』を分かち合いたい……。

 

 また切ない気持ちが沸き起こる。再度涙が滲んでくる……。

 

「あの… もしかしてメジロパラディンさんですか…?」

 

 ライブが終わり、観客が次々と帰り支度を始める頃、私は1人の少女に声をかけられた。

 

 りえさんならともかく、こんな場所でメソメソしている所を一般の人に見せるのは好ましくない。慌てて出かかった涙を抑えて、その声の主を確認する。

 

 …歳の頃は10歳くらい、背中まで伸ばした鹿毛のロングヘア。澄んだ黒いアーモンドアイから勝ち気そうな性格が見え隠れしている。

 

 メジログリーンを彷彿とさせる淡い緑色で可愛いデザインのよそ行きのワンピースがとても似合っており、どことなくメジロドーベルおばさまみたいな雰囲気を持つ、とても愛らしいウマ娘ちゃんだ。 

 

「はい。(わたくし)がメジロパラディンです。私の事をご存知なのですか?」

 

 私の返答に、少女の不安そうだった表情がばぁと花開く様に明るくなった。 

 

「あの… あたしパラディンさんの大ファンで、デビューの時からずっと見てました。秋華賞は本当に惜しかったですよね!」

 

 私の様な中途半端なウマ娘を好きになってくれるなんて、酔狂な人も居るんですね。でもとても嬉しく思いますよ。

 

「はしたない所も見せてしまって恥ずかしいですわ。でも、えぇ。秋華賞(あのレース)は私にとっても生涯最高のレースでした」

 

 あの時、レース直後の大笑いと大泣きは後のメジロの会合で、「一族の恥」と言われ叱責されると同時に笑い者になった。

 

 居た堪れない気持ちで恐縮していたところを、マックイーンおばさまやライアンおばさまが割って入り、「GⅠという大きなレースを走りきった者に敬意を払うべきです。貴方達こそメジロの人間としての矜持(きょうじ)を持ちなさい」と発言して下さった。

 

 それ以降は本家からの風当たりも弱まり、精神的には少し落ち着ける様にはなった。おばさま方には感謝しか無い。 

 

「あの… 怪我をしたって聞いたんですけど、パラディンさんはもう走れないんですか…?」

 

 目の前のファンを自称する女の子を差し置いて、つい回想に耽ってしまった不徳を恥じる。ファンには真摯に向き合わないとダメですよね。

 

「いいえ。私は必ずターフに戻ってきます。まだ果たさなればならない使命がありますので」

 

 そう、コスモスさんとの約束がある。仮に私がボロ負けする程の実力差が出来たとしても、私は怪我を治して再び彼女と相まみえる義務がある。必ず復活してみせる……。

 

「じゃあ… じゃあ私もその『使命』のお手伝いがしたいです! 私がパラディンさんと一緒にメジロの夢を叶えさせます!」

 

 少女が唐突に『メジロの夢』などと切り出したので、逆に当惑してしまう。

 彼女はきっと私の『使命』を天皇賞を始めとするGⅠ勝利だと思っているのだろう。

 

「だから絶対に戻ってきて下さい。私も絶対にトレセン学園に入ってスターになる走りをしますから!」

 

 彼女のまっすぐな瞳が眩しい。ここで「私は一族の悲願よりも、個人の友情を優先します」等と答えて、彼女を興醒めさせるのも無粋であろう。

 

「ならば尚更頑張って復帰しないとですね… ところで『メジロの夢』を継いで下さる、素敵な貴女のお名前は…?」

 

 私の質問に彼女は一層瞳を輝かせ、大きな声で元気に答えた。

 

「はい! 私の名前は『レイクヴィラ』と言います!!」

 




 今回登場の『レイクヴィラ』ですが、実際のメジロの後継牧場たるレイクヴィラファームさんに名前使用の許可申請をしたところ、「牧場の公式や公認という形は無理だけど、名前だけなら使ってもいいよ」という返答を頂きました。
 レイクヴィラファームさんの寛大なご処置に改めて御礼申し上げます。
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